産地情報: 2007年11月アーカイブ

2007年11月25日

宮城・雁とエコのツアー

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夜明け前です。


気温は0℃。雲は低く覆っていて、底冷えのする朝6時。

 

まだ弱い薄明の湿原一帯に、何種類もの鳥の声がざわめいている。

グァグァとカモの類、コォーコォーと高いのはハクチョウ、

中でも多いのがガァンガァンと鳴くやつ。雁(ガン)だ。

 

突然、湿原の奥から、ものすごい数の雁が一斉に舞い上がって、空の色を変えた。

あっちからもこっちからも、呼応して飛び立ってくる。

 

写真が上手く撮れなくて悔しいが、

上空に筋雲のように映っているのが、すべて雁である。

 

ここは宮城県大崎市(旧田尻町)、蕪栗沼(かぶくりぬま)。

11月24日(土)、我々 『宮城・雁ツアー』 一行20名は、朝5時に起き、

ここで雁が飛び立つ様を見に来たのだった。 


案内してくれたのは、この地で有機米を栽培する千葉孝志(こうし)さん。

 

渡り鳥の貴重な飛来地、休息地であり餌場として、

一昨年11月、蕪栗沼と周辺の田んぼ423haがラムサール条約に登録された。

世界で初めて、田んぼが生物にとっての大切な湿地であることが認められた場所である。

 

今回は、千葉さんの米づくりの話はそっちのけで、

渡り鳥たちが集まってきた蕪栗沼を見よう、ということで集まった。

まあ、この数をみれば、おのずと周辺たんぼの生命力も推しはかってもらえるか。

 

せわしないガンと違って、ハクチョウは悠然と休んでいる。

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20年前にラムサールに登録された伊豆沼・内沼は、

ここから約5~10kmほど北にある。

伊豆沼・内沼に蕪栗沼も合わせたこの地帯で確認された鳥の種類は二百数十種に及び、

マガンでは日本に飛来する80~90%がここで越冬する。

今年もすでに6万羽 (8万だったか) が確認されているという。

 

これは他に飛来できる地がなくなってきていることも意味しているのだが、

それだけに、ここの扶養力の高さを浮き彫りにしている。

 

彼らは冬をここで過ごし、餌をたっぷり捕って、3月に故郷シベリアに帰る。

 

千葉さんたちは、冬も田んぼに水を張る冬期湛水

(最近は 「ふゆ水田んぼ」 と言われる) に取り組んでいる。

鳥たちの餌をさらに豊富にさせると同時に、田んぼの地力も高めるという効果がある。

 

ラムサール条約に登録されての変化などを千葉さんに聞いてみる。

答えは簡単なものだった。

 

「メリットもデメリットもない。な~んにも変わらないよ」

 

補助金を貰えるわけでもなく、何か特別な指導が入るわけでもない。

観光客が来たとて、千葉さんにご褒美が出ることもない。

逆に登録されたことで、保全区域としてやりにくくなることもあるんじゃない?

 

「まあ、そのためにやってきたわけでもないし。

 これからもやることは変わらないんと思うんだけどね」

 

こういうのを恬淡 (てんたん) と言うのか。

賞をもらったからといって奢るわけでもなく、欲を出すこともない。

ただイイ米つくりたくて、そんで鳥を見ながら、こうしたいからこうしてきただけだ。

 

こういう姿勢に惚れちゃうんよね、アタシ。

 

一方で千葉さんには、内心の疑問もないではない。

冬季湛水が本当に米づくりにとってベストな選択か-

実は千葉さんの中では、回答はまだ出ていないのだ。

 

「ふゆ水田んぼ」 にお国までもが付加価値を認めつつある時代に、

どんなにもてはやされようと、

「これでいいのかなぁって思うところもあるんだよね

という千葉さんがいる。

付き合いたいな、とことん。

 


午後、今度は鳥たちが休息する田んぼに向かう。

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ガンは警戒心が強いので、望遠レンズがないと絵にできないけど、

ハクチョウは、我々を警戒しつつも、敵ではないと思っているのか、

一定の距離を保って、こちらが一歩近づけば一歩遠ざかるだけ。

 

逃げることもない。

人間が近くで喋っているのに、畦でずっとケツを向けて昼寝しているヤツもいた。

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続いて、これがドジョウなどの水生生物が遡上できるように設置した魚道。

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まだ実験段階だが、率先して取り組んでいるのが、

宮城県農林振興課に勤める、県の職員でもある三塚牧夫さん。

千葉さんを代表とする「蕪栗米生産組合」の生産者の一人でもある。

夕べは宿で熱いレクチャーを受けた。

米そっちのけで、生物多様性である。 いや、生物多様性あっての米、だったか。

 


最後に伊豆沼を回る。

こちらはさすがに観察や展示など受け入れ体制も整備されているが、

餌付けにも慣れてしまっているのが、気になるところではある。

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ま、渡り鳥を餌にして、'田んぼの力' を確かめる初のツアーとしては、

それなりに体感していただけたのではないかと思うところである。

 

というワタクシも、鳥ばっかり撮って、千葉さんのアップを撮り忘れた。

記念撮影の写真でお茶を濁す。左端が千葉さんです。

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(真ん中に白鳥を入れたつもりだったが...)

