放射能対策: 2013年2月アーカイブ

2013年2月28日

「放射能連続講座」 第Ⅱクールのスタート

 

35年にわたって欠かさず続けてきた 「大地を守る東京集会」。

僕らはどこまで辿りつけたのだろうか・・・

「食」 や地球の健康はよくなったのだろうか。

世の流れを見ると疑問符がつくばかりだけれど、

食の安全と環境を守ろうとする人々の輪が広がったことは確かだ。

 

1日目(2/23) の夜は、

その輪を形成する人たちによる大交流会が開かれた。 

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「種蒔人」 もこの20数年、この場に欠かせない脇役として

和を醸し続けてきた。

僕もできることならば、こういう生き方をしたいものだ。

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交流は2時間では終わらず、解散後もさらに盛り上がる。。。

翌朝目覚めれば、メガネがなくなっていた。

今回の僕の役割は二日目が主だというのに。

 

ぼんやりした風景に包まれたまま

2月24日(日)午前10時、

「大地を守る会のオーガニックフェスタ」 開幕。

 

一階メイン会場では 「オーガニックマルシェ」 や 「復興屋台」 に

人が群がり始めていることだろうと想像しながら、

こちらは4階コンベンションホールで準備を進める。

10時半、「放射能連続講座Ⅱ」 シリーズのスタート。

第1回は 『放射の汚染の現状と課題』 と題し、

NPO法人市民科学研究室代表の上田昌文さんに講演をお願いした。

 

原発事故からほぼ2年が経ち、

食品での放射能汚染はどこまできたか。

何が分かり、何が分からないままなのか。

暮らしのなかで気をつけるべきことは何か。

残っている課題に対して、私たちはどう対処してゆくべきか。。。

上田さんには、この2年間で公開された膨大なデータを解析していただき、

現時点での傾向と対策を整理していただいた。

もちろん大地を守る会の測定データもずべてお渡ししてある。

 

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上田さんの話を整理すれば、こういうことになるか。

・食品に関しては、全体的にはほぼ問題ないレベルに落ち着いてきている

 と言ってもよいだろう。

 (微量レベルも含めて今も検出されているのは、

  米、大豆、キノコ類、山菜、一部の果樹、それに時々野菜といった感じだが、

  食べる量で勘案すれば心配するレベルではないと言える。)

・気になるのは魚。 今も高い値が出るケースがあり、まだ不確かな点が多い。

 データを引き続き注意しながら選ぶ必要がある。

 表層にいる魚はほとんど検出されない。

 イカ、サンマ、サケなどはまったく出ていない。

 昆布や若布などの海藻も安心して食べていい。

 しかし原発周辺では今も汚染が続いている現実は忘れてはいけない。

 

・今の状況では、スーパーなどで普通に食品を買って食べたとしても、

 ほとんどは年間 1mSv (ミリシーベルト) 未満に収まると思われる。

・福島での調査では、尿中の濃度が減ってない23歳・男性のデータもあったが、

 食事に気をつけている家庭の子供は確実に減少している、

 という結果が得られてきている。

 

上田さんは一枚のペーパーを配り、面白いテストを試みてくれた。

「 ここに米から始まって、大豆、魚、野菜、牛乳、卵、肉、果物・・・・・と

 48種類の食材があります。

 この中から、10種類の食べ物を買って子どもの夕食を作ってください。

 そしてその10種類が、それぞれ今までで検出された最も高い数値のものと仮定します。

 つまり最悪の食材を選んでしまったとして、

 子どもの摂取量からベクレル数を計算してみます。

 さて、いくらになるでしょう。 今から30秒で選んでください。 さあ、どうぞ。」

 

僕もやってみる。

ゼロだと分かっているトマトやキュウリや卵やサンマなどは外して、

やや意識的に出ていそうなものを選んでみる。

上田さんがそれぞれの食材で数値を発表する。

それを足し算した結果、会場で10ベクレルを超えた方は一人のみ。

5~10の間の方が3分の1くらいか。 あとは5ベクレル未満。

僕の意図的選択では、9.8ベクレルと出た。

そしてこの  " 現実に出回っているものの中で最も高いレベル " 

ばかりを選び続けたとして、年間の内部被ばく量は

0.1mSv (国の基準の10分の1レベル) くらいの計算になる。

だから大丈夫、と言いたいワケではない。

食事による内部被曝のリスクは、

ちょっとした工夫、少しの注意で乗り切れる。 それを意識しようということだ。

大まかにでも傾向を知っておくことが大切。

「今はもう、福島産だから食べない、というような時期ではありません。

 データを見て、冷静に選んでほしい。」

 

