戎谷徹也: 2009年7月アーカイブ

2009年7月29日

杜氏に感謝

 

ここは港区高輪、駅で言えば泉岳寺。

5月28日の日記で紹介した地酒と蕎麦の店 「良志久庵(らしくあん)」 にて、

宴席が催されたので、出席する。 

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我が大地を守る会オリジナル純米酒 「種蒔人 (たねまきびと)」 を造っていただいている

大和川酒造店(福島県喜多方市) で長いあいだ杜氏(とうじ、「とじ」とも) を務められた

安部伊立(あべ・いたつ) 氏の労をねぎらい、感謝する宴である。

安部杜氏は現在は引退しているが、蔵には機会あれば出張ってきてくれている。

 

今回集まったのは安部杜氏に手ほどきを受けた酒造り体験グループの皆さん。

大地を守る会では造りの体験まではやってないけれど、

大和川さんにオリジナル酒をお願いしてよりかれこれ16年、

毎年2月に開かれる大和川交流会には、今も新潟から駆けつけてくれるほど

杜氏には随分と親しくしてもらっている。

娘のように可愛がってもらった元職員もいたりして、

ぜひどうぞと声をかけてくれたのだった。

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記念の一枚を頂戴する。

「杜氏、お元気でなによりです。」

「いやいや、エビさんも白くなったのう」 と頭をなでていただく。

 


越後杜氏・安倍伊立、78歳。

人生を米と酒造りに傾注して60余年。

丁稚奉公 (でっちぼうこう、今では死語? ) から始めて、群馬、福島、愛知の蔵を経て、

大和川酒造に入り40年を勤め上げた。 

職人気質の厳しさを持ちつつも、素人の酒造り体験も喜んで受け入れ、

日本酒文化の心を伝える姿には優しさがあった。

それゆえか、スケベ爺(じじい) の一面も可愛い色気に見えるのだろう、

不思議に女性陣にモテるのだった。 我々野郎は敵わない。

 

参加した専門委員会 「米プロジェクト21」 のメンバーと。

 

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右端が、娘のように可愛がってもらった元職員、陶文子。

生き物博士・陶武利の連れ合い。 今や二人の愛娘のママである。

 

みんなに囲まれて、喜んでくれる杜氏。

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感謝の記念品と花束が贈呈される。 

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最後にみんなで記念撮影。

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たかが日本酒、されど日本酒。

良い酒は水や土とともにあり、人をつなぐ。

 

杜氏へ。

小千谷に帰って、これから米づくりの正念場ですかね。

豊作でありますよう。

そして来年の2月、また元気でお会いできることを願ってます。

 

良志久庵の熊さんにも感謝。

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喜多方に家族を置いて単身赴任状態。

自分用に大地の食材が欲しいとのこと。 今度は食料持って慰問に来ますね。

 

最後に、佐藤和典工場長。

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種蒔人基金を立ち上げてから、工場長も

水の源・飯豊山の環境保全に動いてくれている。

7月には、山小屋周辺のゴミ清掃登山を決行したとの報告があった。

送ってくれた写真を掲載したい。

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メールには、「行政もようやく本気になってきました」 とある。

「種蒔人」 を飲んでいただいている会員の皆様。

これがこの酒の力、です。

改めて呑ん兵衛の皆様に感謝申し上げます。

そして、1993年、思いだけしか用意してなかった僕らを温かく迎え入れて、

種蒔人 (最初の銘柄名は 『夢醸』 ) をしっかりとファンがつく酒として

仕込んでいただいた安倍伊立名杜氏に、深く感謝します。

 

この酒が飲まれるたびに、森が守られ、水が守られ、田が守られ、人が育つ。

 

基金のキャッチ・コピーです。 自画自賛? でも、悪くない、よねぇ。

 



2009年7月26日

草取りの季節

 

昨日 (7月25日) は、『大地を守る会の稲作体験2009』 2回めの草取りが行なわれる。

例によって20年変わらぬ風景。

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ここに180人近い人々が田んぼの草取りに集まってくれた。

今年は2枚の田んぼを借りたので、作業は2班に分散して行なわれている。

 

