産地情報: 2010年5月アーカイブ

2010年5月28日

環境配慮で競う、きのこ生産者会議

 

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ここは山形県最上郡舟形町。 「有限会社 舟形マッシュルーム」 さん。

5月27日(木)、ここに大地を守る会のきのこ生産者が集合する。

3年ぶりの開催となった 「第5回 全国きのこ生産者会議」。

2年前からお付き合いが始まった舟形マッシュさんの取り組みを

みんなで学ぼうというわけである。

 

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マッシュルームは、太古より馬厩肥などに生えていたキノコだが、

私たちが手にできるマッシュルームはすべて施設での栽培である。

和名からして 「ツクリタケ」 というくらいで。。。

 

舟形マッシュさんのハウスはアルミ製。 腐食に強く衛生的で長持ちする。

代表の長沢光芳さんが会社を設立して10年。

今ではハウスが18棟、フル稼動すれば年間約300トンの生産体制になる。

生産にあたって農薬はいっさい使用しない。 設備の殺菌はすべて蒸気で行なう。

熱は地域資源を再利用したバイオマス蒸気ボイラーでまかない、

培地の廃材は堆肥化し田畑に還す。

JGAP (Japan Good Agricultural Practice:適正農業規範) も取得し、

その環境に配慮した生産体制は、昨年、

農林水産大臣賞と山形県ベストアグリ賞のダブル受賞を果たしている。

 

靴を洗って、中を見せてもらう。 

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一棟の中に2列 × 5段ベッドという構造。

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培地に使われる資材は、競馬場から出る馬厩肥、地元や宮城から運んだ稲ワラ、

缶コーヒーを製造した後のコーヒー豆の搾りかす、

大豆の搾りかす (非遺伝子組み換えのもの) など、未利用資源の活用を徹底する。

それらを発酵させ、コンポスト (マッシュルーム専用の培地) をつくる。

 

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ハウス内を熱殺菌し、上記資材で作られた菌床を敷き詰め、菌を手でまき、

混ぜた上に、ピートモス(泥炭層の堆積土) で覆土する。

 

生育期間は8日とか9日で、3回のピークがあって、

1ベッドの収穫期間は27日ということになる。

収穫はすべて手作業となる。

 

マッシュルームといえばホワイト種が主流だが、

風味や味を重視する方はブラウン種のほうを好む。 

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こちらがホワイト種。 

上品な白、味はブラウンよりまろやかというのが定説。

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これが菌の種。 手で散布される。

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生まれたばかりの真珠のような玉も見える。 アップで撮ると別世界のようだ。

 

舟形マッシュさんの売りの一つ。 

ジャンボ・マッシュルームにスーパージャンボ・マッシュルーム。

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改良品種ではなく、菌のコロニーを固めずに、間引きもしながら

時間をかけて1個を大きくしたもの。 よって生産量は少ない。

 

収穫が手作業なら、軸をカットする作業も手作業となる。

包装も手詰めで品質をチェックする。

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まさにマシュマロのようなまんじゅうが、きれいに並んでいる様である。

 

こちらが廃材チップを利用したバイオマス蒸気ボイラー。

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石油に頼らず、地域資源を無駄なく循環させたいという長沢さんの理念が、

2年間のテスト期間を経て、今年の3月から実現した。

 

収穫の終わった廃床は完熟堆肥に生まれ変わる。

 

施設をひと通り見学した後、参加者一行は最上町の宿に移って、

改めて長沢さんから会社の概要の説明を受ける。 

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長沢さんは、元は缶コーヒーをつくる食品メーカーに勤めていたのだそうだ。

そこでマッシュルーム関係の仕事に回されてノウハウを学んだ後、

家族の事情で実家に戻り、米を作る傍ら、

仲間と一緒に舟形マッシュルーム生産組合を立ち上げたという経歴である。

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マッシュルームの先進地、海外の視察にも余念がない。

国内での生産が横ばいの中、レシピの開発やレストランとの連携などによって、

まだまだマッシュは伸びると断言する。

キノコは体にもいいものだしね。

 

群馬の 「自然耕房(じねんこうぼう)」 さんといい、長野の 「えのきぼうや」 さんといい、

安全なきのこ生産は、資源循環のひとつのツボだ。

大地を守る会のキノコは地域に貢献する、と宣言しておきたい。

 

最上町瀬見温泉は、義経と弁慶が頼朝に追われて落ちてゆく途中、

弁慶が薙刀で湯を掘り当てたという、伝説の湯治場である。

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悠然と流れる清流、小国川 (最上川の支流) が美しい。

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2010年5月 6日

堰が人をつないでいる

 

