産地情報: 2009年6月アーカイブ

2009年6月19日

自家採種で食文化と自立を守る

 

はて、軒下にぐるぐると巻かれてある、これは・・・・・・ 

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大根の種です。

 

こんな感じで保存、いえ莢ごと乾燥させているところですね。 

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ここは埼玉県桶川市、中村三善さん宅の倉庫。

中村さんは 「秀明自然農法ネットワーク」 という団体の役員をされている生産者で、

お母さんが自家用に栽培している野菜以外は、すべて種を採っている。

つまり種を買って、野菜を全部出荷するのでなく、

良い個体を残し、花を咲かせ、実を成らせるのだ。

秀明自然農法ネットワークは、「自然農法」 の創始者、岡田茂吉師 (1882~1955) の

教えを受け継ぐ団体のひとつ (自然農法を標榜する団体は複数ある) で、

無農薬・無肥料を原則とする。

そこは家畜糞尿の健全な (の一語は入れておかなければならない) 循環を

是とする有機農業とは技術体系が異なる。

 

しかし今日はべつに自然農法を論ずるために来たのではなくて、

種取り技術を学ぶために、全国から生産者が集まったのだった。

『 第2回 自家採種生産者会議 』 。

中村さんも喜んで受け入れてくれて、小川町の金子美登さんまでやって来てくれた。

 


この人が中村三善さん。

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自然農法のイメージとは違って、リアルに農業経営を語ったりする感じがいい。

僕的には、おもしろ農民 (この用語は大地を守る会顧問・小松光一さんのものだが)

の一人である。

それでもって、種取りに関しては徹底している。

 

そこにこの人の登場。 金子美登さん。

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全国有機農業推進協議会会長。 この人もまた種にこだわり続けている方だ。

大地を守る会の20数年に及ぶ生産者会議の歴史にあって、

今回の集まりは、もしかしてかなり意味のある会議になったのではないだろうか。

テレビ局も2社、取材に入った。

 

中村さんの大根の種取り現場。

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大根は実は多年草で、放っておけばでっかい樹になるんだそうだ。

威勢の良い大根を残し、植え直し、花を咲かせ、種を着かせる。

経済効率から言えば、とてもできない作業である。

 

こちらは玉ねぎ。

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玉ねぎは最も採種の難しい作物だと言う。

「ようやく玉ねぎも採れるようになりました」 と。

ってことは、長年 「札幌黄」 という品種を残してきた北海道の大作幸一さんという人は、

恐るべき玉ねぎの達人なんだと、改めて思うのだった。

 

種を採る -農民の本能は、相当にくすぐられたのではないだろうか。

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これは-

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キャベツが割れ、茎が伸び、種をつけた姿です。

 

見学の後は、座学。

次の登場人物は、野口種苗研究所の野口勲さん。

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固定種 (特性が安定し種が取れる品種) の販売を専門とする種屋さん。

生命の誕生から説き起こし、多様に分化しながら進化してきた生命の奥深さと、

いま進んでいるタネの独占の危うさが語られる。

 

生きる上での根源にあるタネの世界を、僕らはあまりに知らないでいる。

正確に言えば、知らないうちに変質してきているのだ。

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その究極の世界が遺伝子組み換えである。

 

この地球という星のあらゆる場所で、その地域の気象や土壌条件に合った生物が土着し、

それをもとにヒトも含めた生命連鎖が成り立っているはずなのだけれど、

いつの間にか多国籍企業という巨大資本に支配されつつある。

これは人々の自立が奪われることに等しくはないか・・・・・

いや、この星の生命力が失われてゆくことではないか、と言いたい。

 

有機農業というのは、結果として得られた食べ物の安全性を謳っているだけでなくて、

農民が地域の風土とともに生きて、

それによって地域の自立 (自分たちの意思で生きられる権利) や

その土地の食文化を守ろうとするものである。

だからこの地に根づいたタネというものを、自分たちの手で守りたいと思う。

 