年々草が増えてくる佐藤秀雄さん (通称 「ひで田ん」 ) の田んぼ。

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特にコナギの増殖が激しい。

こいつは強害草といわれるほど、イネとの競合植物である。

 

こちらは今年から借りた綿貫直樹さんの田んぼ ( 通称 「なお田ん」 )。

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こちらもコナギは生えているが、ひで田んほどではない。

株の姿もしっかりしている感じがする。

 

しかし驚くことに、ひで田んのイネは、すでにパラパラと穂が出始めているのだった。

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この現象には、地主の佐藤秀雄の表情も曇っている。

「今年は取れない (=収量が上がらない) かも知んねぇ。」

 

挨拶する秀雄さん。

「草もいっぱいあるけども、まあ20年皆さんが無農薬でやってきた結果ですので、

 頑張って取ってください。」

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作業開始。

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手を熊手にして、取っては埋め、取っては埋める。

頑張る会員さんたち。

「大地の会員さんは真面目な人が多い」 というのは、

イベントをやるたびに言われる生産者からの評価である。

加えて、子どもたちの性格がいい、というのも定説になっている。

20年この作業を続けてきて、ぼく自身もまったく異論がない。

事務局として、いつも気が引き締められる。

 

ぼくはひで田ん班に編成されたので、なお田ん班の作業は見れなかったのだけど、

あとで写真を見て、感心した。

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草をリレーで外に出している。

草が少なく、かつ人手があるからできることだろうが、

それにしてもいいね、こういう田んぼの中のチームプレー。

 

ちなみに次の写真は、田植えの時には紹介できなかった、

なお田ん班の田植え風景。

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直樹さんの苗は、写真左下にあるセル苗である ( 3月28日日記 参照) 。

二つの田んぼの生育の違いは、土質や水環境、日当たり具合の違いもあろうが、

苗作りによるところが大きいのではと思われる。

 

私たちはここで、実に甘い計算をしていたことに気づかされるのだった。

イネを抜いて比較してみる。

すでに穂が出てきた田んぼと、まだ茎の中ほどに穂を孕み始めた田んぼ。

これでは......稲刈りは同時にできない! ということだ。

さて、どうするか・・・・・・20年目の実行委員会は試練続きである。

 

作業終了後の昼食・交流会風景。

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公民館の駐車場に4張のテントを設営して、こちらは生産者の話を聞き、交流する。

 

「これからの田んぼの作業は、水管理、に尽きます。」

と説明する、綿貫直樹。

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公民館の中では、子どもたちのカリスマとなった生き物博士・陶武利さんの

「田んぼの生き物講座」。

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とにかく子どもは虫が好きだ。

生態系とか生物多様性とかの理屈なんか関係ねぇ。

とにかく虫というものに夢中になる。

そして陶さんの 「この虫は、実は・・・・」 の話に聞き入る。

ぼくももういっぺん幼少の頃に戻ってみたいと思ったりする。

 

日が没したところで、昨年に続いての夜の生物観察会。

お目当ては当然、ホタルである。

 

今年もカラスウリの花を見ることができた。

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この時期の夜にしか咲かない。

夜行性の蛾を引き寄せ、蜜を与えるかわりに受粉の手伝いをさせる。

だから夜でも光るがごとく、輝く白である。

宮沢賢治の未完童話 『銀河鉄道の夜』 にも、

銀河の祭りの夜にカラスウリのあかりを川に流す、というくだりが出てくる。

「今夜はみんなで烏瓜のあかりを川へながしに行くんだって。 きっと犬もついて行くよ。」

 

しかもこの花は花筒が長く、スズメガのような長い口吻を持つ蛾でないと花蜜が吸えない。

なぜカラスウリとスズメガが、このような関係を築いてきたのか・・・・・

生命のネットワークと共進化は、実に神秘だ。

 

かんじんのホタルは?

