食・農・環境: 2014年5月アーカイブ

2014年5月11日

堰(水路) さらい

 

5月1日に邑南町から帰ってきて、一日置いて 3日。

今度は車で東北道を北上。 要所要所で渋滞に遭い、

観光客を横目で睨みながら、郡山から磐越道に入って会津若松で降り、

喜多方・大和川酒造で 「種蒔人」 を積んで、山都まで。

休憩時間も含めてほぼ 7時間。 

 

この8年、GW後半は堰さらいボランティアと決めている。

余計なことは考えないようにして・・・

そんな感じで今年もやってきましたよ、

この里に。

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一見変わらない風景なんだけど、

やはりこちらの棚田も、年を追って不耕作田が増えている。

美しい風景は元からそこにあったわけでなく、

人の手によってつくられてきたのだと説いたのは民俗学者・柳田國男だが、

日本はいま、まったくその真逆の道を歩んでいる。

失われたものはおそらく、もう取り戻せない。

 


いつもなら満開の桜が出迎えてくれるのだが、

今年はもう散っていた。

でも草花たちはあちこちで競い合っていて、

充分に目を楽しませてくれる。

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到着したボランティアたちは順次 「いいでの湯」 に浸かって、

みんなで準備して、前夜祭へと突入する。

今年も50人以上のボランティアが集まった。

 

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しかし地元農家は今年も減ったとのこと。

かつて50戸あった農家が、今年は11戸になった。

堰が維持できない戸数まで減ってしまうと、

その時点ですべての田んぼがいっぺんに消失する。

集落そのものの存続が、

浅見さんはじめ新規就農者の肩にかかってきているということである。

 

それにしても、ここに来るボランティアは酒飲みが多い。

「種蒔人」 もしっかり貢献している。

会員の皆様が飲み続けてくれたお陰で、

1本につき 100円ずつ積み立ててきた 「種蒔人基金」 から、

今年も 2ダース(2日分) の 「種蒔人」 をカンパさせていただいた。

ささやかな、人をつなぐ潤滑油として。

またこういう人たちがいてくれることで、

原料の水と米も守れるわけで。

 

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こごみ、ウド、タラの芽・・・ 山菜の天ぷらが実に美味しい。

山に入って、適度に摘んで、適度に手を入れる。

けっして自然のまま(放ったらかし) にしない。

そうすることで生物の多様性はかえって高まり (これを 「中規模撹乱説」 という)、

いつまでも数々の資源と恵みをもたらしてくれる。

これが里山の原理である。

 

自著 『ぼくが百姓になった理由(わけ)』 のPRをする浅見彰宏さん。

一昨年に山都に入植して仲間に加わった

長谷川浩さん(元福島県農業研究センター研究員) の

著書 『食べものとエネルギーの自産自消』(ともにコモンズ刊)

とも合わせて。

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さて翌 4日。

本木上堰延べ 6kmの堰さらいの開始。

いつものように上流から降りてくる早稲谷班と、

下流から上っていく本木班に分かれる。 出会うまで終われない。

 

僕は今年は本木班に編成される。

事前にスコップ組とフォーク組みが指定されたのだが、

僕も含めた数名は 「両方」 と書いてある。

土砂も枝木も落葉もとにかく全部対処しろ、ってことね。

キャリアとともに楽になっていくのではない。

任務は重くなっていくのである。 これ、世の習いなんだそうだ。

肉体労働もか・・・ ま、いいけど。

 

本木班、朝 7時半集合。 

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作業開始ポイントまで軽トラで護送され、 

あとはひたすら、浚うべし、浚うべし・・・

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冬の間に落ちた倒木も、枯枝枯葉も、土砂も浚い、

水を通してゆく。

全長 6kmの高度差は 65mとのことだが、

ほとんど水平に近い傾斜が続く。

尾根に沿ってゆっくりと、温みながら水が下っていけるように

掘られている。 

 

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江戸時代中期、1736年に着工し11年かけて完成した。 

以来 278年、修復を重ねながら麓の田を潤してきた。

この堰より上に人家はない。

上流は飯豊山のブナ原生林である。

降った雨や雪が森の力によって浄化され、ミネラルも一緒に運んで

美味しい米をもたらしてくれる。

この価値を、経済の尺度で計れるものなら計ってみてほしい。

外部経済ぶんも含めるなら、

その数字は誰も支払えない額になるはずである。

潰してはならない、汚してはならない。

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疲れたので続く。

 



2014年5月 9日

" A級グルメの町 " 邑南町訪問記(Ⅱ)

