食・農・環境: 2013年1月アーカイブ

2013年1月19日

地域を元気づける食、への道筋は見えているか・・・

 

おさかな勉強会のレポートを書いている間にも、

ちょこちょこと動いていて、簡単な報告だけでもアップしておきたい。

 

1月16日(水)は、農水省の 「地域食文化活用マニュアル検討会」 に出席。

その土地の風土に根ざした伝統的食文化を、地域の活性化に結びつける、

その道筋を地域の人たちの力で見つけ、発信し、地域を元気にする、

そのための 「活用マニュアル」(仮称) の作成。

 

この課題に、竹村真一座長を筆頭に6人の委員が集められた。

ゴールが年度末と決まっているので、ダラダラとやってるわけにはいかない。

いよいよその具体的な構成の検討となる。

これまでの議論をもとに事務局から構成案が示され、

それをたたきながらブラッシュアップさせていく。

まあ委員はそれぞれのイメージを持っていて、銘々に言いたいことを言うのだが、

それらを受けて形にしてくる事務局はたいしたもんだ、と

今回は素直に感心させられた。

(いつも批判してばっかりでなく、評価すべきところははちゃんと評価しよう。)

 

委員が顔を揃えての検討会は、ここまでで 3 回。

短い議論で結果を出さなければならない。

もし違和感が残っているなら、その原因を絞り出さなければならない。

あと1ヶ月で。 けっこうしんどいぞ。

 


詳細は省かせていただくとして (議事録は HP でアップされます。要約だけど)、

最後に、委員の方々のコラムも入れたいとの提案を受ける。

ワタクシに与えられたテーマは、

「食の風景 ~その地域ならではの景観を生み出す食文化~ 」。

戎谷さんの発言に沿った感じでお題をつけてみたんですけど・・・

逃げられないように仕向けられている感じ。

 

また今回は、ゲストにノンフィクション作家の島村菜津さんが招かれ、

イタリアのスローフードの展開について解説いただいた。

島村さんとは、丸の内の 『地球大学』 でご一緒して以来、3年ぶりか。

北海道での取材から何とか帰って来ることができて、

自宅の雪かきをしているうちに 「予定が頭から飛んじゃって~」 と、

だいぶ遅れて息荒く駆け込んできた。

人間だもの・・・ みたいな姿を見るのは、内心楽しい。

 

イタリアから生まれたスローフード運動も、

今や世界的なムーブメントに発展してきているが、

背景にあるのは、20世紀後半からの

山間地の過疎化や農村文化の疲弊に対する危機感だった。

そこで地域文化の見直しの気運を後押ししたのは、外部の目や声だった。

何もないと思っていた地元の価値や財産への気づきは、

往々にして外との交わりによって生まれる。

我々の仕事は、そんな変化を助けるものになるだろうか。

ああ、会議よりも旅をしたい。。。

 

そして翌17日は、群馬での生産者新年会に出席。

場所は伊香保温泉。 

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参加者44名。 今回の幹事団体は 「銀河高原ファーム」。

挨拶されているのは、代表の山口一弘さん。

 

年に一回の、県下の生産者たちの顔合わせだからね。

みんなで温泉に浸かって交流を深めるのも悪くないよね。

とか言いながら、昨今エビが登場すると、話はカタくなってしまうのである。

新年会の前に会議室を用意してもらって、

大地を守る会の放射能対策の経過や現在の状況、これからの取り組み

などについて報告させていただいた次第。

しかし、ふつう会議室で小一時間も喋ると、

途中で居眠りを始める生産者がいたりするのだが、

今回はみんな真剣な眼差しで聞いてくれた。

いかにこの問題が、皆の心に影を残してきたか・・・

 

昨年の測定結果では、ほとんどの農作物は

「放射性物質不検出(=検出下限値以下)」 か、検出されても極めて低い値である。

しかし山や川からの影響も含めて、まだ油断はできない。

しっかりと事実を把握しながら、安全性を確保していきたい。

そのための測定ならいつでも協力する。

土でも水でも持ってきていいから (ただし必ず事前に連絡すること)。

しつこいようだけど、「子供たちの未来を守る」 ために頑張ってみせる、

と言える我々になろう。

 

宴会を終え、部屋に戻ってもみんな集まってきて、話は尽きない。

以前にこの産地新年会回り(全部で8ヵ所) を 「死のロード」 と呼んで

生産者からひんしゅくを買ったことがあったけど、そう言いながら内心は

生産者とどっぷりとやり合っていることを自慢したかったんだ。

農産グループから離れて、なかなか新年会に行けなくなって、

正直ちょっと寂しい。

 

