エビ版「おコメ大百科」: 2009年6月アーカイブ

2009年6月27日

定款変更

 

今日は 「稲作体験2009」 の第1回草取りの日なんだけど、

立場上のプレッシャーも受けて、株式会社大地を守る会の株主総会に

出席することになってしまった。

早々に委任状 (正確には 「議決権行使書」 ) を出していたのに、ちぇ!

 

今日は田んぼの写真が撮れないので、自分の放置田の写真を撮ってみた。

放置田? 耕作放棄という意味じゃなく、放ったらかしているプランターのこと。

5月17日の田植えで余った苗を持ち帰って、二つのプランターに植えたのだが、

一つのほうが水漏れ防止が弱くて貯まらないもんだから、畑状態になってしまう。 

そこで途中から実験気分になって、水だけは補給しながら放置してみた。

 

常に水がひたひたの田んぼ。 草取りもしていない。

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こちらは、水が抜けてしまう田んぼ。

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想像以上に、えらい差が出てしまった。

苗も弱く、株数も少ない。

 

実はこれぞ、田んぼの要諦 (ようてい) なんだよね。

 


田んぼの草取りはしんどい作業だけど、それでも畑より草の種類は少ないのだ。

水を張ることによって陸生の雑草は生えなくさせることができる。

水生雑草は繁茂するけど、泥水状態だから草は抜きやすい。

豊富な水と一緒に生きてきた人々が、自然をちょっと変えて作り上げた

最高の食糧生産装置だと思うのである。

 

これに、苗を育てた後に移植する技術 (田植え) を加えると、

これから伸びてくる草よりは土壌の栄養吸収の競争力を優位にさせる。

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上の右の写真ですら、勢い (=生産力) は弱いけど、

決して草に負けているわけではない。

 

さて-

体験田で、みんながワイワイガヤガヤと楽しく (しんどく) 草取りに熱中している間、

僕は幕張の会議室で、淡々と過ぎる株主総会の議題に付き合っている。

でも今回は、つまらない、なんて言ってはいけないこともあったので、

稲作体験のスタッフ諸君には許してほしい。

会社としての重要な意味を持つ定款変更が、議案として提出されていたのだから。

 

会社の定款に、以下の前文を新設する。

 

  株式会社大地を守る会は、「大地を守る会」 の理念と理想である

  「自然環境に調和した、生命を大切にする社会の実現」 をめざす社会的企業として、

  株式会社としてのあらゆる事業活動を、「日本の第一次産業を守り育てること」、

  「人々の生命と健康を守ること」、そして 「持続可能な社会を創造すること」、

  という社会的使命を果たすために展開する。

 

一年前、会社名を (株)大地から (株)大地を守る会 に変更して

迎えた最初の株主総会で、憲法の前文に相当する文章を定款に加えた。

かなり異色の定款ができたと思う。

これから、わが社のすべての事業はこの " 縛り " を受けることになる。

この仕掛けの意味を、職員諸君は肝に銘ずるべし。

この会社を、ゼッタイにヘタらせない決意の表明なんだからね。

 

今回はもうひとつ、「優先株主」 なるものの新設が提起され、

これも承認されて、株主総会は大きな問題なく終了することができた。

 

でもまあ、田んぼのほうが好きだな、やっぱし。

昨日の、米の生産者会議の解散前に立ち寄った公園には、

紫陽花が咲き誇っていた。

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あ~あ、今年は小金井の阪本吉五郎さん宅のあじさい鑑賞会にも行けなかったなあ。

急いた気分で生きていると、思わぬ失敗もするぞ、とか

花を見つめながら思うのだった。

 



2009年6月26日

有機農業は進化する -米の生産者会議から

 

昨日から2日間、今年で13回目となった 「全国米生産者会議」 を開催する。

大地を守る会の米の生産者たちによる、年に一回の技術研修と交流を兼ねた集まり。

今回の開催地は福島。 幹事はやまろく米出荷協議会さん。

まずは郡山にある福島県農業総合センターという県の研究拠点に集合する。

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「金かけてるなあ...」 といった声もあがるほど立派な研究施設だ。

福島は有機農産物の認証費用を助成する制度をいち早くつくった県で、

このセンターにも 「有機農業推進室」 というどっかで聞いたような部署ができ

 (ウチに挨拶もなく・・・ )、

有機農業の先進県たらんとする意気込みは出ている。

 

