「有機農業」あれこれ: 2008年4月アーカイブ
2008年4月23日
有機農業推進のモデルタウンづくり
有機食品の認証に対するまっちゃん (お茶の松田君) の疑問と苛立ちは、
どうやら僕が想像してた以上に深そうだ。
コメントに返事を書いても、どこか自分の言葉が白々しくも感じたりして-
そんな折、ひとつの会合に出席した。
4月21日(月)。 ここは千葉県山武市、JA山武郡市睦岡支所の会議室。
集まったのは、生産者団体 「さんぶ野菜ネットワーク」 から選出された8名に、
地元・山武市およびJA山武郡市 (の職員)、地区内で有機野菜の農場を運営するワタミファームさん、
そして大地を守る会から私。
実は農水省の公募事業によって、
有機農業の総合支援対策事業の実施地区 (これを 「モデルタウン」 と呼ぶ)
の候補として指定されたことで、
その推進母体となる 「山武市有機農業推進協議会」 を共同で設立する、
その総会が開かれたのだ。
殺風景な、どうってことない会議のようにしか見えないけど、
このご時勢に国から400万 (×5年) ほどの助成がおりる事業を進めるための
キックオフの会議である。
国は、2011 (平成23) 年までに、
有機農業を推進する体制が整備されている自治体 (市町村) の割合を50%以上にする、
ということを政策目標に掲げている。
知ってた? まっちゃん。
これが、我々が相当なエネルギーをかけてやった
「有機農業を広げるための政策をこそ、つくろう」 という運動の、ひとつの成果でもあるんだ。
有機農産物が 「JAS規格」 に収まってから、
これだけではダメだと言いながら、
何とか実現にこぎつけた、便秘の処方箋 (のひとつ) のようなものかもしれない。
いや違う。 本来の政策要求だ。
しかしこの補助事業は 「地域での推進」 が前提であるために、
まっちゃんのような個人農家がすぐに助成対象になるわけではない。
地元の行政がその気にならないといけない。 国には 「公共性」 という前提が必要なのだ。
逆に言えば、全国各地の有機農業者たちが行政を動かした所だけに
国の法律による支援が下りてきている、ということでもある。
有機農家が国の補助金なんかを求めてやっているわけではないことくらいは、重々知っている。
でもかつて、その存在すら認めなかった 「有機農業」 を法律で定め、
振興策までつくらざるを得なくなったことを、
僕はけっこう、運動の力以上に、世の流れと受け止めている。
だって、今の 「食」 の世界がそれを求めている、と思わざるをえないじゃないか。
公共性さえ担保できれば、「有機農業」 の振興を国が支援する、というところまではきた。
もちろん農業全体は、それどころではないくらい危機なんではあるけど。
で、山武の話だが-
この事業計画が、なんというか、まだ稚拙なのである。
計画策定に気楽に付き合ったつもりが、いやいや、大地の役割は重い。
これから意外な話に展開していく予感がする。
まあ、この地で有機農業をスタートさせる時から関わってしまった因果なのかもしれない。
ちゃんと結果を出せば、この何回かで書いてきた日記の答えにもなるだろう。
答えは数年後になるけど......
2008年4月20日
有機農業者の悲鳴?
4月5日と8日の日記で紹介した "まっちゃん" こと松田博久君から、
日記を読んでくれてのコメントが届いたのでアップした (8日付へのコメント)。
苦しい胸のうちが語られている。
安全を担保するには、 "しんどい" は避けられないことか?
ただでさえ難しい有機農業に、しんどい作業がついて回ると、
これから有機農業に取り組む人が減りはしないかと心配になります。
まっちゃんの言う通りなんだよね。
実際に、有機の認証を取っている生産者の多くが悲鳴を上げている。
三日前の4月17日、
農水省による3回目の 「有機JAS規格の格付方法に関する検討会」 が開かれたが、
生産者サイドから選任された二人の委員が、1回目から共通して訴えているのは、
記録や文書管理のわずらわしさであって、栽培の大変さではない。
(ちなみに二人とも、奇しくも大地の生産者会員である。)
「もっと記録とか管理の仕組みを簡便化しないと、やる人は増えない」
(山形・庄内協同ファーム、志藤正一さん)
「実際に現場では、高齢の生産者などは脱落していっている。
このままではいったい誰のための、何のための有機認証制度なのかと思う」
(鹿児島・姶良町有機農法研究会、今村君雄さん)
しかし消費者サイドから出る意見は、検査の厳格さを求めるものだ。
そうでなければ制度への信頼性が薄れる、と。
国もまた、これが検査-認証の制度である以上、
農家が悲鳴を上げたからといって緩めるわけにはいかない。
しかも有機JASは国際基準との整合性を求められているのだ、との論理が立ちはだかる。
認証機関も同様である。
有機農業者は増えて欲しいが、生産者に甘い検査をしては自らの信用に関わる。
加えて、監査-認証には 「公正さ」 が求められるため、
監査の過程でのアドバイスや指導は許されない。
それでいて、認証機関の不適切業務が時折発覚したりするものだから、
彼らはますます襟を正して、厳格になろうとする。
生産者の憤懣は募る一方だ。
いったい誰のための......これでは 「制度のための制度」 ではないか......
検討委員を引き受けた以上、偉そうに制度を否定するだけではいけないことは分かっている。
ただ何とかして、みんなで手足を縛り合っているような、この閉塞感を突破したい、と思うのだ。
僕がこの委員会で仕事をしたと言えるかどうかは、
あと2ヵ月くらいの思考の整理にかかっている。
まっちゃんのお茶 (「松田さんのお茶」) でも飲んで、もう少し苦しんでみるか......