田んぼの生物多様性: 2009年3月アーカイブ

2009年3月23日

ジオラマ・ビオトープ ‐ 主張する生命

 

3月9日の日記で紹介した 「米プロジェクト21」 作-自称 「ジオラマ・ビオトープ」。

東京集会で展示したあと、幕張に持ち帰って20日あまり。

大人しく調和してくれていると思っていたら、ここにきて

それぞれに自己主張をし始めた。

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日差しも強くなってきて、一気に繁茂してきたエンツァイにクレソン。

セリは逆に弱ってきている。

ちっちゃな生態系の中でも、生存競争はあるのだった。

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動物の世界では、メダカの前にタニシの繁殖が始まった。

カイエビのような小動物が一時発生したのだけど、見えなくなった。

タニシも、クレソンも間引きしなければならない。

ここでの間引きとは =「食べる」 で挑戦しなければと思っていたのだが・・・さて。

 


太陽に向かって伸びるエンツァイ。 

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クレソンは四方に伸びようとする。

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メダカやタニシが遊ぶもんで、

水中に浮いたままのクワイまで芽を伸ばしてきた。 

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こんな水槽の中にもそれぞれの営みがあって、しかも微妙な競争と共存がある。

しかも水は濁らず、環境が汚れることがない。

おそるべし生態系というヤツだ。

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そんな生命の活動に怖れをなしつつ、反応するメダカに愛着は増し、

職員の視線を気にしつつ、餌をやりにゆく私。

 



2009年3月11日

田んぼの生物多様性を表現する

 

大地を守る東京集会のレポートも終えたところで、

拾い切れなかったいくつかの話題を、書き残しておきたいと思う。

おそらくとびとびでの報告になると思うけど。

 

2月21日(土)、大手町・JAビル大ホールにて、

田んぼの生物多様性の新しい表現のためのシンポジウム

が開かれた。

朝から夕方までのプログラムで、僕はちょっと厳しかったのだけど、

「田んぼの生きもの指標」 が完成した記念のシンポジウムであり、

またその 「指標」 が手に入るということもあって、午後から参加することにした。

 

参加者はおおよそ400人。

研究者、生産者、有機農業や自然保護関係の団体の方、NPO団体、消費者

・・・・けっこう入っている。

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「田んぼの生きもの指標」 とは、

「田んぼの生物多様性」 の状態を調べ、

その豊かさを認識するための 「指標」 という意味で、

「指標」 とは、田んぼ (およびその周辺、それを水田生態系と呼ぶ) に

その生物がいることが何を意味するのかを指し示すための、

いわば 「新しい図鑑」 である。 正確に言えば、新しい図鑑への 「挑戦」 である。

 

私たちは、この 「指標」 を持つことによって、「田んぼの豊かさ」 や 「その力」 を、

もう一歩具体的に表現できる道具を得たことになるのだ。


「指標」 を発行したNPO法人 「農と自然の研究所」 代表の、宇根豊さん。

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研究所を設立して8年だけど、そのはるか以前 (20年以上前) に、

宇根さんや、今回の 「指標」作成企画委員長の昆虫学者・桐谷圭治さん が、

田んぼにはたくさんの 「ただの虫」 (害虫でも益虫でもない、ただの虫) がいる、

という概念を世に出してから、実はこの作業は始まっていたと言えるだろう。

 

宇根さんはずっと、田んぼの豊かさと百姓仕事 (農業技術) のつながりを、

多種多様な生き物の存在とともに表現する道筋を丹念に築き上げてきた。

それは、虫の存在を確かめ、ひとつひとつ同定する、

つまり 「名前で呼ぶ」 作業の積み重ねとともにあった。

 

しかし 「指標」 づくりという作業には、それだけではなく、

とてつもない労力が土台として求められた。

土台を整理したのが、桐谷圭治さんを中心とする15人の研究者・専門家である。

水田生態系に棲む生きものの全種リストが作成されたのだ。

その数、6147種。

内訳は、昆虫3173、クモ・ダニ類141、両生類・爬虫類59、魚類・貝類188、

甲殻類など44、線虫・ミミズなど94、鳥類175、哺乳類45、原生生物828、

双子葉植物1192、単子葉植物501、シダコケ類248、菌類206。

 

これを基に、「田んぼの生物多様性指標」 となる生き物237種が抽出され、

それぞれに、生息している意味、生活サイクル、他の生きものとの関係、

農業との関係、人間との関係、が指標軸として表わされた。

私たちが、地域の田んぼと周辺も含めた水田生態系を評価することができる

「指標」-第1案-の完成、である。

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例えば、エントリー№1 -「トビムシ類」 の解説から。

 ・枯れた下葉やワラを食べるので、土づくりの指標になる。

  田んぼでは、ユスリ蚊と並んでもっとも密度が高い 「ただの虫」 の代表。

 ・ワラを食べてくれる田んぼの物質循環の重要な立役者なのに、

    その存在は 「虫見版」 の登場まで百姓には知られていなかった。

    未だに全国的に種の同定も含めた調査研究はなされていない。

 ・アリストテレスの著書 「Historia animalium」 にも記述されており、

  これがトビムシの最初の文書記録である。 この頃、日本では稲作が始まった。

 

例えば、エントリー№92 -「キアゲハ」。 田んぼに黄アゲハ?と思われるだろうか。

 ・日本人に親しまれたアゲハチョウが田んぼでも生まれていることは、意外な指標になる。

 ・田んぼのセリを幼虫が食べる。 また田んぼの畦では目立つ蝶で、彼岸花にもよく訪れる。

  田んぼの生物多様性を象徴する指標になる。

 