少なくとも、植物が交配 (セックス) することを特許の侵害だと訴えるような、

そんな者どもにはゼッタイに支配されたくない、とだけは言わせてほしい。

風や蝶やミツバチたちが花粉を運んでくれることを喜ばずして、どうするよ。

 

世界は " 遺伝子組み換え Vs.有機農業 " の様相を呈してきているような気がする。

タネは、死守しなければならない。

 



2009年6月 4日

トマトを究めよう。

 

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第3回全国施設園芸生産者会議 を開催する。

 

謹啓。

若草色の幼葉が透き通った風に吹かれるたびに色を変えていくように見えます。

毎年春は駆け足で過ぎてゆくように感じられます。

生産者の皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

金融資本主義と新自由主義がもたらした世界的不況は、

底を打ったまま新たな展望を見いだせず閉塞感の漂う時代状況が続いています。

この状況を打破する道は、従来の価値観から脱皮した新たなベクトルで

経済の枠組みを構築する必要があると思います。

そのなかで小さな希望の光を見い出しているのは第一次産業への視線です。

・・・・・

 

生産者会議の案内文は、大地を守る会理事・長谷川満が書く。

広報上がりの僕は、つい赤を入れたくなったりした時期もあったのだけど、

今はもう、彼の文調こそがいいのだと思うようになった。

長谷川さんの最初の2行は、いつも温かくて、気を込めようとする意思を感じさせる。

やっぱり大先輩なのである。

 

しかし今回は、そんな前置きとは裏腹に、けっこう厳しい。

「施設園芸」 と銘打ってはいるが、臨んだテーマはトマト一本である。

もっと美味しくて安全なトマトを作ろう。

講師は、例によって西出隆一さん。

彼の理論で土を蘇らせた生産者からは、師と呼ばれているカリスマ。

理論 (科学) である以上、誰ともまっとうな会話ができなければならない。

それができるんだから、トコトン突き止めようではないか。

「西出さんが元気なうちに吸収し切ってほしい」

なんて、藤田会長まで本人の前で挨拶する。

 


会場は福島。 受け入れ団体は福島わかば会。

全国から約60名の生産者が集まった。

 

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事前に行なわれていた視察ほ場の土壌分析値を元に、

トマトの樹の状態を観察しながら、西出氏の分析とアドバイスが語られる。

「まだ分かっとらんな、こりゃ」 などと辛口批評は相変わらずである。 

 

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細かい説明は面倒なので省くが (と言って逃げる)、

とにかくすべては理に基づいていて、なぜ病気になるのか、なぜ虫が発生するのか、

それらは微妙な栄養バランスの問題なのである。

チッソの過不足で花粉の粘性まで変わり、蜂の働きにまで影響するとか聞かされると、

もうオイラはとても農家にはなれないと思う。

 

どの世界も、プロの道は厳しい。

自分は、彼らに相応しい仕事ができているか、自問自答の世界に陥る。

そうならないヤツは、己れのプロ意識そのものが怪しい、とすら思う。

 

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生産者の皆様。

詳細はわが部署から送らせていただく 『今月のお知らせ』 での報告をお読みください。

西出さんも推奨してくれた有機農業推進室作成の 『土壌分析のすすめ』 も、

お手元にない方にはお送りしますので、お申し出ください。

 

西出さんは、具体的な病害虫に対する処方箋もテキパキと答える。

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1936(昭和11) 年、金沢の米農家に生まれる。

中学時代から農業を目指し、東京大学農学部を卒業すると同時に、

実家に戻り農業に従事する。 1988年、能登半島の穴水町に入植して今日に至る。

トマトの施設園芸の他、露地栽培ではキャベツ、ブロッコリィ、カリフラワー、大根、

白菜などを栽培するが、本人曰く、「ワシの専門は稲や」 。

 

この口の悪い、しかし誰よりも勉強したという先達を、

一回呼んでみてみようか、という方がおられたなら、名乗り上げられよ。

 