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ここで安心できないのは、放射性物質は均等に降り注いだワケではない、

ということだ。

ホットスポット、ミニ・ホットスポットと呼ばれる場所が広範囲に存在している。

時にホウレンソウなどで微量とはいえ検出されたりするのも、

畑の場所によって濃度が違っていることを表していると思われる。

 

研究者と住民が協力し合って、きめ細かい測定とマップづくりを実施した

二本松や南相馬のような調査を、もっと各地で進める必要がある。

そして徹底した除染。

これは住民合意と安全性の確保を前提として

国の責任でやらなければならないことだが、不充分と言わざるを得ない。

またこれからは、食品を測ればいい、ということではすまない。

水・飲料水は安心して飲んでよいと言えるが、

下水処理場の汚泥には蓄積されていっている。

焼却灰など環境への影響はきちんとチェックしていかなければならないが、

国の対策には疑問が残る。

 

野菜でも、ただ県・市町村と品目で判断するのでなく、

ほ場ごとにデータを取ることが、(大変なことだが) 本当は必要である。

この畑では ND でも隣の畑では高めに出たりすることがある。

そういう意味でも、大地を守る会がとってきたほ場ごとの管理は役に立つ。

また福島の米の生産者たちが取り組んだ対策は、優れた先行事例である。

昨年実施された1000万袋を超える全袋検査では、

99.8% が検出下限値の 25ベクレル 以下だった。

ゼオライトやカリ施肥、反転耕などの成果を、きっちり活かしてほしい。

 

当初は、堆肥などを使う有機農業のほうが怖いと言われ、打撃を受けた。

しかし筋の通った対処を取ったのは彼らである。

事実を知ること、対策を考え実行すること、結果をただしく発信すること。

この3つを、生産者は実践していってほしい。

 

これからの課題としては、

環境 (森林や水系など) からの影響を受けそうな品目に関して、

土壌濃度の継続調査などによって、早めの対策を打てるようにしたい。

(上田さんとは、そのための

 今後の測定品目の  " 選択と集中 "  について話し合っているところである。)

 

最も気になることは、福島の子どもたちの健康調査が徹底されてないことだ。

原発事故から26年経ったチェルノブイリでは、

今も深刻な健康への影響が続いている。

いろんな臓器での病気が増えている。

ウクライナでは事故から10年後に厳しい食品の基準を設定したが、

内部被ばくのコントロールは難しい。

EUでは、改めて健康調査の見直しと孫の代までの徹底した継続調査が

プロジェクトとして進められている。

それに比べて- 福島でのケアはまったく不充分だと言わざるを得ない。

 

・・・・・・・・・・

話の順番は違うけど、だいたいこんなところか。

上田さんには、1時間という短い時間で網羅的な整理を、

という無理難題をお願いしたのだが、

ポンポンと話を進め、ぴったり一時間で収めていただいた。

さすが、である。 改めて感謝々々。

 

現在、中継映像のアーカイブが

大地を守る会のHPからアクセスできない状態になっていて、

改善を管理人さんにお願いしています。

見れるようになったら、改めてご案内いたします。

 

さて、続いてゲストにお招きした二人の生産者の発言を。

 

続く

 



2013年2月16日

「放射能連続講座 Ⅱ」 予告(続)

 

「大地を守る会の 放射能連続講座 Ⅱ」 シリーズ。

第1回と第2回の内容 については予告済みですが、

第3回と第4回も決定しましたので、ここでお知らせしておきます。

 

-第3回-

『未来のために、つながりを取り戻そう』

講師=河田昌東さん (「チェルノブイリ救援・中部」 理事)

河田さんはチェルノブイリ原発事故後、継続的に子どもたちの健康回復や

土壌汚染対策を、様々な形で支援してこられました。

福島では、事故直後から調査に入り、稲田稲作研究会はじめ

各地の生産者の取り組みを支援されてきています。

その河田さんの目に、事故後2年の状況はどのように映っているのでしょう。

取り組みの成果や現状での課題・問題点とともに、

人や環境とのつながりを取り戻すための道筋を考えます。

日時は、5月18日(土)、13:30~16:00

会場は、YMCAアジア青少年センター・国際ホール

(JR水道橋駅から5分、御茶ノ水駅から8分)。

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≪河田昌東(かわた・まさはる) さん:プロフィール≫

分子生物学者。 「NPO法人チェルノブイリ救援・中部」 理事。

遺伝子組み換え情報室代表。 

在職中は名古屋大学理学部、四日市大学環境情報学部などで教鞭をとる。

四日市公害、チェルノブイリや福島の原発事故被災地の支援など、

多くの社会運動に関わる。

著書(共著)に、『遺伝子の分子生物学』(化学同人)、『遺伝子組み換えナタネ汚染』

(緑風出版)、『チェルノブイリの菜の花畑から』(創森社)、

『チェルノブイリと福島』(創森社)、など。

 

