産地情報: 2012年6月アーカイブ

2012年6月26日

科学者国際会議と現場の知

 

23日(土) から昨日まで、二泊三日で福島を回ってきた。 

23~24日は、猪苗代にある 「ヴィラ イナワシロ」 にて、

『市民科学者国際会議』 に参加。

でもってその帰りの足で、須賀川の「ジェイラップ」を訪問。

代表の伊藤俊彦さんと、米の対策の現状確認と、これからの作戦会議。 

秘密の会議とか言いながら、所はばからず、お互いでかい声で

深夜まで語り合った。

 

「ヴィラ イナワシロ」 - ここに来るのは2年ぶり。

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2年前の 『有機農業フォーラム』 では、総料理長・山際博美さんの手による

地産地消の料理に感動したのだったが、山際さんは昨年独立されて、

あの美しい料理に出会うことができなかった。

それどころか無残にも変貌していて、正直言ってがっかり、のレベル。

今回は特に海外からたくさんのゲストが来られたのだから、

自然豊かな猪苗代の風景とともに、和の料理を堪能してもらいたかった。

短期間で準備を進めた実行委員会を責めるつもりは毛頭ない。

哲学を持った一人の料理人、こういう人の存在の大きさを、

改めて実感した次第である。

 

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さて、『市民科学者国際会議』 。 

3.11以降、放射能汚染と被曝の影響を最小限にすべく取り組んできた

科学者と市民が一堂に会し、内部被曝の知見を持ちより、

放射線防護のあり方や今後の方向性について語り合う。

科学を市民の手に、市民のための科学を、そんな視点を共有する人々が

ヨーロッパ各国から、そして日本から集まった。

 

会場内での撮影や録音は禁じられたので、写真はなし。

丸二日間の会議内容は多岐にわたり、ここではとても整理し切れない。

いずれ細切れにでも触れてゆくことで、ご容赦願いたい。

概要は特設WEBサイトにて ⇒ www.csrp.jp

 


ここで僕の勝手な印象に基づく全体的な共通認識をまとめてみれば、

1.「(生涯被ばく量が) 100ミリシーベルト以下であれば人体への影響はない」

  という国際基準は、内部被曝の影響を極めて過小評価しており、

  核や原発を推進する立場からの、政治的な判断である。

2.低線量被曝の影響の大きさを示唆するデータはいくつも出てきているが、

  科学的エビデンス(因果関係の立証) を求められているうちに、

  たくさんの被害が抹殺されていっている。

3.放射能による健康危害はガンだけでなく、

  様々な疾病との関連から精神的影響まで、幅広く考えなければならない。

4.福島での国の対策は非常にお粗末なものであり、今も遅れたままである。

  救いは、民間レベルで必死の対策が取られてきたこと。

  医療や健康相談などでもたくさんの医師がボランティア的に支えていること。

  (その裏返しとして、国への厳しい批判や怒りの言動となって表われる。)

 

今回の座長を務められた

ドイツ放射線防護協会のセバスチャン・プフルークバイル博士が、

最後のまとめで語った言葉。

「(内部被曝に対する) 過大評価と過小評価の、両極端を乗り越える

 新しい方向に向かわなければならない。」

 

過小評価には 「そうしたいから」 という意図があり、

それが真実であったとするなら、「それはよかったですね」 ですむのだが、

逆の結果が明らかになってきた場合に対処できない恐れがある。

被害や影響は多少過大に見積もって、そこから対策を考えることで、

被害を抑えることができる。

ここに 「予防原則」 の意味がある。

 

福島県内から参加された方、あるいは福島から避難したという方々には、

科学者の厳密な論争はストレス以外の何物でもなかったようだ。

「あなた方は (福島の現状を前に) いったい何を議論しているのか!」

といった声が上がった。

手弁当でここまで来られた科学者や医者に向かって失礼な罵声だとは思ったが、

行政の対応などにイラ立ちながら暮らす人々からの、

切実な期待なんだと受け止めてもらうしかない。

 

科学と市民は、いつだって彼岸で対峙しているわけではない。

科学者が対立している間にも、その狭間で日々判断しながら暮らしている。

長い時間をかけて立証される疫学調査の、

結果が出るまで思考を停止しているわけでもなく、

疫学的思考は科学者だけが行なっているわけでもない。

市民は市民なりに  " 科学している "  のである。

科学者はそのレベルをよく理解して、知の橋渡しをする必要がある。

科学の言う  " リスクコミュニケーション "  がうまくいかない時というのは、

だいたい初動から相手を理解できていないことが多い。

 

報告の中で驚いたことは、

フランスで福島由来と判断されたヨウ素131が検出されていたという事実。

私たちが思っているよりずっと、外国は事態を冷静に分析していて、

僕らは本当に事実がちゃんと知らされているのだろうか、

という不安が捨てきれない。 このことこそが問題だ。

 

