「有機農業」あれこれ: 2009年6月アーカイブ

2009年6月26日

有機農業は進化する -米の生産者会議から

 

昨日から2日間、今年で13回目となった 「全国米生産者会議」 を開催する。

大地を守る会の米の生産者たちによる、年に一回の技術研修と交流を兼ねた集まり。

今回の開催地は福島。 幹事はやまろく米出荷協議会さん。

まずは郡山にある福島県農業総合センターという県の研究拠点に集合する。

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「金かけてるなあ...」 といった声もあがるほど立派な研究施設だ。

福島は有機農産物の認証費用を助成する制度をいち早くつくった県で、

このセンターにも 「有機農業推進室」 というどっかで聞いたような部署ができ

 (ウチに挨拶もなく・・・ )、

有機農業の先進県たらんとする意気込みは出ている。

 

幹事団体として挨拶する、やまろく米出荷協議会会長、加藤和雄さん。 

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やまろくさんとのお付き合いも20年近くなる。

" 平成の大冷害 " と言われた1993年。 米の価格が一気に暴騰した時、

これまで支えてくれた取引先や消費者こそ大事だと、

周りの価格に惑わされず我々に米を出し続けてくれた気骨ある団体。

そういう意味では、大地の生産者はみんな強いポリシーの持ち主たちで、

これは我々の誇りでもある。

 


今回は、お二人の研究者に発表をお願いした。

一人は、福島県農業総合センターの主任研究員、二瓶直登さん。 

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テーマは、「アミノ酸を中心とした有機態窒素の養分供給過程」。

 

植物生長に欠かせない成分であるチッソは、硝酸やアンモニアなど無機態チッソ

となって吸収される、というのがこれまでの一般的な理論である。

有機栽培で投入される有機質肥料は、土壌中で微生物によって分解されるが、

多くは腐植物質やタンパク質、アミノ酸態となって存在していて、

これらは無機態チッソへと進まないと植物には吸収されない、と思われがちだった。

化学肥料 (化学的に合成された無機肥料) なら速攻で必要な養分供給ができる。

と考えるなら、化学肥料でよいではないか、となるのだが、

では化学肥料より有機栽培の方が強健に育つという現象があるのは、何によるのか。

実は作物は有機態チッソも直接吸収しているわけなんだけど、

二瓶氏はこの実態をきちんと突き止めようとしたのである。

 

二瓶氏は、有機態チッソの最小単位である20種類のアミノ酸を使って、

それぞれの吸収過程を解析することで、

「アミノ酸は作物の根から、たしかに吸われている」 ことを証明して見せたのだ。

特にグルタミンの吸収がよく、無機態チッソ以上の生育を示したという。

 

これは、これまで有機の世界で語られていた次の理論を裏づける

一つの研究成果となった。

すなわち、植物は、光合成によってつくられた炭水化物と根から吸収された無機態チッソ

を使ってアミノ酸を合成するが、アミノ酸そのものが根から吸収されているとすれば、

植物体内でアミノ酸をつくるエネルギー消費が省略でき、

それによって生育が旺盛になると考えられる。 

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この研究は、これまで農家の経験の積み重ねをベースに進んできた

有機農業の理論を、確実に後押しするものと言える。

そんなことも分かってなかったのか、と思われる方もおられようが、

「植物は基本的に無機物を吸収して育つ」 という原理を

リービッヒというドイツの化学者が見つけて以来、約170年にわたって、

農業科学は無機の研究と化学肥料の開発に力点が注がれてきたのである。

 

ともすると観念論的に見られた有機農業の深~い世界が、

研究者たちが参画してきたことによって、ようやく謎が解かれ始めている。

有機農業理論は、これから本格的に花が開く段階に来たんだと言えるだろうか。

二瓶氏は、「この研究成果は、科学的根拠に基づいた有機質肥料の施用法に向けての、

まだ端緒でしかない」 と語る。

さらなる研究に期待したいところである。

 

続いては、東北農業研究センターの長谷川浩さん。

専門家たちが中心になって結成した 「有機農業学会」 の事務局長も務める研究者だ。

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テーマは、「水稲有機栽培における抑草技術について」。

 

健康な作物づくり、安定した生態系の構築、を土台として

有機栽培技術の基本構成要素を整理して、それぞれでの研究を進め、

自然を生かす総合技術体系として確立させたい。

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湿田では湿田の、乾田では乾田の管理の考え方と技術がある。

これまで様々な対策理論や民間技術が生まれてきたが、

それらをきちんと検証しながら、多様な気象、土壌、地形、水利条件に対応した

抑草技術にしていかなければならない。

雑草対策だけの話ではなく、有機農業の総合理論の中で考えるという、大きな話になった。

 

4年前に有機農業推進法ができてから、

全国で100人を超す研究者が有機の研究に入ったと言われる。

今回のお二人の講演は、有機農業学がこれから一気に深化するという勢いを

感じさせてくれるものだった。

オーガニック革命は、いまも目の前で進んでいるのだ。 

研究者諸君、税金の無駄遣いとか言うのはしばらく控えるので、頑張ってくれたまえ。

 

続いて現場に、なんだけど、講演の話を予想外に長く書いてしまった。

疲れたので、この項続く、とさせていただき、今日はここまで。

 



2009年6月 8日

有機農業推進委員会

 

東京・九段下にある農水省の分庁舎まで出かける。

ここで農水省が主催する第4回 「全国有機農業推進委員会」 が開かれる。

大地を守る会会長の藤田が委員になっている会議だが、

この日は出られず、また代理出席の予定だった野田専務理事も出られなくなり、

代理の代理というお役目。

官庁はクールビズだろうと思ったけど、普段する機会があんまりないこちらは、

逆に気分を変えて、ネクタイを締めて行く。

 