 

ところで、今回のツアーは、実は田んぼだけじゃなくて、

塩釜の練り製品の大御所、遠藤蒲鉾店さんの見学から始まって、

遠藤さんが尽力した地元での廃油燃料プラント(天ぷら油のリサイクル)、

利府町の太陽光発電実験プラント、

仙台黒豚会の豚舎見学、と盛り沢山のツアーでもあった。

 

これらもそれぞれ語れば、それなりの物語となる、

雁と 「エコ」 のツアーであったワケです。

 

申し訳ないけど、いずれ機会を見つけてきっちりと、

ということでご容赦願いたい。

 



2007年11月20日

全国土づくり生産者会議

 

記録-その2

 

11月15日(木)、第5回全国土づくり生産者会議。

千葉県山武市・さんぶの森中央会館にて開催。

今回の受入団体は、有機農業の生産グループとして組織されて間もなく20年という

さんぶ野菜ネットワーク (旧JAさんぶ郡市有機部会)。

 

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土づくり会議も今年で5回目だが、今回も講師は能登で農業を営む西出隆一さん。

東京大学農学部を卒業後、ひたすら現場主義で、

正確な土壌診断による健全な土づくりと高品質のモノづくりを追求して、かれこれ50年。

 

現場での歯に衣着せぬ辛口批評は怖いものがあるが、

実践に裏打ちされた西出理論をものにしたいと集う生産者は年々増え、

その風貌からは、 'カリスマ' というより、はっきり '教祖' と呼んだほうが似合っている。

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西出講座は、3年連続である。

「俺のほ場を西出さんに見てもらいたい」 と、

さんぶの生産者の強い要望でお招きした。

 

有機農業の基礎となる土づくりの、しかも本などではなかなか学べない

(学者の言う理論とも違ってたりする)、

具体的な処方(アドバイス)つきの勉強会である。

この開催の案内に、全国から100人を越す生産者が集まってくれた。


基礎とはいえ、土台の話である。


奥はひたすら深く、かつあらゆる人為の結果が複雑に絡みあって、今がある。

 

西出さんは挨拶もそこそこに、

「まずはほ場に行きましょう」 と皆を促す。

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畑に立ち、土を調べ、植物の姿を観察し、

土壌分析 (土の栄養成分の量やバランスの分析値) の結果を確かめ、

的確に問題点を衝いてゆく。

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栄養素のバランスを欠いた原因。

なぜここにこの病気が発生するのか。

その虫が湧いた理由は何か。

 

西出さんは観察を教える。

○○(たとえばカルシウムとか) が欠乏するとこうなる。過剰だとこういう症状が出る。

しかもただ足せばいいものではない。

相互作用もあり、すべてのバランスが大事なのだ。

 

「あんたの言っとる病気は違っとる。

 葉っぱの裏側をよう見てみい。違う病気や。

 病名が違うということは、原因も違う。 それじゃあ有効な対策は打てん」

 

何だか大地の生産者が素人みたいに聞こえるかもしれないけど、

それだけハイレベルな会話と思って欲しい。

科学を自分のものとし、植物の生理、土の状態を確かめながら、適切な手を施し、

農薬は使わず (安全性というより、土と植物の健全性のために)、

最後は品質と味と収量を上げるって、

これはなかなか至難の技なのだ。

 -なんて、並みいるプロの前で偉そうに講釈するのも恥ずかしいけど。

 

もしかしてプロとしての自負の強い人ほど、

「そんな絵に描いたように行くもんじゃない」 とか思ってたりしてるんじゃないだろうか。

 

手塩にかけた畑の前で 「何をやっとるか」 とか言われ、

質問すれば論破され、

よくできていると思われた畑でも 「まあまあ」 としか評価されず、

相当ムカついているかと思いきや、

生産者の反応は、

 

「いやぁ、参った」

「言われてみれば、すべて納得がいった」

「目からウロコ、でした」

などなど・・・・

 

後半は、座学。

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質問が途切れない。

西出さんはひとつひとつに、具体的な回答を出してゆく。

ホワイトボードが、科学で埋まってゆく。

しかしその奥には土と植物の姿がある。

 

西出舌鋒は、ついに大地にも及ぶ。

 

「あんたら大地様々じゃろ。そこそこのもんで取って (買って) もらえるから。

 大地もなっとらん。

 品質の高いものには、ちゃんと値段をつけてやらにゃ、やる気にならん。そうっしょ!」

 

「有機農業というのは、もう今の時代、「安心・安全」だけじゃダメよ。

 農薬撒かんから虫に食われる、で甘えとったらあかん。

 品質も味も良いものができんかったら、有機農業とは言えん。そうっしょ!

 何やっとるかと言いたい。」

 

まあね、だからこうして勉強会をやっているわけであって...

その意欲を持つ人たちをネットワークしてきて、今日があるんですよ。

 

あなたの理論を受け入れる、吸収力のある土壌をつくるには、

それだけの時間が必要だったんだと、

悔やしまぎれかもしれないが、言っておきたい。

 

それに、社会というものもまた、単純な理屈でモノごとが収まってはいなくて、

マーケットを支配している価値観は、品質ではない '何か' であったりする。

社会科学だって、自然科学とは違う意味で魑魅魍魎とも言える綾取りの世界があるのだ。

 

畑を回る合い間に、富谷亜喜博さんのお庭で、おやつタイムが用意されていた。

奥さんたち手作りのパンやケーキや人参スープなどなどで、しばしホッとする。

どれも美味しかったです。

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おはぎではありません。紫いもを使ったケーキです。

ごちそう様でした。

 

いつか見返してやりましょうね、皆さん。

あの方の口が朽ちて、逃げ切られる前に。

 



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