夕方まで風が強かったせいか、ちょっと少なかったけど、しっかり飛んでくれました。

闇の中に流れる光の幻想的な軌跡には、どんな人も心を動かされるに違いない。

そしてきっと、大切にしたいと思うだろう。

写真はまたも失敗。

 

田んぼの草取りという労働のあとで、自然や生命の奥深さを感じとる。

草取りⅡは、すっかりホタルに合わせた日程になってしまった。

来年もこの日程でやるなら、一層の知恵と工夫と労働が必要だ。

 



2009年7月23日

女子大で講義

 

横浜は緑園都市にある 「フェリス女学院大学」 の校門に立つ。

な、なんで、エビが女子大に・・・・・・

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いえいえ、けっして悪さをしに来たわけではありません。

国際交流学部・馬橋憲男教授からお招きをいただき、

大学生相手に講義をすることになったのです。 

テーマは 「食の安全を考える」。 

日本の食糧の安全保障の現状と改善策について、また私たちはどのように行動すべきか、

について喋れ、という大胆な要請。

 

オレみたいなのが入っていいのかなぁ、なんて

ちょっとドキドキしながら受付にて馬橋教授への面会を求めると、

「ああ、エビスダニさんですね。 うかがってますよ。 どうぞ」

と言われ、ホッとする。

生まれて初めて、堂々と女子大の中を歩く。

右手と右足が同時に出そうになったりしながら。


授業はといえば、生徒さんは25名。 与えられた時間は90分。

これまでこの講座では、日本や世界の食糧事情から食のロスについて、

魚がいなくなっているという話、遺伝子組み換え食品、フェアトレードなどをテーマに

学習してきたという。

それらを受けて、さあどうする、というところでおハチが回ってきたワケで、

結論は見え見えなんだけど、ここは一点集中ではなくて全面展開で臨むことにした。

それに若者相手だと最初のツカミが肝心だと、

駅前のスーパーでトマトを一袋買って乗り込む。

 

まずはヒトの生存にとってゼッタイに欠かせないものを確認する。

水と空気と食べもの、ですね、はい。

では、それらは何によってつくられるか。 あるいは得られるか。

すべての源は太陽エネルギーであり、植物の光合成であり、土であり、

壮大な生命のネットワーク (生態系) によって維持されているのであります。

 

さて、このトマトはどうやって実をつけたのでしょう。

ただ種を蒔けば実が成るわけではありません。

受粉 (セックス) というプロセスが必要です。

人工授粉やホルモン剤を使う方法もありますが、基本は虫に花粉を運んでもらう、です。

普段私たちが口にする野菜や果物のおおよそ8割が

他家受粉 (自力ではなく他の力をかりて受粉する) 植物です。

それは様々な外敵や自然の驚異から種を守るための植物の戦略なのです。

そこで重要な役割を果たしているのが、ハチです。

そのミツバチが今、地球上のあちこちで忽然と姿を消す、

という現象が起きているのをご存知ですか (一人だけ手が上がった)。

私たちは今、知らず知らずのうちに、生存のための絆 (ネットワーク) を失いつつあります。

 

そこで生物多様性の話につないで、

日本列島の特徴、そして得意の有機稲作の話へと進む。

「この世に用なしの生き物はいない。 有機農業は平和の思想なのです」

(ここでこのココロが伝わらないと、授業は失敗。)

 

食べるとは、つながる行為なのです。

さあ、あなたは誰 (何) とつながりますか。

 

わが国の食料自給率が40%というのは、すでに学んでおられることでしょう。

しかしこの国では、埼玉県に匹敵する田畑が耕作を放棄され、

国内の農業生産額に匹敵する食料 (2000万トン強) が生ゴミとなって捨てられ、

(その殆どが輸入食料です)、国土は超メタボ状態になっています。

つまり、自由貿易とかグローバリゼーションとかの名の下で、

私たちは " 奪う " という形で世界とつながっていると言えます。

 

国際交流学部で学ぶ諸君なら、

日本の環境や気候風土と、それを土台にして形成された食文化を語れる人になってほしい。

経済のグローバリズムで、収奪する自由主義の行く末が見えるだろうか。

食は地球とつながっていることを自覚するグローバリストこそが平和を築くのです。

 

