放射能対策: 2011年12月アーカイブ

2011年12月25日

復興から生まれるイノベーション

 

12月19日(月)、栃木・那須塩原から福島・須賀川に北上して、

ジェイラップでの勉強会に参加する。

 

ジェイラップで取り組んだ放射能対策と測定結果から、たくさんのことが  " 見えてきた " 。

その成果を共有し、次の課題を確かめ合う。

稲田稲作研究会のメンバーだけでなく、

近隣農家や関係者にも呼びかけて開かれた。 

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まずは、ジェイラップの対策をずっとフォローしてくれた

「チェルノブイリ救援中部」 理事の河田昌東さんからのお話。 

 

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河田さんはウクライナでの除染対策の経験や、

福島県内各地での調査・実験を踏まえ、汚染土壌対策のポイントを解説する。

 

  まず、広大な田畑での表土剥離は現実的には困難であろうが、

  果樹園では下草を剥ぐだけでも違う。 剥いだ後にはクローバーの種を播く。

  それだけでも空間線量は5分の1から6分の1に減少する。

  反転耕は、農作物にセシウムを移行(吸収) させないためには有効。

  他に微細土壌粒子の除去、バイオレメディエーションという方法がある。

  施肥関係での汚染抑制対策では、

  ・カリウム肥料をやる。

  ・カルシウムはストロンチウム90対策になる。 土壌PHを上げる効果もある。

  ・腐葉土はセシウムを吸収する有機物を豊富にさせる。

  ・窒素肥料は吸収を促進してしまうので要注意。

   (逆に除去作物を植えた時には有効ということでもある)

 

  セシウム137の作物への蓄積では、

  ナス科(ナス・トマトなど)、ウリ科(キュウリなど)、ネギ類には蓄積が少ない。

  アブラナ科は高くなる。

  栄養素としてのカリウムが高い(カリウム吸収力が強い) 作物は高くなるが、

  土質にも左右されるので、正しく知るためにも、たくさんの土壌データの収集が必要である。

 

  この間出てしまった福島県内での高濃度汚染米は、

  もっと精密な予備調査をやっていれば防げたことだ。

  事実を知ることを怖れると、結果的にもっと悪い事態を生んでしまう。

  分かってきていることは、地形と土質。

  山の水が直接入る田んぼ、砂質土壌、土のカリウム濃度が低い田んぼ、

  水のアンモニウム濃度が高い所、など。

  山の水を取り入れている田んぼなら水口にゼオライトを施すなど、

  水田の環境を考えて対策を打つことが肝要である。

 

  ウクライナのバイオレメディエーション実験では、

  ナタネで放射能を吸収させ、子実から油を搾ってバイオディーゼルとして使う。

  残ったバイオマスは地下タンクを作ってメタン発酵させ、バイオガスとして活用する。

  最後の廃液 (ここに放射性物質は凝縮されてくる) は吸着剤を使ってろ過して

  液肥として再利用し、最後の吸着剤は低レベル廃棄物として処分場で保管する。

 

  残念ながら、ナタネでの吸収能は高くはなく、短期的な浄化は期待できない。

  しかし裏作で栽培した作物 (麦類や蕎麦など) の汚染を防ぐ効果がある。

  ナタネは連作できない作物だが、逆に、

  ナタネ - 通常作物(小麦など) - トマトなど汚染しにくい作物 - ナタネ、

  といった連作を組めば、除染 (食物への汚染防止) +エネルギー生産の体系が形成できる。

 

昨日の稲葉さんの話といい、今私たちが取り組もうとしていることは

単純な 「汚染対策」 ではなく、「復興」 プロジェクトなのだと思うのである。

これも復興から生まれるひとつのイノベーションだ。

 

続いて、ジェイラップ代表・伊藤俊彦さんからの報告。 

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341ほ場、約100ヘクタールの田んぼでの対策の実践とデータ取り。

一地域でこれだけのことをやった事例はない。

結果は、見事なものだ。

カリウムの効果が確かめられただけでなく、

伊藤さんはスウェーデンのデータまで引っ張ってきて、

森林への K(カリウム) 施肥の有効性まで説きだした。

「 森林へのK施肥は、植物および菌類への放射性 Cs 蓄積を低減するために

 適切かつ有効な長期的措置であることを示唆している。」

 

また、耕起、代掻き、田植えと通常作業を行なった水田土壌の

深度別の放射性物質の分布を調べ、いくつかの考察が示された。

それは来年の代掻き時での実験に応用される。

 

