産地情報: 2007年8月アーカイブ
2007年8月27日
平沢さんのスタークリムソン
長野県松川町の平沢充人さんから、「スタークリムソン」という名の、珍しい洋ナシが届く。
まだわずかしか収穫がないので販売には回らないが、これから増えてくれば、数年後には注文書にもお目見えするかもしれない。
少しずつ穫れるようになってきたよ、という便りである。
特徴は何と言ってもこのワインをさらに濃くしたような皮の赤か。
この色を「クリムソン・レッド」というのだそうだ。
でも果肉は白く、ジューシーで、甘さの中にさわやかな酸味が混じる。
りんごにも同じ名で呼ばれる品種があるようだが、
りんごの場合は「スタークリムソン・デリシャス(Starkrimson delicious)」が正式名。
こちらの英名は「Star crimson pear」。微妙にスペルも違う。
専門家の間では「スタークリムソン」と言えば、洋ナシの方を指すとのこと。
食べ頃になるまで、どれくらいだろうか。
しばらくの間机の上において、眺めていよう。
気難しそうに見えて優しい、ちょっとインテリッぽくも見える平沢さんの顔など
思い出しながら。
これはちょっと珍しい、無理して笑顔を作ってくれた平沢さん。
4年前のワンショット。
平沢さんとは大地創設期時代からの長~い付き合いだ。
当初はお一人だったが、今は仲間4人で「赤石果樹出荷組合」を運営する。
でもここ3年、平沢さんからの出荷はない。
4年前に道路建設にかかって園地を切り替えることになってしまったのだ。
ちょうど今週配布の会員向けカタログ『PROCESS』で、
「梨作りのベテラン、赤石果樹出荷組合の4人衆」 が紹介されているのだけど、
キャプションには「平沢さんからの出荷はありません」と書かれている。
ちょっと寂しい......
でも目の前の色鮮やかな洋ナシが、そんな気分も帳消しにしてくれる。
平沢さんは元気で、新しい品種の栽培に取り組んでいるのだ。
体に気をつけて、暑い夏を乗り切ってほしい。
そういえば今年いただいた年賀状には、
息子さんに家督を譲ることにしたと書いてあった。
「さみしいけれど、バトンタッチができてよかったなぁ、と思っています」
いやいや、家督は譲っても、けっして果樹栽培への情熱は衰えていない。
今年の年賀状の写真。
好きなカメラをいつも離さず、伊那の風景を撮り続ける平沢さん。
深紅の実の成った樹は、どんなアングルで撮ったんだろう。
2007年8月23日
猛暑の影響は続く
数日前より、ここ千葉でも夜にはコオロギの声が聞かれ始め、
少しは過ごしやすさも感じられるようになってきたけれど、
農産物は、引き続き猛暑の影響下にある。
毎週火曜日に産地担当(生産グループ農産チームの面々)がまとめる
畑の状況報告がある。
文書名は-『産地担当報告』。
何の工夫もない、いや失礼、誰も気に留めず、まったく飽きのこない、
空気のような名前がいい。
有機農業推進室が出している『今月のお知らせ』といい、大地は飾らない人が多い。
ま、そんなことはどうでもいいとして、各地の様子が短いコメントで並んでいる。
今週は、こんな感じである-
●長有研(長崎)・アスパラ......高温により発芽悪く、生育が落ちてきている。
●かごしま有機・里芋......干ばつ続き、収量少ない。
●北軽井沢有機(群馬)・トウモロコシ......先週の猛暑でしなびが発生。続くかも。
●千葉畑の会・カラーピーマン......猛暑でヤケ(焼け)、品質悪化。来週は出荷を休む。
●大西(長野)・きゅうり......朝3時から収穫しているが、それでもしなびが発生する。日曜に雨が降ったので、状況改善につながればいいが-。
●山梨・巨峰......高温で酸抜けが遅い。
●原(長野)・りんご......「さんさ」が猛暑高温で予想より早く熟したものがある。ヤケも一部で発生。
●有坂(長野)・大根、キャベツ......雨は降ったが、まだ太らない。もうひと雨ほしい。
●青野(長野)・大根、キャベツ、レタス......先週と日曜に降雨。息を吹き返して一気に出荷希望増。
●高野(北海道)・トウモロコシ、かぼちゃ......先日までの雨で水はたっぷり。先週末の暑さも問題なし。
●畑人村(沖縄)・ハンダマ......雨続きで状態悪く、一ヶ月ほど休む。
●今(北海道)・ホウレンソウ......暑さで枯れてしまうもの多数。
●堀田義明(茨城)・人参、里芋......人参発芽悪し。潅水しているが、まったく追いつかない。/p>
●瀬山(埼玉)・人参、ブロッコリィ......播種したものの、降雨不足で発芽悪し。
この報告後、恵みの雨もあったりして、
