戎谷徹也: 2011年2月アーカイブ

2011年2月25日

布施芳秋さん、安らかに

 

北海道空知郡中富良野町の生産者、

「どらごんふらい」 の副会長を務められた布施芳秋さんが、2月21日、永眠された。

享年62歳の若さだった。

 

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誠実を地で書くように、生きた人だった。

有機農業に邁進して、有機JAS制度ができた時には、

制度に疑問を持ちつつも、認証を取るかどうか真剣に考えられていた。

僕にとっては、大地を守る会の監査・認証システムをつくる上で、

意識した生産者の一人だった。

「どらごんふらい」 の監査を行なった際には、

「せっかくいい仕組みを考えてくれたんだから、大地を守る会の生産者として

ちゃんとやらなきゃいけない」 と、緊張しながら監査を受けてくれた。

僕らはこんな生産者に支えられているのだと思ったものだ。

 

このブログを始めたのは、2007年の6月。

最初に書いたのが、当地に入植した元大地職員、徳弘・藤田夫妻の元気な姿と、

布施さんが廃校になった小学校を改造してつくった 「ぬくもり庵」 の紹介だった。

消費者との交流に利用したい、滞在型の農業体験も受け入れたいと、

いっぱい夢を語っていた。

もしかしたらとても失礼な記事なんじゃないかと畏れたんだけど、

「こんなふうに書いてくれて嬉しいよ」 と、

布施さんは、開設したばかりの僕のブログをとても喜んでくれた。

 

ガンの手術をしたと聞かされたのは、そのしばらく後だったと思う。

術後の回復は順調で、元気になられたと思っていたのだが、

昨年の収穫が終わった秋ごろからまた体調を崩されていた。

 

昨年、その人望を買われて 「どらごんふらい」 の会長に就任した

徳弘くんからのメールには、こう書かれてあった。

 

  18日に病院へ行って言葉を交わしたのが最後でした。

  かなり病状が悪化し、話をするのも辛そうで、目もおそらく見えてない

  状態だったと思います。

  それでも、大地のみんなにくれぐれもよろしく、と言っていました。

  大地との出会いがなければ今の自分はなかった。

  今があるのは大地のおかげ。 大地には期待しているし、頑張ってほしい・・・と。

  「感謝」 という言葉を何度も口にしていました。

  最後までたくさん話をしてくれたのが、やっぱり布施さんらしかったなと思っています。 

 

布施芳秋。 その名の通り、芳しい秋を心に描きながら、北の大地に眠られた。 

どうか心安らかに。

富良野に行けば、またぬくもり庵で会えるよね。 

 



2011年2月24日

異常気象は現場で起きてるんだ~

 

 - というサブタイトルでいきたいんですけど・・・

 

「 2011だいちのわ 大地を守る東京集会

 大地を守る会のオーガニックフェスタ

実行委員、Oからの野望が語られた。

 

ふ~ん、別にオレはいいけど。 でも、こだわるわりにはパクリっぽいよね。

ハァ、まあそうなんですけど、これでいきたいんです・・・

 

2月27日(日)、今年の東京集会で僕に与えられた仕事は、

13時から17時まで連続的に展開される

「大地を守るカフェトーク」 のなかのプログラム -生産者が語る 『異常気象レポート』

という30分コーナーの司会である。

いつもこんな役回りで声がかかるのが気になるところだが。

 

トーク・コーナーを担当する実行委員のO君から提示されたサブタイトルがこれ。

~異常気象は会議室で起こってるんじゃない! 現場で起こってるんだ!~

気持ちは分かるけどね・・・

 

で、本番まで残すところ一週間となって、ようやくこちらも東京集会モードとなってきて、

バタバタとスライドの確認やイメージの整理に取り掛かってみれば、

改めて事の重大さをかみしめざるを得ない、という次第である。 

 

そもそも 「異常気象」 とは  - から頭の整理は始まるのだが、

昨今の世界の気象動向を振り返ってみるだけでも、

食糧供給の問題にとどまらず、こんにちのアラブの騒乱から原油の高騰にまで

つながっていることが浮き彫りになってくる。 

 

たとえば、これが気象庁データにある昨年1年間の世界の天候異変現象のMAPである。

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地球の反対側の現象が私たちの暮らしを直撃してくる。

グローバル時代の危うさを示している。

 