自分のまったく与り知らない事由で消費が冷え込んでいく時代にあって、

もう一歩、まだ一歩、と研鑽を重ねてくれる生産者を、有り難いと思う。

トマトという作物。 美味かったり、味が乗ってなかったり、ホントに難しいと思う。

この人たちにどうタイアップできるのか。

毒舌の西出師からは、

「あんたらのトマトを買ってくれる大地っつうところは奇特な団体や」

とか言われてしまうが、

生産者が栽培をまだまだ究めたいと励んでくれるなら、

こっちはこっちで奇特の極みまで行ってみてやろうか、とか思うのだった。

 



2009年6月 1日

「太陽の会」 の田植え -耕せるか、生物多様性

 

昨日は、5月1日の日記で紹介したNPO 「太陽の会」 の田植えの日。

千葉県佐原(現香取市) の篠塚守さんに受け入れをお願いした手前、

放っておけず、付き合うことにした。

5月に2度目の田植えだ -まあ、嫌いじゃない。

 

大学生から中学生まで、24人の若者たちが集まった。

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どういうネットワークで集まってきたのかはよく分からないけど、

実に屈託のない最近の若者ども。

生意気な口をきくかと思えば、それでいて行儀はいい。 

 


初顔合わせの人たちも多いようで、まずは輪になって自己紹介。

A大学、M大学、K大学、〇〇高校、××中学・・・・・

今年卒業して大学院を目指しているという女性もいた。

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ここでもまた秋の稲刈りまでの体験シリーズが始まった。

今回のテーマは、「 耕そう、生物多様性 」 だと。

 

4月に入ってからの依頼にもかかわらず、快く田を提供していただいた

篠塚守さん。

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1993(平成5)年、"平成の大冷害" とか言われて米パニックの起きた年、

篠塚さんは周りの方に米を配ってあげて感謝された。

それを機に、勤めを辞め専業になった。

専門でやるからには有機・無農薬でいこうと決めた、という。

有機JASの認証もいち早く取得した。

 

田植えの手ほどきをする篠塚さん。

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一列に並んで、田植えの開始。

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みんな田植えは初めてだという。

驚かされたのは、オタマジャクシを見るのも初めてという大学生がいたことだ。

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オタマジャクシやカエルに感激し、ヒルに怯え、

田んぼのヌルヌルに歓声を上げ、キャーキャー言いながら、

それでも真面目に植える青少年たち。

 

作業はスムーズに終わり、楽しくお昼を食べる。

篠塚さんの奥さんが握ってくれた黒米のおにぎりの美味しかったこと。

ご馳走様でした。

 

さて第二部は、みんなで感想を出し合い、

篠塚先生のお話を聞く。

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田植えもオタマジャクシも初めてという若者たちが、

生物多様性や減反や自給率についての質問をしてくるんだから、面白い。

 

たくさんの生き物のつながりが暮らしの基盤である環境を支え、食料生産を安定させます。

有機農業の思想と技術は、食の安全から環境、そして生物多様性を育むものとして

発展してきました。 それは害虫を " 有害な (殺してよい・無用な) 虫 " でなくさせる

 「平和の思想」 でもあるのです。

 - とついつい自分も得意の一席をぶってしまう。

でも事務局長の岩切勝平くんも喜んでくれたので、よかったことにしたい。

 

「ここの集落でも、専業農家は2軒になっちゃった」

地域の高齢化を心配する篠塚さん。

たった1時間弱の農作業に感激して、「ワタシ、農家の人と結婚したい!」

などと能天気に気勢を上げる女子学生たちを眺め、嬉しそうに笑ってくれた。

農家と結婚するかどうかは別として、

やっぱり若いうちのこういう体験は、ゼッタイ必要なことなのだ。

食と農業と環境のつながりを、ちょっとでもいいから体で感じてもらう。

改めて篠塚さんに感謝する。

 

話し合いのあと、今日感じたことを、絵日記に描く。

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テレることなく、取り組む。

 

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みんななかなか上手なんで、感心してしまう。

 

次は田んぼの生物多様性をもっと実感できる、

草取りと生き物調査だよ。

植えてしまった以上は、最後まで責任を持つこと。

 

さあ、君たちに耕せるか、生物多様性という世界を。

 

 



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