食・農・環境: 2013年2月アーカイブ

2013年2月 6日

未来を食い尽さない 「地球食」-海洋編

 

順番が逆になって、日も経ってしまったけど、

この報告もアップしておきたい。

ニホンウナギがついに環境省のレッド・リストで絶滅危惧種に指定され、

ロシアでは生きたカニの輸出を禁止するという、

漁業資源存亡の危機がいよいよ目に見えてきた昨今の情勢もあるし。

 

1月21日(月)、丸の内・新丸ビル 「エコッツェリア」 にて開かれた

地球大学アドバンス [ 食の大学 ] シリーズ第5回。

未来を食い尽さない 「地球食」 デザイン

 -世界の海洋の現状と水産資源保全への取り組み-

 

70億に膨らんだ人類の海洋資源利用は、持続不能な形で進行している。

マグロをはじめ大型魚の 90% がすでに消滅し、

トロールや衛星技術で魚群を追跡する現代漁業は、

まさに地球の資本金を食いつぶす両刃の剣でもある。

海洋生態系のゆりかごである世界のサンゴ礁やマングローブも

乱開発で危機に瀕している。

また地球温暖化の影響か、水産資源の最も豊かなベーリング海でも

食物連鎖の底辺を支える植物プランクトンの増殖に異変が報告されるなど、

海洋資源の再生能力そのものの脆弱化も懸念されている。

 

未来を消し費やすような20世紀型の 「地球食」 のパターンを

いかにリセットしうるか?

" sushi "  などの魚食文化をグローバル・スタンダードに広めた日本が、

そして国際的な食のハブである TOKYO が、

そこにどんな新たなベクトルを提示できるか?

 (以上、今回のイントロダクションより)

 

今回のゲストは、

● WWF(世界自然保護基金) ジャパン・水産プロジェクトリーダー、山内愛子さん。

● MSC(海洋管理協議会) 日本事務所・漁業認証担当マネージャー、大元鈴子さん。

● 味の素(株) 環境・安全部兼CSR部専任部長、杉本信幸さん。

司会は例によって、竹村真一さん(京都造形芸術大学教授)。

 

海とのつながり、海洋資源とのつながりをどう再構築(回復)させるか。

地球を食い尽さない魚食文化のあり方を、今日は考えたい。

 - 竹村さんのリードで、3名の方からの報告を受ける。

 


まずは山内愛子さん。

WWF(World Wide Fund for Nature) は世界100ヶ国以上に支部を持つ

世界最大の自然保護団体で、1961年に設立された。

日本支部の設立は10年後の71年。 本部はスイスにある。

世界中に5,000人以上のスタッフを抱え、

500万人以上のサポーターによって支えられている。

 

世界では30億の人々が魚を動物性たんぱく源として暮らしているのだが、

漁獲量上位10種の魚がおしなべて枯渇に向かっている。

しかもその 28% が乱獲されている状態で、

いま水産資源の状況は分岐点に直面している。

減っている理由は、乱獲(過剰漁獲) に加え、

混獲(目的外の魚も一緒に獲ってしまう) による目的外魚種の海洋投棄、

そして IUU 漁業 (違法、無報告、無規制) がある。

養殖の分野では、南半球には存在しなかったサーモンが

チリのパタゴニア地方で養殖されるようになり、

逃げた魚からすでに10世代にわたって生息するまでになった。

それらの結果として生態系へのダメージが破局的に進んでいるのだが、

消費者は正確な情報が伝わらず、南米で養殖されたサーモンや

違法漁業による魚を食べさせられている。

 

そんななかで、WWF が取り組んできた事例として、

ロシア・カムチャッカ半島、オゼルナヤ川のベニザケ漁での

MSC 認証の取得を、財政面や技術面から支援してきたことが紹介された。

MSC とは、適切に資源管理された持続可能な漁業であることを認定する制度で、

認証された魚は、「海のエコラベル」 と言われる青いラベルを貼付して

販売することができる。

MSC によって認証されたシーフードは、環境に配慮された製品であるだけでなく、

トレース(原料の追跡) ができるという意味でも評価が広がれば、

そのぶん違法操業などを市場から締め出すことができる。

 

カムチャッカ半島で漁獲されたサーモンの 8割 は日本に輸出されている。

日本人にはぜひ、このMSC認証のベニザケを選んで食べてほしい。

(ちなみに大地を守る会の姿勢は、まずはちゃんと確認された国産を選ぼう、である。)

 

山内さんの話を受ける形で、大元鈴子さんが

MSC 認証についての説明を行なう。

詳細はこちらから ⇒ www.msc.org/jp

すでにヨーロッパを中心に80ヶ国で MSC エコラベルが採用され、

ドイツでは何と販売される水産品の半分が MSC 認証品だとか。 

その波は鮮魚や水産加工品だけでなく、ペットフード業界にまで及んでいる。

今年の1月24日には、米国マクドナルド社が、

国内すべての店舗で MSC 認証水産品を提供すると発表した。

日本では 250~300 の製品が流通されているが、

まだ一般的に認知されたとは言い難く、遅れている感は否めない。

 

味の素(株) の環境・安全部長、杉本信幸さんが取り組んでいるのは、

主力商品である 「ほんだし」 の原料となるカツオの資源調査である。

(独)水産総合研究センター・国際水産資源研究所とタイアップして、

「太平洋沿岸カツオ標識放流共同調査」 を進めている。

釣ったカツオに記録型電子標識(タグ) を付けて海に返し、

遊泳行動や移動経路の調査を進める、というものだ。

今はまだ 169 尾に装着して 7 尾を再捕獲できた段階。

記録型タグはかなり高価なため(1本10万円) 大量に付けることはできないが、

粘り強く継続させることによって、カツオの資源管理や

未解明な部分の多い生態の把握に貢献したいとのこと。

 

3名の報告の後は、ワールドカフェ と呼ばれる

グループに分かれての対話。

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テーブルごとに感想を出し合い、

持続可能な漁業に向けて何が必要なのかを語りあって、

模造紙に書き込んでいく。

最初はけっこう気恥ずかしかったのだが、最近は慣れてきた。

 

話を深めようとしたあたりでメンバー・チェンジが告げられ、

先のテーブルで話し合ったことなどをシェアし、

最後にテーブルごとに、話し合った結果をキャッチフレーズにまとめる。

 

僕のテーブルでは、最後に若者がふと漏らした言葉で

「それでいこう!」 と決めた。

『 食べる人も 育てている 』。

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「食べる」 とは、ただ 「消費」 しているだけではないのだ。

「食べる」 ことは、浪費にも、資源を育てることにも、貢献している。

他にも解釈可能なコピーっぽくて、短時間のわりにはイイ出来かも。

 

ハートのマークでひと言

 - 『 LOVE(愛) 』 とまとめたグループも。

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まあ人はそれぞれにいろんな視点で考えるんだね、という発見がある。

それにしても圧倒的に情報が少ない、いや、届いてないことに気づかされる。

ここに集う人は、多少 「食」 や 「環境」 に対してアンテナの高い人たちだと思うのだが、

普段食べているフツーの食材に関することなのに、

「海や魚のことについてまったく知らなかった」 という人が多かった。

たしかに、東京で普段暮らしていて、漁師さんに会う機会なんて、、、ないか。

 

日本人に、海が遠くなっていってる。。。

食の現場との距離感・・・ これこそ危機の本質的問題だろうか。

 



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