 

邑南町訪問記、後編。

 

実は今回の訪問の目的の一つに、

有機栽培のブルーべりーの存在があった。

そこで園地を視察させていただく。

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ブルーベリーはいま花の季節。

収穫は7月になる。

 

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サウスムーンなど果実の大きい品種が選ばれているが、

それでも一本の成木から採れる実の量は 2㎏ だという。

米の小袋 1袋ぶん。。。 500本植えて約 1トン。。。

農薬を使わないための手間(コスト) もある。

天敵のカイガラムシはブラシでこすって落とす。

コガネムシはトラップを仕掛けて捕殺する。


受粉にはミツバチを使うが、去年はハチがやってきてくれて

買わずに済んだんだそうだ。

どこから来たのか。 リンゴ園から飛んできたのではないかと、

農園主の森脇豊敏さんは推測している。

「リンゴ園の農薬散布が影響だと思うんですが・・」

と森脇さんの心境は複雑なようだ。

「でもそうだとすると、ここに有機栽培のブルーベリー園があることで、

 ハチもリンゴ園主も救われたんじゃないですか」

と返すと、少し笑ってくれた。

 

地元での販売の他、冷凍して加工原料に回したりしてきたが、

この間需要も伸びてきているとのこと。

というわけで、現在の生産量ではちょっと当方との取引は難しい。

増植計画の検討もされているとのこと。

しかしその場合は品種の選定も鍵になる。

風味・粒の大きさ・生産性・保存性・作りやすさなどを勘案して判断しないと、

数年後の経営に響くことになる。

日当りや昼夜の寒暖差、土地の保水性や雨量

(水を欲しがる果物だが水が多いと味がボケる) なども大事な要素だ。

森脇さんは幾つかの品種の名を挙げながら、

次の園地候補を検討中とのことであった。

長いお付き合いに進められるかどうかは、

これからのこちらの姿勢も問われることになる。

 

棚田百選に選ばれた地区があるというので、

案内してもらった。

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農家の高齢化に加えて米価は低水準というこんにち、

生産効率を上げられない棚田を維持するのは大変なことだ。

あちこちの田んぼが耕作されなくなってしまっている。

それでも荒れないようにと、黒マルチを敷いて雑草を防いでいる。

そのカネにならない仕事は、どんな思いでやられているのだろうか。

翻って思うに、山上から 「田ごとの月」 を愛でられる棚田が、

まるで第Ⅰ種絶滅危惧種のように急速に消えていっているというのに、

この国の文化人たちはいったい何を見ているのだろう。

荒れる風景を嘆きながら、グルメ気取りで輸入食品を頬張ったりしてないか。

田を荒らさず、いつか復元できるなら・・・とマルチで保護している農民たちこそ、

文化人の名に値しないか。

 

加えて感じ入ったのは、家々の美しさだ。

漆喰の白壁に蔵のたたずまいが、とてもいい。

どの家も丹精に手入れされている。

美しいと言わせる村には、必ず誇りの香りがするものだ。

 

こちらが、邑南を有名にさせた 「素材香房 ajikura 」。

地元食材を使用したイタリアンのレストラン。

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味噌だったか醤油だったかの蔵を移築した建物の

店内風景。

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ランチでは、パスタコースを選んだ。

でも順番に出される料理の名前を言われても、

覚えられない。 いや、暫くすると忘れてしまうのだ。

僕はまったくもってグルメになる素質がない。

とにかく野菜が美味しかった。 

ま、僕にとってはそれで充分。

 

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ajikura と同じ建物に併設された 「食の研究所」。

 

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ここには 「耕すシェフ」 と銘打った調理師の研修制度がある。

3年間邑南に住んで、直営の農場で野菜作りを体験しながら料理を学び、

食や農に関わる人材として鍛えられる。

また町内唯一の高校である矢上高校の生徒たちと共同で

地元食材を使った商品開発が行なわれていて、

矢上高校は 「スイーツ甲子園」 で中国大会決勝に進出した実績を持つ。

 

観光施設 「香木(こうぼく) の森公園」。

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ハーブ園にクラフト体験工房、カフェ、温泉、バンガロー

などがあって、滞在型で楽しんでもらう工夫が試行錯誤されている。

 

