産地情報: 2010年4月アーカイブ

2010年4月28日

広瀬くんの 「風干りんご」

 

元大地を守る会職員で、長野のリンゴ農家になった広瀬祥寿くんが、

自園のりんご(フジ) を原料に面白い作品を完成させたので、紹介します。

「風干 (かざぼし) りんご」 。 彼らしいネーミングです。

要するに干しりんごですが、我々がプロジェクト・チームをつくって進めている

乾燥野菜(&果物) の開発計画ともつながってのことだけに、

はからずも側面支援を受けたような、嬉しい出来事になったのでした。

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僕らが福島のジェイラップさんと一緒に、乾燥野菜の開発チーム

はたまるプロジェクト」 を結成したという話は一ヶ月ほど前に書いたけど、

実はその時すでに、あましているリンゴで干しりんごを作りいたいとの依頼が

広瀬くんからジェイラップに入っていたのです。

もちろんこちらのインサイダー情報をキャッチしてのこと。 

 

なかなかの素早い動き。 「やるじゃん、広瀬」 と褒めたりしつつ、

実はその時期までりんごを抱えているという切羽詰まった事情も察せられたりして。

こちらの情報は彼にとって救いの神のようなものではなかったかと思う一方、

彼の作品完成によって僕らも勇気づけられた格好になりました。

 


広瀬くんとジェイラップの関根さんの間では、

いろいろと綿密なやりとりが交わされたみたいです。

両人とも相当のこだわり屋というか凝り性で、 

こと自分の仕事に関しては0.1ミリの狂いも許さないようなところがある二人です。

 

か ざ ぼ し り ん ご 。

ふじの皮をむき (本来のコンセプトは  " 皮も生かす "  ですが、

今回は口あたりを優先したようです)、芯を抜いて、5ミリ程度にスライスして、

低温 (25℃以下) の風でゆっくり、じっくり乾燥させました。 

添加物は一切なし。 ナチュラルそのもの。

生のりんごの風味、甘味、酸味、栄養分が、ありのままに凝縮された干しりんご。

少し柔らかめに仕上げてあって、サクサクと口あたりがやさしく、甘みもいやらしくない。

とても自然な風味で、ついつい手が伸びてしまう、そんな感じなのです。

 

他の同様の製品はだいたい80℃くらいの温度をかけるようですが、

それでは風味だけでなく、糖もビタミンも酵素も損なわれてしまいます。

ただし低温だと時間とコストがかかるため、そのぶん高くなります。

広瀬・関根の両氏は、ためらいなく値段よりも食べものの命を取るほうで、

いや~コワいすね。

 

量的な問題もあって、これを当社で取り扱うことはできませんが、

広瀬くんが自力で 「広瀬農園の新作」 として販売している・・・ってことは、

考えてみれば、いや考えなくても、これが

ジェイラップの乾燥設備 (今はまだ実験段階の設備ではあるが) を使っての

商品化、第1号! ってことになっちゃいますね。 なんだ、やられたんじゃん。

(実際は、地元の手打ちうどん屋さんなどですでに野菜パウダーが活用されたりは

 していますが、販売商品としては第1号かと。)

 

先般、彼が実家の栃木に里帰りした際には、

地元の手づくりチョコレート屋さんに気に入られて、

5パックも買い上げてもらったそうです。 5パックも・・・・おめでとう。

 

これを読んでいただいた会員の方には写真だけで申し訳ありませんが、

「はたまるプロジェクト」 でやろうとしていることのイメージが

少しでも具体的に湧いてくれれば幸いです、と思う次第であります。

「はたまるプロジェクト」 では今、いくつかの試作に入ってきています。

初お目見えは、うまくいけば夏の終わり頃には・・・と考えています。

乞うご期待。

 



2010年4月23日

田植えを前に、水路を清める

 

桜は散ってもなかなか春の実感が涌いてこないのだけど、

それでも新学期に入ってゴールデン・ウィークの声が聞こえてくると、僕にとっては、

会津の山あいを縫って水を運ぶ、あの堰(せき) の清掃日が近づいてきたことを意味する。

 

福島県喜多方市山都町の本木・早稲谷地区で、毎年5月4日に行なわれる

本木上堰の清掃作業、通称 「堰浚(さら) い」。

地元では全戸総出で行なわれるため、「春の総人足」 とも呼ばれている。

 

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参加するようになって、もう4回目のGWを迎える。

主催は 「本木・早稲谷 堰と里山を守る会」。

事務局の浅見彰宏さんからの案内を転載することで紹介に代えたい。

 


  喜多方市山都町本木および早稲谷地区は、

  町の中心部から北に位置する併せて100軒足らずの小さな集落です。

  周囲は飯豊連邦前衛の山々に囲まれ、

  深い広葉樹の森の中に民家や田畑が点在する静かなところです。

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  そんな山村に広がる美しい田園風景には一つの秘密があります。

  それは田んぼに水を供給する水路の存在です。

  水路があるからこそ、急峻な地形の中、川沿いだけでなく山の上部にまで田んぼが拓かれ、

  田畑と森と民家が調和した風景が作られているのです。

  その水路は 「本木上堰」(もときうわぜき) と呼ばれています。

  早稲谷地区を流れる早稲谷川上流部から取水し、右岸の山中をへつりながら

  下流の本木地区大谷地まで延々6キロあまり続きます。

 

