「有機農業」あれこれ: 2010年7月アーカイブ

2010年7月29日

有機農業推進 はどこへ行く?

 

26日(月)、夕方6時前に仕事を中途で切り上げて、千葉・山武まで車を飛ばす。

約1時間遅れで、山武市有機農業推進協議会(以下、山有協) の会議に出席する。

名ばかりの幹事と言われないためにも。

 

有機農業推進法によるモデルタウン事業が、事業仕分けによって

形を変えて生き残った話は以前にしたけど、

山有協も計画書を出し直して認可されたものの、予算は大幅に削られてしまった。

 

「これじゃ何にも出来ねえな!」 と、

さんぶ野菜ネットワーク専務理事・下山久信が何度も吐き捨てている。

たしかに、何に使うにもあまりに中途半端な額で、

この2年、精力的に取り組んできた新規就農者受け入れ体制も、

かなり自力運営に近い形で修正せざるを得ない。

なおかつ 「収益力向上」 の実績をつくらなければならない。

その目標ラインは5%。

収益を上げてこそ、でしょ。 - と言われる農業。 

食と国土を支える農業とはそういうものなのか。。。

 

ひっきょう、いろんな費目への予算を削って販売促進の計画を練ることになるのだが、

国庫補助がなかったら有機農業の拡大ができないとは

僕は意地でも思ってないので、

これはこれで産地の  " やる気 "  が試される試金石だと考える。

下山さんのパフォーマンスも、実はみんなの志気を鼓舞しているのではないか

と思ったりもする。

 

「言ってやるか。 言うしかねぇか」

下山さんが気合を入れている。 二日後の農水省での会議に、である。

 

そして昨日の午後、農水省7階の講堂で、

「有機農業の推進に関する全国会議」 が開催された。

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会場は満席どころか、追加の椅子が用意され、

参加者は全国から500名くらい集まっただろうか。 

 


しかしながら、会議は1時半から6時近くまで及んだのだが、

ほとんど報告の時間で終始した。

農林水産省からの全体的な経過報告。

地方自治体から選ばれた4道県の取り組み報告。

産地協議会(モデルタウン) からの報告が5産地。

有機農業技術会議や有機農業研究会など団体の報告が6件。

 

会議の途中、駆けつけました、という感じで

篠原孝・農水副大臣からのスピーチが入る。 

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農水省の役人時代から有機農業の推進を唱えてこられた、

筋の通った有機農業派である。 

日本で最初にフードマイレージの概念を紹介した方としても知られる。

何度かの左遷を味わいながら(本人の弁)、政治家に転身し、副大臣となった。

時代が変わったと感じさせる象徴的政治家ではないだろうか。

いや、もっとも象徴的なのは、なんといっても菅さんか。

四半世紀以上も前、市民派政治家として期待を浴びながら、

若さを売りにしていた菅さんの事務所に

電話一本で宣伝カーを借りたりしてたことを思えば・・・・・

「ちわぁ。 鍵借りまぁす」 なんてね。 オンボロの宣伝カーだったなぁ。

デモの途中でエンストして、運転手の僕は意図的に停車したと疑われ、

もうちょっとで 「公務執行妨害」 で逮捕されるところだった。

「スミマセン。 押してもらえますか」 

- キ、キサマぁ!  ほ、ほ、ほ、本官を! と叫んだかどうかは覚えてないけど、

「逮捕するぞ!」 と恫喝されたのは、はっきりと記憶している。 

漫画のような光景だったね。

 

菅直人首相に、篠原孝副大臣。

いろいろと問題はあるようだが、たしかに変わってきた、それは実感である。

しかし今日はどうか。

有機農業を力強く推進していきたい、というような決意表明はあったが、

現在の政策については明快なコメントは聞けなかった。

 

産地からの報告では、先日一緒に飲んだばかりの 「かごしま有機生産組合」代表、

大和田世志人さんが発表している。

ここでの肩書きは、「かごしま有機農業推進協議会 総括責任者」 である。 

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有機農業への参入促進では、技術支援センターを立ち上げ、

新規就農希望者の見学会などを企画して呼び込んできたこと。

消費者への普及啓発・交流事業では、

有機をテーマにしたイベント 「オーガニックフェスタ」 を開催したこと、などが報告された。

有機農業と学校給食についてのシンポジウムも開いて普及に努め、

県内20の学校で有機野菜が導入されている、とのこと。 

立派な成果だ。

 

しかしうまく進んでいるところばかりとは限らない。

正確には、少ない、と言うべきか。

昨年度にモデルタウンとして取り組んだ地区は59まで増えたが、

「産地収益力向上支援事業」 になって、43地区に減った。

これまで取り組んできた全地区の概要を、頁をめくりながら眺めても、

2年で飛躍的に有機が拡大したとは言い難い。

悪口を言っているのではない。 そんなものなのだ。

 

