戎谷徹也: 2011年12月アーカイブ

2011年12月30日

感謝の心で 「良いお年を!」

 

今日で仕事納め。

といってもたった4日間の休暇だけど。

 

この一年を締めくくる言葉が、浮かんでこない。

心臓が止まりそうになった光景から一瞬にして未経験領域に突入して、

取り返せない後悔の念に苦しんでいる暇もなく

ただただ 「判断を誤るな」 と言い聞かせながら走ってきて、

振り返ってみれば、どうしようもなく悲しい思いもしたけれど、

感動のほうが多かったようにも思う。

それもあり得ないような感動で、たくさん泣かされたことだった。

月並みだけど、「感謝」 、この言葉しかない。

希望を与えていただいたすべての人たちに、

心から、 「有り難うございました!」 だね。

 

2011年、「神話」 がついに自壊した。 しかしその代償はあまりにも大きかった。

来年は、ホンモノの 「脱原発元年」 の年にする。

もう二度と後悔はしたくない。

つくるのに莫大な金と時間をかけて、地域や人々の絆を破壊して、

たった40年ほどの稼働で、回復不能な環境汚染と、

何万年も厳重に管理しなければならないゴミを生み出し続ける。

こんなエネルギーへの依存を次代に継がせるのはやめにしたい。

代替案は、目の前にある。

 

僕らは普段、たいがいの傷は自己修復したり癒しながら生きている。

そんなふうに回復できる範囲にヤツを封じ込めながら、生きてゆくしかない。

冷静に向き合える力を獲得したい。

そのテーマに挑んでいきたい。 新しい知や技術を発見・創出しながら。

 

もはやここまで。

 - という感じで宿題をいっぱい散らかしたまま、

とりあえず暫しの休息をいただくことを、お許しください。

2012年が皆さまにとって幸多い一年になりますよう祈念して、

今年のエビ日記を閉じさせていただきます。

お付き合いいただいた皆さまに、深く深く、感謝します。

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(2011年12月30日17:00pm,千葉市美浜区より富士山を望む。)

 



2011年12月27日

大地を守る会の皆様へ

 

福島県須賀川市・ジェイラップ(稲田稲作研究会) 代表、伊藤俊彦さんから

手紙を託されました。

大地を守る会の会員の皆様へのメッセージです。

ここで紹介するのが適切かどうか悩むところですが、

この苦難の年を越す前にお伝えしたく、転載させていただきます。

 

大地を守る会のみなさまへ。

 

311日、あの忌まわしい大震災と原発事故から9カ月が過ぎます。

 

「ここから逃げる。逃げない。」

「この野菜を食べる。食べない。」

「窓を開ける。開けない。」

「洗濯物を外に干す。干さない。」

「孫たちと外で遊ぶ。遊ばない。」

 こんな日がどれほど続いたことでしょうか。

 

当初は成す術もなく、何から手を付けて良いものやら

戸惑うばかりの日々でしたが、

みなさまからの心のこもったご好意や

力強いメッセ-ジを頂戴する度に、勇気づけられ、励まされ、

一歩ずつですが前に向かって進む気力を取り戻すことができました。

 

「外部被曝・内部被曝」「ベクレル・シ-ベルト」

聞きなれない言葉が連日周囲を飛び交う中で、

「ガンマ線測定器」という、大変高価な機材を

意の一番に貸し出していただきましたこと。

 

特に今年の「収穫祭」は、

わたしたちから希望を失わせまいとするみなさまのご厚情に接し、

記憶に残る大きな感動をいただきましたこと。

 

「備蓄米 大地恵穂」の受注に奔走いただきましたこと。

 

救援物資や過分な義援金まで頂戴しましたこと。

 

度々みなさまに当地をご訪問いただくなど、

何度も勇気づけていただきましたこと。

 

恵まれすぎるほどの復興環境を

あらゆる分野でご提供していただきました。

 

おかげさまで、

「放射能による健康被害から家族や子供たちを守り抜こう」

を合言葉に、効率的な学びと実践の両立を重ねることができました。

 