幹事団体として挨拶する、やまろく米出荷協議会会長、加藤和雄さん。 

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やまろくさんとのお付き合いも20年近くなる。

" 平成の大冷害 " と言われた1993年。 米の価格が一気に暴騰した時、

これまで支えてくれた取引先や消費者こそ大事だと、

周りの価格に惑わされず我々に米を出し続けてくれた気骨ある団体。

そういう意味では、大地の生産者はみんな強いポリシーの持ち主たちで、

これは我々の誇りでもある。

 


今回は、お二人の研究者に発表をお願いした。

一人は、福島県農業総合センターの主任研究員、二瓶直登さん。 

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テーマは、「アミノ酸を中心とした有機態窒素の養分供給過程」。

 

植物生長に欠かせない成分であるチッソは、硝酸やアンモニアなど無機態チッソ

となって吸収される、というのがこれまでの一般的な理論である。

有機栽培で投入される有機質肥料は、土壌中で微生物によって分解されるが、

多くは腐植物質やタンパク質、アミノ酸態となって存在していて、

これらは無機態チッソへと進まないと植物には吸収されない、と思われがちだった。

化学肥料 (化学的に合成された無機肥料) なら速攻で必要な養分供給ができる。

と考えるなら、化学肥料でよいではないか、となるのだが、

では化学肥料より有機栽培の方が強健に育つという現象があるのは、何によるのか。

実は作物は有機態チッソも直接吸収しているわけなんだけど、

二瓶氏はこの実態をきちんと突き止めようとしたのである。

 

二瓶氏は、有機態チッソの最小単位である20種類のアミノ酸を使って、

それぞれの吸収過程を解析することで、

「アミノ酸は作物の根から、たしかに吸われている」 ことを証明して見せたのだ。

特にグルタミンの吸収がよく、無機態チッソ以上の生育を示したという。

 

これは、これまで有機の世界で語られていた次の理論を裏づける

一つの研究成果となった。

すなわち、植物は、光合成によってつくられた炭水化物と根から吸収された無機態チッソ

を使ってアミノ酸を合成するが、アミノ酸そのものが根から吸収されているとすれば、

植物体内でアミノ酸をつくるエネルギー消費が省略でき、

それによって生育が旺盛になると考えられる。 

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この研究は、これまで農家の経験の積み重ねをベースに進んできた

有機農業の理論を、確実に後押しするものと言える。

そんなことも分かってなかったのか、と思われる方もおられようが、

「植物は基本的に無機物を吸収して育つ」 という原理を

リービッヒというドイツの化学者が見つけて以来、約170年にわたって、

農業科学は無機の研究と化学肥料の開発に力点が注がれてきたのである。

 

ともすると観念論的に見られた有機農業の深~い世界が、

研究者たちが参画してきたことによって、ようやく謎が解かれ始めている。

有機農業理論は、これから本格的に花が開く段階に来たんだと言えるだろうか。

二瓶氏は、「この研究成果は、科学的根拠に基づいた有機質肥料の施用法に向けての、

まだ端緒でしかない」 と語る。

さらなる研究に期待したいところである。

 

続いては、東北農業研究センターの長谷川浩さん。

専門家たちが中心になって結成した 「有機農業学会」 の事務局長も務める研究者だ。

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テーマは、「水稲有機栽培における抑草技術について」。

 

健康な作物づくり、安定した生態系の構築、を土台として

有機栽培技術の基本構成要素を整理して、それぞれでの研究を進め、

自然を生かす総合技術体系として確立させたい。

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湿田では湿田の、乾田では乾田の管理の考え方と技術がある。

これまで様々な対策理論や民間技術が生まれてきたが、

それらをきちんと検証しながら、多様な気象、土壌、地形、水利条件に対応した

抑草技術にしていかなければならない。

雑草対策だけの話ではなく、有機農業の総合理論の中で考えるという、大きな話になった。

 

4年前に有機農業推進法ができてから、

全国で100人を超す研究者が有機の研究に入ったと言われる。

今回のお二人の講演は、有機農業学がこれから一気に深化するという勢いを

感じさせてくれるものだった。

オーガニック革命は、いまも目の前で進んでいるのだ。 

研究者諸君、税金の無駄遣いとか言うのはしばらく控えるので、頑張ってくれたまえ。

 

続いて現場に、なんだけど、講演の話を予想外に長く書いてしまった。

疲れたので、この項続く、とさせていただき、今日はここまで。

 



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