食・農・環境: 2011年7月アーカイブ

2011年7月22日

エメラルドグリーンの海

 

わあ~きれい! と叫ぶ人がいる。

台風6号が去った翌日、

千葉市幕張の海の一帯がエメラルドグリーンに染まった。

まるで沖縄のサンゴ礁のように美しく見える。

 

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コンパクトカメラなので分かりにくいかもしれないけど、

乳青色の水域が見て取れるかと思う。

これが、いわゆる  " 青潮 "  ってやつ。 

アサリや海苔にとって命取りになりかねない危険信号である。

幕張に本社が移転してから、何度となく目にしてきた。

 

「青潮」 -実は広辞苑にも収載されていない。

その発生メカニズムは、こんな感じである。

 


東京湾にはいくつもの河川から生活排水が流れてくる。

排水には、窒素やリンなど栄養塩類が含まれていて、

閉鎖系の内湾では、湾内に溜まり、富栄養化状態となる。

それらは植物プランクトンの餌となって浄化に向かうのだが、

夏場に水温が上昇してプランクトンが異常発生したりすると、

海が赤茶色に染まる  " 赤潮 "  の現象が生まれる。

 

過剰に発生した植物プランクトンは死んで海底に蓄積される。

その死骸を分解するのがバクテリアであるが、

分解活動の際に大量の酸素が消費され、海底が貧酸素水状態になる。

特に東京湾には、埋め立て用に土砂が持ち出された穴ぼこがたくさんあって、

その穴は無酸素状態になっていると言われている。

 

そこに北か北東からの強風が吹くと、

表層の海水が沖 (太平洋側) に向かって流され、

それに伴って海底の貧酸素水塊が表層に湧昇してくる。

無酸素水塊には硫化水素が含まれていて、

上昇したところで酸素と反応して、硫黄酸化物となる。 

その粒子が太陽光を反射して見せてくれるのが、

鮮やかなエメラルドグリーンの海、というわけだ。

 

そこは酸素不足の水塊で、腐卵臭を放ち、

硫化水素によってアサリの斃死などにつながってしまう。

 

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幕張テクノガーデンD棟22階から東京湾を望む。

ここから西、つまり東京方面に向かうと、

習志野を経て船橋、三番瀬の干潟地帯へとつながっている。

 

僕らがそこで、2000年から取り組んできたのが、

やはり窒素やリンを吸収して繁茂する海藻・アオサを回収して陸に戻す

「東京湾アオサ・プロジェクト」 である。

アオサは発酵させて鶏の餌にしたり、堆肥化する試験を行なってきた。

例年だと、春・夏・秋と回収作業を行なうのだが、

地震により三番瀬海浜公園も液状化の影響を受けていて、

秋の回収も中止を余儀なくされてしまっている。

今年は残念ながら開店休業状態。

 

台風や強風のあと、エメラルドグリーンの海が登場する。

これはただのきれいな景色ではなくて、

ヒトビトの暮らしの影響を受けながらも必死で生態系の浄化に向かう

生物たちのもがきの現場である。

 

僕らはもっと、目の前の海と付き合う機会を持たないといけないね。

 



2011年7月15日

しあわせな食事のための映画たち

 

  -  という名の、映画の連続上映会が開催されている。

しあわせな食事のための映画たち

                                                                                    (イラストは 平尾香さん

主催は NPO法人 アグリアート さん。

神奈川県や逗子市、逗子市教育委員会が後援に名を連ねていて、

大地を守る会も協力している。

 

場所は神奈川県逗子にある 「シネマ・アミーゴ

オーガニックな食事を楽しみながら映画鑑賞ができる シネマ・カフェ 。

夏の日差しを浴びて目も眩むような湘南の、浜辺の通りの一角にある。

 

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先週の土曜日(7月9日)、

この連続上映会のプログラム2 - 「オーガニックの哲学」 の初日に

トークを依頼されたので、出かけてきた。

プログラム2 で上映された映画は、

『根ノ国』 と 『みんな生きなければならない』 の2本。

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住居を改造してつくられたカフェ&ミニ・シアター。

余計な手が入ってないナチュラルな感じの庭。

ぼんやりと眺めながら癒される。

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お客さんは10人ほどで、 まずは2本の映画を観賞する。

 

