自然エネルギー: 2012年11月アーカイブ
2012年11月10日
「米と電気は自分で創りたい!」
小林教授による小水力発電の基礎講座を受けた次は、
現場で様々な困難とたたかってきた方のお話し。
那須野ヶ原土地改良区連合 (別称 「水土里ネット 那須野ヶ原」)
参事、星野恵美子さん。
土地改良区というのは、農地のほ場整備を実施したり、
ため池や水路など農業用水利設備の維持管理を行なう組合で、
地区内の農家や水利の利用者が組合員となって運営されている。
10年前に 「水土里(みどり) ネット」 という愛称が付された。
土地改良区の目的の根本は、農業生産の基盤整備によって生産力の向上
=農家の経営安定に、つまりは農業の発展に貢献することにある。
しかし米価を始め農産物価格が低迷し、生産力が衰えていく中で、
土地改良区としてもただ漫然と水利の管理等をやっているだけでなく、
もっと農家のためにやることがあるのではないか、と星野さんは考えてきた。
そこで様々な取り組みを提唱し、実践されてきたのだが、
「すべてことごとく " 抵抗勢力 " とのたかいでしたね」 と言い放つ。
抵抗勢力と言っても外部のことではない。
組合であったり、上司であったり、行政であったり、
要するに身内の事なかれ主義とのたたかいである。
「余計なことをするな」 「赤字になったらどうする」・・・
「ハンコは押すが、くれぐれも問題を起こさないように」 と市長に念を押されたり、
「何かあったらあんたが責任を取れ」 と言われて、
どう責任取っていいか分からないまま 「ハイ、分かりました」 と答えながら、
ゼッタイに成功させてみせるという覚悟と根性で乗り切ってきた。
いや実に迫力の方である。
笑顔の奥からもドスの利いた圧力が感じられる。
どうも最近、行く先々でスーパー・ウーマンに遭遇しているような気がする。。。
しかも女性から " 覚悟 " とか " 根性 " とかの台詞を連発されると、
「お前はいったい何をしているのだ、この根性なし!」
と叱られているような気になってくる。。。
ま、そんな軟弱男のコンプレックスはともかくとして、
ここは日本の三大疎水の一つと言われる那須疎水の地。
かつて水の確保もままならなかった瓦礫の原野で、
明治から1世紀にわたる先人の苦労によって
那須野ヶ原用水が築かれ、豊かな農村地帯になった。
「水を求め、水を大切にする」
- その精神と歴史的背景を継承し、水や環境保全に対する意識を啓発し、
農村と都市・人間と自然の共生を図り、
自分たちの手でこの地域の未来を創っていこう。
そんな理念のもと、星野さんのたたかいは実に多岐にわたるのである。
那須野ヶ原の家畜糞尿や生ゴミ・木質によるバイオマスエネルギーの実証実験。
太陽光エネルギーにより水素を製造し、燃料電池で発電を行なう実験。
森林保全を目的としての森林資源調査や、
機械による生産性向上を探るモデル間伐の実施。
間伐親子体験イベントなどによる環境教育。
「水は森からのおくりもの」 といったパンフレット作成など様々な広報活動。
田んぼの学校、総合学習プログラムづくり・・・等など。
そして小水力発電事業である。
星野さんは 「米と電気は自分で創りたい」 と力説する。
特に食糧は命をつなぐもの。
質も大事だと、星野さん自身、無農薬での米作りを実践されている。
エネルギー政策の目標は、「農家の電気代をタダにしたい」。
上に挙げた通り、小水力発電はその手段のひとつである。
那須野ヶ原は約40,000 ha の複合扇状地で、
扇央部から扇頭部までの距離が約30 ㎞、標高差約480 m の勾配がある。
この急峻な落差による水勢を利用した発電所が、3ヶ所に計7基。
最大出力が合わせて1,000 kw、CO2 削減量 3,090トン/年。
これが蟇沼(ひきぬま) 第一発電所。
最大出力360 kw の横軸フランシス水車。
こちらが百村発電所。 立軸カプラン水車。
用水路に沿って4基、設置されている。
30 kw × 4基=120 kw。
一般に有効落差は3 m 必要と言われていたなかで、
星野さんたちは落差 2 m での発電を実現させた。
後ろに見えるのが那須岳。
小水力発電を効率よく、かつ長く持たせるには、
こまめな点検とメンテナンスが必要となる。
厄介なのは水と一緒に流れてくる落ち葉などのゴミらしい。
ゴミの量や質など、その場所の実情に合った対策がポイントだと、星野さんは語る。
