「有機農業」あれこれ: 2012年9月アーカイブ

2012年9月20日

有機農産物はニーズではなくて、未来を育てる食

 

今日は茨城県つくば市にある農林水産省の施設

「農林水産研修所つくば館」 まで出かけて、久しぶりに有機農業の話をしてきた。

農水省が実施している 「農政課題解決研修」 の一環とやらで、

全国の農業改良普及センターの普及員を対象とした

4日間の 「有機農業普及支援研修」 プログラムの一枠での講義を依頼されたのだ。

与えられたテーマは 「有機農産物の消費者ニーズとソーシャルビジネスの展開」。

実は 昨年 も同様のテーマでお話ししたもので、

もう依頼は来ないだろうと思っていたら、「今年もぜひ」 との要請を受けた。

去年の話がどんな評価を受けたのかは分からないけど、

どうやら  " 講師選定のミス "  という判定にはならなかったようである。

 


そもそも有機農産物を  " 消費者ニーズ "  という視点で捉えると本質が見えなくなる。

食品に対するニーズは多種にわたる。 価格・味・規格・鮮度・・・

有機農産物のそれは 「安全性」 ということになるのだろうが、

考えるべきことは、その要求の根底にある 「安全性への不安」 に対して、

生産現場に関わる立場としてどう応えるか、である。

「農薬は安全です」 と説得にかかるか、

「農薬を使わず (あるいは、できるだけ減らして)、安全性だけでなく、

 環境汚染や生態系とのバランスも意識しながら育てる」 かで、

消費(者) との関係の結び方は決定的に変わる。

 

去年のブログにも書いていることだが、

大地を守る会は、消費者ニーズを感じ取ったからこの事業を始めたわけではない。

有機農産物の普及・拡大によって、食の安全=人々の健康、そして地球の健康を、

将来世代のために保証する社会を作りたくて始めたのだ。

それは必然的に生産と消費の関係を問い直す作業でもあり、

ソーシャルビジネスという概念は後から追っかけてきたものでしかない。

これは僕らにとってミッション (使命) そのものである。

 

" 次の社会 "  の答えは、「有機農業」 的社会しかないだろう。

特に3.11後、強くそう思う。

食 ・ 環境 ・ エネルギー・・・ 領域を越えてビジョンをつなげ、

次の社会の姿を示すことが、今まさに求められている。

有機JASマークは、生産者の努力と行為を証明するものではある。

しかしそのマークでブランド競争ができるものではない。

マークの裏にある 「誇り」 を、価格よりも 「価値」 を、伝えられる有機農業を

育成することが皆さんのミッションではないでしょうか。

 

気持ちはあるのだが、さてどこから手をつけたらいいのか・・・

という悩みが、参加された方から出された。

便利な手法や近道は、ないように思う。 僕には見つけられない。

「まずは地元の発掘から始めてはどうか」 とお伝えした。

生産者がいて、販路に苦しんでいるなら、地元の学校給食に提案してみては。

母親たちに 「価値」 が認められたなら、次の道が見えてくる。

・・・・・ま、言うだけならなんぼでも言える。

いざやるとなると、それはそれはしんどい作業になるかもしれない。

でも誰かのために苦労を背負ってみる、それはチャレンジする価値のあることだと思う。

人と社会のイイつながりを創り出せたなら、それは自分にしか味わえない喜びにもなるし。

 

僕にとって今日の話は、農水省の 「地域食文化活用マニュアル」 検討会にも

しっかりとつながっている。

委員を引き受けた本意というか、腹の底に潜ませている期待は、

「地域を育てる食」 はきっと 「有機農業」 的世界につながっている、という予感である。

その発見と発展にわずかでも貢献できたなら、喜びだよね。

 

検討会では、地域食文化による地域活性化を形にした事例調査をやることになって、

僕は岩手県山形村(現・久慈市山形町、我らが短角牛の郷) と、

島根県隠岐郡海士町を推薦させていただいた。

候補地は事務局や他の委員からも多数出され、

嬉しいことに山形村が  " 深掘りすべき事例 "  のひとつとして採用された。

 

久しぶりに山形村に行ける立派な理由をこしらえることができた。

ついにこのブログでも、山形村を紹介する日がやってくる。 

待ってろよ、牛たち。

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山形村短角牛⑤.JPG

 



2012年9月 2日

有機の種は増やせられるのか-

 

気を取り直して、

8月24日の報告を記しておかなければ。

 

アイフォーム (IFOAM/国際有機農業運動連盟)・ジャパンのセミナー。

永田町の憲政記念館にて。

テーマは、有機種苗をどう広めるか。

一見地味な話のようで、とても重要な課題なのである。

 

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有機農業の基本精神に則れば、

種や苗そのものが有機栽培されたものであることが望ましい。

法律である有機JAS規格においても、それは規定されている。

ただし、「有機栽培された種の入手が困難なときは」、

やむを得ないものとして一般栽培の種を使うことも許容される。

現状は・・・・・今の有機農産物のほとんどは

「やむを得ない」 状況になってしまっている。

しかしこれが、なかなかに高いハードルなのである。

 


 

基調講演は、市民バイオテクノロジー情報室代表・天笠啓祐さんによる

「種子メーカーの世界戦略」。

 

