「有機農業」あれこれ: 2008年5月アーカイブ

2008年5月22日

新しい大地オリジナル監査システムを築く! 宣言

 

昨夜 (21日) の話です。

 

勤務時間も終了した、18:30。

お昼の弁当を食べたりする休憩室に、

仕事を終えた (あるいは抜け出してきた) 職員が、パラパラと集まってくる。

その数、60数名。 数ヵ所に点在する社員全体の3分の1に相当する。

どうしちゃったの、こんなに。 みんな暇なのか。

などと私が言ってはバチ当たりも甚だしい。

 

みんな、私の話を聞きに来てくれた人たちである。

話は、今期から取り組もうとしている、新しい農産物の監査システムについて。

会員さんからの問い合わせやクレームに日々対応している会員サポートセンターのN君が

呼びかけて、開いてくれた。

ホワイトボードには、「エビちゃんが熱く語る ~ 」 などと書かれている。

オレはどうも、そういうヤツと思われているらしい。

 

内輪の勉強会だし、ここで報告するのはちと早い気もして、写真も撮らなかったけど、

終わってみれば、やっぱり少し記しておこうかと思う。


大地では、この5年間、「大地こだわり農産物認証」 と勝手に呼んでいる

独自の農産物の監査・認証に取り組んできた。

有機農産物のJAS規格制度 (以後、有機JASと書きます) の認証機関に依頼して、

大地で取り扱う農産物すべてが、大地の生産基準に合致していることを認めてもらう、

という手法である。

 

そのために、認証機関から毎年いくつかの産地がサンプリング指定され、

そこに有機JASの検査官が派遣されて、栽培内容の記録から各種伝票類まで確認される。

私がテレビ番組 『カンブリア宮殿』 でやっていたのとはひと味違う、

外部の検査官による監査であり、生産者は税務署がやってきたような気分になる。

また大地内部のデータ管理の体制から、物流センターでの小分け業務まで審査され、

最終的に、大地が流通する農産物がすべて大地基準に反してないものであることが判定される。

有機JASの認証を取得している生産者は、すでに有機で審査を受けているので、

この監査の対象からは除外 (免除) される。

つまり、これによって大地の契約生産者は、すべて第三者認証の監査対象となる。

 

この作業に5年間取り組み、ずっと 「合格」 の判定を頂いてきた。

最初の頃は、いくつか管理体制での改善点を指摘されたりして、

それはそれで自己検証を積み重ねて、精度を上げてきた。

そして昨年度、ついに 「改善指摘事項なし」 での合格判定となった。

 

私はこの時を待っていた。

これで内部管理体制は、一定の完成度に達したと言える。

監査を受けていただいた生産者には、改めて、この場を借りてお礼を言いたい。

しかし、これはあくまでも、農産物のその時の 「結果」 に対する判定である。

今日届いた大根は大地の基準に沿ってつくられたものと認められる、ということでしかない。

 

この5年の蓄積を土台にして、その向こうに行きたい。

監査・認証という冷たいシステムに、いよいよ血を通わせるのだ。

結果に対する 「基準適合」 だけでなく、

生産者が日々取り組んでいる努力の過程そのものを認め、評価する体系に進みたい。

年度が変わる前の3月、私はそんな提案を会社に提出した。

 

基本方針は承認されたものの、さて、どんなふうに進めるんだ?

ということで、今回の 「勉強会」 という名目での呼び出しとなった次第である。

 

具体的手法については、たいしたことではない。

いや、難しいようでそうでもない、簡単なようでそうでもない、という感じか。

まずは、今までやってきた手法にちょっとした手を加えるだけなんだけど、

問題は、この 「手」 をうまく自分たちのモノにできるかどうか、である。

生産者の、その作物の栽培内容だけでない、様々に取り組まれている様々な 「努力」 と

お金に換算できない 「価値」 を正しく評価して、前に進んでゆくための制度。

それによって未来をつくる力がここにあることを、私は立証して見せたいと思うのである。

大地独自の有機農業推進法であり、有機農業運動監査システムだと言ってみたい。

 

なんだか抽象的な話のようだけど、

この夜の話では、それなりにリアリティをもって語れたとは思う。

 

終了後、少しハイな気分になって、15人ほどで一杯やる。

軽くのつもりが、とうとう深夜3時まで喋くりあってしまった。

 

これは、「監査」 というものを自分たちの本当の力にするための作業でもある、と思っている。

農産物の世界なので、成果はすぐにはお見せできないけど、

数年後には、こういうことだったのね、と言っていただけるように、やってみたい。

仮にズッコケても、ゼッタイに何かは得られるはずだ。

 

有機JAS制度ができた時から、エビは 「有機JASを超える!」 とか

偉そうに吹いてたけど、忘れてはいなかったんだね。

 -当ったり前っすよ。 ずっと悩んでたんですぅ、今もですけど。

 

さて、ここまで言ってしまうと、もはや絵に描いた餅ではすまない。

でも、あまり期待されても困ります。 少しずつですよ、少しずつ、一歩前に・・・・・

 



2008年5月10日

環境保全型農業

 

つい先日 (4月23日) に、

有機農業総合支援対策事業 (モデルタウン) の実施地区に選ばれたと

紹介したばかりの千葉 「さんぶ野菜ネットワーク」 さんが、

今度は、

「環境保全型農業推進コンクール」 で農林水産大臣賞を受賞した。

 