綿密な汚染データ・マップからも、次年度の対策が検証されている。

これはジェイラップ・稲作研究会だけのものでなく、

地域全体にとっての貴重な道しるべだ。

取り組んだ対策を、すべてデータとして残していくことで、さらに仮説が検証され、

しっかりとした放射能対策技術が築かれてゆく。

農水省の方へ。

税金食いながら、「注目してます」 とか言ってる場合じゃないだろ。

支援の方法を考えてもらいたい。

国と地方自治体と民間の連携を、もっと強化できないものか、と思うのだ。

 

各種のゼオライト資材を前に意見交換する河田さんと伊藤さん。

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脇でカメラを回しているのは、NHKさん。

収穫祭のときとまた違ったチームがやってきている。

 

測定室も見学する取材班。 

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集められた玄米サンプル。 

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現在、測定器は2台になった。 

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右の「 do 」シールが大地を守る会から、

そして左がカタログハウスさんからの提供 (貸し出し) 。

仲良く並んで、測定をバックアップしている。

データ取りは、まだまだ続くのである。

 

 

なお、大地を守る会のホームページでも、

この間の取り組みや伊藤さんからのメッセージがアップされていますので、

ぜひご参照ください。

 http://www.daichi-m.co.jp/info/news/2011/1107_3251.html 

 

機関誌 「NEWS だいちをまもる」 12月号もよかったら。

 http://www.daichi-m.co.jp/blog/report/pdf/1112.pdf

 

また、ウクライナでの取り組みについて詳しく知りたい方は、

『チェルノブイリの菜の花畑から ~放射能汚染下の地域振興~』

(河田昌東・藤井絢子編著、創森社刊、本体価格1,600円)

がおススメです。

福島原発事故を受けての解説もあり、

巻末に挿入された 「チェルノブイリから福島へのメッセージ」 からは、

国際連帯の大切さが伝わってきます。

 



2011年12月23日

厚生労働省・新基準案と、私たちの質問書

 

栃木・那須塩原から福島・須賀川に足を延ばして、

19日はジェイラップでの勉強会に参加。

そして昨日は長野県松本市の菅谷(すげのや)昭市長を訪ねてきた。

それらのレポートを続けるつもりだったのだけど、

その前に、お国の動きがあったので、その報告を急ぎ。

 

昨日、厚生労働省 「薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 放射性物質対策部会」

が開かれ、暫定基準に替わる新基準案が示され、了承された。

すでに報道されていた内容と同じだが、簡単に概略すれば、

食品による放射性セシウムの許容被ばく線量を、

暫定基準の 5 ミリシーベルトから 1 ミリシーベルトに引き下げ、

それを各食品群に振り分けた格好だ。

「一般食品」 については、年代や男女別で平均的な摂取量を導き出して、

その中で一番厳しい数値である 120 ベクレル

 (13~18歳の男...... 一番食べる量が多い年代ということらしい)

をもとに、さらに安全を見込んで 100 とした、ということである。

また干しシイタケやお茶などは、摂食する状態で 「一般食品」 基準を適用する。

新基準の実施は来年4月から。

 


一方、4団体で結成した 「食品と放射能問題共同テーブル」 では、

この日の審議会が設定される前、12月12日付で、

以下の質問書を厚生労働省に提出している。

(「公開質問状」 的な格好にならないよう、公表は控えていた。)

 

【質問事項】

1.新たな規制値での食品区分が 4 分類と報道されていますが、

  米など摂取量が多い食品や、水産物など汚染の拡がりに懸念があるものについては、

  区分を分ける必要があると考えますが、どのような検討がなされたのでしょうか?

2.規制値を設定する場合は、その規制値が守られていることを担保できるだけの

  検査体制の確立が必要と考えますが、いかがお考えでしょうか?

3.規制値を超過した場合、生産者等に対して補償する体制が必要になると考えますが、

  その賠償主体、およびどのような手続きと、

  どの程度の予算措置を想定しておられますか?

4.民間の検査能力を超えるストロンチウムやプルトニウム等の核種については、

  国が継続的にモニタリングする態勢を強化し、公表していく必要がある

  と考えますが、いかがお考えでしょうか?

  またヨウ素、セシウム以外の核種については、どのような検討がなされたのでしょうか。

5.新規制値は年間1ミリシーベルトを基礎とすると伝えられていますが、

  暫定規制値ではなく、恒久的規制値として設定を検討されているとすれば、

  内部被ばくだけでなく、外部被ばくの割り当ても考慮すべきであり、

  かつ ALARA 原則に従ってできるだけ低い値を設定すべきだと考えますが、

  いかがお考えでしょうか?