-第4回-

『食べて克つ!毎日の食生活で免疫力を整える』

講師=高橋 弘さん (麻布医院 院長/ファイトケミカル研究家)

第4回は、健康な暮らしを維持するために、何をどう食べるか、について考えます。

講師はファイトケミカル(植物の機能成分) の研究で著名な

麻布医院 院長、高橋弘さん。

「食」 の持っている奥深い力によって 「内部被ばく」 に対処する。

そのキーワードは 「免疫力」 です。

免疫力を強化する (整える) ための食生活のあり方、

特に野菜の力について学びます。

それは放射能に限らない、様々なリスクとたたかうための

" 総合力 "  の獲得にもつながっています。

日時は、6月9日(日)、13:30~16:00。

会場は、千代田区立日比谷図書文化館・コンベンションホール

(地下鉄・内幸町駅、霞ヶ関駅から3~5分、JR新橋駅から10分、日比谷公園内)。

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≪高橋 弘 さん:プロフィール≫

麻布医院・院長、ファイトケミカル研究家。

医療法人社団ヴェリタス・メディカル・パートナーズ理事長。

日本肝臓学会東部会はじめ、日本消化器学会関東支部、日本臨床分子医学会、

日本レーザー医学会、米国消化器病学医師会の各評議員を務める。

米国癌学会会員。 東京慈恵医科大学卒業。

マサチューセッツ総合病院消化器内科、MGH癌センター、

ハーバード大学内科准教授、セレンクリニック診療部長などを歴任。

著書に、『ガンにならない3つの習慣 ファイトケミカルで健康になる』(ソフトバンククリエイター)、

『免疫を整えるレシピ(エビデンス社、監修)、など。

 

会員の方には、毎月発行の 『NEWS 大地を守る』 のイベント欄で

告知・募集しますので、お見逃しなく。

会員外の方には、大地を守る会のHP からお申し込みください。

予告をアップした段階で、再度お知らせいたします。

とりあえず手帳にチェックを。

参加費はいずれも、会員=無料、非会員=500円となります。

 

「本来の食と、人と社会の健康を取り戻す」 ために、

「誰とつながり、何を、どう食べるか」、

そして 「未来のために行動する」 指針を、このシリーズの中から

つかみ取りたいと願っています。

たくさんの方のご参加をお待ち申し上げます。

 



2013年2月 2日

次世代のために耕し、たたかう -福島新年会から

 

今年の産地新年会シリーズ 「福島編」 は、1月31日から一泊で開催。

今回の幹事となったジェイラップさん(須賀川市) が用意してくれた会場は、

磐梯熱海温泉。 

参加者は9団体から22名+1名(個人契約)、計23名の生産者が参加された。

 

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昨年 は原発事故の影響をモロに受けてきての新年会となり、

河田昌東さん(チェルノブィリ救援・中部) や野中法昌さん(新潟大学) を招いての

対策会議を兼ねたものになったが、

今年もやっぱりこのテーマは外せず、学習会が組まれた。

お呼びしたのは、福島県農業総合センター生産環境部長、吉岡邦雄さん。

農地における放射性物質除去・低減技術の研究・開発に関する

最新の動向を報告いただいた。

 

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東日本大震災に伴って発生した東京電力福島第1原子力発電所の爆発事故は、

県内の農業生産にとって甚大な影響を与えることになることを予感させた。

そこで県農業総合センターでは、

農地での放射能対策の知見がまったくない中で、

各部署からメンバーを選抜して対策チームを結成し、7本の柱を立てて、

調査・研究と技術開発を進めてきた。

 

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詳細な報告は省かせていただくこととするが、

「県内農用地土壌の放射性物質の分布状況の把握」 では、

事故のあった 3 月末から 8 月まで

県内 371 地点の農地を 8 回にわたって調査し、

続いて 10 月から 2012 年 2 月までに 2,247 地点の調査を行ない、

それぞれ農水省のマップ作成に貢献した。

放射性物質の垂直分布では、耕耘(こううん) することによって、

根からの吸収を低減させることができることを判明させた。

 