多少は持ち直してきたところもあるようだが、厳しい状況はまだ暫くは続くだろう。
順調そうなのも拾っておこうか。こんなのしかないけど。
●わかば会(福島)・梨......「もうなんぼでもあっから!」
いやこれは順調というより、もっと注文よこせ、というプレッシャーと読むべきであろう。
こんなのもある。
●山崎(長野)・トウモロコシ......猿が迫ってきている。早めに取ってくれ。
新手の出荷圧力か・・・。 いや、山ちゃん、本当に猿に囲まれているらしい。
●阪本(東京)・葉物......予冷庫が壊れた。川里さん宅に持ち込み冷蔵保管。
ああ、この暑い中で。 啓一さんの頭から湯気が立っている姿を想像する。
米では、
九州の早場米産地の不作がかなり深刻なようだ。
こちらは猛暑ではなく、7月の長雨・日照不足と台風の影響である。
一方、これから収穫に向かうところでは、米の高温障害の注意報が各地で出されている。
こういう年は、収穫量としては '豊作' と報道されるが、品質的には厳しい。
量と質の両方から '価格下げ要求' が起きる可能性がある。
米の市況も、波乱含みの様相である。
今週発売のある週刊誌は、温暖化でコシヒカリが全滅する日が来る、と煽っている。
猛暑のさ中に発表された食糧自給率は、とうとう40%を割って、39%となった。
危機感もゆだりそうである。
2007年8月22日
追録(Ⅱ)-台風がくれた財産
昨日は中途半端に閉じてしまった。
ガス欠というより、休暇明けの残業に土日の青森出張もあり、ちょっと息切れした感じ。
失礼しました。
昨日の日記で書きとどめておきたかったこと。
新農研が30年を経て、周りも羨むほどに後継者が育ってきた土台には、
一戸さんたち創設メンバーの悲喜こもごもの苦労や失敗の歴史があるわけだが、
それを支えた根性や意地みたいなものは、
かなり地域の風土や文化によって育くまれてきた個性を有していて、
同時にその風土への誇りのようなものが、いつも背中から滲み出ていたのだろう。
これはきっと大事な "精神" なのだ。
そんなことを、世界一の扇ねぷたに重ねて思ったのである。
生き方や技術に嘘があっては後継者はついてこない。
『後継者を育てた津軽魂 -新農研の伝統とスピリッツは、受け継がれている。』
私の個人的な監査報告として追記しておきたいと思う。
農作業日誌に記されることはない、作物より前に生産者を育てる土台技術として。
そしてもうひとつ、書き残しておきたいこと。
台風がくれた財産があった、のである。
思い起こせば3年前(04年)、青森は5つもの台風の影響を受けた。
特に9月8日に襲った18号は、県内全域でりんごを落として行った。
この台風は全国的に被害をもたらし、
大地では見舞金のカンパを募って、各地の生産者に届けた。
新農研は、その見舞金を使って、
りんご農家用に独自の工夫をこらした作業日誌を作成して、メンバーに配ったのである。
今回の監査で、それが自分たちの営農を証明するものとして認められた。
消費者からの3年前の見舞金が、
生産者の日常的な道具となって今も生きていることが確認されたのだ。
「金額がどうのではなくて、消費者からの気持ちが嬉しかった。
とにかく何かに生かさないといけないと思って、みんなで考えたんよ」 と語る一戸さん。
生産者と消費者の気持ちが、農作業日誌でつながっている。
監査されるのはそこに書かれた内容だが、
私にはこの日誌の存在自体が、この組織を語るものであった。
日誌の秘話は、自然と1991年(平成3年)の台風19号の話題へとつながる。
16年にもなるか。
収穫直前の青森を直撃した大型の台風は、りんごの樹をなぎ倒した。
使えるりんごはすぐにフルーツバスケットに運ばれ、ジュースやジャムになった。
それに、『台風に負けないぞ!セット』ってのがあったね。
あの時は、もうカンパでしのげるような話ではなかった。
被害の大きかった産地に上記のセットを作ってもらって、
消費者に1口5千円で買ってもらおう。
中身は、お任せである。
'何も売るものがない'という産地には、
「手づくりの農産加工品でも民芸品でも、何でもいい。何もなければ手紙だけでもいい。
とにかく消費者に'負けない'気持ちを伝えて欲しい」
「何でもいい、と言われたら、逆になんでもよいとはいかなくなるじゃない。
みんなで気持ち込めてジュースやら落ちたりんごやら詰めたな...」
「有り難かったな。ほんとに。
農業やめる人や、何年分もの借金を抱える羽目になった人がいる中で、
何とかその年をしのげたんだから」
りんご栽培はすべて先行投資である。
お金と労力をかけて育て上げ、秋の収穫で一年分を獲る。
それが収穫を目の前にして......