「食」 と 「農」 が、地域を再生させる。

その道筋に立っているのなら、僕らはいつでも会える。

そう信じて歩き続けるんだね、このロードを。

 



2013年1月18日

魚を食べる資格を取り戻す

 

「日本人に魚を食べる資格はあるのか」

 - 勝川さんの話は続く。

 

日本の食卓は輸入に依存してしまっている。

しかし今や欧州の輸入単価が上がってきている。

すでに日本は90年代にアメリカに抜かれ、欧州に追いつかれた格好だ。

輸入量、金額ともに5年で半減した。

円高ならまだ買えるが、円安になると・・・ 魚は食べられなくなるかも。

 

では漁業資源は世界的に減っているのかと言えば、そうではない。

世界の漁業生産は、実は伸びている。

漁獲量上位15ヶ国のうち、この50年で減らしているのは日本だけ。

2048年に日本の漁業は崩壊する、という説がある。

最大値の10%を割るとその産業は消える、という論理だ。

このままでいいのか・・・

 

悲観してばかりいてもしょうがない。

方法はある。 

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漁業を発展させ、魚食文化を守るために、

ちゃんと資源管理を進めればよいのだ。

漁獲規制を行ない、漁船ごとに個別漁業枠を設ける。

そうすることで 「獲らなきゃ獲られる」 という悪循環の競争から脱却できる。

実際に資源管理で順調に伸ばしている国が存在しているではないか。

ノルウェー、アイスランド、ニュージーランド、オーストラリアなど。

残念ながら日本は崩壊中の国である。

 

ノルウェーが日本に魚を売って儲けている話は、以前に書いた通り。

獲り方とは、残し方なのである。

幼魚を成魚に育てて、食べる。

これは美味しい魚が手に入るという意味でもある。

乱獲スパイラルから脱却させ、利子で食えるようにしなければならない。

これは漁民個人のモラルではなく、制度の問題である。

 

太平洋クロマグロの9割以上は1歳までに漁獲されている。

6年泳がせれば自然と自給できるようになるのに。

乱獲をやめれば食卓も支えられるのに。

 

この国のもう一つの問題は、補助金にある。

「漁業振興のために」 使われる補助金の額は、日本はダントツなのだが、

その多くは港湾整備とかの名目で土木事業に流れる。

このままでは、いくら補助金を増やしても資源は増えない。

 

税金が、海のためでも漁師のためでも食べる人のためでもない何ものかに

吸い取られていく構造が、ここにもある。

変えるためには、国内世論が形成されなければならない。

政治はとても大切なことなのだが、

多くの国民は実態を知らされてないがために、無関心のままでいる。

欧米では、自然保護団体が大きな役割を果たしている。

外からのサポート勢力を育てたい。

 

消費者教育も大事なことである。

消費には責任が伴うことを、もっと考えてほしい。

" 持続的に獲る - 持続的に食べる "  の関係を築きたい。

 

魚屋さんという存在も貴重だった。

昔の魚屋さんは、サカナの知識や食べ方というソフトウェアも一緒に売っていた。

今はただスーパーの棚に切り身が並ぶだけで、

消費者は 「魚離れ」 ではなく、「魚知らず」 になってしまっている。

関心がないワケではない。 知る機会がなくなってきているのだ。

「サカナくん」 なんていうタレントが人気を博す国なんて、他にない。

こんな国でもまだまだ希望はある、と思いたい。

 

「価格」 「味」 「鮮度」 に加えて、

「持続性」 という新しい価値を創造したい。

 

勝川講座レポートは、ここまで。

勉強会のあとは、丸の内のお店 「Daichi & keats」 で新年会。

 

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勝川さんを囲んで、あるいはめいめいに輪をつくって、

海の問題、魚の問題、天下国家の問題、その他バカ話など織り交ぜながら、

大いにはずんだのだった。

 

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帰宅し、出刃と刺身包丁を取り出して、久しぶりに研いでやる。

ゆっくりと、錆びつつある自分の根性も研ぎ直したく。

 



2013年1月16日

日本の魚は大丈夫か-

 

未来のために、持続可能な食べ方をしましょう。

 - 三重大学資源生物学部准教授・勝川俊雄さん(農学博士) が語る。 

 

1月12日(土)、 専門委員会 「おさかな喰楽部」 による新年勉強会。

テーマは、勝川さんの本のタイトルそのまんま、

「日本の魚は大丈夫か」。

場所は、魚といえば築地だと、「築地市場厚生会館」。

分かりやすい、一本気な魚屋たち。

 