根ノ国 -1981年、制作:菊地周。

陸上の生物は、特殊な文化で暮らすヒトなど一部をのぞいて、

およそみな土に帰り、土を肥やす。 

その土の中では、無数の虫や微生物が小さな宇宙を織り成している。

1グラムの中に1億ともいわれる生命が互いを食べ合いながら共生し、

豊穣の土が作られていく。

植物の根もそこから養分を吸収し、かつたたかいながら生きている。

そして動物は、太陽エネルギーと土の力で育つ植物に支えられている。

つまるところ、陸上の生命はすべて土の生命力に依存しているのである。

健全な土の中では自然の理が働いていて、独裁者の登場を許さない。

この  " 根の国 " 、ミクロの生命循環を可視化させた作品。

人はなぜ、なんのために、この世界を壊そうとするのか、という問題提起でもある。

 

みんな生きなければならない 』 -1983年、制作:菊地文代。

世田谷区等々力で有機農業を営む大平博四さんの農場を舞台に繰り広げられる

生きものたちとの共生の世界。

農薬の害を自らの病いによって感じ取った大平さんは、

昔ながらの堆肥づくりに還り、土を蘇らせた。

そこではトリもムシも仲間である。 害虫と益虫の区分すら不要になってくる。

そして大平農場の循環を支えるのは、「若葉会」 という消費者組織の存在である。

 

上映終了後、スクリーンが上がり、

お昼前の自然光が部屋を包むように入ってくる。

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ここで30分ほどお話をさせていただく。

主催者であるNPO法人アグリアートの事務局長・畠山順さんからは

「この映画をスタート地点として、どのように話が向かってもよい」

と言われていた。

かえってプレッシャーだよね。 

 

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2本の映画は以前にも観たものだが、改めて一緒に観たことで、

湧いてくる感慨があった。

そこで想定していた話の段取りを変えて、こんなふうに始めさせていただいた。

 

今日の上映会でスピーチをさせていただくことは、

自分にとってとても光栄なことだと感じています。

なぜなら、私が大地を守る会に入社したのが1982年の秋のこと。

 『根ノ国』 がつくられたのがその前年で、入社して早々に、

先輩から、この映画は観ておくようにと勧められました。

また同時に、「生物みなトモダチ」 制作委員会という会から

映画制作へのカンパの要請が入ってきたように覚えています。

その映画が完成したのが翌83年。

この二つの映画は、私の原点に重なるものです。

この場を与えてくれたことに感謝申し上げたい。

 

実は私が有機農業の世界と関わるようになったきっかけは、娘のアトピーでした。

しかし妻が決意を持って始めた食事療法を、私は当初信じていませんでした。

それが食材から調味料まですべて切り替えて続けたところ、

娘の症状がだんだんと改善されていくのが見えたのです。

そしてある日、当時はまだほとんど世に出回っていなかった、

有機米でつくった 「純米酒」 というのを購入して飲んだ時、

私はこの運動は本物だ! と確信し、履歴書を持って大地を守る会を尋ねたのです。

20代半ばの決断でした。

(娘じゃなくて酒かよ・・・・・という視線を感じ)

ま、まあ、え~と、そんな不純な動機は置いといて、

食を生産する世界が消費者の知らないところで変質させられていくなかで、

負の側面が子どもに現われ始め、かたや有機農業の世界では、

生命の土台に対する科学的な解き明かしの作業が始まっていた。

 

その後またたく間に 「アトピー」 という言葉は社会に広がり、

有機農産物もまた数少ない先駆者の運動から

社会的に認知される時代へと飛躍してゆきます。

1980年代の初頭、そんな時代変化の予兆を背負って登場したのが、

このふたつの映画だったように思います。

 