かたや、徹底的に事実を自分たちのモノにしたいと、

測定器を届けた途端に、何から何まで測り始めたジェイラップの生産者たち。

彼らは今、自分たちの土地の状態を、誰よりも把握している。

 

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学者も舌を巻いた、汚染MAP。

これをもとに対策を立て、今年はもっと高みを目指す。

 

本邦初公開。 田んぼごとの土質のマッピング。 

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土質の違いによる養分吸収力も把握し、適正な施肥設計を立ててゆく、

というのが本来の目的だったはずだが、

これが放射能対策にも活かされることになる。

 

考えられるだけ考え抜いて、とにかく、実践する。

結果は何らかの形で、その行為に反応してくる。

伊藤さんはほとんど仮説に基づいて動く実践主義者なのだが、

僕はこれこそ科学者の資質だと思ったりするのである。

 

一人田んぼを見つめる伊藤俊彦がいる(左端の畦の上)。

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今年の成果が、思った通り! となるかどうかは、まだ判らない。

 

伊藤さんとの秘密会議の内容は、秘密です。

 



2012年6月16日

エネルギーを語る 梅

 

『 キャンドルナイト @ 増上寺 』 の日。

大飯原発再稼動決定の報道をカーラジオで聴きながら、

群馬・高崎へと走る。 いや、榛名町へ、と本当は言いたい。

市町村合併は、どうも日本人から土地感覚を奪っていくような気がしてならない。

住所から榛名の文字は消えたけど、

やっぱ僕としては、高崎ではなく、榛名に向かっている、と言いたい。

 

榛名で訪ねたのは、梅の湯浅農園さん(代表:湯浅直樹さん) 。

無農薬で梅を栽培し、加工まで行なう。

かつ湯浅さんの自慢は、

太陽光発電をベースにしたエネルギー自給率の高さである。

 

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湯浅太陽光 「発電所」 と掲げるところに、湯浅さんの哲学がある。

太陽光発電によってハウス照明や保冷庫の電気を自給し、

電気自動車やフォークリフトを走らせている。

電力会社への売電では、昨年45万円の収益があった。

太陽熱温水システムでお風呂のお湯をまかなっている。

梅の剪定枝や間伐材などを利用した薪ボイラーによって冬の暖房を乗り切る。

バイオマスならぬ  " バイオモス (燃す) "  と湯浅さんは名づけている。

 

その上にある 「榛名町きのこ生産組合 上神支部」 は、

昨年、地域内のシイタケから基準値を超える放射能が検出されたことによって

地域全体が出荷自粛となり、ついに解散となった。

この問題の厄介なところは、今年たとえ 「不検出」 の結果を得たところで、

販売が元に戻る保証がない、という闇の中に置かれることだ。

この地域に対する評価を挽回するのにどれだけの時間がかかるのか、

誰にも見えない中、それに耐えるだけの体力 (経済力) が続かない、

と判断されての解散・・・ と聞かされた。

 

中山間地農業の経営における重要な柱がひとつ、折れてしまった。

電力会社からの補償は、シイタケ販売での1年の損失補てんだけ。

当地のシイタケの原木は、今も放置されたままだ。

地域資源の循環回復にこそ、

国や電力会社は責任を持たなければならないのではないだろうか。

まるで補償金という名の手切れ金みたいで、腹の底から怒りがこみ上げてくる。

 

シイタケでの出荷規制についても、僕は言いたいことがある。

昨年の事故直後での汚染による影響はともかくとして、

今そしてこれからは原木の除染が鍵となるだろう。 由来は原木なのだ。

基準を超えたシイタケが発生した地域をまるごと出荷停止にするという

「地域」 を単位にした隔離政策のような対症療法ではなく、

徹底した原木のトレース(出自を明確にし検査を徹底する) と浄化を実施し、

その安全性を確かめた原木で栽培されたものを供給する、

というシステムづくりに向かうことが、適切な施策というものではないか。

 

ナラ・クヌギなどのホダ木をシイタケ栽培の原木として使用する際には、

一度水に漬ける(浸漬) 工程がある。

ここでセシウムの除去試験をいろんな形で実施することを提唱したい。

(高圧洗浄機での洗浄では、40%程度セシウムが低減することが分かっている。)

 

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湯浅さんが太陽光発電システムを導入したのは、

阪神淡路大震災の翌年、96年からである。

震災の時、湯浅さんは

自身が理事を務める 「日本青年団協議会」 の視察団メンバーとして韓国にいた。

「食糧もエネルギーも輸入に頼っている日本の危うさ」 を、

外国にいて強く感じたという。

 

今日、湯浅さんを訪ねることになったのは、

梅の収穫までに訪問するという約束を果たしておきたかったことに加えて、

この日にひと組の消費者が千葉から梅の収穫のお手伝いに来る、

ということもあった。

一緒に話を聞かせてもらえば湯浅さんの手間も省けるだろう。

合わせて、湯浅さんが心待ちにしている一枚の紙、

放射能検査結果の通知書を持参した。

測定結果は 「 ND (不検出/検出限界値10Bq)」。

まずはひと安心。 湯浅さんの安堵した顔が見れて、こちらもホッとする。

 