手探りの、小さくとも着実な実践の成果は、

97ha341枚の田んぼから収獲された「大地恵穂」に、

近未来への希望に繋がる想定以上の好結果を残すことができました。

 

今年、幾多の苦難を乗り越えて育った「大地恵穂」は、

自らの家族にも幼い子供たちにも疑心すること無く食べさせられる

安全な米となりました。

 

「大地恵穂」は、ご存じの通り大地を守る会の紙面やDM

17年前からご紹介いただいてきたお米です。

本来は、「安心・安全・高食味」を不変のテ-マとしてきた

アイテムです。

 

この国難とも言うべき有事下で、

それぞれのご事情もあろうと言うのに、

暖かく見守り続けていただいたみなさまに、

今期の稲作に込めた復興への想いを乗せてお届けさせていただきます。

 

学び、そして実践することで身に着いた新たな知見は、

今後のわたしたちの新たな能力となり、

農産物を通して表現されていくものと確信しています。

これも一重に、

大地を守る会のみなさまの深いご厚情に支えられての結果であると、

その意義の深さを真摯に受け止めております。

 

数々のご厚情や過分なご支援を賜りながら、

甘えるばかりで満足なご挨拶もできないままに

9カ月もの時間が経ってしまいました。本当に恐縮です。

 

顔を上げて前に向かう気にさせていただきましたこと。

本当に、本当にありがとうございました。

あらためまして、

下名以下、生産者ならびに社員そしてその家族に代わり、

心からの感謝の意をお伝え申し上げます。

 

「やれば出来る」を実践した縁起米になったと確信します。

 

共にこの実りを祝っていただければ幸いです。

 

             201112月 吉日             

            (株)ジェイラップ

            代表 伊藤俊彦 

 

伊藤さん。 有難うございました。

私たち社員一同も、このつながりの意味を深くかみしめ、

希望のステップへの励みとさせていただきたいと思います。

 



2011年12月25日

復興から生まれるイノベーション

 

12月19日(月)、栃木・那須塩原から福島・須賀川に北上して、

ジェイラップでの勉強会に参加する。

 

ジェイラップで取り組んだ放射能対策と測定結果から、たくさんのことが  " 見えてきた " 。

その成果を共有し、次の課題を確かめ合う。

稲田稲作研究会のメンバーだけでなく、

近隣農家や関係者にも呼びかけて開かれた。 

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まずは、ジェイラップの対策をずっとフォローしてくれた

「チェルノブイリ救援中部」 理事の河田昌東さんからのお話。 

 

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河田さんはウクライナでの除染対策の経験や、

福島県内各地での調査・実験を踏まえ、汚染土壌対策のポイントを解説する。

 

  まず、広大な田畑での表土剥離は現実的には困難であろうが、

  果樹園では下草を剥ぐだけでも違う。 剥いだ後にはクローバーの種を播く。

  それだけでも空間線量は5分の1から6分の1に減少する。

  反転耕は、農作物にセシウムを移行(吸収) させないためには有効。

  他に微細土壌粒子の除去、バイオレメディエーションという方法がある。

  施肥関係での汚染抑制対策では、

  ・カリウム肥料をやる。

  ・カルシウムはストロンチウム90対策になる。 土壌PHを上げる効果もある。

  ・腐葉土はセシウムを吸収する有機物を豊富にさせる。

  ・窒素肥料は吸収を促進してしまうので要注意。

   (逆に除去作物を植えた時には有効ということでもある)

 

  セシウム137の作物への蓄積では、

  ナス科(ナス・トマトなど)、ウリ科(キュウリなど)、ネギ類には蓄積が少ない。

  アブラナ科は高くなる。

  栄養素としてのカリウムが高い(カリウム吸収力が強い) 作物は高くなるが、

  土質にも左右されるので、正しく知るためにも、たくさんの土壌データの収集が必要である。

 