後半は時間が気になりだして、早口になって一方的な語りとなってしまった。

自己採点は67点。

我が人生を象徴するような点数ですねぇ。

 

またやって欲しい。今度は1回だけじゃなく-

と教授から言ってもらえたことで、何となく満足して帰る。

生徒さんたちと記念撮影でもしたかったのだけど、恥ずかしくて言えなかった。

 



2009年7月21日

全国モデルタウン会議

 

霞ヶ関・農林水産省の7階に、定員200席ほどの講堂がある。

ここで今日、初めての 「全国有機農業モデルタウン会議」 が開催された。 

 

有機農業推進法ができ、全国各地にその推進モデルタウン地区が生まれた経過は

これまでも書いてきた通りだが (たとえば6月8日付日記)、

今回は、全国47地区のモデルタウンの関係者を一堂に集めて、

それぞれの進捗や課題を共有し、推進力をアップさせようという狙いで開催されたものだ。

これ自体は農水担当部局の意欲の現われと評価してよいのかもしれない。

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モデルタウンの主体である関係者に各県行政の職員たち、農水本省や農政局職員、

流通 (大地を守る会はこの範疇に入れらている)、一般参加者など、

合わせて300名近い参加者となって、パイプ椅子が増設されるほどの盛会となった。

これを有機農業の発展が加速されている証しとして語ることもできようが、

その実、地区によって進捗にかなりの差があり、現場の悩みもけっこう深いものがあって、

むしろ他地区の状況に対する関心の強さをうかがわせるものだと感じた。 

要するに皆、真面目に取り組んでいるのである。

 


農水省からの経過と全体の進捗報告から始まり、

5地区の活動事例報告がある。

 

上の写真は、山形県・鶴岡市有機農業推進協議会の会長である

庄内協同ファームの志藤正一さんが発表しているところ。 

農民運動からスタートして30有余年、

彼ら自身ずっと反体制で生きていくのかと思っていたことだろうが、

今や農水省の講堂で先進地としての事例発表者である。

志藤さんからは、米を有機栽培するだけでなく、そのタネ自体も有機栽培されたもの、

というレベルへと進もうとしていることが報告された。

有機JASの 「調達が無理な場合は (一般の種子でも) 許容する」 という

「規定」 を守ればよい、ではなく、有機農業者自身の手で水準を上げていくという意思。

言われなくてもやる。 これぞ有機農業の主体思想だね。

 

福島・喜多方市・環境にやさしい農業推進委員会からは、

実績ある旧熱塩加納村での学校給食への地場野菜の供給の歴史をベースに

発表されたが、なかなかそれ以上の展開はできてない様子。

 

大地を守る会も構成団体になっている

千葉・山武市有機農業推進協議会 (以下、山有協) も事例発表者として指名された。

発表者は、さんぶ野菜ネットワークの事務局・川島隆行さん。

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山武市の紹介から始まり、当地での有機農業の歴史、そして山有協の結成から

本格的に新規就農支援の体制を作ってきたことが報告される。

1年目の昨年は、1週間から3ヶ月の短期研修が2名、3ヶ月以上の長期研修が7名。

そのうち新規就農が2名、研修継続が3名。

そして今年は、研修期間を6ヶ月として4名の受け入れを決定した。

1名の方が昨日より研修をはじめたそうだ。

課題は、独身者の新規就農の難しさ (金銭面や労力面、そして地域との関係作りなど)、

行政の推進体制の未整備、地域農家の問題意識の低さ、

住居の確保の難しさ(作業場つきの空き家がない)、といったところが挙げられた。

 

関与している者から見れば、地道な歩みとしか言えないのだが、

それでも会場から、研修生の宿泊とかはどうしているのか?