6.乾燥食品等については、摂食時の状態に換算すると伝えられていますが、

  同一食品であっても様々な戻し方は摂食方法があるものについて、

  どのような基準設定をお考えなのでしょうか?

 

今回示された新基準案は一歩前進とは言えるものの、

私たちが提出した疑問はまだ疑問のままである。

引き続き回答を求めてゆくとともに、

私たち 「共同テーブル」 においても、上記の質問事項は

基準を考える際に必要な視点だと認識しているところのもので、

専門家への聞き取りも含めて検討を進めているところである。

昨日、菅谷昭・松本市長を訪ねたのも、その一環だった。

菅谷さんは、1996年から5年半、ベラルーシ共和国で暮らし、

小児甲状腺ガンの医療活動を行なってきた医師である。

 

質問事項から、私たちが留意しようと思っていることを

読み取っていただけると嬉しい。

この基準は単純な数字の発表だけではすまない、

というのが 「共同テーブル」 の共通認識になってきている。

それだけに悩みも深まっているのだけど。

 

取り急ぎ報告まで。

 



2011年12月20日

大豆・ひまわり・菜の花プロジェクト

 

さて、改めて

栃木県上三川町・「民間稲作研究所」 の稲葉光圀さんが取り組んできた

「大豆・ひまわり・菜の花プロジェクト」 の報告を。

 

稲葉さんが完成させた有機栽培による米・麦・大豆の輪作体系については

過去にも紹介しているので、こちらをご参照願いたい。

 2009年1月29日  2010年6月10日

大地を守る会では、麦の利用先をつなげることで、ささやかながらこの循環に協力してきた。

現在、稲葉さんたちの有機小麦は

香川県小豆島の 「ヤマヒサ」 さんという醤油屋さんが使ってくれている。

 

しかし放射能は、有機だからと配慮してくれるわけではなく、

あの時紹介した、稲葉さん自慢の貴重な有機による米の種モミ生産ほ場にも

約1,000ベクレルのセシウムが降ってしまった。

 

しかしそれを乗り越える根性を持っているのが有機農業者たちでもある。

稲葉さんは、除染作物としてナタネとヒマワリを選択し、それを輪作の中に組み込んだのだ。

 


稲葉さんが南相馬市で実施したヒマワリでの除染効果試験では、

ヒマワリ一本で約500ベクレルのセシウムを回収した。

周りの土壌濃度が4,090ベクレルで、これと比較すれば0.123の移行率となる。

ヒマワリ栽培跡地の濃度は2,590ベクレル。

 

もともとのカリウム吸収力からみて、ヒマワリに高い除染効果はないと判断していたものの、

この結果は稲葉さんをかなり勇気づけたようだ。

ところが、稲葉さんが発表した直後に、農水省は飯館村での実験結果により

「ヒマワリには除染効果なし」 と発表した。

農水省他7つの独立行政法人と11大学、6県の農業試験場、1財団法人、3民間企業が

協力して実施した試験での移行率は、0.0067と出た。

 

この違いはヒマワリの採取日にある - と稲葉さんは主張する。

稲葉さんの試験では8月29日の成熟期に刈り取ったのに対して、

農水の試験では8月5日、つまり開花期の言わば 「青刈り」 である。

「これじゃあ、やっても意味がない。 市民レベルの研究を抑える腹なんじゃないか」

と稲葉さんは憤っている。

 

もともとのねらいが、単純な除染目的ではない。

ナタネや大豆も組み合わせて、長い年月をかけて除染を続けながら、

かつ食用作物への吸収を抑える。

ヒマワリやナタネはちゃんと実を熟させて、油を絞って収入源をひとつ確保する。

大豆油も菜種油も圧搾法で絞ることでトランス脂肪酸を含まない油が手に入る。

油にはセシウムは移行しないことが分かっている。

油脂類の自給率向上にも寄与できる。

搾油後の残渣はメタン発酵させ、消化液からセシウムを回収し、残りは有機液肥にする。

メタン・ガスは各種の燃料として利用する。

食用に用いた植物油の回収ができれば、廃油を精製してディーゼル発電機や

トラクター・コンバインの燃料にも活用できる。

 

循環のなかでの食料&エネルギー創造と 「放射能封じ込め」 の体系づくりへの挑戦。

僕らはやっぱ、こういう人たちに救われることになるのだろう。

各作物の活かし方は、たくさんの試験を蓄積させながら議論してゆけばいい。

 

稲葉さんの熱い報告の後は、

パネルディスカッションや質疑応答などが翌日11時まで繰り広げられた。

二日目の、農水省生産局の方からの報告-「有機農業の今日的課題と展望」 については、

申し訳ないが、ほとんど記憶に残らなかった。

 