温暖化の真偽についてはまだ専門家の間で複雑な議論があるようだが、

地球の気温はこの数十年、上昇の一途にあることは間違いなく、

しかもそれが自然要因以外によることも間違いないようで、

それが気候変動を激しく、不確実なものにさせている。

これからさらに変動の振幅 (=自然災害の規模) は大きくなることが予想されている。

 

温暖化は食料の供給(&価格) を乱高下させる要因にもなっている。

動植物の単純な変調に留まらず、生態系そのものを不気味に狂わせつつある。

加えて、人口増加と耕地面積の減少、地力の低下、オイルピークの問題

などなども相まってきて、投機マネーまでが自己増殖を目的として侵入してくる。

食料はますますもって戦略物資と化してゆくことだろう。

人の動きも荒れてくる。 それは今、まさに起きている。

TPPなんて、とてもとても暴挙としか思えなくなる。

 

そして異常気象はますます頻繁に発生する。

それは、進行形として現場で起きているのである、たしかに。

 

去年の夏にレポートした、北海道中富良野・太田農園の玉ねぎ畑。

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去年の夏の出来事、ではすまないのかもしれない。 

写真を送ってくれた石山耕太さんに登場願うこととした。

もう一人お願いしたのは、鳥取県境港から岩田健二郎さん。

この冬の豪雪は尋常じゃなかった。

" 現場で起きた "  生の報告を聞いてもらおう。

 

たった30分でも、しっかり伝えたいと思う。

このブログを読んでくれている方には、お決まりの結論になると思うが。

いっそ、アル・ゴア (アメリカ元副大統領) の言葉を引用させてもらおうかな。

 

  未来世代が私たちにこう尋ねているところを想像してみてほしい。

  「 あなたたちは何を考えていたの?

   私たちの将来のことを心配してくれなかったの?

   自分のことしか考えていなかったから、地球環境の破壊を止められなかったの?

   ――止めようとしなかったの?」

  私たちの答えは、どのようなものになるのだろう。

                            ( 『不都合な真実』より/枝廣淳子訳 )

 

2011年2月27日、「大地を守る会のオーガニックフェスタ」。

どなたでもOK。 ぜひご来場ください。

 



2011年2月19日

15回目のあらばしり体験-大和川交流会

 

一週間の間が空いちゃったけど、アップしておきたい。 

お前はこの日のために生きているのか、と言われても否定しない、

年に一回の 「大和川交流会」。

大地を守る会オリジナル純米酒 「種蒔人」 の新酒絞りに合わせての

酒蔵での交流会である。

このお酒が造られた最初の年が1994年 (当時の銘柄名は 「夢醸(むじょう)」 )。

3年後の97年から、新酒完成を祝う交流会が欠かさず続いてきた。

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2月12日(土)、会津・喜多方にある 「飯豊(いいで)蔵」。

30年ぶりとも言われる豪雪に包まれながら、寒仕込みの真っ最中だ。

 

今年の交流会参加者一行は、挨拶もそこそこに、

発酵途上のお酒を試飲して回る。

純米吟醸、純米大吟醸、大吟醸・・・・これはあと10日、こっちはあと20日。

う~ん、たまりませんな、この至福。

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そして今まさに絞り中の 「種蒔人」 。

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絞りたて、荒ばしり(新ばしり、とも) ・・・を一献。

よし! 今年もいい酒になった。

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真剣な顔あり、「予は満足じゃ」 ふうあり。。。。

 

厳しい夏を乗り越えてくれた原料米・美山錦と、

飯豊連邦に育まれた水に、今年も感謝!

 

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 「種蒔人」 新酒が会員の前にお目見えするのは27日、

大地を守る東京集会-大地を守る会のオーガニックフェスタ2011-

懇親会の鏡開きにて。

どなた様もどうぞ奮ってご参加ください。

 

さあ、交流会へ。

 


昭和の時代まで、大和川酒造の酒づくりを支えた蔵。

今は「北方風土館」と名を変えて、見学蔵になっている。 

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当時のたたずまいを残し、酒造りの道具などが陳列されている。 

見学コースの最後にはテイスティングルームも用意されている。

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今年の交流会は、餅つきから。 

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9代目、佐藤弥右衛門さん。

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弥右衛門襲名なんて、時代がかっていると思ったもんでしたが、

名乗ってみるとその重さも感じてきましてね。

地域の文化や伝統を守ろうと走り回っていた先代の遺志も

ボチボチと継いでいかなきゃって、ま、色々やってます。

 

原料米生産者、ジェイラップ代表・伊藤俊彦さん。

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ずっと食べ続け、飲み続けてくれる消費者のお陰で、私たちも進化して今日があります。