収穫作業を楽しむ親子。 

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収穫した梅を、キズものを取り除きながら、

サイズによって選別する。 

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この日の梅酒用青梅の出荷先は有機野菜の宅配会社、

業界では老舗と言われる 「大地を守る会」 というところに、40 ㎏。

まだ昨年からの影響が残っている。 厳しい数字だ。

( なお、袋の口を閉じるテーピングが下手なのが届きましたら、

 それは大地を守る会のエビスダニという人のせいだそうです。)

 

お昼を食べた後しばし、湯浅さんの栽培へのこだわりや、

自然エネルギーへの取り組みなどを聞かせてもらう。 

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湯浅さんのテーマは、徹底した自給自足。

電気機器メーカーに16年勤めて家業を継いだ時から築いてきた。

有機農業によって 「食」 を自給する。

深井戸を掘り 「水」 を自給する。

そして 「エネルギー」 の自給を達成させる。

それは自ずと自然を汚染させない生き方とリンクするものとなる。

 

原発事故は、彼の目指す体系の糸を断ち切るものに他ならなかった。

怒りや悔しさは収まるものではないが、敗北はもっと悔しい。

完全自給システムの完成に向けて、湯浅さんの挑戦は続く。

 

大地を守る会でも、自然再生エネルギー社会の建設に向けて

提案型のプランを模索している。

湯浅さんの挑戦は、僕らにとっても一つのモデルとなる。

何かしら支援の形を考えたいと思う。

 

自然塩にもこだわる湯浅農園の梅はしょっぱい、昔梅干しの味がする。

夢への意思がぎゅうぎゅうに詰まった梅だね。

春の低温がたたり、今年の梅の収穫量は平年の半分くらい。

彼の心中は、去年からずっと梅雨の真っただ中にある。

 

いつか、梅雨は明ける。

その時に歓喜の雄叫びを上げるためには、ただ待つのでなく、

意思を持って進まなければならない。

耐えるんじゃない、鍛えるんだ。

 

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2012年6月15日

レンコン産地を守る " 7人の侍 " に

 

今日は、茨城は土浦にやってきた。

大地を守る会が契約しているレンコンの生産者たちに集まってもらって、

放射能対策の会議を開く。

 

レンコンは田んぼでの栽培だから、当然水が入る、しかもたっぷりと。

川は山からいろんな養分を運んできてくれるが、

いま気をつけなければならないのは放射性物質の移動である。

どう推移するかは予断を許さない。

漠とした不安を抱きながら過ごすより、しっかり現実を捉えながら、

できれば先手を打ってガードしておきたい。

 

古くからのお付き合いである 「常総センター」 の加工施設 「北斗の会」 事務所に、

レンコン契約農家7名全員が集まってくれた。

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我が方からは、これからの経過観察で協力をお願いした上田昌文さん

(NPO法人市民科学研究室代表)と、

対策資材の検討をお願いした資材メーカーの方をお連れした。

 


昨年の測定では、セシウムが微量ながらも検出された所と、

まったくされなかった所がある。

どうも水系や場所によって違いがある。

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そこで、全員の蓮田の位置を確認し、昨年のデータを突き合わせて、

これからの継続的測定を実施する場所を検討する。

そこで土と水の状態を確かめ、入ってくる水を継続的に測定する。

またセシウムを吸着する資材を選択し、施用して、比較試験を行なう。

合い言葉は、「今年のレンコンからはゼッタイに検出させない」。

 

 

人によっては、こういう対策や測定を行なうこと自体、

まるで汚染されているみたいに映って、また風評被害を生む、

という懸念を示す生産者もいる。 

しかし、現実をベールにくるんで 「安全」 を標ぼうすることはできないし、

ひとたび予想を超える事実が発覚した際に (それは想定外ではないはずだが)、

" 対策がとられていない "  ということのほうがずっとヤバイ。

それは昨年の経験で痛いほど感じたはずだ。

 

食べる人の健康に責任を持ちたい、

そう願う生産者であれば、現実に立ち向かっていくしかない。

声をかければ、「待ってたよ~、エビスダニ君」 と言って

一斉に集まってくれる生産者を持っていることは、誇りにしたい。

 

「よし、やろう。 良いもんなら試してみよう。 もっとデータがほしいな」

と常総センター代表・桜井義男さんは反応し、みんなにハッパをかけてくれる。

僕も、ゼッタイに成果を上げて見せたい、と決意を新たにするのである。

 

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この対策は、7人の農家のためだけではない。

秋になって、この一大産地に悲劇が起きてはならないのだ。

この地域を守る  " 7人の侍 "  になったくらいの気分でいきましょう。

人智を尽くし、胸を張って、美味しいレンコンの収穫を迎えたいと、切に思う。

 



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