農水省の生産局農業環境対策課や消費・安全局の方々に、

大臣官房審議官が事務局として出席し、

生産者、消費者、流通者、学者、認証団体などから選出された委員が15名。

座長は茨城大学の中島紀一教授。

埼玉県小川町の金子美登さん、茨城県八郷町の魚住道郎さん、

高知・土佐自然塾の山下一穂さん、ノンフィクション作家の島村菜津さんらの顔ぶれが並ぶ。

かつてアウトサイダーと言われ、存在さえ無視された有機農業者や我々のような団体を、

国が招いて有機農業の推進を謳う時代になった。

去年は有機JAS制度の見直しの検討委員会に出させていただいたが、

今回席に座って、顔ぶれを眺めながら、改めて時代の変化を感じさせる。

 


まずは事務局 (農水省) からの報告を聞く。

農水省が立てた有機農業推進の政策目標によれば、

平成23年までに全都道府県で推進計画が策定されることになっているが、

現時点で策定されているのは30都道県。

残りの17府県も、23年度までには策定予定で進められているとのこと。

さらに市町村レベルでは、50%以上で推進体制がつくられることを掲げているが、

23年度までに推進体制を設立する予定にあるのは、

すでに設立済みを含めて148で、全市町村の8%という厳しい数字である。

そこで農水省は新たに、有機農業推進のモデルタウン地区の増設や

技術支援の拠点整備のために2億円の予算を追加した。

 

また昨年度から始まったモデルタウン事業で助成を受けた45地区を対象に

アンケートを実施したところ、有機農業者数は18%増加。

慣行栽培からの転換は顕著に進んだが、

新規就農者の伸びは前年比+24名に留まっている。

有機栽培面積は40地区で増えたが、減少した地区が2件あった。

有機農産物の地元学校給食への導入は18件で増え(2件で減少)、

モデルタウンの一定の効果が見て取れる。

学校給食への導入推進については、第2回の検討会議で野田代理が主張している。

子どもたちに安全な食材を供給するだけでなく、食育の推進や、

地域の理解を深める、あるいは自給率の向上にもつながるものだ。

そして爆発的に増えているのが、新規参入に関する相談件数と研修参加者である。

これは今の閉塞した社会情勢も影響しているのだろう。

 

委員からの意見は多岐にわたった。

新規就農支援は、入口はできつつあるが出口が整備できていない (山下委員)。

つまり研修生を育てても、就農先が見つからない、あるいは条件の悪いところに限られる。

村の閉鎖性に縛られるなど、簡単に就農できない仕組みがある。

しかも先達が成功して地元から信頼されていることが鍵になっている、

という状態は変わっていない。

加えて、せっかく就農できても販路が見つからなくて苦しんでいる。

有機農業の技術の確立も急がれる。

各地に有機農業の普及員を養成する必要がある (魚住委員)。

 

流通側からは、有機農産物を増やせない生々しい実情が語られた。

小売店での消費動向は、安全性よりも価格、という潮流に一気に変わってきている。

外食では、品質の安定が優先だ、と。

 

僕は3つのことを主張させていただいた。

モデルタウンは有機農業団体に自治体やJAなども含めた地域での協議会の設立

が条件になっているが (たとえば千葉・山武では、さんぶ野菜ネットワークを中心に、

山武市・山武郡市農協・ワタミファーム・大地を守る会で構成されている)、

協議会を作れない個人や団体への支援の仕組みも必要ではないか。

僕がイメージするのは、喜多方市山都の小川光さんと若者たちである。

山間地に暮らし、水路 (=水源) を守り、子どもを産んで活性化の役割も果たしている。

彼らには有機農業推進事業からの助成は一切ない。

なくったってやることはやるのだが、制度の課題ではあるだろう。

 

もうひとつは、有機農業の持っている社会的価値 (外部経済) の整理が必要だ。

有機農業の拡大とともに販路が求められるが、流通・小売の現場は価格圧力が厳しい。

地域で有機農業が広がることによって支えられる価値、貢献しているものがある。

それは環境や水系の保全であったり、生物多様性の安定であったり、

食育や健康や自給力への貢献であったりする。

それらを含めての  " 値段 "  というものを、

説得力のある形で消費者に伝えられなければならないと思う。

(僕の本音は、そういう貢献が認められるものには消費税を免除しろ=その分の

 税金は消費者が負担している、なんだけど・・・まだ言えないでいる。)

 

三つ目は、遊休地 (耕作放棄地) 対策と就農支援のリンクである。

時間がなくて本意をちゃんと話せなかったが、

農水省内には、有機農業推進事業とは別に、

耕作放棄地対策、農村活性化人材育成派遣事業 (『田舎で働き隊』 事業という)、

里地環境づくり、農地・水・環境向上対策事業、などがそれぞれに動いている。

農林水産省生物多様性戦略なるものもあって、こちらは環境省が全体をとりまとめる

形になっている。

これらをもっとうまくつなげて、総合的な施策・ヴィジョンとしてまとめてはどうか

と思うのだが、いかがなものだろうか。

現状では、それぞれの部署が同じような理念を掲げて予算を奪い合っている

(結果として膨れ上がっている) としか思えないのだ。

国の財政はすっかり破綻しているというのに。

 

ついでに言えば、

経済産業省には 「農商工等連携対策支援事業」 というのがある。

その目的は、「企業と農林漁業者が有機的に連携し、それぞれの経営資源を

有効に活用して、中小企業の経営の向上および農林漁業経営の改善を図る」

というものだ。

農村の活性化や環境対策にいったい全部でいくらの税金が投入されているのだろう。

それらは本当に効果を上げているのだろうか。

 

有機農業の推進はよしだが、

使うなら最も有効な形で使ってもらいたいと願うばかりである。

 



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