戎谷徹也: 2012年6月アーカイブ

2012年6月 5日

田んぼは草と格闘の季節

 

麦秋の季節。 

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一方、田んぼは緑一色。

田植えから3週間が経ち、草との生存競争が始まっている。 

 

森も含めて、20数年変わらない風景。

それは人の手入れが欠かさず続いている証拠だ。

まだまだニッポンは、美しい。

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米は輸入できても、風景や環境は輸入できない。

もちろん田んぼという装置も。

これは夕方のTPPトークでも用意しているキーワードでもある。

 

6月3日、日曜日。

「稲作体験 2012」 の米づくりも、段々と佳境に入ってくる。

草との格闘、米づくりの最大のハードルである。

 


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地主の佐藤秀雄さんがデモっているのが、伝統の「田車」(たぐるま)。

ゴロゴロ押しながら草を根っこから浮かせていく。

 

田に水を蓄えるのは、稲が水を要求する湿性の植物だからだけど、

水を張ることによって陸生植物 (表面が乾燥状態にある陸地に生える草) の発生を防ぎ、

また草を抜きやすくしてくれるメリットがある。

実は草取りを楽にするためでもあるのだ。

水とは、ほんまに有り難い。

 

いつも指導にあたってくれる綿貫直樹さんが今回用意したのは、熊手。 

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直樹さんは地元小学校の米づくり体験にも田んぼを解放していて、

そこでも使っているとのこと。

 

では、いざ。 

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人がワイワイ言いながら田に入ることで、根に酸素が送られ、

稲も元気になる。

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みんなの会話は理解できなくても、イネは気を感じ取っている。

科学的には立証されてないけど、これは農の世界では真実である。

冷害のときは 「頑張って」 と励まして回る篤農家を、僕は知っている。

それは伝統技術なのである。

 

たくさんの虫たちとも出会い、田んぼの総合力の一面を感じ取ってもらう。

米づくりを通じて、メンタリティも育まれる。

 

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みんな見過ごしている害虫がいる。 

稲はこの時期、ドロオイムシに散々チューチュー吸われているのだ。

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有機稲作では農薬は使わない。

こいつは梅雨が明ければいなくなる。

それまで負けないだけの苗にしたはずだ。

「我慢」 の季節でもある。

 

作業終了後の、お昼と交流のひと時。

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皆様、お疲れ様でした。

 

佐藤つや子さんが用意してくれた、本日のメニュー。

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陶ハカセの生き物講座が始まる前に、

あとは実行委員諸君に任せて、渋谷に向かうこととする。

 

次回は4週後に2回目の草取り。

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イネは草や害虫とたたかいながら成長し、株を増やしていく。

しかも人の手作業だと、虫も草も適度に生き残る。

けっして一網打尽にはできない。

でも無農薬の田んぼにはいろんな生き物がやってきて、害虫は益虫の餌になり、

" この世に無用な生き物はいない "  世界が生まれる。

前にも書いたけど、僕は有機農業を 「平和の思想」 と呼んでいる。

この思想は、お金に換算できない。

だってこれは、命と同義だから。

 

この米づくりはもちろんプロの作業ではない。

でも田んぼの価値を伝えるには、田んぼに入って、

田の世界を体感してもらうのが一番なんだよね。

頭で理解しなくても、無意識の記憶の中に 「いのち」 への愛が生まれるのが、

草取りのシーズンだと思う。

 

今夜はマイクに口を近づけ過ぎないようにしなければ・・・

 



2012年6月 4日

「放射能連続講座」スタート。 壁を見せつけられた第1回。

 

この土日(2日・3日) は結構ハードな週末だった。 

2日は、「放射能連続講座」 第1回の開催。

3日は午前中、千葉・山武で 「稲作体験」 田の草取りをやって、

夕方には渋谷・アップリンクで 「フード・インク」 上映後のトーク出演。 テーマはTPP。

頭を切り替えながら、何とかやり終えたって感じ。

では順次報告を。

 

6月2日(土)、

「大地を守る会の 放射能連続講座 ~『食品と放射能:毎日の安心のために』~」

第1回のテーマは、まずは入り口として、

「今後の影響をどう予測し、どう心構えをするか」。

講師は、NPO法人市民科学研究室・代表、上田昌文(あきふみ)さん。

質疑のコーディネーターは、 " やまけん "  こと山本謙治さんにお願いした。

会場は、杉並区立産業商工会館。

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会場キャパは160席のところ予約満杯となり、椅子の増設も許されず、

お断りせざるを得なかった方々には申し訳ありません。

 


上田さんのお話しは、

原発事故による放射能汚染によってもたらされた事態の重さから始まった。

放射能汚染によって地域の自然資源が利用できなくなったこと、

畜産と農業の連携で廃棄物=資源とする  " 循環 "  を断ち切ってしまったこと、

そして地域社会の絆の分断。

 