集会終了後、オプションで企画された民間稲作研究所見学に参加する。

作付けされたナタネの畑。

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完成した搾油所 (写真手前の建物)。

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初めて来たときには更地だったところに、

技術支援センター、パン工房、搾油工場と、来るたびに建物が増え、人が集まり、

稲葉さんの言う 「エネルギー創造型有機農場」 が形作られてゆく。

 

これが中の装置類。

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この日は、有機農業推進フェアと称しての交流イベントが行なわれていて、

有機農産物の直売コーナーや地ビールの販売テントが並び、餅がつかれ、

手打ち蕎麦、トン汁、パン工房で焼いたピザなどが参加者に振る舞われた。

 

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こちらも地域でナタネを栽培し、搾油まで計画している

庄内協同ファームの菅原孝明さん(左) と、熱心な意見交換をする稲葉さん。

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福島県・二本松有機農業研究会の大内信一さんの姿も見られた。

彼らは本当に研鑽を欠かさない。

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「いや~、大地さんの今年のキュウリの注文には助けられた」

と言われたのには、こっちが感激しちゃった。

「 来年の早いうちに福島の生産者で集まって、今年の成果と課題を共有して、

 次につなげていきましょう。」

「そうだね、そうすべ。 頼むよ、大地さん。」

 

解散前に、会議室で最後の確認会。 

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完成した油を手にする稲葉さん。

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稲葉光圀試算。

ひまわり油 - 300 cc ・ 800円。

いかがでしょうか。

 

やあ、お久しぶり。  元気そうで、よかった。 

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ただ・・・君たちは、草食うからなぁ。 何が起きたかも分からずに。 

昨今は素直な動物を見るのが切ない。

腹の中で謝るしかない。 ごめん、本当に。

 



2011年12月19日

地域に広がる有機農業 関東集会

 

12月17日(土)、

野田首相が 「原発事故収束を宣言」 したという記事を読みながら、

栃木・那須塩原に向かう。

本来の 「冷温停止」 ではない 「冷温停止状態」 で 「事故収束」 とは・・・・

炉内の状態も分からず、

今も6千万ベクレル/時の放射性物質が放出されているというのに。

危険な政治的判断というしかない。

「事故収束」・・・ この言葉が意図して選ばれたのなら、

何か重大なものがひとつ、切り捨てられたような気がしてならない。

 

那須塩原で開かれたのは、

『 地域に広がる有機農業 関東集会

 消費者・生産者が共に創る有機農業  - 震災・放射能汚染を乗り越えて 』

という集まり。 一泊二日で催された。

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記念講演に呼ばれたのは、前福島県知事・佐藤栄佐久さん。

「たたかう知事」 と言われ、政府の原発政策にも対立姿勢を見せ続けた方だ。

" 収賄額ゼロの収賄罪 "  という不思議な罪で知事を追われた。

 

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有機農業の推進も強く進め、福島は有機農業の先進県と言われるまでになった。

国に臆することなくモノを言い、たたかってきた思いが、発言の端々に感じられる。

特に佐藤さんが強調したのは、

2006年5月に、ストラスブール欧州地方自治体会議に出席して、

チェルノブイリ20周年を記念して採択された 「スラヴィティチ宣言」 の5原則だった。

政府と地方自治体の役割を示し、

「地域住民の連帯」 と 「透明性と情報」 を謳ったこの原則を、覚えておいてほしいと。

 

3.地域住民の連帯

チェルノブイリの惨事が白日の下にさらしたのは、

核の事故が地方・国・世界の地域の境界にとどまらないという現実である。

原子力の安全は国の政治・行政上の制限によって縛られてはならない。

国の縛りを越えて関係諸地域すべてをイコールパートナーとする

真の地域住民の団結と越境的協力体制が必要である。

 

4.透明性と情報

広範で継続的な情報アクセスが確立されなければならない。

国際機関、各国政府、原子力事業者、発電所長は、偽りのない詳細な情報を

隣接地域とその周辺、国際社会に対して提供する義務を有する。

この義務は平時においても緊急時においても変わることはない。

 

「 『緊急時においても』 ですよ、皆さん。 私はこれを強く国に主張したいです。」

辞任後から3.11、そしてその後の福島の惨状は、

佐藤さんにとって 「悔しい」 などというレベルではないだろう。

でも今や彼方此方から講演に呼ばれるようになってきて、

ここで再度、出番が来たようです。 頑張っていただけたら、と思う。

 

続いての基調講演では、

栃木県上三川町・「民間稲作研究所」 の稲葉光圀さんが取り組んできた

「大豆・ひまわり・菜の花プロジェクト」 の報告。

 

