食・農・環境: 2007年12月アーカイブ

2007年12月24日

water [水:mizu] 展

 

六本木の新しいスポット-東京ミッドタウン。元防衛庁跡地がすっかり変貌した。

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ほとんど縁のない所と思っていたのだが、どうしても見ておきたいものがあって、やってきた。

 

ミッドタウン内といっても、北のはずれの独立した一角にある、

21_ 21 DESIGN SIGHT」 という展示館。(21_ 21 はツウ・ワン・ツウ・ワンと読む)

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展示館といっても、ただのミュージアムではなく、「デザインを通して世界を見る場所」 なんだという。

 

そこでいま、 『 water [水:mizu] 』 という企画展が開かれている。

 

「デザインによって水を示す」 実験だと......

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デザイナー佐藤卓さんのディレクションによるものだが、

この企画コンセプトづくりに深く関わったのが、

キャンドルナイトなどでご一緒させていただいている文化人類学者、竹村真一さんである。

 

竹村さんは、東京・大手町にある 「大手町カフェ」 で、

『地球大学』 という市民講座を2年前から主宰されていて、

昨年の秋には、"地球食" と銘打っての連続セミナーでご一緒させていただいた。

(そういえば、「種蒔人」で参加者と忘年会をやったのは、ちょうど一年前の今頃だった。)

 

そこで米(食)と水と地球環境の深い関わりについての話で盛り上がったのだが、

竹村さんは、「水」 への探求をさらに進めて、

デザインという視点から 「水」 の意味を表現する、という地平を獲得した。

 

そんなわけで、これは必見、となった次第。

 

中は撮影禁止なので、写真はお見せできないけど、

いや実に不思議な感覚に包まれる空間であり、展示内容だった。

 

まず目に飛び込んでくる 「立ち上がる水」 という写真。

コップから空に向かって、水が 「立ち上がって」 いる。

実際に自然界でも、水は落ちるだけではないが、この仕掛けは分からない。

 

試験管のような一輪挿しが並んでいる。挿されているのは、花ではなくて水の言葉。

 

   「世界は水」

   「日本の上空には常に100億トンの水が浮かぶ」

   「水は人と人をつなぎ、過去と未来をつなぐ」

   「アメリカで日本の水がなくなる」   ・・・・・

 

「ことばな」 と名づけられたこの作品が、会場の展示をつないでいる。

 

竹村さん自慢の、世界初のデジタル地球儀 『触れる地球』 もある。

 

中庭には高さ8.5mの巨大な傘が立て掛けてある。

芝生には光学ガラスで作った様々な大きさの水滴が落ちている。

ネズミか虫のサイズになって水滴を眺めてみたら -ということのよう。

 

ちなみにポスターのデザインにもなっている 「さかさかさ」(逆さ傘) は、

水をよけるための傘も、逆にすれば水を貯めるものになると、

発想の転換を刺激している。

 

「見えない水の発券機」

食堂のショーウィンドーに飾られているような、

精巧にできた牛丼、ハンバーガー、ざるそば、オムレツ、味噌汁などが並んでいて、

食券の発券機を押すと、「牛丼  2000L」 という券が落ちてくる。

丼一杯分の米や牛肉・たまねぎなどを作るのに必要な水の量。

バーチャルウォーターってやつだ。

ちなみに、ハンバーガーは1000L、味噌汁は20L、となっている。

 

円筒形の筒の中に入れば、木の幹を立ち昇る水の音と一体になる。

 

歩くと、歩にあわせて 「ポチャ、ポチャ」 と水が跳ねる音が響く道。

 

水の循環を表現した、透明な鹿威(ししおど)し。

 

魅入ったのは、12個の 「水の器」。

水が一杯に張られた半球状の器をのぞくと、様々な映像や音が、

底から流れてくる。子供の頃、古い井戸をのぞくって、

たしかに異世界への扉のようではあった。

 

そして、「ふるまい」 と名づけられた作品。

細い棒の上に撥水加工された紙皿が乗っている。

そこに水滴を落として、皿回しのように棒をゆすると、

まるで小さな生き物のように水がくっついたり離れたり...。

これは水分子の特異性が為さしめる行為(ふるまい) なのである。

 

だらだらと全部を紹介するわけにはいかないが、

水をめぐる、アーチストたちの競作とコラボレーションにしばし酔える、

静かな空間だった。

 

隣で、若いカップルが12種類の水のふるまいを楽しんでいる。

ふと女の子が彼にささやいた。

 

「水って、可愛いね」

 

そこで彼女にすっかり参っている彼氏は応える -ほんとだ。可愛いね。

 

何か知らんが、皿を落としそうになって、慌ててその場を立ち去る。

 

でも、こうやって '当たり前にある水の特別さ' を感じて、

水への眼差しが変わるなら、

それこそデザインや表現の力、ということになるのだろう。

 

参りました。

 

玄関を出た時、またアベック、もとい! 若いカップルとすれ違う。

なんと、青いパラソルを持っている!

