放射能対策: 2011年11月アーカイブ

2011年11月30日

『原発国民投票』 と、テレビCM拒否

 

僕より上の世代の人は、元東大全共闘議長の肩書きで

懐かしむ名前だろうか。

国内留学で湯川秀樹博士の教えも受け、将来を嘱望されながら在野に下り、

今は科学史家として存在感を確固としてきた山本義隆さん。

この方が書かれた

『福島の原発事故をめぐって ~いくつか学び考えたこと』 (みすず書房)

が本屋さんの棚から僕を見ているようで、見返すと今度は、「読め」 と脅迫する。

もう、この世代、キライ!

 

科学技術というものは、

「有害物質を完全に回収し無害化しうる技術がともなってはじめて、

 その技術は完成されたことになる」

と山本さんは規定する。 したがって、

「無害化不可能な有害物質を生みだし続ける原子力発電は、

 未熟な技術と言わざるをえない」 と。

 

にもかかわらず、強引な見切り発車で遮二無二建設を進めたのは、

戦後の政治的思惑と、政・官・財が一体となって築いた巨大な利権構造による。

「安全神話」 と 「原子力ムラ」 という伏魔殿は

それを維持・補完するために必須のアイテムだった。

 

「 " 怪物 "  化した組織のなかで、技術者や科学者は主体性を喪失してゆく。」

こうして形成された原発ファシズムと、フクシマの惨劇。

これは、「端的に子孫に対する犯罪である」 と山本さんは弾劾している。

 

最後の一節が、重たい。

 

  日本人は、ヒロシマとナガサキで被曝しただけではない。

  今後日本は、フクシマの事故でもってアメリカとフランスについで

  太平洋を放射性物質で汚染した三番目の国として、世界から語られることになるであろう。

  この国はまた、大気圏で原爆実験をやったアメリカやソ連とならんで、

  大気中に放射性物質を大量に放出した国の仲間入りもしてしまったのである。

 

たしかに、フクシマから放出された汚染水は、日本から4,000km離れた太平洋の

日付変更線のあたりまで至っていることが確認されている。

僕らの国は、もはや被害者だけでなくて、加害者の立場にもなってしまった。

 

それでもまだこの国には、未だに経済優先で原発必要論を語る人たちがいる。

今も極度の不安の中で暮らす人たちがいること、美しい村が丸ごと捨てられたことなど、

意に介してないかのようだ。

事故後10年近くなって子どもたちの甲状腺ガンがピークに達したという

チェルノブイリの教訓は、はたしてどこまで生かされるだろうか。

 

「原発」 なるものへの判断は、誰が下すべきものなのか。

それは 「国民」 だろう -という呼びかけがある。

『 原発国民投票 』 - いかがだろうか。 もちろん判断はそれぞれで。

 

これを呼びかけている人たちの中に、

いま一緒に放射能基準を検討している 「カタログハウス」 さんがいて、

発行する雑誌 『通販生活』 秋冬号の巻頭特集が 「1日も早く、原発国民投票を」 ときた。

気合入ってるねぇ。

とエールを送っていたところ、

何とこの雑誌のテレビCMが放送局から断られたというのだ。

 


11月23日付の朝日新聞-「CM天気図」 というコラムで、

天野祐吉さんがそれをすっぱ抜いた。

以下、冒頭部分を引用したい。

 

  こういうテレビCM,見た?

