遺伝子組み換え: 2007年10月アーカイブ
2007年10月31日
米国・コーン視察レポート(2)-カーギル本社から(続)
≪昨日から続く≫
コーンの需給は楽観できない。
アメリカが大豊作なので持っているが、
世界全体でのコーンのストック(期末在庫)率は13%あたりで、
じわじわと下降線を辿っている。
一か月分の需要量に相当する10%を切ると危険域に入るとMr.クリスは言う。
需給と価格の関係は、1%足りなくなれば1%価格が上がるというものではない。
1%の緊張感は、モノと状況・条件によっては10%単位レベルでの価格変動を生む。
私自身、1993年のコメ・パニックは忘れられない記憶としてあるところだ。
もうひとつ当たり前のこととして、
熱帯(亜熱帯も能力的には含む)のコメを除いて、
基本的に穀物は年1作の収穫で一年分を賄う作物であることを忘れてはならない。
不作の年は、必ずある。
さて、カーギル本社での説明と個人的感想をこうして並べていくよりも、
むしろ現場の絵をお見せしながら、解説を挟んでいった方が分かりやすいかもしれない。
大事なN(ノン)-GMの「センチュリーコーン」についての要点を頭に入れてもらった上で、
現場に向かうことにしましょうか。
建物の中から風景を眺めるだけでなく、広大なコーンベルトに。
我々の今回の目的であるN‐GMセンチュリーコーンについては、
とりあえず以下のようにポイントを整理しておきたい。
1.飼料用トウモロコシである 「センチュリーコーン」 は単一の品種ではなく、
N-GM品種のラインアップ、つまりブランドのようなものである。
2.それはカーギルの製品ではなく、ある種苗会社が持っている。
3.アメリカ中西部-コーンベルト地帯において、猛烈な勢いで増えているGM品種は、
種会社・モンサント社の戦略によるところが大きい。
モンサント社は、来年には飼料用コーンをすべてGM品種に統一する方針だという。
4.カーギルは穀物を動かす商社であって、種屋ではない。
かつて保有していた種会社もすでに放棄している。
それだけ『種』とはリスクの大きい事業なのだ。
モンサントは優良な種苗会社を買収しながら大きくなっている、というのが実態。
5.そんな中で 「センチュリーコーン」 は、カーギル社内では、
スペシャリティ・プログラム、つまり特別な戦略のもとに位置づけられていて、
その維持と安定を、彼らは模索している。
「センチュリーコーン」の種会社との交渉も、粘り強く続けているらしい。
カーギルの強みはただ強力な世界情報網と市場戦略だけでなく、
意外と(失礼) 「農家との関係を大切にする」スピリッツを自慢とする、
そんな企業風土がまだ残っていて、
市場レートで大事な傘下の農民が損をしないような調整も欠かさない、と胸を張る。
「センチュリーコーンは、95%まで農家から直接カーギルが買い取ってます。
だから誰がどこで作っているのかが、ほとんど把握できている。」
というのが、カーギルジャパン・堀江氏の説明である。
だからN-GMの生産者も一人一人案内できるし、
N-GM生産者の情報交換を密にするための情報誌まで発行している。
しかし、とはいえ、である。
先に見たコーンの市場動向の中で、
センチュリーコーンの維持は極めて困難になってきており、
日本のN-GM需要に対応できるかは、
金銭的インセンティブ(経費保証という意味でのプレミアム)の明確な提示も含めて、
「覚悟のいる」(堀江氏の弁)局面にきているのである。
我々はそんな渦中に連れてこられたのである。
ご理解いただけるだろうか。
日本人の、ノンGMに対する決意を農民に示してほしい。
日本に需要があるなら、ではなく、立場は逆である。
日本国内でGM反対を唱えるのとは異なる、リアリティを持ったシグナルが必要、
というわけだ。
カーギル社は、まぎれもなくモンサントとタッグを組んでGM作物を広めている会社であるが、
一方で、そのリスク・ヘッジは冷静に判断されていて、
需要さえ確保できるなら (むしろそれを喚起してでも) 、
N-GMは確保しておくべき物資として担保しようとしている。
現場は実に具体的で、明確な意思表示を求め合う、たたかいの場であった。
それを感じたくて来たのではあるけれど、
今回は、恥ずかしながら、我々の方が励まされたところがある。
山脈の向こうの伏魔殿のような存在としてあった 「カーギル」 という名前だったが、