この話は・・・ 少々ややこしいので、すみません、次回に。

栃木から福島・ジェイラップを回って帰ってきたところで、ちょっと頭を冷やしたいし。

 


 



2011年12月14日

ゼロ・ベクレルを目指して -続き-

 

放射能に関しては、食べものの安全性を保証する閾値はない。

これが大地を守る会の、また基準を検討する 「共同テーブル」 の前提である。

であるならば、「(余計な人工放射能は) ゼロを目指そう」。

これを生産者と消費者の、いやすべての人の共通認識にしたい。

不可能だから無理、ではなくて 「目指す」 努力を続けることで道ができる。

「元を絶つしかない」 を共通の土台に据えて。

 

生産者には、「基準値未満なんだから食べてくれ」 ではなく、

ゼロを目指す姿勢を示し、そのプログラムを持つことが大事である。

「食べる人」 を守るべき 「作る側の責任」 を放棄しない、と言おう。

それが 「美しい国土を取り戻す」 のは誰の手によるのか、のメッセージになる。

「この船に乗らずしてどこへ行く」 くらいの台詞を言い放ってみようじゃないか。

 

そして、有機農業から脱原発社会のビジョンづくりへと進みたい。

これが質問を受けたふたつめの視点 - 『有機農業が創出するイノベーション』 だ。

有機農業が貢献する資源循環機能や環境・生物多様性保全機能は、

放射能対策にも有効であることが証明されつつある。

たとえば、土壌の団粒構造、腐植、菌根菌や微生物の力。

有機農業学会では、除草剤散布は菌根菌の発達を阻害することが分かっている、

という研究者にも会った。

僕らが見ているのはけっしてゼオライトだけじゃない。

 

有機農業の 「総合力」 を解き明かしたい。

その力には農業と一次産業が潜在的に持っているエネルギー生産力も含まれる。

 

20年以上も前に 「水田は地球を救う」 と説いた方がいた。

なんと通産省のお役人だった(本田幸雄さんという方で、一度講師に呼んだことがある)。

エネルギー危機と食糧危機は必ずやってくる。

減反などという愚かな政策はやめて、日本人の高度な生産技術と手段(農地) を使って、

食糧備蓄とともに、エネルギー (バイオエタノール) を生産すべきだと。

この主張はしかし、当時はほとんど相手にされなかった。

 

今こそ農業(一次産業) の持っている多様な生産力を花開かせたい。

有機農業が未来を築く! と宣言しようではないか。

そこから新しい仕事も生まれるはずだ。

「若者よ、来たれ!」と発信できる日をたぐり寄せたい。

 


そして消費者には、連なってほしい。

安全な食生産の回復と、安心して暮らせる社会づくりを同時に目指す

「この道のりを食べる」 ことで。

 

あんたは生産者よりだ、とよく言われる。

言われるたびに、そんなこたあない、と反論する。

消費者を、子どもたちの未来を、しっかりと守れる生産者を育てていくこと、

これがどうして生産者よりなんだろうか。

ただそのプロセスにも付き合ってくれないと道が開けない、と訴えているだけなのに。

 

放射能は拡散し循環し始めている。

今も大気や水系への汚染は続いている。

ゼロを達成することは困難なことだと思う。

そもそも放射能汚染はフクシマで始まったわけではない。

チェルノブイリ原発事故が起きた25年前、

セシウムの大気中濃度は通常の4500倍に上昇した。

日本人の平均放射能量は50ベクレルまで上がったと言われている。

さらに遡れば、大気圏核実験が盛んに行なわれていた時代、

日本人成人男子の放射性セシウムの量は730ベクレルにまで達していた

というデータもある(1964年10月)。

 

それでも皆フツーに生きていた、という論で終わらせる人たちがいて、

この数字を出すのは少々ためらうのだけれど

(ガンの増加との因果関係は証明できないし)、

とはいえこの事実とゼロを求めることの困難さは知っておいてもらいたいし、

数字に冷静に向き合う意識は持っておきたいと思う。

その上で、だからこそ、もうこれ以上はゴメンだといいたい。

  " ゼロを目指そう "  とみんなで叫びたい。 

いま元を断たないと、未来はひたすら暗いと思わざるを得ないのだ。

農から進撃したい。

脱原発と (技術とシステムの)イノベーションをセットにして。

 



2011年12月13日

ゼロ・ベクレルを目指して

 

有機農業学会での発言後、頂いた質問や意見は二点に集中した。

そのひとつが、 

" ゼロリスクを求める "  を否定せず、本能と受け止めたい -に対して。

 