「放射性物質の簡易測定法の開発」 では、

NaI シンチレーションカウンターを使っての測定法を開発して

県内 14 ヶ所の農林事務所に配備し、地域の詳細なマップ作りを進めた。

(現在ではガンマ線スペクトロメーターが各市町村・JA に配備され、

 シンチレーションカウンターの役割は終えた。)

 

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収穫された農産物の検査では、ただ作物別の結果を分類するだけでなく、

土壌性質との関係性や肥料成分による効果の違いなどを調べ、

一定の知見を得てきている。

今では定説のように言われている交換性カリウムの有効性も確かめられ、

稲に対するカリを与える適期なども見えてきている。

除去技術では効率的な装置の開発をすすめ一部では実用化に至った。

 - などなど、まだ研究途上のものも含めて網羅的な報告をいただいた。

 

講演後の質疑では、質問は時間をオーバーして続いたのだが、

吉岡さんはひとつひとつ丁寧に答えてくれて、

「いつでも連絡いただければ、できる限りお手伝いいたしますので-」

とも言ってくれた。 

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それぞれのグループからも、報告をいただく。

いわき市の福島有機倶楽部の生産者たちは、津波の被害が甚大で、

残ったメンバーは2軒になってしまった。

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阿部拓さん(写真右端) は宮城で農地を取得し、新たな活路を見出そうとしている。

いわきの農地は今、息子の哲弥さん(左端) が守っている。

小林勝弥さん(中央) も 「苦戦してますが、微生物の力を信じて、頑張ります」。 

 

二本松有機農業研究会、大内信一さん。 

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「耕しながら、放射能とたたかっていく」 と力を込めた。

「 福島をもう一度、安全な農産物の供給基地にしたい。

 次世代につなぐために、安全性を立証させる責任が俺たちにはある 。」

大内さんは仲間らと 『福島百年未来塾』 を立ち上げ、

勉強会を重ねている。

 

福島わかば会(本部は福島市)、大野寛市郎さん。 

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メンバーの住む地域の範囲が広く、バラつきがあるのが悩みだが、

とにかく全員で取り組んできた。

「 今の消費者の気持ちは、安全は分かっても安心ができない、という

 感じのような気がする。

 これからは 「安心」 を取り戻せるよう、消費者とも積極的に会話していきたい。

 オレらも頑張っているので、大地の職員も頑張ってほしい。」(事務局・佐藤泉さん)

 

やまろく米出荷協議会、佐藤正夫さん。

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原発事故によって、長年かけて築いてきたブランドが崩壊した気分である。

特に、有機や特別栽培米が苦戦している。

価格への圧力も厳しい。

農家の経営を守るためにも、肥料設計も見直しながら、

減収させないように支援していきたい。

 

今回の幹事、ジェイラップ (稲田稲作研究会) は5人で参加。

代表で挨拶するのは、常松義彰さん。 

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自分たちだけでなく、須賀川全体の信頼を獲得するために、

徹底的に除染作業に取り組んできた。

ちゃんと安心して食べられる米が作れるのだということを、

周りに伝えていくことが使命だと考えている。

岩崎晃久さん(左端) のひと言。

「いま一歳の子が、元気に育っていく姿を、皆さんに見せます。」

 

そして、喜多方から 「会津電力」 構想をぶち上げた、

大和川酒造店・佐藤弥右衛門さん。

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福島県議会は、脱原発を宣言した。

しかし自然エネルギーの方向性を、県はまだ示せないでいる。

それを形にしていく責任が、我々にはある。

自分たちの手でエネルギーを創出していこう。

 

弥右衛門さんは 「ホラ吹いてたら、あとに引けなくなっちゃったよ」

と笑いながらも、すでに

『社団法人 会津電力』 の設立文書を書き上げている。

2月23日には設立総会が開かれる段取りだ。

 

皆で学び、励まし合い、最後は楽しく飲んだ一夜。

もっとも厳しい、茨の道になっちゃったけれども、

福島の有機農業者たちは、必死で己を鼓吹しながら前に進もうとしている。

共通する思いは、次世代に何を残すか、だ。

福島だからこその希望を発信しよう❢

 

僕も、この場に立ち会った者であることを忘れずに、

今年も歩かなければならない。

 

今年の新年会、これにて終了。

 



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