それがたった2年で営業成績評価のようなものに変わった。

主旨変えに反発した地区、収益向上という具体的目標設定に断念した地区など、

理由や実情は微妙に異なるが、全体的に士気が落ちた感は否めない。

 

各種の報告が続く中で、なんとなく会場全体がうっ屈しているように思えたのは、

僕の心境がそうだったからだろうか。

わずかに与えられた質疑の時間も、どうにも消化不良だ。

下山さんも手を挙げる気にならなかったようだ。

 

最後に登壇した金子美登さんがただ一人、

「ただ収益を追う制度でなく、有機農業の本来の意義に沿って発展させていってもらいたい」

とコメントされたのが、救いのように残った。

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" これでいいのか " 感は払しょくできないが、

しかし国の助成は税金である以上、中途半端でも無駄にするわけにはいかない。

有機農業が地域の発展を牽引するものであることを示す、

自分たちにとっての確かな指標を持って進めたいと思う。

 

そんな晴れぬ思いが尾を引く中で、

今日、さんぶ野菜ネットワークから2名の入会登録申請が上がってきた。

研修を経て山武に入植した方だ。

「大地を守る会」 生産者会員としての登録希望である。

そのプロフィールのなかで、

「生産物のもつ 「商品」 以外の価値も共有できる関係を望みます」

のコメントが輝いているじゃないか。

 

ガタガタ言いながらも、しっかりと育ててきたね。

「やることやってっからよ」 - 下山ボスのしたり顔が浮かんでくる。

「登録承認」 で回す。 

やるべきことをやっていくだけ、だね。

 



2010年7月23日

鹿児島で 有機農業フォーラム

 

鹿児島に行ってきました。

昨日から今日にかけて、

かごしま有機生産組合主催による 「第5回有機農業フォーラム」 が開催され、

そこで1時間ほどの講演を依頼されたのです。

 

会場は薩摩川内市、 「湖畔リゾートホテルいむた」 。

ラムサール条約にも登録されている藺牟田(いむた) 湖畔にある。

ベッコウトンボの生息で有名なんだとか。

 

僕に与えられた課題は、

「首都圏における有機農産物の販売動向」。

生産者にはとっても気になる話題だが、語る側にはちょっとつらいテーマである。

 


首都圏での 「有機農産物」 の販売動向といわれても、

販売に関する正確なデータがあるわけではない。

あるのは、有機JAS制度で認証(格付) された農産物の数量データのみである。

しかも存在するデータから読み解こうとすると、

有機農業で頑張っている生産者にはとても厳しい現実を語らざるを得なくなってしまう。

 

たとえばこんな数字がある。

有機農産物の生産量 (「有機」と格付された農産物、ここではすべてこの数字)

の統計が取れるようになったのは、有機JAS制度ができた2001年からであるが、

その年の国内総生産量に占める 「有機農産物」の割合は、0.10%だった。

そして直近のデータである08年には、0.18%になっている。

7年間での伸び率は、0.08%。

数量でいえば、約3万4千トンから5万6千トンで、66%増加となる。

これをどう評価するかは、意見の分かれるところだろうが、

まあ伸びていることは事実である。

とりあえずこれを 「地道に」 と表現させていただく。

 

しかし国民的目線でこのデータを見たときに、

驚かなければならないのは、むしろ国内総生産量の減少ではないかと思う。

7年間で94%に落ち込んでいる。

つまり、分母が6%減ったとろこでの 0.08%増、というわけだ。

分母の数量は、約3,220万トンから約3,024万トンへ。

約200万トン落ち込んだところに、「有機農産物」 が2万トン伸ばした。

衰退していくなかでの 「希望の星」 か、もしかして生き残りをかけての 「有機」 か。

 

憶測で語るのはやめて、もうひとつのデータを提示させていただく。

外国産有機農産物の数字である。

2001年に格付された外国産有機農産物は9万4千トン(すでに今の国内産の倍近い)。

それが08年には、約200万トン。

7年間での伸び率は、2125%(約21倍)。 野菜だけでも730%、米で780%。

まるで国内生産量が減った分を、外国産有機農産物が補ったかのような数字だ。

だとするなら、この数字は絶望的ともいえるし、ある意味での希望ともいえる。

 

こんな数字を示しながら、「有機農産物の販売動向」 をどう語るか・・・

複雑なる心境がご理解いただけるだろうか。

「有機農産物」 マーケットは、間違いなく成長しているのである。

食の自給とは関係なく。

そこで、外国産有機農産物の圧倒的な増加をもって、

結局、有機JAS制度は外国産有機を後押ししただけだと批判する向きがある。

僕の考えるところは、最後の結論まで待ってほしい。

 