  この間出てしまった福島県内での高濃度汚染米は、

  もっと精密な予備調査をやっていれば防げたことだ。

  事実を知ることを怖れると、結果的にもっと悪い事態を生んでしまう。

  分かってきていることは、地形と土質。

  山の水が直接入る田んぼ、砂質土壌、土のカリウム濃度が低い田んぼ、

  水のアンモニウム濃度が高い所、など。

  山の水を取り入れている田んぼなら水口にゼオライトを施すなど、

  水田の環境を考えて対策を打つことが肝要である。

 

  ウクライナのバイオレメディエーション実験では、

  ナタネで放射能を吸収させ、子実から油を搾ってバイオディーゼルとして使う。

  残ったバイオマスは地下タンクを作ってメタン発酵させ、バイオガスとして活用する。

  最後の廃液 (ここに放射性物質は凝縮されてくる) は吸着剤を使ってろ過して

  液肥として再利用し、最後の吸着剤は低レベル廃棄物として処分場で保管する。

 

  残念ながら、ナタネでの吸収能は高くはなく、短期的な浄化は期待できない。

  しかし裏作で栽培した作物 (麦類や蕎麦など) の汚染を防ぐ効果がある。

  ナタネは連作できない作物だが、逆に、

  ナタネ - 通常作物(小麦など) - トマトなど汚染しにくい作物 - ナタネ、

  といった連作を組めば、除染 (食物への汚染防止) +エネルギー生産の体系が形成できる。

 

昨日の稲葉さんの話といい、今私たちが取り組もうとしていることは

単純な 「汚染対策」 ではなく、「復興」 プロジェクトなのだと思うのである。

これも復興から生まれるひとつのイノベーションだ。

 

続いて、ジェイラップ代表・伊藤俊彦さんからの報告。 

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341ほ場、約100ヘクタールの田んぼでの対策の実践とデータ取り。

一地域でこれだけのことをやった事例はない。

結果は、見事なものだ。

カリウムの効果が確かめられただけでなく、

伊藤さんはスウェーデンのデータまで引っ張ってきて、

森林への K(カリウム) 施肥の有効性まで説きだした。

「 森林へのK施肥は、植物および菌類への放射性 Cs 蓄積を低減するために

 適切かつ有効な長期的措置であることを示唆している。」

 

また、耕起、代掻き、田植えと通常作業を行なった水田土壌の

深度別の放射性物質の分布を調べ、いくつかの考察が示された。

それは来年の代掻き時での実験に応用される。

 

綿密な汚染データ・マップからも、次年度の対策が検証されている。

これはジェイラップ・稲作研究会だけのものでなく、

地域全体にとっての貴重な道しるべだ。

取り組んだ対策を、すべてデータとして残していくことで、さらに仮説が検証され、

しっかりとした放射能対策技術が築かれてゆく。

農水省の方へ。

税金食いながら、「注目してます」 とか言ってる場合じゃないだろ。

支援の方法を考えてもらいたい。

国と地方自治体と民間の連携を、もっと強化できないものか、と思うのだ。

 

各種のゼオライト資材を前に意見交換する河田さんと伊藤さん。

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脇でカメラを回しているのは、NHKさん。

収穫祭のときとまた違ったチームがやってきている。

 

測定室も見学する取材班。 

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集められた玄米サンプル。 

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現在、測定器は2台になった。 

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右の「 do 」シールが大地を守る会から、

そして左がカタログハウスさんからの提供 (貸し出し) 。

仲良く並んで、測定をバックアップしている。

データ取りは、まだまだ続くのである。

 

 

なお、大地を守る会のホームページでも、

この間の取り組みや伊藤さんからのメッセージがアップされていますので、

ぜひご参照ください。

 http://www.daichi-m.co.jp/info/news/2011/1107_3251.html 

 

機関誌 「NEWS だいちをまもる」 12月号もよかったら。

 http://www.daichi-m.co.jp/blog/report/pdf/1112.pdf

 

また、ウクライナでの取り組みについて詳しく知りたい方は、

『チェルノブイリの菜の花畑から ~放射能汚染下の地域振興~』

(河田昌東・藤井絢子編著、創森社刊、本体価格1,600円)