監査がいっとき、思わぬ思い出話となる。
これも日誌が与えてくれた時間である。
忘れてはいけないことだ。
記録のトレーサビリティの奥にある、土台の思想を作り上げるものを。
2007年8月21日
新農研の監査報告-追録
新農研の監査同行の出張で、僕は二つのことを教えられた。
監査の趣旨には関係ない話だけど、忘れないでおきたいと思う。
認証機関から後日提出される監査報告に付けるとすれば、
これはただの感傷的な「余禄」でしかないが、
僕の重要な価値基準に、つまり琴線に触れたこととして、
ここではあえて「監査-追録」とさせてほしい。
ひとつは、
監査を終え、青森空港まで送ってくれるという車に乗ってすぐ、
新農研代表・一戸寿昭さんが、「ちょっと見てってよ」と車を止めて見せてくれたもの。
これがウチ(旧平賀町)の「世界一の扇ねぷた」なんよ。
たしかに世界一巨大な「扇ねぷた」らしい
(個人的には図柄の素晴らしさに惚れたが・・)。
しかし、「ねぷた」はこの地方のものでしかないわけだから、
「世界一ってなんよ」ってなもんだろうが、一戸代表の自慢がふるっている。
青森の'ねぶた(NEBUTA)'は、'ねぷた(NEPUTA)'が訛(なま)ったもんよ。
発祥はこっちなんよ。
しかもですよ。弘前の'ねぷた(NEPUTA)'とも違うんよ。
弘前はなんか、決められたマニュアル通りにやってる祭りだけど、
ウチは年々若いもんが、リズムを変えたりしながら楽しんで発展してるのよ。
祭りって、そういうもんでない?
一生懸命標準語(に近い言葉)で喋ってくれるときの一戸さんの抑揚は独特である。
この人は、暑苦しいくらいに、地域に誇りを持ってる。
であるゆえに、改革派でありたいと強く意識している。
新農研のメンバーは30人弱。そこに20代の若者が12人、後継者として育っている。
彼にとって後継者とは、地域の文化をつなぐ者たちである。
「新農研」30年の苦労と誇りが、世界一の扇NEPUTAに重なっている。
津軽モンの偏屈さを自嘲気味に語る一戸さんである。
農業の生き生きとした発展は、理論だけでは創造できない。
その地域の、土の匂いのようなものを伝える先人とのつながりが必要なのだ。
オレは太宰より葛西善蔵だな、と語る津軽モンの一戸さんに、
僕は、腹の中で団扇を扇ぎながら、秘かに14日の日記を恥じた。
もうひとつは、もっと大切なことだ。
..................