予告でも書いた通り、

昨年8月18日に実施した 「放射能連続講座・第4回-海の汚染を考える」 で、

「勝川さんの専門領域の話をじっくりと聞きたい」

という要望がたくさん上がったことに応えて、おさかな喰楽部が設定してくれたもの。

今回は、放射能連続講座で訴えられた内容を、

豊富なデータを基に掘り下げる形で展開していただいた。

 

以前報告した内容 (8/25 「インフラ復旧の前に、産業政策を!」

とかぶるところは割愛しつつ、メモと記憶を頼りにいくつかピックアップしてみたい。

 

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水産資源に関しては、国内外で時に真逆の論調がされることを、

まずは頭に入れておいてほしい。

たとえばクロマグロ。

その数は最盛期の5%にまで減少(95%減) したと諸外国は指摘する。

しかし日本では、3.6倍に復活してきている、という主張がなされている。

日本の主張は受け入れられるでしょうか。

 

国内では二つの論調がある。

ひとつは、日本人の魚離れが進んでいる、もっと魚を食べよう、という主張。

もうひとつは、水産資源が枯渇していってる、資源を回復させよう、という主張。

 

問題は消費ではなく、供給の側にある。

魚の消費量は、言われるほど減ってはいない。

そもそも日本人は、(海の周辺を除いて) 戦前まではそれほど魚を食べていない。

魚の消費量は、実は冷蔵庫の普及とともに増えてきたのである。

 

日本は世界第2位の漁獲量を誇りながら、世界一の水産物輸入国である。

漁獲量1位のアイスランドの自給率は 2,565 %。

かたや第2位の日本の自給率は 62 %。

いかに魚を食べているか、ということを数字は物語っている。

(自給量+その2/3ぶんを余計に消費している計算。)

 

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戦後、漁獲量が増えていったのは、

マイワシ・バブルのような時代があったお陰だが、

それも80年代をもって崩壊した。

また60年代まではひたすら漁場を拡大できたが、

70年代の200海里設定で、日本は漁場から締め出された。

 

東シナ海は世界有数の魚場であったが、

戦前に開発されたトロール船による底引網漁で乱獲が始まり、

マダイなどの高級魚は10年で獲り尽されてしまった。

戦争によって一時的に資源の回復が進み、

戦後、過ちを繰り返すなと言われながら、結局同じ失敗の道を歩んだ。

今は、漁業者の9割が資源量の減少を実感しているのが現実である。

 

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天然の魚がダメなら養殖があるじゃないか、という人がいる。

しかし実際には、養殖生産は頭打ちになっている。

魚の養殖は、ブリ(ハマチ)、マダイで9割を占めていて、

多様性がなく、天然の替わりにはなり得ない。

しかも餌は天然魚!なのである。

クロマグロを 1 ㎏太らせるのに 15 ㎏のマイワシやサバの幼魚が必要とされる。

70~80年代の養殖は、マイワシの豊漁で支えられたものだった。

つまり養殖とは豊富な天然魚の存在を前提とした産業であり、

天然より厳しい生産方式であることを知らなければならない。

(海藻などエサを不要とする養殖は別。)

 

しかも資源量の減少とともに、餌である魚粉の価格はどんどん上昇している。

すでに供給力は一杯一杯の状態で、ペルーのカタクチイワシによる魚粉は

EUと中国の争奪戦となっている。

今年、ペルーはカタクチイワシの漁を 70 %までに規制した。

 

タイやハマチの養殖では、原価の8割が餌代になっている。

これでは人件費は出ない。

この10年、漁業者は全体で2割減となっているが、養殖漁業者は3~4割減少した。

稚魚を放流して資源量を回復させる、いわゆる  " 育てる漁業 "  があるが、

成功した事例であるヒラメを見ても、実際は増えもせず減りもせず、という状況である。

 

そこで問いたい。

「日本人に、魚を食べる資格があるのか?」 

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2007年、ヨーロッパウナギの輸出が規制されたが、

食べ尽くしたのは日本人である。 資源はほぼ壊滅した。

日本のシラスウナギ(幼魚) は、河川の構造変化もあって減少の一途を辿り、

結果的に獲り過ぎとなり、価格が上昇し、鰻屋さんは閉店してゆく。

 

そもそも、鰻を食べるということは、文化的と言えるのか。

養殖が定着する前は、ウナギを食べることは特別なハレの食事であった。

しかし今は持続性無視の薄利多売の商品となっている。

何というお手軽消費であることか。

漁師たちが乱獲なら、消費者は乱食、ツケは未来に・・・

頼みとすべき水産庁が、消費拡大のために企画したキャンペーンが、

ファーストフィッシュ。

つまり、お手軽に食べられる水産加工品のコンテストだ。

 

何だか絶望的な話ばかり続けているね。

気持ちを切り替えよう。 とりあえず今日はここまで。

 



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