  黒い画面に白い文字の文章があらわれ、それを読む大滝秀治さんの声が流れる。

  「 原発、いつ、やめるのか、それともいつ、再開するのか。

   それを決めるのは、電力会社でも役所でも政治家でもなくて、

   私たち国民一人一人。 通販生活秋冬号の巻頭特集は、『原発国民投票』 」

  見た人はいない。

  だってテレビに流れてないんだから。

  カタログハウスがそういうCMを作ったんだけど、テレビ局に放送を断られたんだって。

 

テレビ局はどうやら、これを意見広告と判断したようなのだが、

「国民投票」 という民主的手法の呼びかけである。

しかもお金を払って流す雑誌のCMなんだけど・・・・・

ご覧になりたい方は、カタログハウスさんのHPをどうぞ。

 

さて、この 「みんなで決めよう 『原発』 国民投票」 という市民グループ。

脱原発でも原発推進でもない。

原発の是非を有権者が決める国民投票を実現させることを目標として結成された。

詩人の谷川俊太郎さんや俳優の山本太郎さんなど、

たくさんの著名人が賛同人になっている。

 

反対でも賛成でもなく、と言っているのだけれど、

国民投票に反対しているのは、どうも推進派の方々のように見える。

旗色が悪いと読んでいるのかもしれないが、それよりも

国民をバカにしていると思えてならない。

「重要な国策を国民投票で決めるのはおかしい」 って、何かヘンだよね。

国民はバカなほうがよいとでも思っているのだろう。

こんな政治家に未来は託せない、と思って、

" 反対に反対 "  の意味で、署名に賛同することにした。

 

CM放送拒否で逆に話題がネットとかで広がって、

もしかしてカタログさん、してやったり、かしら。

 



2011年11月22日

共同テーブル

 

(株)カタログハウス、生活クラブ生協、パルシステム生協、(株)大地を守る会。

4団体による、放射能基準を検討する 「共同テーブル」。

正式名称は 「食品と放射能問題検討共同テーブル」 と言います。

9月から3回の会合を経て基本合意に至り、プレス・リリースに踏み切りました。

HPでもアップされているので、ぜひご確認ください。

 

http://www.daichi-m.co.jp/info/press/2011/11/post-37.html

 

本件に対して、いろんな質問が寄せられています。

どれも実に自然な疑問ばかり。

説明責任もありますかね。

この場を借りて、いくつかお答えしておきます。

 


<疑問その1> なんでこの4団体なの?

- 特段の理由はないんです。 予め考えてこうなったわけでなく、

  六ヶ所村の核燃サイクルに反対する運動や遺伝子組み換え問題など、

  いろんな運動を一緒にやってきた関係(生活クラブさん、パルさん) や、

  福島・ジェイラップの放射能対策を双方から支援した関係(カタログハウスさん) で

  声をかけたのがきっかけで、まずは我々でやってみようということになりました。

  あえて共通点を抽出するなら、脱原発の姿勢を共有しているということ

  +首都圏・流通(生協さんは正確には 「流通」という業態ではないですが)、

  でしょうか。 もちろん食品の安全性へのこだわりや生産者支援の姿勢で

  一致できる部分がある、というのが前提です。

 

<疑問その2> 広く参加を呼びかけないのか?

- もっともな疑問ですね。上記の4団体で集まった際に、さらに広く呼びかける、

  ということも検討しましたが、多種多様な意見が持ち込まれることが想像され、

  はたしてまとめ上げられるか、という懸念が強く出されました。

  団体の数が多くなると必然的に 「運営」 や 「調整」 に時間が割かれることになります。

  加えて、意見の食い違いから対立や批判を招いてしまっては、

  主旨とは逆の結果になってしまうことになります。

  この業界(?) は、個性派や主張・信念の強い方々が実に多いのです。

  「まとめられなくなる怖れ」 という力量的な限界、これが正直なところです。

  どこに声をかけて、どこは呼ばない、という判断もできません。

  そんなことをすれば、その時点で「終わる」 可能性があります。

  スピードも必要とされるテーマだけに、とにかく我々の力量にしたがって

  目標到達に向かおう、と判断しました。

  もちろん閉鎖的でよいとは思っていません。一定の目処が立ったところで、

  共通資産にできると判断できれば、広く呼びかけることも考えたいと思っています。

 

<疑問その3> 検討はどんな形で進められるのか?

