田んぼの生物多様性: 2009年12月アーカイブ

2009年12月19日

「環境創造型」 農業

 

宮城県北、栗原市と登米市にまたがる日本初のラムサール登録湿地、

伊豆沼と内沼地域。 

晩秋の頃になると、ここにたくさんのマガンやハクチョウが舞い降りてくる。

北の大陸から日本に渡ってくるマガンの、何と8割がここで越冬する。 

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冷たい風に雪がチラチラと舞う冬の伊豆沼。

 

その伊豆沼を見下ろす高台に建てられたサンクチュアリセンター。 

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館内には、伊豆沼・内沼周辺の環境や野鳥に関する様々な資料が展示されている。 

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ここの会議室で今日、「環境創造型農業勉強会」 なる集まりが開かれた。

 


勉強会を主催したのは 「ナマズのがっこう」 という団体。 

「農業と自然環境の共生」 を掲げて6年前に結成され、

魚が水路から田んぼに遡上できる水田魚道の開発や、

冬水田んぼと有機栽培による米づくり、環境教育プログラムの実施、

希少生物種の保全などに取り組んできた。

事務局長の三塚牧夫さんは県の職員として勤務する傍ら、

有機栽培で米も作っていて、田には魚道を設置し、天日乾燥で仕上げたコシヒカリを、

蕪栗米生産組合(代表:千葉孝志さん) を通じて、大地を守る会に出荷してくれている。 

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先日(12月8日付) 掲載した蕪栗米生産組合の写真、左から二人目が三塚牧夫さん。

後ろに設置されているのが魚道。 この道を辿って魚たちが田んぼに入り、

生物相の豊かな田んぼを構成してくれる。 

 

当地には、水田環境と生物多様性を語る際に欠かせない、二人の先生がいる。

「NPO法人 たんぼ」 理事長の岩淵成紀さんと、「日本雁を保護する会」 会長の呉地正行さんだ。

2005年、伊豆沼から10キロほど南に位置する蕪栗沼と周辺水田を

ラムサール条約に登録させた立役者とも言える二人である。

この二人を囲んで地元で勉強会を開けるというのが、ここの地域の強みだね。

いや、この地だからこそ、こういう人が輩出したとも言える。

まさに 「この地が生んだ-」 ってやつか。

 

会場に着いたのがお昼近くだったので、

冒頭に行なわれた岩淵さんの基調講演は聞けなかったのだが、

レジュメを開けば、「生物多様性の概念に基づく なつかしい未来へ」

なる言葉が目に飛び込んできて、氏が提唱してきた田んぼの生き物調査や冬水田んぼが、

ますます進化してきていることが窺える。 格調も一段と増してきている。

 

午前中は岩淵さんの講演のほか、岩手大学と東北大学がそれぞれに行なった

冬期湛水(冬水田んぼ) における生物多様性と栽培技術の状況調査報告がされた。

ここでも有機の課題は、カメムシと雑草であった。

 

午後の部の基調講演は呉地正行さん。

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雁を保護する意味から、なんで田んぼなのか、これからの方向など、

時間を相当にオーバーして、熱っぽく展開された。

二人合わせて1時間の超過。 岩淵・呉地ご両人の情熱は増すばかりだ。

 

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ガンは環境変化に対するセンサーであり、

豊かな水辺環境がないと生きてゆけない。 

しかも月平均 0度以上の気温というのが休息地のラインで、

宮城県はそういう意味で重要な地域なのだが、

県内にたくさんあった湖沼も、この100年で92%が消えてしまった。

周辺水田が切り札になっている意味が、ここにある。

 

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田んぼの持っているポテンシャルが、未来の鍵を握っているのだ。

「環境創造」 型農業と銘うった意味が、ここにある。

 

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最後に4名の方からの実践報告。

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うち3名は、蕪栗米生産組合のメンバーだ。

伊豆沼冬水田んぼ倶楽部会長・高橋吉郎さん (上の田んぼでの写真の左端の方)。

同会員の佐々木弘樹さん (同右端の方)。 亡くなったお父さんが初代の会長で

勤めを持ちつつ、父の遺志を継いで冬水田んぼにも取り組んでくれている。

そして千葉孝志さん。

 

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いま千葉さんは20町歩(=ha) の田んぼのうち18町歩を無農薬・有機でやっている。

これまでご自身が挑戦してきた米づくりの歴史をたどりながら、

先日紹介した、太陽エネルギーを使って井戸から水を引くという新しい試みも報告された。

「冬水田んぼもちゃんとした考えと技術が必要で、テキトーにやってはいけない」 と、

手厳しいコメントも、なかなか迫力のあるものだった。

 

今日の会は地域での勉強会だったのだが、

何と、石川県の橋詰善庸(よしのぶ) さんや

新潟・加茂有機米生産組合のスタッフ・大竹直人さんも参加されていて、

他県からの参加者ということでコメントを求められた。

僕も 「大地を守る会の生産者の勉強意欲はすごいでしょ」 なんて自慢したりして。

でも、間違ってはいない。 みんな、なかなかすごいです。

 



2009年12月 8日

"冬みず田んぼ" に、太陽光パネル!

 

宮城県大崎市 「蕪栗(かぶくり)米生産組合」代表の

千葉孝志(こうし) さんから電話が入る。

こちらから紹介していた太陽光発電の会社の人が今日、千葉さんを訪ねていて、

その報告である。

「話を聞いて、やることに決めました。 年内のうちに工事に入りますから。」

 

オオーッ! 即決! 大丈夫?

「大丈夫でしょう。 これで何とか冬のうちに水が張れそうかな。」

 

千葉さんの地域、旧田尻町にある蕪栗沼とその周辺の水田地帯が、

渡り鳥が休息するための貴重な湿地帯として

ラムサール条約に登録されたのは4年前のこと。

千葉さんはその前から有機栽培での米づくりをやりながら、

冬にも田んぼに水を張って、" 渡り鳥のための田んぼ "  にしてきた。

鳥たちはただ田んぼで餌を取るだけでなく、田を肥やす養分を残していってくれる。

 

千葉さんの田んぼにたむろするハクチョウたち。

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2年前に撮ったものだが、多少警戒しつつも、そばまで近づいても逃げないのだった。

 


そしてこの冬、千葉さんは用水から水を引くことのできない田んぼ用に、

新たに井戸を掘ろうという計画を立てた。 

しかも井戸水を汲み上げて田んぼに流す動力源として、

太陽エネルギーを利用できないかと考えたのだ。

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          (千葉孝志さん/撮影:農産チーム・海老原康弘)

 

その話に(株)日本エコシステムという太陽光発電の会社が乗ってきてくれた。

モデル実験として商売抜きで一基つくってみよう、

やるならこの冬には実現したい、ということで蕪栗まで出向いてもらった。

畦に太陽光パネルを並べる。 充分いける、という話になったようである。

素晴らしい。

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蕪栗米生産組合の面々と (撮影:同上)。

千葉さんたちは水路から魚たちが田んぼに遡上できるよう、魚道も設置している。

 

現地に赴いた日本エコシステムのHさんからも、翌日メールが入ってきて、

「千葉さんは立派な方で、感心しました」 とある。 

ガンもすでに5万羽ほどやってきていて、感動されて帰ってきたようである。

 

近々にも、田園の中に設置された太陽光発電の風景をお見せしたい。

乞うご期待。



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