産地情報: 2011年12月アーカイブ
2011年12月27日
大地を守る会の皆様へ
福島県須賀川市・ジェイラップ(稲田稲作研究会) 代表、伊藤俊彦さんから
手紙を託されました。
大地を守る会の会員の皆様へのメッセージです。
ここで紹介するのが適切かどうか悩むところですが、
この苦難の年を越す前にお伝えしたく、転載させていただきます。
大地を守る会のみなさまへ。
3月11日、あの忌まわしい大震災と原発事故から9カ月が過ぎます。
「ここから逃げる。逃げない。」
「この野菜を食べる。食べない。」
「窓を開ける。開けない。」
「洗濯物を外に干す。干さない。」
「孫たちと外で遊ぶ。遊ばない。」
こんな日がどれほど続いたことでしょうか。
当初は成す術もなく、何から手を付けて良いものやら
戸惑うばかりの日々でしたが、
みなさまからの心のこもったご好意や
力強いメッセ-ジを頂戴する度に、勇気づけられ、励まされ、
一歩ずつですが前に向かって進む気力を取り戻すことができました。
「外部被曝・内部被曝」「ベクレル・シ-ベルト」
聞きなれない言葉が連日周囲を飛び交う中で、
「ガンマ線測定器」という、大変高価な機材を
意の一番に貸し出していただきましたこと。
特に今年の「収穫祭」は、
わたしたちから希望を失わせまいとするみなさまのご厚情に接し、
記憶に残る大きな感動をいただきましたこと。
「備蓄米 大地恵穂」の受注に奔走いただきましたこと。
救援物資や過分な義援金まで頂戴しましたこと。
度々みなさまに当地をご訪問いただくなど、
何度も勇気づけていただきましたこと。
恵まれすぎるほどの復興環境を
あらゆる分野でご提供していただきました。
おかげさまで、
「放射能による健康被害から家族や子供たちを守り抜こう」
を合言葉に、効率的な学びと実践の両立を重ねることができました。
手探りの、小さくとも着実な実践の成果は、
97ha、341枚の田んぼから収獲された「大地恵穂」に、
近未来への希望に繋がる想定以上の好結果を残すことができました。
今年、幾多の苦難を乗り越えて育った「大地恵穂」は、
自らの家族にも幼い子供たちにも疑心すること無く食べさせられる
安全な米となりました。
「大地恵穂」は、ご存じの通り大地を守る会の紙面やDMで
17年前からご紹介いただいてきたお米です。
本来は、「安心・安全・高食味」を不変のテ-マとしてきた
アイテムです。
この国難とも言うべき有事下で、
それぞれのご事情もあろうと言うのに、
暖かく見守り続けていただいたみなさまに、
今期の稲作に込めた復興への想いを乗せてお届けさせていただきます。
学び、そして実践することで身に着いた新たな知見は、
今後のわたしたちの新たな能力となり、
農産物を通して表現されていくものと確信しています。
これも一重に、
大地を守る会のみなさまの深いご厚情に支えられての結果であると、
その意義の深さを真摯に受け止めております。
数々のご厚情や過分なご支援を賜りながら、
甘えるばかりで満足なご挨拶もできないままに
9カ月もの時間が経ってしまいました。本当に恐縮です。
顔を上げて前に向かう気にさせていただきましたこと。
本当に、本当にありがとうございました。
あらためまして、
下名以下、生産者ならびに社員そしてその家族に代わり、
心からの感謝の意をお伝え申し上げます。
「やれば出来る」を実践した縁起米になったと確信します。
共にこの実りを祝っていただければ幸いです。
2011年12月 吉日
(株)ジェイラップ
代表 伊藤俊彦
伊藤さん。 有難うございました。
私たち社員一同も、このつながりの意味を深くかみしめ、
希望のステップへの励みとさせていただきたいと思います。
2011年12月25日
復興から生まれるイノベーション
12月19日(月)、栃木・那須塩原から福島・須賀川に北上して、
ジェイラップでの勉強会に参加する。
ジェイラップで取り組んだ放射能対策と測定結果から、たくさんのことが " 見えてきた " 。
その成果を共有し、次の課題を確かめ合う。
稲田稲作研究会のメンバーだけでなく、
近隣農家や関係者にも呼びかけて開かれた。
まずは、ジェイラップの対策をずっとフォローしてくれた
「チェルノブイリ救援中部」 理事の河田昌東さんからのお話。
河田さんはウクライナでの除染対策の経験や、
福島県内各地での調査・実験を踏まえ、汚染土壌対策のポイントを解説する。
まず、広大な田畑での表土剥離は現実的には困難であろうが、
果樹園では下草を剥ぐだけでも違う。 剥いだ後にはクローバーの種を播く。
それだけでも空間線量は5分の1から6分の1に減少する。
反転耕は、農作物にセシウムを移行(吸収) させないためには有効。
他に微細土壌粒子の除去、バイオレメディエーションという方法がある。
施肥関係での汚染抑制対策では、