正直に吐露すれば、どんな企業も生身の人間で構成されている、という
言わずもがなの真理をここでも実感できた、という心境である。
たとえどんなに頑張っても及ばない力関係が存在しようとも、
批判は批判としてたたかう気持ちはある。
しかし実際に現地で、ノンGMの種を維持しようとしている'彼ら' がいて、
こちらもその '人' の存在に頼らざるをえない関係を目の当たりにすれば、
問題は、敵ではなく、自分自身の具体的な決意であることを、改めて知らされるのであった。
そんな心持ちで、シャトーを後にする。
心境は心境として置いといて、もちろん記念撮影は欠かさず-
(左から2番目がエビです)
2007年10月30日
米国・コーン視察レポート(1)-カーギル本社から
さてと、時差ボケも何とか落ち着いてきたところで、
アメリカでのトウモロコシ(以下、コーン)生産現場の視察報告とまいります。
日程は10月21日から26日の、5泊6日(うち一泊は機中泊)。
一行は、Non-GM(非遺伝子組み換え、以下N-GMと略す)の飼料用コーン・ブランドである
「センチュリーコーン」 を実際に使っている生産者2名を含む6名。うち1名は「北浦シャモ」の生産者、下河辺昭二さん。
今回の視察は、実は下河辺さんからのお誘いだった。
出入国の手配から現地ガイドまで通してお世話になったのが、
カーギル・ジャパン穀物油脂本部の堀江さんと高橋さんのお二人。
では、まずはミネソタ州ミネアポリス郊外にあるカーギル本社訪問から。
世界66カ国に販売組織を有し、従業員の数は15万8千人。
年商750億ドル(≒約9兆円。ちなみに07年は880億ドルを見込んでいる)は、
非上場企業では世界最大の売上高を誇る。
独自の人工衛星まで持って、世界の情勢分析を怠らない、
まさにアメリカの穀物戦略を担うメジャー中のメジャーである。
その本社は、日本でいえば軽井沢の別荘地のような、
しっとりと落ち着いた、紅葉も見ごろの森の中にあった。
別名 「シャトー」 とも呼ばれる、これが本社の外観。
昔の大富豪から買い取ったものだという。
廊下の一角に、建物の模型が置かれている。
邸宅を改造したものなので、間取りもそのまま残されている部分がある。
最近までここも事務所として皆が働いていたという部屋。
すごいね。
この写真の時だけは、OKが出るのに一瞬の間があった。
たしかにこういうのは人に見せびらかすものではないし、
こちらもあんまり品のいい振る舞いではないように思う (でも撮っちゃう)。
広く取ってある受付玄関には、企業ポリシーが掲げられている。
日本語で、こうある。
「人々の食生活と健やかな暮らしをはぐくむ」
さて、羨むような写真を並べても空しくなるばかりなので、次に進む。
我々は役員棟の会議室に案内され、
カーギル社の概況や、アメリカでのコーン生産の現状について説明を受ける。
説明してくれたのは、
スペシャリティ・プログラム開発マネージャー、クリス・ラドウィッグ氏。
様々なデータによって、
コーン価格の急騰やバイオエタノールの急激な増産状況などが示される。
五大湖の南側を東から西へ、
オハイオ、インディアナ、イリノイ、アイオワ、ネブラスカといった各州に広がるベルト状の地域を、コーン・ベルト地帯と呼ぶ。
このコーン産地で、さらに急激にコーンの作付けが増大している。
06年の8000万エーカーから、07年は9300万エーカー(※)にまで増えた。
背景には、国策として進められているエタノール生産がある。
そこには政府や州からの補助金が落ちる。
コーンベルト地帯に重なって、どんどんエタノール工場が建設されている。
すでに国が予定した数字の倍近いエタノール生産量に達しているそうだ。
そして今年、ついにエタノール原料に回るコーン量が輸出量を上回った。
いま建設中のエタノール工場の半分が稼動すれば、
アメリカ国内で必要な飼料の量に匹敵する量が燃料用に回ることになる。
まさにレスター・ブラウンの言っていた
「ガソリンスタンドとスーパーマーケットが穀物を奪い合う」 様相である。
当然のことながら、コーン価格は激しく急騰しているわけだが、
それに拍車をかけているのが、アジアの巨大な胃袋-中国の輸入である。
コーン価格の高騰 (+エネルギー政策からの補助金) は、
コーン生産農家に支払われていた農業補助金を不要にさせるまでに至っており、