あれから約30年という年月が経ち、

大平博四さんは3年前に亡くなられましたが、

5年前に有機農業推進法の成立という、

国が有機農業の価値を認め、それを推進するための旗を振った、

そんな時代の変化を見せられただけでも、

後進の一人として、よかったかなと思っています。

 

あとは映画の世界と重ね合わせながら、

生命の歴史から見た土の役割やら、生物多様性の意味やら、

舌足らずにお話しさせてもらい、最後に

放射能汚染に対する有機農業の力について、希望を述べさせていただく。

私たちの生命を守ってくれるのは、微生物たちの力をおいて、ないように思う。

土を保全し生命の健全な循環系を育む有機農業こそ、

一縷の、しかし確かな希望だと私は確信するものです。

 

そしてなお、その世界を支える鍵は、「消費」 というつながりです。

大平農場に 「若葉会」 という消費者組織があって支えているように、

消費という行為を通じて、どの生産(者) とつながり、どの環境を支えるのか、

そういう  " つながり "  の意味が、いっそう深く問われてくるように思います。

 

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ま、そんな感じで生意気な話をさせていただいたのだが、 

さて驚いたのが、この会場に映画の制作者、菊地文代さんが登場したことだ。

 

大先輩にひたすら恐縮する若者の図。

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30年近く経っても、まだ観ていただける方がいるだけでも幸せなことだと、

菊地さんは謙虚に語る。

いやいや、充分にその生命力は衰えていないです。

自分の原点であることを、感謝とともに伝えることができて、

想定外の感激の一日になった。

菊地さんは今も若葉会の会員として大平農園を支えている。

 

帰りがけに見た、湘南の海。

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こう見えても海で育った血は、僕のDNAである。

胸をざわめかせながら会社にトンボ帰りするわが身の貧しさが、悲しい。

 

「しあわせな食事のための映画たち  -未来のこどもたちへ- 」

プログラム3は、「都市と農業」。

8月13日に、吉田太郎さんがキューバを語ります。

第2期は9月10日から11月18日。

「森と海と食」 「水はみんなのもの」 「種子と農業」 といったプログラムが続きます。

今度はまったくの客として、寺田本家の 「五人娘」 の生酒など飲みながら

楽しませてもらえたらと思うのであります。

 



2011年7月12日

畜産物&乳製品生産者会議 -ここでも放射能の勉強

 

続いて、ふたつ目の生産者会議報告を。

 

7月7日(木)、小暑、七夕の日。

東京は神宮にある日本青年館の会議室で開かれた

「第5回畜産物生産者会議 & 第6回牛乳乳製品生産者会議」。

つまり畜産と酪農の合同会議だ。

 今回のテーマは

「畜産物の放射能汚染の影響について」。

 

畜産・酪農家の間で牧草の汚染に対する不安が広がっている。

自身の行為とはまったく関係ない要因に対しても配慮しなければならない

時代になってしまった。

被害者が加害者にもなってしまう放射能社会。

もはや食の生産者として、「知らなかった」 ではすまされなくなっている。

 

ということで、

まずは放射能とその影響について、正確な理解をもつことが必要である。

講師としてお願いしたのは、原子力資料情報室共同代表の伴英幸さん。

 

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お話は、放射能の基本知識から始まり、

福島原発事故の概要とその影響について、

被曝ということの正しい理解、

食品への移行や暫定基準値をどう見るか、 

そしてこれからの放射能環境をどう生きるか・・・・。

 

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さすがに集まった生産者たちは真剣である。

質問もいろいろと出るのだが、

たとえば、放射能の影響は動物に対しても同じだと考えていいのか?