昨年は本当に厳しい米づくりでしたが、そのぶん強い米に育ったと思います。

よくぞ頑張ったと褒めてやりたい。

いい酒に仕上がって、今年の感動はひとしおです。

 

乾杯の音頭は、「稲田稲作研究会」 会長、渡辺義勝さん。 

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あとはもう、解説なし。 

会津料理に舌鼓を打ちながら、

できたばかりの種蒔人に大和川自慢の清酒の数々をいただく。

なんと鑑評会出品作品まで登場して、場はどんどん盛り上がる。

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毎年書いているような気がするが、

いつの年だったか、参加者が漏らしたひと言

「この交流会は、まるでこの世の天国!」 を、今年もまた実感いただけたようで、

主催者としては望外の喜びである。

 

交流会後も、熱塩加納村の宿で、深夜まで語り明かす。

空いた一升瓶が、、、ウン本。

 

朝の青空がまぶしい。

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大和川交流会が終われば、鏡開きまで2週間。

モードは一気に東京集会となる。

 



2011年2月 5日

どこよりも美しいフクシマに

 

2月3日(木)、今年の産地新年会ロードも最終回となる。

福島県下生産者合同での新年会。

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福島県の合同新年会は初めての開催である。

浜通り・中通りから豪雪の会津まで、10の生産者グループ+1メーカーが

磐梯熱海温泉に集う。

 

第一回の幹事を引き受けてくれたのは、

福島市の米の一大生産団体 「やまろく米出荷協議会」 さん。 

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挨拶される会長の加藤和雄さん。 

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やまろく米出荷協議会も、大地さんとお付き合いするなかで、

ただ農薬を減らすだけでなく、環境全体に配慮した農業を考えるまでになってきた。

こうして福島県内の生産者が一堂に会して横のつながりができることは、実に喜ばしい。

そんな思いで幹事を引き受けさせていただいた次第です。

ちょうど福島の真ん中でもあり、私たち自慢の温泉でもある磐梯熱海で

会場を設定させていただきました。

いい湯にも浸かってもらって、有意義な交流になりますよう。

・・・ なかなか心憎い配慮。

 

一回目ということもあって、ゲストは用意せず、

藤田会長の話をしっかりやってもらって、参加者の自己紹介に時間を取った。

写真のチョイスに気を使うのも面倒なので、ちょっと長いけど、

以下、福島を担う生産者リレートークで、どうぞ!

 


トップバッターは若者から。

喜多方市山都町・「あいづ耕人会たべらんしょ」 の小川未明(みはる) さん。  

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新規就農者や研修生たちの野菜セットを出すようになって3年。

主要メンバーは5人。 野菜セット自体はまだ少ないけど、若者たちにとっては

貴重な共同作業であり情報交換の場になっている。

新規就農者も少しずつ増えてきて、地域とのつながりも深まっている。

今年はとにかく雪が多く、新しく建てた小屋が押し潰されそうです。

お父さんは昨年、山崎農業賞を受賞 された光さん。

山都の畑は息子に託して、耕作を頼まれた西会津の農地に出張っているようである。

 

次は、福島では最も古くからのお付き合いである 「福島わかば会」。

新しく会長になられた丹治昭治さんが代表挨拶。

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現在のメンバーは33名。

きゅうり栽培では名人と謳われた故・佐藤円冶さん (元大地を守る会理事)

によって結成されて30余年。 円冶さんの栽培技術は島本微生物農法という。

丹治さんはその伝統を継承すべく頑張っている。

「より美味しくて安全な野菜づくり」 をモットーに、

県下ではいち早くトマトのホルモン処理をやめてハチを導入した。

きゅうりでは10年前から天敵の活用に取り組んでいる。

 

福島有機倶楽部の阿部拓(ひらく) さん。

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浜通りのいわき市から双葉町にまたがる5軒の農家で、3年前に設立した。

すべて有機JASを取得し、パプリカ・春菊・そら豆などを栽培する。

農業技術はまだまだと謙遜しつつ、研修生を育てて独立させていきたいと抱負を語る。

大地を守る会と付き合って有り難いと思うことは、有機農業推進室という部署があって、

いろんな貴重な情報をもらえることだ、なんて嬉しいことを言ってくれる。

 

続いて、二本松有機農業研究会。

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メンバーは13人ほどだが、研究会の歴史は35年。

「大地さんと一緒です。 日本有機農業研究会の大会でよくお会いしましたね。」

メンバーの方と個人的なお付き合いがあったが、会との取引に発展したのは昨年から。

10年前から有機JASを取得し、

きゅうり・なす・いんげん・山菜・縮みホウレンソウなどを栽培する。

 

二本松からもう一組、羽山園芸組合さん。 

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4名の構成員によるリンゴの生産グループ。

定期的に土壌分析をして、パソコンを使って施肥設計をする。

ミネラルと良質の堆肥が基本。

いま特に注目して活用しているのは、竹コプター!