放射能は広く飛び散り、ほぼ北半球をあまねく汚染したと思われる。

均質に落ちたわけではなく、まだら模様のようであり、

距離によって相対的に薄まっているものではあるが、しかしそれも流動している。

この国に住んで放射性物質ゼロの食べものを求める姿勢は、

すでに無理というものである。

しかもそういう消費心理と行動が生産地や生産者を切り捨て、

国土の浄化や復興への思いを分断させることにつながっていないだろうか。

大丈夫と思われる程度のものなら、食べよう。 食べてつながろうじゃないか。

- この主張は、支持する。 というより僕自身、強くそう思っている。

 

しかし、だからといって放射能ゼロを求める姿勢を批判しても、

問題の解決にはつながらない、とも思っている。

放射能から逃れたいのは、生産者も消費者も、みんな同じなのだ。

そこから出発したい。

 

ゼロを 「求める」 や 「探す」 行為で終わらず

(これは批判ではなく、 " 終わらず "  という提案です)、

一緒に  " ゼロを目指そう "  の共通認識を持ちたい。

ゼロの目標は、生産者だけの仕事では達成できないのだから。

努力する生産者の、その都度の結果を 「食べる」 ことで支える消費者の存在が欠かせない。

ゼロをよこせ、に対して僕がいま提供できるものは、

「検出限界値以下」 という選択材料としての測定結果(事実) と、

 " ゼロを目指す生産者 "  の意気地だけである。

 

そして作ろうとしている基準値もまた、

ゼロに向かうプロセスと思想を表現したものになるだろう。

 

「ゼロをよこせ」 とは = 「美しい国土を返せ」 だと受け止めていて、

そのために生産者と一緒に頑張っているつもりである。

そして  " ゼロを目指す共働 "  が成り立てば、

元を絶つことの共通認識も成立すると思うのである。

原発止めないと、ゼロリスクは達成できないわけだし。

 

そしてふたつめの視点へと続くのだが-

  ・・・すみません。 今日はここまでで。

 

昨日、「食品と放射能問題共同テーブル」 では、

厚生労働省で進められている放射性物質暫定基準値の見直し作業に対し、

6項目の質問書を提出しました。

回答が届き次第、お知らせします。

この質問は、実は喧嘩を始めたわけではなく、我々自身の悩みでもあります。

 



2011年12月11日

有機農業で希望のシナリオを-

 

北国の冬はホンマに天気の変化が激しい。

夕べから降り出した雪が朝になってさらに激しくなったかと思えば、

お昼前には青空が見え始めた。

灰色の世界に、一気に光が射してくる。

これが夕方にはまた灰色の空に変わっているのだ。

 

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雪に翻弄される暮らしが4~5ヵ月も続いて、

春になれば南国人の感覚だと3か月分相当の花が一斉に咲き乱れ始める。

気候風土はきっとそれぞれの色で人々の精神性を育て、

その土地の文化を形成するのだろう。

この島国の人たちは包容力と忍耐をもって自然に対応し、

何というかマンダラ的な調和をはかる感性があるように思う。

善良かつ気まじめに異文化を受容しながら、作り変えてゆくしたたかさも秘めて。

 

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クラークさんの前をおばちゃんが通り過ぎてる・・・

僕はやっぱりこの国が好きだな。

 

地域や仲間を守る際の自治意識とまとまりの強さは世界が認めるところだ。

この国の統治は、中央集権に見せかけながら

しなやかに地域の知恵や主体性を活用するのがいいんじゃないか。

3.11以降、その思いはますます強くなった気がする。

 

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学園の樹々に鳥たちが平和に巣をつくっている。

その下を忙しなく歩き回る人々。 なぜか微笑んでしまう。

 

校舎に入れば、二日目は個別の研究発表会。

ふたつの教室に分かれて、各種の調査・研究報告が20分間隔で組まれている。

5分刻みで鈴が鳴り、みんな時間をきっちりと守ってプレゼンが展開されてゆく。

院生に発表させるケースも多くあった。 教授が生徒の側に座って聞いていたりする。

学会とはトレーニングの場でもあるんだね。

 


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発表された調査・研究成果の数は27。

「合鴨農法における野生鳥獣害の現状」 とか、

「植物共生微生物相の解析による有機栽培作物の特性評価の試み」、

「不耕起・草生栽培における物質循環・養分動態の解明」

といった具合に、20分刻みで発表が進められる。

 