がおススメです。

福島原発事故を受けての解説もあり、

巻末に挿入された 「チェルノブイリから福島へのメッセージ」 からは、

国際連帯の大切さが伝わってきます。

 



2011年12月23日

厚生労働省・新基準案と、私たちの質問書

 

栃木・那須塩原から福島・須賀川に足を延ばして、

19日はジェイラップでの勉強会に参加。

そして昨日は長野県松本市の菅谷(すげのや)昭市長を訪ねてきた。

それらのレポートを続けるつもりだったのだけど、

その前に、お国の動きがあったので、その報告を急ぎ。

 

昨日、厚生労働省 「薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 放射性物質対策部会」

が開かれ、暫定基準に替わる新基準案が示され、了承された。

すでに報道されていた内容と同じだが、簡単に概略すれば、

食品による放射性セシウムの許容被ばく線量を、

暫定基準の 5 ミリシーベルトから 1 ミリシーベルトに引き下げ、

それを各食品群に振り分けた格好だ。

「一般食品」 については、年代や男女別で平均的な摂取量を導き出して、

その中で一番厳しい数値である 120 ベクレル

 (13~18歳の男...... 一番食べる量が多い年代ということらしい)

をもとに、さらに安全を見込んで 100 とした、ということである。

また干しシイタケやお茶などは、摂食する状態で 「一般食品」 基準を適用する。

新基準の実施は来年4月から。

 


一方、4団体で結成した 「食品と放射能問題共同テーブル」 では、

この日の審議会が設定される前、12月12日付で、

以下の質問書を厚生労働省に提出している。

(「公開質問状」 的な格好にならないよう、公表は控えていた。)

 

【質問事項】

1.新たな規制値での食品区分が 4 分類と報道されていますが、

  米など摂取量が多い食品や、水産物など汚染の拡がりに懸念があるものについては、

  区分を分ける必要があると考えますが、どのような検討がなされたのでしょうか?

2.規制値を設定する場合は、その規制値が守られていることを担保できるだけの

  検査体制の確立が必要と考えますが、いかがお考えでしょうか?

3.規制値を超過した場合、生産者等に対して補償する体制が必要になると考えますが、

  その賠償主体、およびどのような手続きと、

  どの程度の予算措置を想定しておられますか?

4.民間の検査能力を超えるストロンチウムやプルトニウム等の核種については、

  国が継続的にモニタリングする態勢を強化し、公表していく必要がある

  と考えますが、いかがお考えでしょうか?

  またヨウ素、セシウム以外の核種については、どのような検討がなされたのでしょうか。

5.新規制値は年間1ミリシーベルトを基礎とすると伝えられていますが、

  暫定規制値ではなく、恒久的規制値として設定を検討されているとすれば、

  内部被ばくだけでなく、外部被ばくの割り当ても考慮すべきであり、

  かつ ALARA 原則に従ってできるだけ低い値を設定すべきだと考えますが、

  いかがお考えでしょうか?

6.乾燥食品等については、摂食時の状態に換算すると伝えられていますが、

  同一食品であっても様々な戻し方は摂食方法があるものについて、

  どのような基準設定をお考えなのでしょうか?

 

今回示された新基準案は一歩前進とは言えるものの、

私たちが提出した疑問はまだ疑問のままである。

引き続き回答を求めてゆくとともに、

私たち 「共同テーブル」 においても、上記の質問事項は

基準を考える際に必要な視点だと認識しているところのもので、

専門家への聞き取りも含めて検討を進めているところである。

昨日、菅谷昭・松本市長を訪ねたのも、その一環だった。

菅谷さんは、1996年から5年半、ベラルーシ共和国で暮らし、

小児甲状腺ガンの医療活動を行なってきた医師である。

 

質問事項から、私たちが留意しようと思っていることを

読み取っていただけると嬉しい。

この基準は単純な数字の発表だけではすまない、

というのが 「共同テーブル」 の共通認識になってきている。

それだけに悩みも深まっているのだけど。

 

取り急ぎ報告まで。

 



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