さて、堰浚いを終えて、夜の 「里山交流会」 までの時間を使って、

チャルジョウ農場 を訪ねる。

 

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元は福島県農業試験場の指導者だった小川光さんが、

中央アジア乾燥地帯での農業指導を経て、

山都町に入植して自ら有機農業の実践に入った。

そして彼独自の技術と理論によって、東北の雪深い山間地の潅水設備もない環境で、

ハウス施設を使っての無農薬栽培の技術を確立させたのだ。

以来、たくさんの若い研修生を育てては、就農の斡旋まで引き受けている。

 

堰浚いボランティアの呼びかけ人である浅見彰宏さんも

小川さんの世話で当地に入植した一人である。

農場の名前は、小川さんが惚れたトルクメニスタン国・チャルジョウの町名に由来する。

 

この日、光さんは新しく借りてほしいという西会津町の畑を見に行って留守だった。

耕作放棄という言葉を許すことができない、一直線の農業指導者なのだ。

" 山都町の空き家情報を最もよく知る人 "  とも言われる。

 

一昨年から小川さんとこの農場の研修生たちの作った野菜をセットにして販売している。

研修生たちが名づけたグループ名は 「あいづ耕人会たべらんしょ」 という。

 

堰浚いに参加された当会の会員の方と、

埼玉県小川町の金子美登さんの農場で研修された二人の若者もお連れする。

実は小川光さんのご長男、未明(みはる) さんも

金子さんの 「霜里農場」 で勉強した経験を持っている。 

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なかなかイイ男だと思うのだが、いかがでしょうか。 

独身です。

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この日はやや遅れ気味であったミニトマトの定植作業に追われていた。

今年、小川さんが引き受けた研修生は10人。

堰浚いにも何人か参加してくれた。

 

楽しそうに、農作業にいそしんでいる。

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農作業は楽しいと、彼らは一様に言う。

しかし、それで生活するとなると、途端に厳しいものになる。

佐賀の農民作家・山下惣一さんのセリフが思い出される。

「農作業は楽しい。 しかし  " 農業 "  となると一転して腹が立つ。」

 

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この農場で育てるミニトマトの品種は 「紅涙(こうるい)」 という。

光さんが育ててきたオリジナル品種。 

水がやれないため逆に味が濃縮される。 酸味もしっかりあって実に美味い。

今年は 「たべらんしょ」 の野菜セットの他に、

庄右衛門インゲンなどが 「とくたろうさん」 で取り扱える手はずになっている。

 

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若者たちの息吹が、そう遠くない将来、

この山間地の環境と暮らしを支える担い手になることだろう。

彼らを応援することで、この国は豊かになる、と僕は思っている。 

 

温泉に入って、公民館に戻る。

夜の 「里山交流会」 の開催。 テーブルには山菜料理が所狭しと並べられる。

里山の自然の恵み一覧のようだ。

心地よい疲れもあって、皆早く 「乾杯!」 といきたいところなのだが、

今年はその前にお勉強会の時間が設けられた。 

せっかくの機会をただの飲み会にするんじゃなく、

堰の大切さや農業のことなども学んで意見交換の場にしたい、

というのが浅見さんのねらいである。

それはまことに結構なのだが、その一番バッターに指名された者は可哀想だ。

浅見さんから出された宿題は、「食と農と堰のかかわりについて」。

しかもお酒を前にしての講演なんで、30分くらいで- だと。

 

みんなの視線が厳しいなあ、と感じながら話をさせていただく。

僕なりに考えた堰の価値と、将来にわたる大切な役割について。

地球規模で進んでいる生物多様性と水の危機という視点を盛り込んで考えてみた。

 

堰自体はその地域の方々のものだけれど、自然環境と水を巧みに生かしながら

食と農を支えてきた水路は、貴重な国民的資産でもある。

それはとても税金で賄えるものではない。

ボランティアはよそ者だけれど、未来の食と環境と、その土台技術を守る仲間として、

この堰が人を呼び、つないでいるとも言えるのではないだろうか。

 

堰を守ることは根っこのところでは食糧安保の問題でもある、

とまとめたかったのだが、時間が気になって言い忘れてしまった。

実にプレッシャーのきつい講演だったよ、浅見さん。

 

多くの方に褒めてはいただいたものの、出来のほどは自分では分からない。

あとはひたすら飲み、たらふく山菜料理を味わい、語り合い、

深夜まで至福の時を過ごさせていただいた次第。

カンパで持参した 「種蒔人」 は、瞬時に空いてしまった。

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翌日、小川未明さんから連絡あり、後のほうの記憶がない、とのこと。

「何か失礼なこと言いませんでしたか?」

もったいないことに、当方も、ただただ楽しかった、という残像のみである。

 

小川光・未明父子や若い研修生たちとの出会いも、堰がくれたものだ。

自然は折り合いさえつければ、たくさんの恵みを与えてくれる。 しかも無償で。

腰は痛いけど。

 



2010年5月 5日

堰さらいは大人の環境教育?