振り返ってみれば......ヤルねぇ、今の若いもんは。

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Water [水:mizu] 展-期間は1月14日まで。おススメ、です。

 



2007年12月 8日

上堰米

 

......というお米が届く。

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差出人は、福島県喜多方市山都町早稲谷の浅見彰宏さん。

10年前にこの地に移り住み、夫婦で有機農業を始めた方。

 

彼の農園の名前は 「ひぐらし農園」 という。

あの晩夏の夕暮れに鳴くセミが好きなのか、農園の暮らし向きを表現したのか、

その辺は聞いてないので分からないが、おそらくは......いや、やめておこう。

 

地元のきれいな棚田の写真が貼られている。

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山都町早稲谷地区は、霊峰・飯豊山の麓に位置し、

ブナの原生林やナラを中心とした広葉樹林に囲まれた美しい山村である。

250年も前に拓かれた手掘りの水路が、今も棚田を支えている。


 

今年の5月4日、

その山間を縫うように張り巡らされた水路(堰)の補修のお手伝いをした。

そのお礼にと、送られてきたものだ。

  ≪7月10日の日記-「日本列島の血脈」もご参照いただければ≫

 

玄米、7kg。 この数字が、なんかほのぼのとさせる。

5㎏でも充分なのに、

浅見さんは誠実に、収穫物から送れる量を人数で割ってくれたのだろう。

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これが当日の堰浚(さら)いの様子。

一年分の土砂や落ち葉などを浚い、水回りを取り戻す。

けっこう重労働だったが、これで棚田に水が回る。

村じゅう総出での作業である。

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我々ボランティア組はすぐに腰が痛いとか言っては休みたがるが、

地元の方々は黙々と続ける。

バカにされちゃいかん、と意地も出すが、すぐにため息をついては汗を拭う。

 

この作業人足がだんだんと減ってきている。

高齢化も進んでいる。

この堰が埋まった時、写真にあるような美しい棚田も滅ぶことになる。

 

この棚田も。

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ここが堰の源流の地点。

ブナの原生林に育まれたミネラル豊かな水が、麓にまで行き渡る。

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浅見さんは、外からの入植者であるゆえの人脈を活かして、

またネットも駆使して、この仕事のボランティアを募っている。

地元の人からの期待や信頼も獲得して、いまや貴重な若手人材となっている。

 

本木上堰と名づけられた全長6kmに及ぶ水路を、

上流から下る組と下流から上る組に分かれて、合流するまで作業は終われない。

堆積物を上げ、壁を直し、草を刈りながら、行軍する。

 

下流から上った我々が、ようやく上流組と出合った時の一枚。

さすがにしんどそうだ。村の人たちに混じって浅見くんの雄姿も(左から二人目)。

すっかり村の人だ。

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彼も実は、7月23日の日記 「全国後継者会議」 で紹介した、

埼玉県小川町の有機農業のリーダー、金子美登さんの門下生である。

 

金子さんのところで学んだあと、この地に入植した。

金子さんの話によれば、

農業条件の良い土地よりも、自分を必要としてくれる場所に行きたい、

と語っていたそうだ。

すっかり頼られる存在になって-。 働いたんだね。

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彼は今、冬の仕事として、麓の大和川酒造店で働いている。

毎年2月にやっている、 「種蒔人」 の新酒完成を祝う 「大和川交流会」 では、

蔵人・浅見彰宏と会うことになる。

 

夏は上流の水を守りながら米をつくって、冬はその地下水を汲んで酒をつくる。

すっかり飯豊(いいで)山水系に生きる人である。

上堰米を炊いてみる。

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美味しかったです。ありがとう。

 

※大地のオリジナル日本酒 「種蒔人」 でつくられた 「種蒔人基金」 では、

  本木上堰の清掃作業の支援をこれからも続けたいと考えています。

  「種蒔人」を飲みながら水源を守る。

  お値段もいいお酒ですが、たまのハレの日などに、ぜひ!

 

※来年の大和川交流会は、2月9日(土)です。現在参加者募集中。

  会員の方は今週配布された 『だいちMAGAZINE』12月号をご覧ください。

  お問い合わもお気軽にどうぞ 。

 



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