「有機農業」あれこれ: 2014年3月アーカイブ

2014年3月13日

農地除染から地域の再生へ-語り続ける伊藤俊彦

 

3月11日夕方、オーストラリアからやってきた

IFOAM (International Federation of Organic Agriculture Movements、

アイフォーム:国際有機農業運動連盟) 理事長、アンドレ・ロイ氏ご一行と

須賀川駅で合流。

夜は、ジェイラップ代表・伊藤俊彦さんが気を利かして手配してくれた

豆腐の懐石料理を楽しんでもらう。 

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過去何度か来日経験のあるロイ氏。

和食は大好きだそうで、昨日は納豆も食べたそうである。 

四国出身のワタクシが慣れるのに十数年かかったあの醗酵食品を!

 

昨年12月、「和食」 がユネスコの無形文化遺産に登録された

風土と人の技で磨き上げてきた絶妙なバランスと美、

しつらえとおもてなしの心が失われつつあると言われる中で、

世界の人々が注目し絶賛しているというのも皮肉な話である。

「日本人の心のやさしさは日本食にあるのではないか」

と語ったのはかのアインシュタインだが、

その精神世界を置き忘れ、日本人はどこに向かって突っ走っているのか。

・・・と偉そうにのたまわってみるが、

自分自身底が知れていることも充分承知している。

 

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食材をひとつひとつ確かめながら、

very good! を連発してくれるミスター・ロイ。

ああ、もっとちゃんと日本の伝統を解説できるようになりたい、

とつくづく思う。

お隣は、通訳も兼ねて同行された IFOAMジャパン 理事長の村山勝茂さん。

もちろん話は食に留まらず、有機農業の世界へと広がってゆく。

同行されたのは他に、オーガニック認証機関である

(株)アファス認証センターの渡邊義明さん、渡邊悠さん。

自然農法の団体 「秀明自然農法ネットワーク」 の手戸伸一理事長と、

福島県石川町の小豆畑(あずはた)守さん。

小豆畑さんは 「種採り百姓人」 を自称する自然農法実践者である。

ジェイラップの次の視察先になっている。

 

さて翌12日、一行は朝からジェイラップの事務所を訪問する。

伊藤さんたちが必死の思いで取り組んできた放射能対策についての

聞き取りと質疑が始まる。

このやり取りがまた、簡単に終わらないのである。 


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農地とくに水田での放射性物質の動きをひとつひとつ検証し、

データを蓄積させてきたこと。

そのデータを基に、さらにはチェルノブイリから学び、

研究者を尋ねては吸収しまくって、

米の安全性を確保するために取ってきた数々の対策。。。

伊藤さんが順を追って説明していくのだが、

節々でロイ氏からの質問が飛び出す。

村山さんが通訳し、伊藤さんが説明し、時々僕も割って入らせてもらったりしながら、

少しずつ少しずつ議論が深まっていく。


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専門用語も繰り出されたりするので、

村山さんも時々辞書を開いたりして、大変だ。 


伊藤さんとしてはもっともっと説明を掘り下げていきたかったことと思われる。

ロイ氏もまだまだ聞きたいことがある、といった面持ちなのだが、

何しろ午前中しか時間がない。

ひと通りのところで説明を切り上げ、施設を案内する。


米の全袋検査に使った測定器を見る。

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これは福島県の持ち物で、

ジェイラップは県からの委託で全袋検査に携わった。

ベルトコンベア式で 30㎏の米袋(玄米) が通過し、

国の基準値である 100Bqを超える可能性があると判断されたものは、

ゲルマニウム半導体検出器での精密な測定に回される。

厚生労働省が定めるスクリーニング法では、

基準値 100 未満であることを担保するためには、

その半分の 50Bq を正確に測定できる精度が必要とされている。

つまりこの機械で仮に 50 をわずかに超えるレベルで検出された場合は、

わずかではあれ 100 を超える可能性が残る、と判断するわけである。

そこで県の検査では 「25Bq 未満」 を測定基準として実施された。


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この検査器が県内 173カ所に計 202台配備され、

検査された昨年産米が 1081万 8127袋(× 30㎏≒32万4544トン)

うち 99.934 %の米が 25 Bq未満、

国の基準である 100Bqを超えたのは 28袋のみ、という結果である。

かかった費用は昨年で約 70億円 (一昨年は90億) とか。

これもまったくゲンパツ事故によって国民に課せられた負債である

自然再生エネルギーでは電気代が上がる、

なんて言ってる場合ではないと思うのだが。


続いてジェイラップの検査室を覗く。

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大地を守る会とカタログハウスさんが貸し出した

同じ型の測定器が仲良く並んでいる。

彼らはこの 2台を駆使して測定し続けた。

そして今でもデータ取りに余念がない。

「もう大丈夫」 の先まで続けないと、カンペキとは言えないのだ。


倉庫や加工場の屋根に設置された太陽光パネル。

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脱原発を宣言した県の一員として、

未来を創造する始まりの土地として、やれることはすべてやる。

そんな意思が、パネル一枚一枚に託されている。


農地再生のために導入した大型トラクター。

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これで反転耕(プラウ耕) をやって、

表面の凹凸を横回転ロータリーで踏圧、均平にして、

さらにロータリー耕で表層を固めて、レーザーレベラーで繰り返し均(なら) す。

これを地域全体で徹底させるために、

彼らは農閑期を返上して作業委託を請け負っている。

農地だけでない、これはコミュニティ再生の事業でもあるのだ。


最後に記念写真を。


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時間切れとなって、分かれる前にロイが言うのだ。

「今年の秋の世界大会で、ぜひ発表してほしい。」

日本での放射能対策を、特に福島の農民が報告することは、

とても意義のあることだと。

聞けば開催は10月、場所はトルコ・イスタンブールだと言う。

忙しい収穫時期にトルコまで、しかも渡航費の支援等はないと言う。

いくらなんでも福島の農民にトルコまで自費で行けとは、さすがに言えない。


もっと君たちと話がしたい。

大地を守る会についてももっと知りたいし、

今後の展開について意見交換したい。

そう言いながら、ロイ氏は次の視察先へと向かわれたのだった。

握手して、カッコよく 「イスタンブールで会おう」 とは言えず。




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