(答えは、山有協で空き家を借りて研修施設をつくった) など

基本的な質問が出るところを見ると、もっと苦戦しているところも多いようである。

研修を継続している3名の方が就農すれば、

初年度受け入れ者から5名の農業者が誕生したことになる。

これって、なかなかの数字なんだと、改めて思うのだった。

 

会場からは、農水省の予算の下ろし方への不満から、

有機農業をやっているがゆえに受けられない助成制度があることへの抗議のような発言、

さらには  " 減農薬推進にとどまってないか "  といった手厳しい批評まで挙がり、

有機農業者たちの気骨を感じさせる一方で、

どこか補助金に頼る傾向も生まれてきているなあ、などと感じた次第である。

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いずれにせよ、全国各地で有機農業を推進するための協議会が結成され、

それらが一堂に会して課題を語り合ったわけだ。

有機農業推進委員会会長の中島紀一さん(茨城大学) の言葉を借りれば、

これが 「コミュニケーションの皮きり」 となって発展させられるかが鍵である。

 

これまで生産者と消費者の輪の力で進んできた有機農業が、

推進法によって地方公共団体の役割が明記され、

行政と民間団体の共同によって推進する形がつくられてきている。

80年代から語られてきた " (有機農業を) 地域に広げる " という課題が

ここで一気に前進し始めたのだ。 法律というのはやっぱバカにできない。

 

若者の目も有機農業に注がれてきている。

一般の農家とも " 農業の未来 " を語り合える時代になってきた。

しっかりと着実に、次の担い手を育ててゆきたい。

 



2009年7月18日

『雪の大地』 復活劇を始めようと思う。

 

今日は静岡・掛川の 「つま恋」 で開催されている一大イベント

ap bank fes '09 』 に、今年こそ参加する手筈だったのに、

なぜか出社して仕事に追われている始末。

せっかくの招待状も台無しにしてしまった。

3月にやったワークショップでご一緒した皆さん、すみません。

 

このところ、日記も書けないでいた。

忙しい、忙しい、貧乏暇なし、は若い時からの口癖だけれども、

ホンモノの忙しさというのは、どうやら周期的にやってくるように思うな。

あとで振り返れば、なんであんな程度で忙しいなんて言ってたんだろう、

とか思ったりするし、要するにこの周期というのは、単純な仕事量の問題でなく、

自分の能力にとっての今の壁の、胸突き八丁に来てるってことなんじゃないか。

やっぱ山登りの縦走のようなものですね、人生は。

しかも、こういう時に限って複数の難題が同時に押し寄せてきたりするから、

不思議なものです。

いま進行中の難題については、ここではまだお話しできませんが、

この4月から受け持つことになった外販 (卸し) で、

これまで経験したことのない新規営業に挑戦しているのです。

しかも複数、しかも同時に佳境に入った、みたいな。

いつか自慢げに報告できるよう、このプレッシャーに挑んでいこうと思うのであります。

運動はハッタリではないのである! と言えるように。

そしてそんな間にも、管理者としてのデリケートなお勤めも逐次発生して・・・・

いや、これはやめておこう。 情けない愚痴になるので。

 

さてここで、書けなかったネタの中から、この間のトピックをひとつ。 

7月8日(水)の夜、六本木で提携米研究会の会議があって、

そのあと残った十数人で、

庄内協同ファーム・斉藤健一さんを偲ぶ一周忌の会を開きました。 

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健一さんと一緒につくった純米酒 「雪の大地」 の最後のストックを空けながら-

 

思い出を語り始めては、つらくなる。

でも彼を抜きには、飲めない。

「健一がそこにいて、ニコニコしながら飲んでいる」

なんて、誰かが言う。 泣かすなよ、こら! なんて言いながら、飲む。

 

自他ともに認める健一さんの弟子、佐藤和則と語る。

斉藤健一が、農の魂を表現したいと思って作った酒・・・・

-復活させたいな、「雪の大地」 を。 このまま終焉じゃ申し訳が立たない。

-俺はもう、そのつもりで米作ってっから! エビさん、ゼッタイやってよ!