僕が注目していた発表のひとつが、

「原発事故による放射性汚染農地対策にゼオライトは有効か?」。

発表者は東京農業大学応用生物科学部の女子学生。

師匠は、大地を守る会の生産者会議に何度かお呼びした後藤逸男教授。

僕も研究室に一度お邪魔したことがある。

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さすがに学者なので、結論は軽々に出さないが、

ゼオライトには 「可能性がある」 との明確なメッセージが出されていた。 

火山の多い日本に潤沢に存在する鉱物資源であることも有り難い。

 

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別な教室では、ポスターによる発表が12例、掲示されていた。

 

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やや雑駁というか、まだ手探りだね、という内容のものもあったが、

こういう積み重ねが有機農業の奥行きを深めていってくれるはずだ。

有機農業の研究に予算がつくようになって、

いろんな視点での研究が広がってきている。 

ひとつひとつ、生産現場で実証されてゆく日が来ることを願う。

 

さて、一日目の報告をひとつ追加しておきたい。

全体セッションの 2 は 『北海道における有機農業の多様な展開』

と題して行なわれた。 

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発表者に、石狩市(旧厚田村) の長良幸さん(写真右から二人目)、

当麻町・当麻グリーンライフの瀬川守さん(左から二人目)、

北海道有機農業協同組合代表の小路健男さん(左端)と、

大地を守る会の生産者の方々が顔を並べていた。

それぞれに辿ってきた道のりと現在の課題を語る。

コーディネーター(右端)は、農業活性化研究所・菊地治己さん。

7月に旭川で開催した 米の生産者会議 で講演をお願いした方だ。

 

「今年はどうだったですか?」

「今年も、ダメ、ダメ!」 と長さん。 

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そう言いながらも、しっかり息子も継いだようだし、

有機農業塾も始めて地産地消の拠点づくりに頑張っている。 

 

全体セッション 3 - 『日本国内における有機畜産の可能性と課題』 がまた

大変に面白かったのだが、いずれ機会があれば報告したい。

 

中島紀一さん(茨城大学) が語っていた。

地域経済の循環は、農の営みを継続することによって取り戻すことができる。

耕作の努力によって、その地域で安心して暮らせる体制の再構築も可能となる。

地球的破滅の方向でなく、未来に向かって希望のシナリオを描くこと、

それが有機農業の役割だ。

 

生産者を支え、励まし、希望と勇気を与えてくれる学問であってほしい。

お願いします。

 



2011年12月10日

日本有機農業学会・大会-「有機農業と原発は共存できない」

 

Boys,be ambitious! 

少年よ、大地を、じゃなかった、大志を抱け!

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北海道に来ています。

夕べのうちに札幌に入り、今日は朝から北海道大学に。

子どもの頃、大志を抱かないといけないんだ~、という脅迫観念を抱かせてくれた恩師、

ウィリアム・スミス・クラーク博士にいちおう仁義を切って、

敷居の高い場所に足を踏み入れる。

「すみません。 ワタクシの大志は、今も迷いのなかにあります。」

 

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北海道大学農学部。

ここで 「第12回 日本有機農業学会 大会」 が二日間にわたって開催され、

参加することになった。

 

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なんでエビが 「学会」 なんてお堅い場に?

そうなのよね。 およそそんな世界には無縁だったのだけど、

この大会の全体セッションの一つで発表を求められたのである。

放射能のせいで。

 

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集まったのは、全国の大学や研究機関から、

各分野で有機農業を研究対象とする先生や学生たち、150人くらいだろうか。

道内の生産者の顔もチラホラ見られた。

 


開会の挨拶などがあった後、

全体セッション1。

テーマは 『 東日本大震災・原発災害に有機農業は何を提起できるか 』。

 

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コーディネーターは、谷口吉光さん(秋田県立大学) と古沢広祐さん(國學院大學)。

このお二人とも古い付き合いになった。

古沢さんから4つの論点が示される。

第1に、有機農業の視点から原発をどうとらえるか。

第2に、食品における 「放射能リスク」 にどう対応するべきなのか。

第3に、放射能低減という課題に、どう貢献してゆくか。

第4に、地域と農業の復興をどう進めるか。

 

発表者は4名。

日本大学生物資源科学部・高橋巌さんは、原発事故を国家的犯罪と断罪する。

どうあがいても人間は自然の摂理と 「循環」 から逃れて生きることはできない。

その 「循環」 の中に放射能が入ってしまったわけだが、だからこそ

「有機農業ならではの脱原発」 の方向性を検討しなくてはならない、と強く訴える。

 