じゃなくて、竹パウダー(竹を粉にして綿菓子のようにしたもの)。

土壌微生物の棲み家になり、土壌病害を防いでくれる力がある。

外観より味を重視し、完熟での収穫を心がけ、葉摘みを控えて糖度を上げる。

地域に合う品種の研究にも余念がない。

 

山都町の米の生産者、鈴木恒雄さん。 

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有機で10町歩の田んぼを耕す。 雪室貯蔵のコシヒカリ。

「農産物とは農の技術で生み出される未来への資源です。 農業にはポリシーが必要です。」

 - 哲学者のようだ。

TPPにひと言。

「昭和37(1962)年、自由化で最初に打撃を被ったのは林業 (木材の自由化) でした。

 今の山の荒廃はそこから始まったことを、私は今も忘れないです。」

 

改めて、やまろく米出荷協議会。

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会員はなんと115名(大地を守る会に登録された生産者会員は35名)。

有機はまだ少ないが、全体で農薬の削減を進めている。

慣行栽培の人たちを包容力で変えていくような優しさを感じさせる団体。

全体の食味も上がっている。 先日も報告した通り、岩井清さん(写真左から二人目) は

有機のコシヒカリで金賞を受賞した一生懸命の人である。

マイクを持っているのは安斉正代さん。 冬水田んぼに取り組んでいる。

 

中通りは須賀川から、ジェイラップ登場。 8名で参加。

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稲田コシヒカリの取引から始まって、17年にわたる備蓄米の取り組み、

清酒「種蒔人」 や 「大地の料理酒」 の原料米栽培、そして 「はたまるプロジェクト」 と、

関係性は着実に進化してきた。

「大地の農産物から海産物まで、すべて活かして、自給率を上げて見せたいです。」

専務の関根政一さんから力強い抱負が述べられた。

乾燥野菜の新工場は3月15日に完成予定である。

 

ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会 (旧東和町、現二本松市) から、

事務局の斎藤知子さんが参加。 

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「道の駅 ふくしま東和」 を運営しながら、地域おこしや産直事業を展開している。

直売所は二本松市内産のものだけで売り場を作っているという。

こういう人たちがいることで、地域は活き活きしてくる。

 

最後に、大和川酒造店さん(喜多方市)。

加工メーカーを代表して参加をお願いした。 

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寛政2年創業、今年で221年目の酒造りに入っている。

社長は4年前に9代目・佐藤弥右衛門を襲名した。

地元の米や風土にこだわり続けるのが地酒屋の哲学。

身土不二こそ大事、地域の食文化を守っていきたいと、

農業生産法人を設立して、自分たちで蕎麦や各種の酒米を栽培し、

農産加工部門も立ち上げた。

 

農業生産に加工の受け皿がつながり、また地域おこしに取り組む人も加わってきて、

いよいよ福島ネットワークが強力になってきた。

県のキャッチフレーズに  " うつくしま福島 "  というのがあったが、

コピーだけじゃない、どこよりも美しい福島を、みんなの手で築いていこうじゃないか。

 - と気炎を上げる。

 

2011年新年会シリーズの最後にはこれを歌ってやると、

実は仕込んでいた曲があったのだが、つい話し込んで歌いそびれてしまった。

ジュリー(沢田研二) の、「我が窮状」ってやつ。

しょうがないので、温泉につかって一人口ずさんで、終わりにした。

 

  麗しの国 日本に生まれ 誇りも感じているが

  忌まわしい時代に 遡るのは 賢明じゃない ~

  

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          (長野県佐久市、JA佐久浅間臼田有機米部会代表、

                        川妻千将さんの昨年の田んぼ)

 

  英霊の涙に変えて 授かった宝だ

  この窮状 救うために 声なき声よ 集え

  我が窮状 守りきれたら 残す未来 輝くよ 

 

みんなで、どこよりも美しいふるさとを残すために、つながり、競おう。

それが僕らのたたかいでもある。

 



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