- 食品に含まれる放射性物質は限りなく少ないほうがよい (しきい値はない)

  という認識と、すでに放射能が大地や海に降ってしまった現実の狭間で、

  私たちは今後放射能とどう向き合っていかなければならないのか、

  という視点からスタートしています。

  その上で規制値の適正な設定はどのようなものであるべきか、

  専門家の意見も可能な限り吸収しながら構築してゆきたいと思ってます。

  実際は、悩みが深くなるばかり、というのが今のところですが。

 

<疑問その4> いつ頃までにまとめる予定か?

- 一刻も早く、と考えてはいるのですが、4団体での合同作業になるため

  相応の時間がかかることでしょう。 今想定している目標は、年度内、です。

 

<疑問その5> 国への要求という形をとるのか?

- 国は国で基準の見直しを進めていますが、対立を前提にしているものではありません。

  主旨文にも書いたとおり、

  「それが 「公」 の基準検討を補完するものになれば幸いであり、

   あるいは対立するものになったとしても、

   国民レベルでの健全な議論に寄与するものになることを確信」 しての作業です。

  公・民双方からの議論と作業の積み重ねが、

  生産者も消費者も納得できる 「指標」 の獲得につながる、と信じています。

  新聞記事を見て、電話をかけてこられた ●●●● 省の方、

  喧嘩することが目的ではないので、どうぞご安心ください。

 

とりあえずこんなところで。

また随時、検討プロセスも含めて報告してまいります。

ご期待ください、と力強く胸を張りたいところですが、

前代未聞の作業だということがじわじわと涌いてきて、

震えているのが正直なところです。

 



2011年11月20日

六本木ヒルズで 「放射能と向き合う」

 

まったく広報はいろんな依頼を受けてくる。

日曜日がまた潰れてしまったではないか。。。

 

本日の指令は、「午後3時半、六本木ヒルズに直行せよ!」

六本木ヒルズ!!! オイラなんかの行く場所ではないと思っていた。

大地を守る会の六本木事務所からも近いのだが、

前を通ることはあっても、足を踏み入れたことがない。

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地下鉄通路を上がれば、いきなりこんな感じ。

迷ってしまわないか不安で早く出たら、30分前に着いてしまった。

 

六本木ヒルズ森タワー 2F 「ヒルズカフェ」。 

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ここで17日より 「企業と環境展」 というのが開催されていて、本日が最終日。

主催は、港区内で様々な環境問題に取り組む事業者で構成する

「みなと環境にやさしい事業者連合」。

六本木に事務所がある関係で、大地を守る会も加盟している。

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 その最後のプログラムが、これ。 

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アースデイダイアログ 「放射能と向き合う未来の食卓」。 

ゲストが、お互いに 「変わった名字ですね」 と言い合う3名。

吉度(よしど) さん、親跡(ちかあと) さん、戎谷(えびすだに) さん。

 

" むかし兄弟、いまライバル "  の 『らでぃっしゅぼーや』 さんと席を並べての

食と放射能鼎談。

親跡さんは取締役ながら 「放射能対策チームリーダー」。

僕、「特命担当」。

お久しぶりの挨拶もそこそこに、何の因果かね、と新しい名刺を交換し合う。

 


トークセッションの前に、 

らでぃっしゅぼーや・潮田和也氏とヤスヨさんのユニット 

 " ドライドボニート " (カツオ節という意味だとか) による夕暮れライブ。

 

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プロのギタリストなのに、らでぃっしゅ さんに籍を置いて、

楽しそうに農家を回っている、憎たらしいヤツ (嫉妬丸出しか)。

ま、今日は ヤスヨさんの美しい歌声もあって、しばし癒してもらいました。

 