新潟大学農学部・野中昌法さんは、1960年代に行なわれた核実験による

「死の灰」 の農業に対する影響を調べた膨大なデータをもとに、

4月の段階で重要な提言を発表した方だ。

 -土壌の汚染は表層約 5cm に留まっている。

 -汚染の程度は地形・気候条件・栽培方法・施肥管理で異なってくる。

 -したがってきめ細かな土壌汚染地図と、程度に応じた対策が必要である。

 -国は責任をもって事故以前の優良な農地に戻し、農産物の安全性を保証しなければならない。

 -風評被害を防ぐための農業再生の工程表を作成して、国民への理解を求めよ。

 -平成24年度の作付に向けた汚染程度に応じた農業復興計画の提示を。

どれも適切な指摘である。

しかし3番目からの提言は、

適切に実行されたとは言い難い (その結果が、今の福島米の混乱である)。

 

実行したのは、営農の継続を決意した生産者たちだった。

二本松市 「ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」 と、

彼らの支援にあたった野中先生と茨城大学のグループ。

そして須賀川市・ジェイラップと大地を守る会&カタログハウス。

フォローしてくれたのは四日市大学の河田昌東さん(チェルノブイリ救援・中部理事) だ。

データから明らかになってくる汚染の実態、そして対策。

見えてきた世界は、土の力であり、

植物とともに浄化に向かうのが王道であり近道であろう、ということだった。

「有機農業による耕作が被害の拡大を防ぐ (可能性が見えてきた)」

 

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高橋さんも過激だが、野中さんもなかなか熱い方だ。

福島の有機農家の、こんな言葉を紹介している。

「 一生懸命春の太陽光で生育した春野菜が土壌汚染を防いでくれた。

 したがって鋤き込まないで、一本一本、ありがとうという言葉をかけて、手で取り、

 影響のない場所に穴を掘り、埋めた。」

 

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「本来の農学」 を追究する研究者がいてくれること。

これが今、たたかう陣形に欠かせない、必須の兵站部隊なのだ。

依頼を受けて一介の流通者でしかない僕がわざわざ北海道まで出向いたのは、

この一点の思いに尽きる。

 

続いてエビスダニ氏。 学会で流通者が発言する。

持ち時間は15分。 冬の苦手な男がこのために北海道までやってきた。

原発事故からの対応を辿りながら、僕なりに思いを凝縮させたつもりだった。

早口に、とちりながら、、、5分のオーバーを、谷口さんが許してくれた。

 

話すと長くなるので、提出した 「発言要旨」 をここに記したい。

少しでも行間を読み取っていただけると嬉しい。

①福島第一原発事故後の対応から

 - 風評被害(?) と生産者対応から

 - 測定体制の強化・構築と情報公開の意味

 - 消費者の声と流通団体の対応軌跡

 - 生産者の除染対策支援

②食品における放射性物質の規制値(基準) について

 - 国の暫定基準値はなぜ信頼されなかったのか

 - 基準乱立から、市民の手による共通指針(基準) づくりへ

    ~ 我々は 「暫定基準」 を超えられるか・・・

③ゼロリスク議論から思うこと

 - " ゼロリスクを求める "  を否定せず、本能と受け止めたい。

   ⇒ しかし " 選ぶ・探す " 行動だけでは排除と分断につながる。 誰も救えない。

 - " ゼロリスクを目指す " ための思想と戦略(政策) の再構築こそ求められている。

   > 放射能に向かい合うための 「食の総合力」 を提案したい。

     放射能対策は総合力。 それを提示できるのが  " 有機農業 "  ではないか。

      『 有機農業運動が創出するイノベーション 』 に向かって進む。

     その戦略(政策) に 「脱原発社会の実現」 を明確に組み込む。

④生産者・国土を見捨てない思想の獲得へ

 - 生産者の除染対策支援から見えた世界

   " たたかう生産者 "  の姿勢を見せ続ける!

 - 生産と消費の対立を超える思想を掴みとる、その最大の機会ではないだろうか。

 - 流通が果たす役割とは

  > 「食へのリテラシー」 を育てるのが流通の役割

  > 新しい文化を創り出す、価値創造の競い合いをしたい!

   ⇒ その一歩としての 『共同テーブル』 でありたい。

 

いっぱい補足したいし、その後のセッションも紹介したいのだが、、、

夜の懇親会に、さらに大学前の居酒屋で関係者と一杯やってしまって、

もうここまで。

" (放射能に対して) ゼロ・リスクを求めるのは (利己主義でもあるが) 本能である " 

それを認め合うところから、たたかいの戦略を組み立てたい。

ここで 「脱原発」 は共通の前提となる。

このたたかいは、生産と消費がつながってこそ、勝利する。

流通者として立てた、必死の戦略論である。

幸いたくさんの方から評価をいただけたようなので、今日は良しとしたい。

 



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