  水路の開設は江戸時代中期にまで遡り、そのほとんどは当時の形、

  すなわち素掘りのままの歴史ある水路です。

  深い森の中を済んだ水がさらさらと流れる様を目の当たりにすると、

  先人の稲作への情熱が伝わってきます。

 

  しかし農業後継者不足や高齢化の波がここにも押し寄せ、人海戦術に頼らざるを得ない

  この山間の水路の維持がいよいよ困難な状況となってきました。

  水路が放棄された時、両地区のほとんどの田んぼは耕作不可能となり、

  美しい風景も一挙に失われてしまうでしょう。

 

  そこでもっとも重労働である春の総人足のお手伝いをしてくれる方を募集しております。

  皆さん! 先人の熱き想いとたゆまぬ努力が築き上げたこの素晴らしき生活遺産を、

  そして山村の美しき田園風景を後世に引き継ぐため、ぜひご協力ください。 

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作業日は5月4日ですが、早朝から開始するため、前日には現地に集合していただきます。

宿泊は公民館か山荘になります (現地の方にお任せ)。

3日の夜は前夜祭、4日の夕方には交流会が用意されています。

費用は、現地(JR磐越西線・山都駅) までの交通費、宿泊の集会所使用料実費分のみです。

作業着・着替え、軍手、長靴、雨具、洗面具をご用意ください。

 

もうGWの計画を立てられている方が多いかと思いますが、

もしまだ予定がなく、興味を持たれた方がおられましたら、どうぞお問い合わせください。

「堰と里山を守る会」 では会員も募集中です。

堰さらいボランティアに参加できない方で、ご支援いただける方はぜひ。

(メール・アドレスをつけてコメント投稿していただければ、お返事を差し上げます。)

 

大地を守る会の専門委員会 「米プロジェクト21」 では、

「種蒔人基金」 を活用して、この堰さらいボランティアに協力しています。

参考までに、過去の日記を貼り付けますので、読んでいただけると嬉しいです。

 ・2009年5月 5日・・・「 堰(せき) -水源を守る

 ・2008年5月 6日・・・「 水路は未来への財産だ!

 ・2007年7月10日・・・「 日本列島の血脈 」

 

さらに今年は、喜多方市の市民グループにも支援の輪が広がって、

福島県からもわずかながら助成が下りたとのこと。

そこで交流会でも、真面目なお勉強の時間を設けるとのことで、

なんと僕に、食と農と堰の関わりについて話をしろとのお沙汰である。

腰だけでなく、気まで重たくなっちゃったりして。

ご恩返しになれば幸いであるが・・・

 



2010年4月10日

千葉さんの田んぼに太陽光発電、完成!

 

以前報告した宮城県大崎市の千葉孝志さん(蕪栗米生産組合代表)

の田んぼで、太陽光発電が完成した。

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田園地帯に出現した25枚の太陽光パネル。 圧巻ですね。

日本初! いや世界にも例のない光景だろう。 

 

渡り鳥たちのための冬水田んぼには間に合わなかったけど、

夏場は夏場で利用することで、ピュアな用水が確保できる。

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太陽電池が発電した電力はバッテリーを経由し、

インバーターよりコンプレッサーに供給される。

タイムスイッチによる運転時間制限とリレーによる電圧制御で運転をコントロールする。

10時~15時の間にバッテリー電圧が24V以上になると、

コンプレッサーに電力が供給され、揚水が行なわれる仕組みである。

 


前にも紹介したけど、

太陽電池モジュール(パネル) は (株)日本エコシステムさんからの提供である。 

それでも付属設備や備品、工賃などの費用は馬鹿にならない。

それを千葉さんと日本エコシステムさん、大地を守る会で折半することで

実現の運びとなったものである。 補助金は一切なし。

 

これを仮に生産者がすべて自費で設置するとなると、

今のお米の販売利益で賄えるものではない。

メーカーさんや我々も、これからも続けて支援できるわけではない。

つまり、これだけ見れば、農家が容易に真似できる代物ではなく、

場合によっては 「お遊びですか?」 と言われかねないものである。

 

しかしこの実験から、売電が可能になることが実証できたら、どうなるだろう。

田園には太陽エネルギーが無償の愛のごとく降り注いでいるのだ。

竹村真一さんの言う  " エレガントな未来社会 "  への夢が広がらないだろうか。

 

ここがコンプレッサー部分。

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残念ながら、この装置自体は電力会社の配電系統から独立したシステムのため、

余剰電力の売買はできず、バッテリーに蓄積されるものだが、

どれだけの電力が生み出せるかは、可視化できるのではないだろうか。

 

渡り鳥のため、鳥害に不満を抱く地域との共生のため、

生物多様性を保障する農業を創造するため、千葉さんは設置を決意した。

しかしそれ以上に見る人の想像力を刺激させながら、

太陽を見つめて立ち続けてくれることを、願ってやまない。

 

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これは、文明を滅亡させたイースター島のモアイではない。

文明を切り拓くモジュールでありたい。

 

 ※ 写真は、(株)日本エコシステムさんから提供いただきました。

 



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