しかも低コストでやり切らないと採算が合わなくなる。
手探りで、改良を重ねながら、
今も進化の途上にある除塵システムがあった。
環境学習の場としてつくられた 「那須野ヶ原用水ウォーターパーク」。
ここに水車が3基、太陽光パネルと風力の発電装置が14基、設置されている。
ガラガラ水車。
古代メソポタミア時代に発明された、最も古くてポピュラーな形。
ここでは水の流れを水車の下側に作用させて羽根車を回す下掛け式。
出力1.8 kw。 落差1.15 m。
カラコロ水車 (クロスフロー水車)。
1.8 m の段差に同じ水車を2台横に並べて設置してある。
羽根車の外周部から中心部に入り、再び外側へ流れ出る構造で、
羽根車に2回作用することで発電効率が上がる。
出力8.0 kw。
ぞうさん水車 (サイフォン式プロペラ水車)。
段差に取水設備を設けて流水を外の水槽に導き、サイフォンの原理を利用して
疎水に水を流して、配管内に組み込まれたプロペラを回す仕組み。
出力2.2 kw。
それぞれの水車の特徴と、場所の落差や流量、周囲環境といった条件によって
水車を選定すれば、いろんな場所での発電を可能にできる。
とにかく小水力のメリットは、その利用効率の高さである。
太陽光だと12%と言われるが、
ここでの小水力の利用効率は78%に達している。
小水力発電を成功させるカギは、やる気と諦めない気持ち(根性)、
そして人材育成。
思いを共有できる人ができたら、積極的に資格を取らせる。
資格を取るとモチベーションも上がる。
星野さん自身、第一種電気工事士、宅地建物取引主任者、二級小型船舶操縦士、
第一種自家用発電設備専門技術者、第二種ダム水路主任技術者・・・等など
9つの資格を取得している。 「恐れ入りました」 と言うしかない。
資格を取得することでスタッフにプロ意識を持たせ、
できるだけ外注に頼らず、自分たちでつくる。
困難な課題に対しては、ひたすら考える。
それが採算を合わせる近道だということである。
そして、大元の森づくり構想。
1000年の森を育てるプロジェクト。
いよいよ本格的な活動期に入っていく。
参加された生産者は、どちらかというとマイクロ水力発電的な、
等身大の技術と規模で少しでもエネルギー自給率を上げたい、
という発想で来られた方が多かったようだった。
どのように次に生かされるかは分からないけど、
それぞれに刺激を受け、あるいはヒントを得て、
明日からの一歩を踏み出してもらえたなら、嬉しい。
星野さんから、夢を実現させるにはもう一つ 、
「バカになることね」 と言われた。
これだけは自信があるのだが。。。
2012年11月 9日
「小水力発電」 を学ぶ生産者会議
備蓄米収穫祭での感動の余韻にとっぷりとひたっている余裕もなく、
10月30日は那須塩原に。
塩原温泉の老舗、多くの文人が愛したという 「和泉屋旅館」 にて、
生産者会議 「小水力発電研修会」 を開催する。
この地を選んだのは、農業用水路を利用した小水力発電の先進モデルが
ここにあるからに他ならない。
お呼びした講師は、茨城大学教授の小林久氏と、
那須野ヶ原土地改良区で小水力開発を牽引してきた星野美恵子参事。
集まった生産者は、青森から長野までの14団体の方々。
まずは小林久教授の講義から。
エネルギーを考える上での最初の基本は 「節電」 である、
と小林教授は切り出す。
「節電」 はある意味で電力を生み出すのと同じ、という発想である。
小林家では、昨年の3.11以降、(苦労せず) ちょっと意識して
電気を使う (=節約する) ようにしただけで、電気代が半分になった。
「どんな家庭でも、少なくとも2~3割は減らせるのではないでしょうか。」
次に、電気はかなりの部分が熱利用 (暖房や湯沸かし等) に回っている
という事実を頭に入れること。
それらを踏まえた上で、自然再生エネルギーを考えるようにしたい。
<エビ注>
「小水力発電」 の厳密な定義はなく、
だいたい1万kw 以下の発電規模のものを指して語られていることが多い。
一方で、新エネ法 (新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法)
など日本の法律では1,000kw 以下を 「新エネルギー」 と分類していて、
今年7月からスタートした再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度 (FIT) では、