彼の弟子が、俺を睨んで決意をうながすようになった。

引くわけにはいかない。

「雪の大地」 第二幕を、始めようと思う。

健一さんがホントにニヤニヤしながら脇にいてくれてたんなら、嬉しい。

 

でもオレ、今ちょっと忙しいんで、ちょっと待っててね、健ちゃん。

 

 



2009年7月 6日

八郎潟から白神へ (Ⅱ)

 

二日酔いの最高の良薬は、うまい空気と清い水だ。

念願の白神山地を、黒瀬さんたちと歩く。 

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広葉樹林の森の中でもブナ林帯は、いつも水に覆われているようで、

最高の森林浴だと思う。

 

白神山地は、青森・秋田両県にまたがる標高1000~1200m級の山々で構成される。

人為の影響を受けず、分断されていないブナ原生林としては世界最大級で、

ほぼ純林として残っている。 ブナ林は保水力が強く、数々の川の源にもなっていて、

多種多様な動植物を育む。 もちろんヒトの生活水も賄ってくれている。

 

世界自然遺産に指定された区域のコアゾーン (核心地域) は約1万ヘクタール。

この地域にヒトが入るのは指定のルートに限られ、かつ届出が必要となる。

しかも秋田県側は学術調査や取材に限って許可が出る、入山禁止エリアである。

その周辺にバッファーゾーン (緩衝地域) が約7千ヘクタール。

僕らが今回歩いたのは、その外にある田苗代湿原 (たなしろしつげん:秋田県藤里町)

という地帯。 世界遺産区域から見れば麓にあたる位置だが、

紛れもない白い神の宿る山系の一角である。

 

水の涌く山を歩く。

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藪を越えると、突然、ここは涅槃 (ねはん) の地かと思わせるような湿原が現われた。

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ニッコウキスゲの群落だ。

 


黒瀬さんは、この時期を選んで誘ってくれたんだね。

草取りで忙しいっていうのに。 

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花弁を思いっきり広げて虫を呼ぶ。 この行為には意思がある。

この形も、色も、香りも、必要とする虫を集めるためにレベルアップさせてきたのだ。

虫たちに花粉を運ばせて、性質の違う個体と受粉させることによって、

植物は自然界への対応力 (多様性) を豊かにし、種を繁栄させようとする。

数億年の時間をかけて、花 (植物) と虫 (動物) が築きあげてきた共進化の形がある。

 

ドウダンツツジ。 -だと教えてもらう。

こういう姿を可憐だと表現したりするけど・・・ ああ、日本語をもっと究めたい。

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若い頃は、花の名などには興味がなかった。 

エコロジストっぽい講釈垂れたりしながら、

山はただ逞しい自分が欲しくて登っていただけだったように思う。

だから続かなかったのかな。

 

今は、何だろう・・・

こんな樹々の葉にも、素直に畏怖し、仰げるようになった気がする。 

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圧倒する緑を美しいと思う。 生命の美しさ以外の何ものでもない。

これは成長したのだろうか。 それとも、社会生活に疲れたのだろうか。。。。

 

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老木の風情は、山の守り神のようだ。

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熊や鹿や小動物に齧(かじ) られながら、何百年も大らかに皆を見守っている。

くそ! スゴすぎる。

そんな力強さにヒトも畏敬の念を抱き、その木に名前をつけたりするんだ。

 

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岩の上にタネが落ちたばっかりに大変だったろうが、

しっかり岩を抱え込み、根づいた者もいる。

苔むした岩に草が生え、土になるのにはまだ数百年はかかるか。

植物は、微生物も育てながら、一緒にこうやって土を作ってきた。

ヒトはその表土という名の地球の薄皮の栄養分で生きているのだけれど、

何でか痛めつけるのを気にとめないでいる。

 

ギンリョウソウ。 -だと教えてもらう。

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こいつも何かの役割を果たしているに違いない。

 

ホオノキ (朴の木)。 -だと、これも教えてもらう。

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これがホオノキか。 たしか下駄とか楽器とか、色々と使われている木だよね。

今はどうなんだろう。

 

樹々の葉っぱや枝や幹を伝って落ちながら、雨や雪は大地に蓄えられる。

水はゆっくりと地下に染み込み、沢から谷に落ち、川をつくる。

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この川が、青森の田も秋田の田も潤してくれる。

途中で汚れなければ、近海の海も、だ。

魚は上流の状態を感じとりながら生きている。

 