セリを食べることで、「セリを抑制する」 と書かれているが、

キアゲハが飛んでいるということは、畦にセリがいる、とも解釈できる。

畦の雑草にも、意味がある。

 

俳句の紹介もところどころにある。

  代掻けばおどけよろこび源五郎 (富安風生)

  白露の蜘蛛の囲そこにここにかな (高浜虚子)

クモの張る網を意味する蜘蛛の囲(い)は夏の季語、とある。

田んぼで育まれた日本人の感性にまで触れられる、これはもう読み物である。

 

僕らが続けてきた千葉・さんぶでの 「稲作体験」 の田んぼの生き物リストは、

昨年時点で計150種。 

これらの意味も、ひとつひとつ確かめていきたい、と改めて思う。

 

「農業の生産物は、農産物だけではない。 環境も作ってきたとですよ。

 私たち百姓がつくり変えた自然は、こんなに豊かなんだ。

 そういうことを、もっと百姓は語る力を持たんといかんのではないでしょうか。」

宇根節、炸裂。

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気合が入っている。

 

これは、新しい自然観をつかまえる作業のようだ。

その自然には、ヒトの営みも織り込まれていて-。

 

ちなみに、エントリー№221には、哺乳類の一種として 「ヒト」 がリストアップされている。

「自らが発明した農業へのままざしは、現在では見事に分裂してしまった。

 農業を近代化に遅れた産業と位置づける勢力と、

 近代化できないところに農業の価値を見いだそうとしている思想勢力がある。

 この対立はやがて、後者の勝利で幕を閉じるだろうが、

 前者の抵抗はまだまだ10年は続くだろう。」

絶滅危惧種に指定している都道府県は、まだゼロ、とのこと。

 

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このリストを参考に、地域の指標が作られれば、それはその地域の財産目録になる。

そして、その生き物に注がれた " まなざし " を表現できれば、

地域の文化は豊かになる。

 

その " 生へのまなざし " を、田んぼから力強く表現することで、

貧しくあった近代化農業の思想を超える。

それを早く獲得しなければならない。

宇根さんのアジテーションは、僕には彼の焦り、" いら立ち " のようにも聞こえた。

でも宇根さんは、充分に語ってくれている。

問題は、この指標を使いこなす科学的思考の発展と、

そして文学が必要だ。

 



2009年3月 9日

21階のビオトープ

 

3月2日(月)。 東京集会が終わって、幕張本社で荷物の整理を行なう。

厄介なものを持ち帰ってしまった。

メダカである。 

 

専門委員会 「米プロジェクト21」 (略称:米プロ) のブースで展示した

" 家庭でできる水田ビオトープ "  のジオラマ。

作ってくれた米プロ・メンバーの生き物博士、陶武利さんの、

「幕張 (大地本社) で飼ってみますか? 癒しになりますよ」

の言葉に乗せられて、水と一緒に袋に入れたまま梱包してしまったのだった。

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祭りのあとのけだるさに浸っている場合ではない。

荷物の中から、生き物が出てきたのだから。

 

急いで水槽を作り直して、メダカを放す。 元気に泳いでくれて、胸をなでおろす。

大地の浄水器の力にも助けられた。

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この、 『ジオラマ・ビオトープ』 と名づけた水槽の世界は、その名の通り、

ひとつの生態系としてつくられている。


ただメダカを飼うのではない。

砂利をネットでくるんで岩場をこしらえ、それを足場として植物を生やす。

ここで採用したのは、セリにエンツァイ。 つまりヒトの食用になるもの。

セリは田んぼの畦に生えている春の七草。

エンツァイ (空心菜) は生育旺盛な野菜で、水中に伸びた根はメダカの産卵場になり、

水上を覆えば水温上昇の防止効果を発揮してくれる。

伸びた分は収穫して食べる。 夏場の鉄分補給に最適の野菜である。

収穫することで水の浄化にもつながる。

メダカの学名 Oryzias latipes は、イネの学名 Oryza と重なる。  

田んぼと一緒に生きてきたのだ。

ボウフラやミジンコ、イトミミズを餌とする。 糞は肥料になる。

まさに水田生態系の申し子である。

それが今は絶滅が危惧される命となってしまった。

このことが何を意味するか、ヒトは考えなければならない。

 

水槽をしつらえたあと、ここからが無精者の真骨頂である。

ずっと水を替えなくてもいいように、さらに生態系の完成度を上げてみた。

まず、群馬からタニシを取り寄せた。

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手に入ったのはヒメタニシという小ぶりのタニシ。

餌の残渣やメダカの糞を処理してくれる、はず。

続いて、熱帯魚屋を探して、水生植物を2種買い求める。

入れてみたのはマツモ(上の写真) と、とちかがみ (フロッグ・ビット、下の写真の浮草) 。

これらが、生物が放出する二酸化炭素を吸収して酸素を供給してくれる、はず。

 

これで水は濁らず、足すだけで持続可能となる、はず。

エアレーション (電気) にも頼らず、生命の循環が助け合って。

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5月の田植えまで生き延びてくれれば、ここに稲を植える。

生き物の循環の中で、米と野菜が手に入る、田んぼの生態系 (ビオトープ) の完成、

となるはず。

 

どうも毎日気になって仕方がなくなる。 

心なしか、餌をやりにくると、メダカが水面に顔を出すようになったような・・・・

しかし、ヒトの手で餌をやり過ぎてはいけない。 濁りの原因となる。

これは生態系の、鉄則なのだ。

 

すっかり陶くんにやれらたか。 

 



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