個人的感覚だけで喋ってはいけないので、もうひとつのデータを参考に挙げる。

農水省からの委託で、NPO法人 日本有機農業研究会が行なった、

「有機農業に関する消費者の意識調査」 である。 昨年の3月に発表されている。

 

このレポートから炙り出されてくる、消費の像とはこんな感じだ。

・ 「有機農産物」というものの存在については、ほとんどの消費者が知っている。

・ 「有機農産物を一度でも購入した」 経験を持つ人は約6割に達しているが、

   「有機JASマーク」 を理解しているのは1割程度である。

・ 「有機」への理解は 「安全性」 や 「環境にやさしい」 というイメージ。

・ 不満は、圧倒的に価格の高さ、である。 続いて供給の不安定さとまとめられるか。

・ 一方で有機をプラスに評価する人の、価格容認幅は +1割~2割高 くらいまで。

 

他にもいろんな傾向が読み取れるが、まあだいたい想定範囲内である。

こういった調査結果を参考指標にしつつ、

その上で、僕が現実から感じとっている消費と社会的な動向について

触れさせていただいた。

大地を守る会は卸し事業もやっているわけなので、

データだけでお茶を濁しては、石を投げられちゃうだろうし。

 

結論。

有機をめぐる市場は広がりを見せつつも、まだまだ未成熟なのだ。

人々の関心や社会的トレンドは、間違いなく 「有機」 への期待を高めている。

しかしマーケットは動いたが営業メリットは発生せず、

JASマークへの不信感が残る一方で、マーク以上の信頼のツールを編み出せていない。

 

僕は有機JAS制度ができた時から、「JASマークを乗り越えよう」 と

呪文のように唱え続けてきた。

認証やそのマークは自身の営農結果の 「証明書」 である。

それが時代の求めるものであるならば、数々の問題点はあっても、

避けずに正面から突破したいと思ったんだよね。

しかし規格に適合したという 「証明」 をもって、それ以上の価値を、

たとえば自身の食や農業に対する思いを語るものには、けっしてならない。

それ以上の価値は、自らの力で築いていかなければならない。

 

有機JAS制度と表示は、発展への過渡期的必然だったのだ。

結果として外国産有機農産物が氾濫したとするなら、それは制度ではなく、

我々の未熟さの問題である。

 

バカにならないコストと手間をかけて認証に取り組んだ者だからこそ

進むことのできる  " 次のステップ "  がある。

「有機農業」 が目指した社会に向けての、次の一歩に。

 

大地を守る会の最近の動きを紹介しつつ、感じている世の中の変化を伝え、

僕らなりの挑戦の方向を述べさせていただく。

" マーケットの拡大 "  というと商業用語になっちゃうけど、

それは経済の流れとも、人々の意識ともつながって動的なものだし、

なにより生産はそれを強く求めていると思うので、ここでは憚らず使わせていただく。

量だけでなく質の深化も目指して、何を語り、どのようなくさびを打ち込めるか。

証明から価値観を動かす力へ-

 

肝心なことを言い忘れたけど、かごしま有機生産組合は、

実は 「有機的社会」 づくりに向けて、すでに舵を切っているのである。

都市の団体や流通に依存するだけでなく、地域に広がるためのお店を増やし、

直営農場を持ち、農業技術センターを設立させて、

有機農業技術の確立と新規就農者の育成に取り組んでいる。

JASの認証にも取り組んだからこそ、制度に対してモノ申す権利も、

大胆にいえば否定する説明力も持ったことになるワケで、

次の展開への踏み台は、もう足元にあるわけです。

どこよりも活力あるかごしま、を建設してほしい。

 

フォーラムでは、

NPO法人 有機農業技術会議の事務局長・藤田正雄さんの講演もあった。

以前、新規就農者のためのハンドブック-『有機農業をはじめよう!』

の編集で一緒に仕事をさせていただいた方。

藤田さんの講演タイトルは、「土の生き物からみた土づくり」。

多様な生物を活かしながら土をつくる技術。

有機農業の持っている、もっとも根源的な力だ。 化学肥料では土は生産できない。

 

分散会では有機認証のための記帳の煩わしさやコストが語られ、

理想論とは別に、現場でのしんどさは続く。

組合員数が150人にも達すると、組織をまとめるにも相当な苦労があることだろうが、

これからの方向を考えるキーワードのひとつが 「地域」 だとするなら、

自分たちはすでに一つの条件をクリアしつつあることに、どうか自信を持って欲しい。

 

今日の夕方には幕張に戻らなければならない都合があり、

ここでもとんぼ返りになった。

たまにしか来ることができない地方出張なら、

遠方ほどじっくりと見て回って相互理解を深めたいものだが、

現実がなかなか許してくれない。 歯がゆいものだ。 

 

大暑の日のうだる移動に、希望も萎えそうになる。

 



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