3万kw 未満 ~ 1,000kw のものに対して 25.2円/kw
(1,000kw 未満 ~ 200kw =30.45円、200kw 未満 =35.7円)
の買い取り価格が設定された。
これらの法律事情によって、1,000kw 未満を 「小水力」 と区分する場合もある。
小水力発電は、上から下へと落ちてゆく " 水の流れ " を利用することになるので、
必然的にその水系に関わる地域全体の問題になる。
つまり水は地域のエネルギー資源であり、
したがって地域内に事業体をつくることが、
公益上望ましい (地域に利益が還元されるようにすること)。
小水力発電の特徴と、メリット・デメリットは次の通り。
日本は水大国である (降水量は世界平均の倍近くある) が、
降った水はいったん山に蓄えられ、沢などを伝って集まりながら密度を高めてくる。
したがって山がしっかり管理されれば (という条件付きであるが)、
その 「変動」 幅が緩和(=調整) される。
また稼働時間が長い(風まかせ、お天と様まかせではない)。
CO2 を排出することがないので、温暖化対策の切り札でもある。
設備の寿命が長い(50年持っているのがザラにある)。
ただしその原理ゆえに適地が限定される。
また上に挙げたように関係者が多くなるため、合意形成や調整に手間取る。
そして開発量に限界がある。
小林教授の試算では、日本では100万kw くらいが限界だろうとのこと。
しかし 「小規模分散型」 にならざるを得ないなら、
むしろ日本はその地形上、まだまだそのポテンシャルは大きいとも言える。
都市でいえばビル内の循環水を使う方法も考えられる。
先進国ドイツでは水力発電所が8千ヶ所あるが、そのうち
実に 7,300ヶ所が 1,000kw 以下のものだ。
それでも発電で飯を食っている人もいる。
現在日本では化石燃料に頼ってしまっているが、
海外から購入している石油代がなんと23兆円。
これは日本からの 「富」 の流出以外の何物でもない。
自然エネルギーで地域の電力需要を賄えば、
そのぶん富が地域に返ってくる (=回ってくる) 格好になる。
たとえば1万世帯の小都市で、仮に100%エネルギー自給が達成できたなら、
電気代の世帯平均10万円/年 で計算すると、
10億円の収入が地域内で循環することになる。
自給率を上げれば上げるほど地域が潤うことになるワケだ。
小水力発電はまた、あらゆる分野の人が関われるので、
地域の人々の意識も変えることになるだろう。
エネルギー生産と消費が 「我が事」 になって、
地域を作り直す作業に発展する可能性を秘めている。
水資源の維持は、必然的に森や生態系も含めた環境の保全との調和を求める。
持続可能な社会の仕組みをもたらす力が、水の 「発電」 にはある。
小水力発電はまた、地場産業の発展(仕事づくり) にも貢献できる。
ふたたびドイツの数字を上げれば、
フライツブルグという都市では、チェルノブイリ後、
自然エネルギーの拠点づくりを目指して研究施設などを誘致してきた結果、
新たなエネルギー関連の仕事が生まれ、
3%の住民が関係する事業で雇用されるまでになっているという。
それは働きがいのある人間らしい仕事 - " グリーンジョブ " と言われる。
日本では、農村の暮らしに若者たちが憧れても、仕事がない。
(残念ながら、有機農業の世界でも、暮らしの受け皿づくりは容易ではない。)
小水力発電は、新しい雇用の創出と、
自慢できる郷土づくりに貢献できるはずだ。
今年7月からスタートした FIT (固定価格買い取り制度) によって、
小水力発電導入の難問であった 「初期投資の壁」 も
クリアできる道筋がつくられた。
これによって経営計画が立案でき、プロジェクト・ファイナンスが可能になった。
すでに多くの銀行が融資の枠を設けてきている。
ちゃんと管理すればするほど利用価値が上がり、
環境保全と持続可能性が高まる。
世界は急カーブで、加速度的に自然再生エネルギーに向かっているのに、
日本は完全に出遅れてしまっていた。
FIT によってようやく政策的なバックボーンが得られた、という流れである。
・・・・・
なかなか気合いの入る話だったが、現実に進めるとなると、事はそう簡単ではない。
ここで様々な抵抗勢力とたたかってきた女傑、いや先達の登場となる。
続く。