すみません。ガス欠です。明日に続く。
2007年8月20日
大地農産物の現地監査-青森編
8月19-20日
青森・新農業研究会(平川市/以下、新農研)にて、農産物の現地監査が実施された。
これは大地に出荷される農産物がすべて大地の生産基準に合致していることを、
第三者認証機関の監査によって確認する作業で、
5年前から毎年いくつかの産地が認証機関から指定され、監査を受ける仕組みである。
今回その指名を受けたのが新農研。
29名の生産者の中から、りんご、米、野菜それぞれで生産者がサンプリングされ、
有機JASの検査員によって監査される。
りんごの生産者・外川春雄さんの圃場(畑)での監査風景。
手前のお二人が、認証機関の方と検査員である。
向こうにいるのが、就農して3年目の後継者・順春(よしはる)さん。
次に来た時は、君が説明して回るように。
さて、写真の順番が逆になったが、
監査は、まずは事務所(事務局)の管理状況の確認から始められる。
組織概要から大地との契約書類関係の保管状況、そしてメンバーの管理記録が
順次チェックされていく。
(オーガニック検査員の針生展彰さん。手前は認証機関・アファス認証センター代表の渡邊義明さん)
生産者個々の栽培記録や、農薬・肥料の管理について、
大地との各種やり取りの記録、会内部での運営記録、入出荷の伝票類チェック、
そして倉庫の確認、などなど。
次にサンプリングされた生産者を巡回する。
生産者の自宅でも、同様の確認作業が繰り返される。
「大地の生産基準はお持ちですか?」
「あなたの栽培記録はどんなふうに管理されてますか?」
-栽培の計画書から実績まで。その裏づけとなる作業日誌まで確認される。
農薬の使用がある場合は、その購入伝票から使用量、在庫までがトレースされる。
生産者は「監査」と聞いただけで、緊張の面持ちである。
でもしっかりと保管された記録が出てきた時に、ホ~と胸をなでおろすのは、
実は立会う事務局の方である。
現場では、初歩的なことも聞いたりしながら、
検査官が見ているのは生産者の姿勢とか考え方だったりする。
(右が小枝均さん。青森県の農林水産部の職員-技術指導員でもある)
また最近では、周辺圃場からの農薬の影響が必ず聞かれる。
お隣が慣行圃場(一般栽培)の場合は特に。
しかしこればっかりは、現状では100%防ぐことはできない。
これは有機や減農薬がまだ少数派である限り、どうしようもない現実であり、
有機農業の考え方や技術が広がっていかないと、根本的には解決できない課題である。
そのためにこそ「有機農業推進法」があるのだが、
高齢化が進む中では手間をかけた農業は敬遠され、
また経営リスクも考えたりして、生産現場はそう簡単には変われない。
水田では、取水と排水の区別など水まわりもチェックの対象である。
(右が生産者・今井正一さん。新農研の事務局担当も兼ねる。)
とりあえず周辺環境からの影響は、今後の課題として認識するとして、
(この'課題として認識している'ことが大事
-これは大地の基準における「基本姿勢」であるからして)
今回の監査目的である生産(栽培)行為については特に問題点は認められず、
若干の記録の改善が指摘されたレベルで終了した。
無事監査終了で、生産者も安堵し、僕もホッと一息。
この作業の積み重ねが、大地への信頼を担保するものにつながる。
生産者は意外と(失礼!)よく承知していて、
しっかり管理されていることに感謝しつつ、
夕方には少し涼しい風も吹いてくれた青森をあとにする。
2007年8月19日
林檎が火傷する夏
志朗くんが
「りんごが焼け始めている」
と電話をくれた翌日(18日)。
朝5時に起き、一番の飛行機で青森に向かう。
用務は、りんごや米・野菜を作ってくれている新農業研究会(以下、新農研)の監査である。
大地の生産基準通りに栽培されているか、認証機関の確認に立ち会うの仕事。
でも監査の報告より、こっちを先に伝えたいと思う。
"焼けるりんご"は、青森でも進んでいた。
これが、りんごの高温障害。火傷(やけど)が進行した跡の姿である。
気温が34℃を超えた日が三日以上続いて、発生し始めたそうだ。
素人目には、まだぽつぽつとしか出てないようなのだが、
新農研の事務局を担当する今井正一さんが、冷静に数えている。
彼はりんごと米の生産者でもある。
一本の樹に成らせた実の一割が火傷している。
最初はこのように、焼けて色が落ちる。
ここから腐ってゆく。
気温だけで一割の減収。
サラリーマンの僕はセコい計算をする。
生産者にとっては、毎年何がしかの影響を受けるのは当たり前のことなのか、
あるいは経験則による希望なのか、
「これから普通の気温に戻ってくれて、台風の直撃さえなければ」
とか、色々なプラスマイナスを頭に入れて話してくれる。
我々(検査官と大地職員)を前にして、
生産者は豪気に笑い、流通者(私)は溜息で付き合う。
しかし・・
年々読めなくなる気候変動が生産現場に底知れぬ不安を落としていることは間違いない。
青森の林檎が焼けた・・・・・2007年夏の記憶として残しておこうと思う。
お互い、本当の勝負はこれから、ではあるが。