 

ゴールデンウィークはマジに会津詣が恒例となってしまった。

 

5月3日、我々 「大地を守る会の 堰さらい ボランティア班」 は、

渋滞にはまったり迂回したりしながら、

夕刻前には福島県喜多方市山都町早稲谷地区に到着した。

4回目にして出迎えてくれたのは、満開の桜である。

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4月の寒さで、稲の苗の生育もだいぶ遅れ気味とのこと。

短い春に、ハチたちもせっせと働いている。

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まずはゆっくりと温泉に入って、夜は公民館で、

地元の方や集まったボランティアの方々と 「前夜祭」(という名の飲み会) を楽しむ。

今年はボランティアがさらに増えて、40名を超えた。

大地を守る会からも去年より一人増えて、5名 (+子供一人) の参加である。

しかしその一方で、地元では2軒の農家が耕作をやめたとのこと。 

堰の維持は今ではボランティアの力にかかっている、とまで言われるようになった。

「本当にありがたい」 と地元の方々に感謝されたりする。

しかし、この水路を地域の協働で営々と支えてきた歴史に感謝すべきは誰なのか、

堰さらいに参加する人たちは知っている。

 


4日朝、みんなで作った朝ごはんを済ませて、

7時半から 「総人足」 (全戸総出での清掃作業を地元の人はこう呼ぶ) 開始。

総延長6キロに及ぶ 「本木上堰 (もときじょうせき)」 を、

上流の早稲谷の取水口から下っていく班と、

下流の本木集落から上がっていく班に分かれる。

作業は両班が出会うまで終われない。

 

僕は今年は早稲谷班に配属される。

下の写真の右手が、早稲谷川から水を引く取水口。

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ここから堰に溜まった土砂や落ち葉を浚(さら) っていく。

 

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最初は楽しく会話しながら、それが段々と沈黙の作業に変わっていく。

実は前々日から、またしても腰痛をぶり返してしまった私。

立ったり座ったりがひどく辛いのだが、意地もあって必死で作業する。

時々フォークを杖代わりにして、、、

運動会の前になると熱を出す子供みたい、とからかわれたりしながら。。。

 

ま、そんなダメおやじの体たらくにかまうことなく、

ひたすら浚う、浚う、のボランティア諸君。 

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浚う、浚う、浚う。。。

 

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 たまさかの休憩時間。

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時折は山野の植物を愛でたりもする。

カタクリの花、発見。

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しかし・・・くそッ、ピントが合ってないぞ。

 

午後2時過ぎくらいだったか、ようやく合流。

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お疲れ様、でした。

これで今年も水がしっかりつながります。

 

見てお分かりいただけるだろうか。

この堰には傾斜がほとんどない。

尾根筋に沿って掘られた水路はゆっくりと水を集め、温ませながら里に下りてゆく。

しかも素掘りのままの形が残っている。

掘ったのは江戸時代中期、会津藩の命により寛保7年 (1747年) に完成した。

地形と水の原理を操った土木技術は驚嘆に値する。

以来260年余、部分的に少しずつU字溝などで補修されながら、生き続けてきた。

 

5月10日にもなれば、この棚田にも水が入ることになる。

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この風景すべてを、堰が支えてきたのだ。

 

公民館前の広場で、お疲れ様会。

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例によってサバの水煮缶とお豆腐、そして豚汁に麦酒が振る舞われる。

連れの職員Sは会津若松出身で、今もサバ缶は常備品だと言って、

自分の分も上げると、すかさず受け取る。

ま、こいつが一緒に来てくれる限りは運転を任せられるから、安いものだ。

 

夜にも地元の方々との 「里山交流会」 が予定されていて、

僕は宴席の前に講演を依頼されていたこともあって、麦酒は控えめにして、

合い間を縫って、別集落にある小川光さんの 「チャルジョウ農場」 を訪ねることにした。

 

というところで疲れてきたので、この話、明日に続けます。

腰が痛いよ、本格的に。。。。。

 



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