何度でも言いたい。

水と水を育む生態系はコモンズ (公共のもの) であり、未来のものでもある。

誰の手にも渡してはならないし、今の世代でダメにしてよいという権利もない。

 

この白神山地を世界自然遺産にするには、議論もあったようだ。

世界遺産になるとかえってヒトが入って荒らすことにならないか (このままでいい)。

いや、ちゃんと伝えて残す意味を分かってもらう必要がある。

このまま美しく残すには、残す意思が共通遺産にならなければならない、

ということで登録に動いたのだという。

やっぱり自然の天敵はヒトなのか・・・。 

 

ま、心洗われた、黒瀬さんに感謝の白神体験でした。

 



2009年7月 5日

八郎潟から白神へ

 

昨日から土日を使って秋田・大潟村に行ってきた。

実はこの時期に大潟村に来るのは初めてで、草取りの真っ最中でのお邪魔となった。

 

こんな田んぼの風景、日本ではないだろう。

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一枚が1町歩 (≒1ヘクタール) とか1.5町歩といった田んぼが、

1万5千ヘクタールに及ぶ平野部に整然と固まってある。

平野部といっても、ここは日本第二の湖・八郎潟の湖底だったところ。

1957年から20年、852億円の税金を投入して2万ヘクタールの湖を干上がらせた。

龍に姿を変えさせられた八郎太郎という心優しい男が、

十和田湖から流れ流れて、ここに棲みついたという伝説のある湖も、

大地に変わり、一大米どころとなったのだが、

思いっきり米づくりをしようと入植者が続々と入ってきた頃に減反政策が始まった。

国の政策に翻弄され続けた大地である。

八郎太郎はどこへ行ったのだろう。 天に昇ったか・・・。 

 

ここで無農薬での米づくりに挑戦し続ける黒瀬正さん。 

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減反政策に反対して米づくりをする以上、補助金には一切頼らず、

有機JASの認証も取らない。 しかし文書管理はしっかりやる。

これは彼のたたかいなのである。

 

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大地を守る会は、生産者も多様性に満ちている。


雑草対策は色々と試してきたが、何をどのように駆使しても、

やっぱり人の手は入らざるを得ない。

それにしてもこんな広い田んぼ。

見るだけで気が遠くなってしまう、容易ならざる作業だ。

おばさんたちがお喋りしながらやってくれているのが救いか。

 

黒瀬さんは、新しい有機稲作の技術は貪欲に吸収し、必ず試している。

現地への視察も頻繁に行く。

これは先日の米生産者会議でも登場したチェーン除草機の黒瀬版。

自作して、すでに検証している。

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大きな動力除草機も持っているのだが、

しかしこのほ場条件にあっても、黒瀬さんが今行きついている草対策は、

人力の除草機とマンパワーである。

「やっぱり、これやなぁ。」

 

こうやって除草機を押し、なおかつ人の手を入れる。

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これを3回はやる。

 

目を凝らしてみれば、いろんな虫がいる。

これはゲンゴロウの幼虫。 いっぱいいる。 

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カエルやクモにイトミミズ、タニシ・・・メダカやエビの一種も見つけた。

ここで生き物調査をやってみたいなぁ、という気になるのだった。

 

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減反政策反対の論陣を張ってきたゆえに、ダーティなイメージもついてまわる方だが、

丹念に、地道に、やることはやっている。

 

ライスロッヂ大潟の提携米には、ゆるぎないファンがついている。 

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紙袋にこだわり、封がうまくいかないとなればミシンまで自作する。

すごいもんだ。

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大地を守る会からの注文には、これで一袋一袋、封をして送ってくれる。

お手数掛けます。

 

コンクリ打ちから鉄骨の組み立て、機械の改良まで、

自分でできることは徹底して自分でやる。

黒瀬さんの倉庫には、随所にオリジナルの工夫が施されている。

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元滋賀県庁職員という安定した職場を蹴って、大潟村に入植して40年近く。

「どこでこんなに技術を学んだんですか?」

「何もかんも見よう見真似よ。 百姓は何でも自分でやるのよ」

と笑う黒瀬さん。 その創意工夫、飽くなき試行錯誤に脱帽する。

 