いまスーパーやホームセンターで売られている種のほとんどは

海外で生産されている。

京野菜の種子はニュージーランド産、大根は米国産、という具合。

日本独自の野菜と思われているものでも、

種の生産は海外に頼っているのが現状なのだ。

 

理由の一つは、種子の生産では、その品種の形質を守るために、

他の品種の花粉が飛んで来ない場所が求められること。

それを種子会社にとって必要な量を安定的に (+低価格で) 確保するためには、

条件の合う一定の面積を確保もしくは農家と契約することが必要となり、

必然的に海外に生産基地を求めるようになる。

 

このウラには、企業による種子生産が主流になったという構造的変化がある。

種を自身で採る農家はすでに稀少な存在になってしまった。

この変化を牽引してきたのが、F1(雑種一代) と言われる品種開発である。

病気に強いとか、収量が多いとか、味の特徴とか、

それぞれの特徴を持った親同士を掛け合わせると、

一代目の子は両親の強い特質を受け継いだ形で現われる。

しかしその品種で種を採った場合、孫以降は形質がバラけてくる。

このメンデルの法則を利用して、

企業は優れた品種をもたらしてくれる親をしっかり確保して、

掛け合わせ続けることで、ある優位性を持った品種を独占することができる。

これによって農家は毎年企業から種を買うようになっていった。

 

その上に、企業の多国籍化と寡占化 (大手企業による種子会社の買収等)

が進んできたのが今日の様相であり、

GM(遺伝子組み換え)作物が開発されるに至って、

その種子は 「特許品」 となり、独占がさらに進むこととなる。

現在すでに、世界の種子の半分近くが

米国・モンサント社、米国・デュポン社、スイス・シンジェンタ社の

GM種子開発企業3社によって占められるまでになった。

 

タネとは、生命の土台である。

そのタネがわずかの多国籍企業に独占されるという状況は、極めて危険なことだ。

しかしこの状況をもって、農家を責めるわけにはいかない。

土地土地の気候風土に適応し、農家が種採り更新していくことで

種の多様性が維持され、暮らしの安定を支えてきた筈なのだが、

今では農家の経営も市場の価値観に縛られているのである。

花を咲かせ、種を育てる時間的・空間的余裕も失われてきている。

 

かつてあった世界を取り戻す可能性があるとしたら、

それは有機農業が引っ張るしかない。

とはいえ、このハードルは高い。

 

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パネルディスカッションでは、

一貫して自家採種を続けてきた千葉県佐倉市の有機農家・林重孝さんや、

自然農法国際研究開発センター(長野県松本市) の品種育成の取り組み、

自家採種できる伝統品種を守ろうとしている野口勲さん(埼玉県飯能市・野口種苗研究所)

からの問題提起などが語られた。

司会は、大地を守る会の取締役であり、

埼玉県秩父市で有機農業を実践する長谷川満が務めた。

 

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今回の特徴は、「サカタのタネ」 と 「タキイ種苗」 という日本の2大種苗会社が

パネリストとして参加したことか。

両社は世界のトップ・テンに名を連ねる種子企業である。

種子生産は海外に依存しているが、

天笠さんはこの2社にも、GM作物に対抗するポジションにある存在として

エールを送ることを忘れないのだった。

 

GM作物も、殺虫成分に対する耐性を持った虫が現われるなど、

生物の生き残り戦略とのイタチごっこの世界に入っている。

除草剤耐性を持った大豆というのは、

モンサント社のラウンドアップをかけても枯れないということだが、

それはラウンドアップという除草剤の使用を前提とするもので、

単一の薬剤に依存しては、いずれ雑草に乗り越えられる。

GM作物の開発は、すでに8種類の遺伝子を組み込むまでに進化(?)

してきている。 いや、せざるを得なくなっている。

どんどんスピードアップする開発コストを回収するには、

モンサント・ポリスと言われる調査員を駆使して、

勝手に種を採って播いた農家だけでなく、

自然に花粉交配した畑の持ち主まで、特許侵害として訴える。

これはもはやファシズムと言わざるを得ない。

 

幸い日本では、まだGM作物は商業栽培まで至っていない。

スーパーで売られているお豆腐などに 「有機大豆使用」 と謳われたものがあるけど、

それらの多くは外国産のオーガニック大豆が原料として使用されている。

しかし僕としては、海外産オーガニックより、「国産大豆」 を選択することをお願いしたい。

食材の選択は、投票と同じ行為なのです。

願わくば、大地を守る会で地方品種や自家採種野菜をライン・アップさせた

とくたろうさん」 にもご支援を。

 

さて、セミナー終了後、懇親会に誘われたのだが、

この日の夜は以前から高校時代の仲間と飲む約束をしてあって、

辞退して引き上げた。

地下鉄に向かう途中、毎週金曜日の恒例となった

首相官邸前デモに集まってくる人たちに遭遇する。 

警備もバッチリ?

 

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(交差点の向こうにあるのが首相官邸。)

 

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僕は 「地下鉄に乗る」 と言っているのに、なぜかお巡りさんがついて来る。 

問い質せば、「いえ、駅もいろいろ分かれてまして、間違えないかと思って・・・」 と、

実に優しいのだった。

地下鉄に乗って、ハタと気づいた。

僕はこの日、ゲバラ (キューバの革命家) のTシャツを着ていたのだった。

 



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