という基本的な質問ひとつとっても、

いかんせん、こと家畜や肉への影響についてはデータがあまりになくて、

分かっていないことだらけのようなのだ。

放射線の影響は原理的には人間と同じはずだが、

牛や豚がどれくらいの時間で、どれくらいの割合でガンに罹るかなどは、

過去にも調査されていない、いや 「少なくとも私は見たことがない」 と伴さん。

チェルノブィリ原発事故によって人に影響が出始めたのが5年。

だとすると、そもそも影響が出る前に出荷されることになるだろうか。

 

ではそのお肉は大丈夫なのか。

粗飼料(ワラなど) から筋肉への移行係数は示されていて、

たとえば、放射性セシウムの牛肉での暫定規制値 500ベクレルを超えないためには、

粗飼料の許容量は 300ベクレル/㎏ となる。

しかしこれも正確かどうか分からない。

牛肉の規制値自体も 「暫定」 であって、含まれている以上、

食べ続ければリスクは高まっていく。

 

福島の農家と飼料用の稲で契約したが、使って大丈夫でしょうか?

-水田では土壌の濃度が5,000ベクレル以下なら作付が認められたが、

  最終的に稲を測って判断するしかないのではないだろうか。

 

では規制値以下であれば、餌に使って、消費者は食べてくれるでしょうか?

----- これは伴さんが答えられるものではない。

しかし流通者としては、彼らの悩みに少しは応える義務もあるように思い、

マイクをお借りした。

モヤモヤとしたまま帰らせるわけにもいかないし。

 

法律上 「作ってよい」 「使ってよい」 ものであり、

私が調べたところでも、作付可能土壌から稲の子実への移行は規制値より

さらに10分の1から100分の1レベルになると推定できるので、

現時点で、その契約農家の稲を使うなとは言えない。

最終的には収穫物を測定して判断することになるけど、

その際には、規制値を根拠にした単純な判定では実はすまなくて、

わずかでも残留が認められた場合、それを使うには、

我々の思想とモラルが問われることになるでしょう。

・ このレベルなので使わせてほしい。

・ 使うことで、その農家とともに  " 農地の再生・浄化 "  に取り組みたい。

 それが将来につなげるための、我々の使命だと思う。

- と、強い気持ちで生産者の姿勢を語れるのなら、私は支持したい。

  きちんと情報を開示して、思いも精一杯語って、売りましょうよ。

 

この生産者や販売者に対する評価は、

消費者と言われる方々に一任するしかない。

 

みんなの悩みは深い。 

しかし、明解な答えはない。 

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質問する、中津ミートの松下憲司さん。

 

除染についての質問も挙がる。

微生物が放射性物質を分解するとか無害化するとかいい情報があるが、

有効な微生物はあるか?

-食べる微生物はいるが、それは核種が微生物に移行したものであって、

 基本的に元素が分解されるということはない。 

 放射性物質である以上、その害が消える (無害化される) ことも考えられない。

 ただし、食べる人の健康のために、食用部分に移行させない、

 ということを第1の目標にして利用することを否定するものではない。

  まだ分かってないことも多いので、いろんな試験をやることは必要だと思う。

 

ナタネでは、種には放射性物質は移行しないので、油で使うことは問題ない。

ただし、除染という効果で考えると、データで見る限り、

実はそんなに吸収されていない。

ゼオライトなどは有効性が認められている。

ただし、いずれにしても移行 (吸収) したものの最終処分は、

現在のところ、埋めるしか方法がない。

 

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なかなかしんどい会議だった。

 

安全をお金で買える時代ではなくなってしまったが、

大地を守る会CSR運営委員会の消費者委員の方が最後に語ってくれた言葉で、

少しは救われただろうか。

 

  私はずっと、買う (食べる) ことで生産者を支えていると思ってきた。

  震災の翌週、さすがに今週は宅配は来れないだろうと諦めていたが、

  当たり前のように配送員が来た時は、涙があふれた。

  支えられていたのは、実は私のほうだった。

  これからも感謝して、食べていきたい。

 

  大地を守る会が測定結果をしっかり開示してくれることをありがたいと思う。

  この安心感は捨てがたく、素性の分からないものを買うくらいなら、

  わずかの残留なら大地を守る会を選びたいと思う。

 

  有機農業のほうが、最終的には放射能にも強かった、

  という結果が出てくると嬉しい。

 

最後の期待には、応えられると思う。

なぜなら、もっとも努力するのが彼らであり、ここにいる人たちだから。

 



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