他にも、わざわざ広島から買いに来る客がいるという

道の駅に設営された地産地消の市場や、有機栽培農家、

山地酪農に挑む青年、チョウザメ(&キャビア) の養殖場

などを案内いただいた。

町の公務員の方が一所懸命、次は、次は、と町の産業のPRに努めてくれる。

ここでも知らされる。 鍵は人に尽きる、ということ。


農水省 「食文化ナビ」 で委員をご一緒した日本総研の藻谷浩介さんが

絶賛した邑南町を、駆け足でたどった 2日間。

" 地域 "  というテーマが一層リアリティを持って迫ってきたのだった。

 

「食文化ナビ」 調査によれば、

平成22年度に設定した目標に対しての現在の実績は-

 ・ 観光入込客数 100万人/年に対して、93万人(単年度)。

 ・ 定住人口 200人に対して、72人(23・24年累計)。

 ・ 食と農に関する起業家 5名に対して、8名(同上)。

 

2年間で 72人が移住した町。

少ないでしょうか。

一ヶ月で 3人、新しい人が引っ越してくる中国山地の町。

それを受け入れる懐の深さと、生まれる新たな仕事。

これが何を意味するか、じっくりと考えたい。

 



2014年5月 8日

" A級グルメの町 " 邑南町訪問記(Ⅰ)

 

島根県邑南(おうなん) 町。

広島駅から浜田行きのバスに乗って中国山地を北上し、

島根県に入ったところが邑南町。

10年前に旧 3町村が合併してできた人口 1万 2千人という町。

一見してどこにでもあるような、

のどかな日本の中山間地、といった風景だ。

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しかしこの町が今、とても熱い。

" 日本一の子育て村 "  を宣言して、

中学卒業まで医療費無料! 2子目から保育料無料!など、

地域で子育てを支援する制度を充実させてきている。

安心して子どもが産める町、これは日本でいま最も求められている政策である。

若者を受け入れるための空き家情報も提供している。

 

そして食関係者を唸らせているのが、

" A級グルメ立町 "  を宣言しての骨太な地産地消の展開である。

食や環境、ロハス系と言われる雑誌の取材が後を絶たない。

その推進役を果たしているのが邑南町観光協会。

既にある観光資源の売り込みではなく、

新しい地域ブランドを創造していく姿勢をもつ観光協会というのは、

そうないのではないだろうか。

 

5月1日、その山間の町に、

町立の 「食の学校」 なる施設が建設され、竣工式を迎えた。

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『 OHNAN  A-CLASS  GOURMET  ACADEMY 』

こっちを訳せば 「邑南 A級グルメ学院」 か。

" A級グルメの町 "  にかける本気度を示す施設の誕生である。

ここに僕がお誘いをいただいたのは、

この施設をコーディネートされたプランナーの石原隆司さんからであるが、

昨年度委員を務めた農林水産省の 「食文化ナビ活用推進検討会」 で

邑南町をモデル地区として調査したことも手伝っている。

観光協会の常務理事である寺本英仁さんとは

昨年 「Daichi&keats」 でお会いし、訪問の約束をしていたこともあった。

 

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石原良治町長や議員さんらによるテープカット。

町の掲げる  " A級グルメ "  には、

地元で生産される食材を育て、ここでしか味わえない食体験を提供し、

その食文化をしっかり伝承させてこそホンモノのグルメ(食通) であろう、

といった主張が込められている。

そしてこの理念を発展させるものとして、

昨年秋に 「食の学校プロジェクト推進協議会」 が発足し、

この日の竣工式へと漕ぎつけたものだ。

ここを新たな拠点として、地元の人たちへの食農教育を進め、

100年先まで食文化を伝えていくこと、

さらには加工技術や素材知識の習得、新商品の開発などが

ミッションとして掲げられている。

 

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挨拶する石橋町長。

合併後の初代町長で 3期目と聞いたが、まだ若い。

 

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様々な関係者が挨拶する中に、

観光協会が運営するレストラン 「素材香房 ajikura (あじくら)」 料理長の

三上智泰さんもいた (写真右)。

ajikura のレシピが本にもなったイケメン・シェフ。

大阪や広島のホテル勤務ののち、町の取り組みに惚れて地元に帰ってきた。

意欲ある若者が帰ってくる。

その若者の手で新たな価値が生まれる。

いい循環が生まれている。

 

イケメン・シェフのお隣でマイクを握っているのは、

観光施設 「香木の森公園」 内にあるハーブ園を任されているという

はなぶささんと仰ったか。

夜の食事で同席した際に今後のプランを聞かされ、

いろんな意見交換をさせていただいた。

ハーブの先にあるもの、あるいは共生昆虫について。

この町には面白い人たちが集まってきている。

 

続く

 



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