かつてないほど広範囲で長期の環境汚染によって、

ありとあらゆる食品が多少なりとも汚染されてしまった。

この実態をどう把握し、生産者の立ち直りと消費者の安全を確保するか。

しかも消費者にとっての守りの綱である 「食品基準」 自体に

深い疑義が生まれてしまっている状況において。

 

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汚染の実態や放射性物質の挙動の 「把握」 と 「対策」 を

適切に関連させながら並行して進めていく必要がある。

様々な測定データを集め考察しながら、問題点を洗い出し、

低減化対策に活用し、また検査の実態や課題も冷静に判断しながら、

個々の農産物の計測の濃淡を合理的につけて、

それを消費者にきちんと知らせていくことによって

「風評被害」 と言われるような事態を乗り越える道筋が見えるのではないだろうか。

 

リスク管理の観点で見るならば、例えば発がんを恐れるあまり、

セシウムだけゼロを求めて他のリスク因子を摂り入れては意味がなくなる。

リスク因子は多様にある。

しかし今の放射能汚染が、他の化学物質や例えば「塩」(ゼロでも摂り過ぎても危険)

などのリスクと決定的に異なることは、

状況が正確に見えず、したがって 「危険度」 も見えない、

という不安が先行していること。

また低線量曝露の影響についての科学的見地が分かれていることもあって、

「曝露ゼロ」 が 「安全」 を確保する唯一明確な防護手段だととらえられてしまう

傾向になってしまうこと。

 

上田さんは、各種のデータを紹介しながら、

まずはこの間出されている測定データや、農地での低減化対策を検証し、

今の状況をできるだけ正確に把握することを勧める。

その上で、汚染食品の内部被曝リスクの低減化に向けての課題を上げる。

・汚染状況と流通状況に応じた 「低減化のためのガイドライン」 が必要。

・合理的な計測体制 -やみくもな測定から、状況を踏まえた選択と集中へ。

・給食への特別な対応 -地域内の学校同士のデータ共有など。

・妊婦と乳幼児のための厳しめの摂取制限の設定。

・海産物検査態勢の強化 (ストロンチウム含め) と全データの公開。

・内部被曝評価では、「平均」 で見るのではなく、例外的に高くなっている場合の究明が肝心。

 

「風評被害」 的状況を乗り越える取り組みでは、

とにかく、個々の食品の計測によって汚染の濃淡を合理的につけていき、

それを消費者にきちんと知らせていくこと、

そして生産者や消費者といつでも対話できる状態を築くこと。

 

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時々裏方にいたりしたので、断片的な整理でご容赦願いたい。

詳しくは USTREAM の録画 をアップしてますのでご覧ください。

 

後半は、やまけん にバトンタッチ。

大地を守る会の測定の現状なども説明する必要があるのでは、

という彼のアドバイスも受けて僕も壇上に上がり、上田さんと3人でのディスカッション、

そして質疑応答、と進めた。

 

しかし僕が登壇したことで、 上田さんの講演内容に対してより、

大地を守る会への質問が増えてしまったように思う。

僕も必死で答えようとして、話が長くなってしまったりして。

また説明しようとすればするほど、

こちらの考えを押し付けようとしていると受け止めた方もいたようだ。

コミュニケーションとは、実に難しい。 

 

今回はネットで中継して、ツイッター等で視聴者からの声を拾う、という手法も試みた。

そこで仕掛け的に、ひとつの同じ質問を冒頭と最後に用意した。 

 「検査して、ND(検出限界値以下)が確かめられたものであれば、

 福島県産の野菜を購入しますか? YES、NOでお願いします。」

講座開始冒頭での回答は、両者互角、 5:5 という感じ。

最後での回答は、YES=5.5、NO=4.5 、いやもっと僅差、10:9 という感じ。

放射能という問題の根の深さを思い知らされた格好になった。

 

ツイッターでこんな声が届いた。

「 " 食べられない "  という人を、責めないでほしい」

責めてなんかいない。

ただ、頑張っている生産者を支援してほしい、と訴えているのだけど、

これも押しつけのように聞こえてしまっているのだろうか。

難しい、いや実に。

 

つながりの修復を目指して、模索を続けたい。

次回は、7月7日(土)、時間は同じ午後1時半から。

場所はタワーホール船堀。

講師は白石久二雄さん。 コーディネーターは鈴木菜央さん。

テーマは、「正しい食事こそ最大の防護」 。

詳細はHPにて ⇒ http://www.daichi-m.co.jp/cp/renzokukouza/

 

最後に、アンケートの中に、次の一文を発見。

「戎谷氏、マイクに口近づけ過ぎ。」

つい一生懸命になっちゃう性(さが)。 反省・・・・・

 



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