5月8日、そのお祝いの一席が開かれ、出席させていただいた。

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成田のホテルで、立派な祝賀会である。 

 

振り返れば、10年前にも同じ賞を取っている。

当時は、JA (農協) の有機部会という組合員の組織という立場だった。

それが10年経って、独立した農事組合法人としての受賞である。

集まった人たちを眺めれば、農水省の担当官から千葉県庁、県議会議員、

地元山武市のお歴々に加えて、取引先も多彩になっている。


ここ山武で有機農業が始まったのは、ちょうど20年前。 1988年のことだ。

 『大地低温殺菌牛乳』 の生産地である静岡県函南町で開催された

全中 (全国農協中央会) 主催の 『有機農業全国農協交流集会』 に

3名で参加したことがきっかけだった。

 

「これからは有機農業の時代になる」

当時のJA山武睦岡支所長・下山久信さんは、この集会で決意したのだという。

帰ってから、すぐさま支所内に有機部会を結成して、生産者に呼びかけた。

山武の特産でもある人参に発生していた連作障害に悩んでいたこともあって、

29名の生産者が集まった。

 

函南町での集会では、

地元にある大地の農産加工メーカー・フルーツバスケットの代表、加藤保明が講演し、

有機農業運動から低温殺菌牛乳開発、そして農産加工場設立と、

生産者と歩んできた発展の経過が話された。

 

下山久信さんは、かつての 「三里塚闘争」 (成田空港建設に反対する農民運動) の支援学生で、

大地の初代会長・藤本敏夫さんや、現会長の藤田のことも知っていたようだ。

そんなこともあって、彼は部会結成後、真っ先に生産者を連れて大地の事務所に訪ねてきた。

今はない武蔵境の事務所だったと記憶している。

 

翌89年4月、部会員・雲地幸夫さんのチンゲン菜が大地に初出荷される。

『クロワッサン』 なんて雑誌の取材が入ったりした。

 

当時、米の輸入自由化反対運動に関わっていた僕は、

もっと "お米について知ろう" という専門委員会を結成したばかりで、

消費者と一緒に米づくりを体験できる場をつくれないかと率直に下山さんに打診したのだった。

それが90年、『大地の稲作体験』 の始まりだ。

最初に田んぼを貸してくれたのは有機部会結成時のリーダー、今井征夫さん。

同じ年、大地の農場建設にも土地の提供から何から尽力してくれ、

そして何と、その農場開きのお祝いをした翌日に亡くなられた。 暮れのことだった。

今思い出しても、言葉がない。 大地と山武の熱い一年、だったなぁ。

その 『大地実顕農場』 は、今はない。

計画の甘さというより、当時の力量では早すぎたのかもしれない。

 

91年には地元の小学校の給食にも供給が始まった。

そして97年、第3回の環境保全型農業推進コンクール・農林水産大臣賞を受賞した。

 

2000年、有機JAS制度発足と同時に認証を取得する。

当時の部会員50名、有機認証圃場12ha。

 

2005年。 部会員46名で、農事組合法人 「さんぶ野菜ネットワーク」 を設立する。

そして今年、 「有機農業総合支援対策事業」 の指定産地として採択され、

自治体やJAなども巻き込んで、「山武市有機農業推進協議会」 を設立する。

 

......と、こんなふうに紹介すると順風満帆の勢いのようだけど、

歴史をつくる作業って、並大抵のものではないのだ。

20年前のトップランナーは、今日の受賞や助成の恩恵にはあずかってはいない。

開拓者の矜持 (きょうじ:誇り) が報われた、と言えば簡単だけど、

その喜びは、その人にしか分からない孤高のものだ。

 

祝賀会。 藤田会長に挨拶の指名が-

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出席されていた先達に労をねぎらったあたり、さすが。

 

挨拶に立った 「さんぶ野菜ネットワーク」 代表の雲地康夫さん。

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前日の断続的な地震で、あまり寝てないらしい。

厳しい農業環境の中でも、新しい取り組みにチャレンジしながら未来を切り開いてゆきたいと、

舌をかみながら挨拶。 微笑ましい。

 

結婚式も行なわれる会場で、懇親会。

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藤田と下山さん(写真右)。 左は元有機部会長・富谷亜喜博さん。

今期から、大地を守る会生産者理事に名乗りを上げていただいた、

これからのリーダーの一人である。

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面白い一枚をいただきました。

「オレたちゃ相棒だからよ」 と気軽に藤田会長の肩を抱ける数少ないお人、

生産者・越川博さんとのツーショットです。

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越川博さんと僕は、モデルタウン事業での、

消費者との交流事業推進担当という同じ立場である。

「エビちゃんよぉ、今度じっくりと飲むだんべな」

 

博さんと飲むかどうかは別として (アンタと飲むと翌日使い物にならなくなるから)、

とにかくおめでとうございました。

長いこと有機農業を無視し続けてきた国からの賞なんて、

ホントは片腹痛いという気持ちではあるけれど、

現場で天候や病害虫や周りの視線とたたかいながら実践してきた生産者にとっては、

やっぱり、それはそれで嬉しいのである。 地域を開拓したことには違いないからね。

 

これから先のしんどい道々も思いながら、今日はひたすら生産者の労をねぎらう。

 



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