さて、トーク風景。 

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話はいきなり食品の放射能基準から始まった。

親跡さんが、消費者の強い要望もあって自主基準値(50Bq) を設定した説明をすれば、

僕は、生協も含めた4団体で統一基準を作ってみようと動いていることを報告。

これは正確には、「4団体の」 共通基準を作ろうとしているのではない。

「あるべき公的基準」 を我々サイドからも考え、社会に提示しよう、というものだ。

放射能に関しては、流通の中で基準が乱立するような世界はよろしくない。

ちゃんと生産者にも消費者にも信頼される統一基準が必要だと思うのである。

基準値の低さで競争してしまうと、かえって不安を煽る結果にもなりかねない。

 

大事なのは実態(測定結果) の情報公開であること。

基準値を設定しても、測定情報が開示されなかったら、

基準が担保されていることにはならない。

逆に測定情報をよくよく見れば、現在の食品の放射能汚染がどの水準にあるか、

ほぼほぼ掴めるまでになってきている。

(50という基準値は、実態を見た上での設定でもあろうと思う。)

50Bq(ベクレル) を基準にする団体のほうが100Bqの団体より安全性が高い、

というような話ではないので、実態を把握することに努めましょう。

 

実態を知るには、できるだけたくさんの入荷物を測定する必要がある。

しかも信頼に足る方法でやらなければならない。

それは実にコストのかかる話である。

そこはどの団体も、今もって苦労しているところだ。

ゲルマニウム半導体検出器1台、ガンマ線スペクトロメータ5台 (1台は福島・ジェイラップに)

という当社の体制は、なかなか誇れるものだと思っている。

(自力で揃えられたわけではないので、そこはふまえておくとして-)

 

放射能に安全を線引きできる 「しきい値」 はない。

これが我々が取っている立場である。

だとすると、「これ以下は安全」 と言える数値は軽々には設定できない。

かといってお手上げして、野放図に何でも流通させていいわけではない。

どこかで線引きが必要になる。

過去の調査データや科学的知見、食生活バランス等をもとに一定のラインを設定し、

物理学者・武谷三男さんが唱えた 「がまん量」 のような考え方をもって

整理するしか、今は方法がないように思われる。

数値が落ち着いてきている今のうちに、できるだけの知見を集めて、考えてみたい。

それまでは、実態を見て、それぞれの価値観で判断してもらうしかない。

特定の作物以外はほとんど 「不検出」 レベルになってきてるし。

 

僕が今回、基準の問題以上に強調したかったことは、前にも書いたけど、

「放射能対策には、放射能だけ見てはダメ」 ということ。

人間の体には、放射能によって多少ダメージを受けても、

遺伝子を修復する力が備わっている。

その免疫力を高めるには、できるだけ他の化学物質の影響も考慮して、

バランスの取れた 「よい食事」 をとることが何よりも基本なのである。

放射能対策は総合力でいきましょう。

気になる場合は、よく洗う・皮をむく・茹でる (セシウムは水に溶けやすい)・・・

ま、調理や食べ方については、

マクロビオティックの料理家である吉度さんに聞いてください。

 

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そして、もうひとつ。

世界の人口が70億を突破し、食料問題や環境問題が切迫してくる中、

未来世代のためにも 「この国土を守る」、という強い意識が必要だと思っていること。

そのために 生産者と消費者が対立することなく、 共同で守り合う世界を育てたい。

それは、除染を含めて食品への移行(汚染) を必死で食い止めようとしている生産者を、

「食べる」 という行為を通じて 支援してほしいこと。

もちろん子どもには配慮が必要だけど、

(数字を見た上で) 「大人はしっかり食べよう」、と訴えたいです。

未来への責任において。 

 

自分の話ばっかりでスミマセン。

前に座っていたもんで、ちゃんと話を書き留めてなく・・・

吉度さんが最後にまとめてくれた。

強く、生きましょう! 

この記憶に尽きる。

 

終わった後、今宵は 六本木農園 で一献。 

吉度さんを横目に、親跡さんと銘酒 「五人娘」 をクイクイと飲みまくってしまった。

 



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