・カリウム肥料をやる。
・カルシウムはストロンチウム90対策になる。 土壌PHを上げる効果もある。
・腐葉土はセシウムを吸収する有機物を豊富にさせる。
・窒素肥料は吸収を促進してしまうので要注意。
(逆に除去作物を植えた時には有効ということでもある)
セシウム137の作物への蓄積では、
ナス科(ナス・トマトなど)、ウリ科(キュウリなど)、ネギ類には蓄積が少ない。
アブラナ科は高くなる。
栄養素としてのカリウムが高い(カリウム吸収力が強い) 作物は高くなるが、
土質にも左右されるので、正しく知るためにも、たくさんの土壌データの収集が必要である。
この間出てしまった福島県内での高濃度汚染米は、
もっと精密な予備調査をやっていれば防げたことだ。
事実を知ることを怖れると、結果的にもっと悪い事態を生んでしまう。
分かってきていることは、地形と土質。
山の水が直接入る田んぼ、砂質土壌、土のカリウム濃度が低い田んぼ、
水のアンモニウム濃度が高い所、など。
山の水を取り入れている田んぼなら水口にゼオライトを施すなど、
水田の環境を考えて対策を打つことが肝要である。
ウクライナのバイオレメディエーション実験では、
ナタネで放射能を吸収させ、子実から油を搾ってバイオディーゼルとして使う。
残ったバイオマスは地下タンクを作ってメタン発酵させ、バイオガスとして活用する。
最後の廃液 (ここに放射性物質は凝縮されてくる) は吸着剤を使ってろ過して
液肥として再利用し、最後の吸着剤は低レベル廃棄物として処分場で保管する。
残念ながら、ナタネでの吸収能は高くはなく、短期的な浄化は期待できない。
しかし裏作で栽培した作物 (麦類や蕎麦など) の汚染を防ぐ効果がある。
ナタネは連作できない作物だが、逆に、
ナタネ - 通常作物(小麦など) - トマトなど汚染しにくい作物 - ナタネ、
といった連作を組めば、除染 (食物への汚染防止) +エネルギー生産の体系が形成できる。
昨日の稲葉さんの話といい、今私たちが取り組もうとしていることは
単純な 「汚染対策」 ではなく、「復興」 プロジェクトなのだと思うのである。
これも復興から生まれるひとつのイノベーションだ。
続いて、ジェイラップ代表・伊藤俊彦さんからの報告。
341ほ場、約100ヘクタールの田んぼでの対策の実践とデータ取り。
一地域でこれだけのことをやった事例はない。
結果は、見事なものだ。
カリウムの効果が確かめられただけでなく、
伊藤さんはスウェーデンのデータまで引っ張ってきて、
森林への K(カリウム) 施肥の有効性まで説きだした。
「 森林へのK施肥は、植物および菌類への放射性 Cs 蓄積を低減するために
適切かつ有効な長期的措置であることを示唆している。」
また、耕起、代掻き、田植えと通常作業を行なった水田土壌の
深度別の放射性物質の分布を調べ、いくつかの考察が示された。
それは来年の代掻き時での実験に応用される。
綿密な汚染データ・マップからも、次年度の対策が検証されている。
これはジェイラップ・稲作研究会だけのものでなく、
地域全体にとっての貴重な道しるべだ。
取り組んだ対策を、すべてデータとして残していくことで、さらに仮説が検証され、
しっかりとした放射能対策技術が築かれてゆく。
農水省の方へ。
税金食いながら、「注目してます」 とか言ってる場合じゃないだろ。
支援の方法を考えてもらいたい。
国と地方自治体と民間の連携を、もっと強化できないものか、と思うのだ。
各種のゼオライト資材を前に意見交換する河田さんと伊藤さん。
脇でカメラを回しているのは、NHKさん。
収穫祭のときとまた違ったチームがやってきている。
測定室も見学する取材班。
集められた玄米サンプル。
現在、測定器は2台になった。
右の「 do 」シールが大地を守る会から、
そして左がカタログハウスさんからの提供 (貸し出し) 。
仲良く並んで、測定をバックアップしている。
データ取りは、まだまだ続くのである。
なお、大地を守る会のホームページでも、
この間の取り組みや伊藤さんからのメッセージがアップされていますので、
ぜひご参照ください。
http://www.daichi-m.co.jp/info/news/2011/1107_3251.html
機関誌 「NEWS だいちをまもる」 12月号もよかったら。
http://www.daichi-m.co.jp/blog/report/pdf/1112.pdf
また、ウクライナでの取り組みについて詳しく知りたい方は、
『チェルノブイリの菜の花畑から ~放射能汚染下の地域振興~』
(河田昌東・藤井絢子編著、創森社刊、本体価格1,600円)
がおススメです。
福島原発事故を受けての解説もあり、
巻末に挿入された 「チェルノブイリから福島へのメッセージ」 からは、
国際連帯の大切さが伝わってきます。