さて今回、この時期にやってきたのには、もう一つの目的がある。

世界自然遺産にも登録された白神山地のブナ林を見に行こう、

というお誘いを黒瀬さんからもらったのだ。 (続く)

 



2009年7月 3日

有機農業は進化する -米の生産者会議から(Ⅱ)

 

すぐに続きが書けなくて、間に一本挟ませていただいて、

遅ればせながら米の生産者会議の話、続編を。

 

福島県農業総合センターの実験ほ場を見学する一行。

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「福島型有機栽培技術実証ほ」 を見る ( 「ほ」 というのは 「圃場」、田畑のこと)。

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「福島型」 といっても特別に新しい技術を開発しているわけでなく、

様々な技術や理論を組み合わせながら、この地域に最も合った有機栽培技術を

確立させたいという、公僕たる研究者たちの実直な意欲が表現されたものである。

彼らなりに県の有機農業のレベル向上に貢献し、誇れる 「福島」 にしたいんだ。

前回も書いたけど、時代はようやく

研究者たちがこぞって 「有機栽培技術の実証」 を競うステージに入ったのである。

 

上の写真は、大豆との輪作を試みているほ場。

こちらは同じ条件下で、肥料を変えてみたほ場。

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他にも、小さく区切りながら色んな組み合わせを試験している。

温暖化対策という位置づけで、メタンの発生を抑制する試験ほ場なんてのもあった。

まあしかし、法律ができただけで有機農業が先端産業になったかのように

研究が盛んになるってのも、どうよ、と言いたいところもあるよね。

本当にやりたかったんだったら、もっと早くから取り組めよ、と

へそ曲がりの私は言いたい。

 

しかし農民は、そんな僕なんかよりはるかに現実派である。

研究ほ場は 「ふんふん」 という感じで、隣の人と喋くり合っているかと思えば、

興味を持ったものには、我先にと飛びつく。

 

試験場をあとにして、実際の " 現場 " (やまろく米出荷協議会の生産者の田んぼ)

に入るや、またたく間にみんなで取り囲んだモノがあった。

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いま、有機稲作でホットな話題となっている民間技術、チェーン除草機があったのだ。

 


 

「まあ、ちょっと私らなりに工夫して作ってみたんだけども・・・」 と、

ちょっと自慢したいげの佐藤正夫・やまろく社長。

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生産者の手づくりである。

これを人力で引っ張って進み、雑草を浮かせる。

こんなふうに。 

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「やって見せて」 という声が挙がって、実演してくれたのは山形の方。

「じゃあ、俺がちょっと見せっぺ」 と言う間もなく、裸足になって田んぼに入った。

実演してみる、じゃなくて、自分の体でこっちの性能を確かめたかったのではないか、

と我々は推測するのだった。

面白いねぇ・・・・・みんなの目の色が変わる民間技術での競い合い。

研究者は、まだまだ当分、後追い実証に追われることだろう。

 

けっして研究を揶揄しているワケではない。

これから続々と出てくるであろう研究成果は相当な力になるに違いない。

でもやっぱね、やっぱりホンモノの田んぼのほうが面白いのだ。

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しんどい、しんどい、と言いながら意地で有機に取り組んできた、岩井清さん。

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昨年は、全国食味コンクールで金賞を受賞して、

いよいよ 「有機で美味い米をつくる」 自信がみなぎってきた感がある。

やり続けてきた甲斐があったね。

 

岩井さんの田んぼに掲げられている看板。 もう10年経った。

 

みんなも負けてはいない。 内心は 「俺こそが一番」 と思っている。 

笑顔で語り合う中にも、百姓の矜持 (きょうじ) はぶつかり合い、

腹ん中で火花を散らせ、「よし、早く帰らねば (愛する田んぼが待っている) 」

と思うのだ。

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ということで、公園の木陰で解散式。

 

研究者にも期待はするけど、

現場で日々新しい工夫に挑戦し続ける彼らによって、有機農業は進化する。

明日の暮らしの土台を、弛 (たゆ) まず耕し続けてくれる人々である。

 



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