これでアメリカは、WTOの農業交渉でさらに優位に立つことになる。
「農業補助金の削減」を実現した国として、圧力はますます過激になるだろう。
この流れは、GMかN‐GMかに関係なく共通することだが、
現状ではGMとN‐GMの収量には差があって、生産者は今、
なだれを打ってGM品種への作付けに移行している (その辺は、あとで詳述)。
加えて、中国が輸入国に転じたことで、
中国からの輸出に依存していた韓国が買い付けにやってきた。
韓国は、N‐GM品種の確保では金をいとわず、高値で買い取っていっている。
ここでも日本が競り負けているわけだが、
作付けの減少+韓国の参入=需給の逼迫 ⇒N‐GM価格高騰
という図式があっという間に出来上がってしまった。
貿易の自由化推進論者は、外交と円の力で安い食料は安定的に手に入ると
豪語するが、果たして何を見て仰っているのだろう。
卵や鶏肉の餌というベーシックなところで敗北しつつあるのだが・・・。
おそらくは、そう言い切らないとご自身の論が成立しないからなのではないか。
しかも穀物を輸出できる国は限られているというのに。
この状況はまた、
「高品質の産物はアジアのお金持ちに売って、国内は安さで勝負する国」
と揶揄されつつある今の構造すら、危うくさせることになるだろう。
そしてもっと怖いのは、
急激な需要増を賄っているのは作付け面積の増加だけでなく、
ここ数年、アメリカのコーンが豊作で推移してきたことによる、ということだ。
しかも作付増は、大豆からの移行が大きい、ときている。
大豆の動きもまた、日本にとってはとても危険な話である。
けっして穀物は余ってはいない。
カーギルは、これら 「エタノール景気」の見込みや
需給の油断ならない状況を冷静に読んでいる。
すみません。終わりませんね。
今日は時間切れ。明日に続く、とさせてください。
(※)1エーカーは約4047㎡。
数字を聞いて、下河辺さんは 「約4反か」 と換算した。僕もそれで覚えることができた。
2007年10月20日
カーギルとIPコーン視察
先週のネタがまだ2本ほどあったのに、もう週末。
しかも後半は、来週の仕事もいくつか前倒しでやっておかなければならず、
どうにも書く時間が取れずじまいとなってしまった。
というのも、明日(21日)から26日まで、アメリカなのです。
行き先は、ミネソタ州ミネアポリス。
そこで、かの世界の穀物メジャー (わたくしふうに言えば、帝国主義の牙城)、
カーギルの本社に出向き、
バイオエタノール増産などによって急騰するトウモロコシの生産状況を聞きとり、
イリノイ州からアイオワ州と回って、
Non-GM(非遺伝子組み換え)コーンの生産現地を訪ねてきます。
カーギルといえば、
種子会社のモンサント社とタッグを組んで、GM作物を世界中にばら撒いている会社、
というのが我々の一致する認識なのだけれど、一方で、
Non-GMの飼料用コーンもまた、彼らの手のなかにある、のです。
アメリカの農家はだいたいが合理主義的なビジネスマンであって、
彼らは、どちらがより儲かるかで種子を選択するのだそうだ (カーギルジャパンの方の説明)。
ちゃんとプレミアムがつけば、Non-GMも作る。
実際に多くの農家が、GMもNon-GMも両方作っている、とのこと。
なので今回の視察も、正確には、Non-GMコーンというより、
IP(分別)コーンの視察ということになります。
そんな日本人の胃袋を牛耳るお国で、いま、コーン価格が急騰していて、
農民はどんどん収益性の高いGMコーンへと、なだれ現象が起きている。
Non-GMコーンの確保は、断崖絶壁状態へと追い詰められつつあるのです。
さて、どこまで見てこれるか、行ってみないと分からないけど、
カーギル社が案内してくれる、というので、見に行ってきます。
と、そんなわけで前夜にバタバタと荷造りしながらTVをつけると、
NHKで 「日本の、これから-どうする?私たちの主食」 なる討論会をやっている。
後半しか観れなかったけど、どうも皆さん少し興奮気味で (こういう番組ではありがち、
しかもどれも何かが欠けているような印象。
何よそれ?-と思ったのは、前に座っていた経済学者の「規模拡大」論でした。
この人の規模拡大とは、たんに経営面積の増大という意味以上のものではないようで、
ちょっと噴飯モノの感あり。
ま、いずれ決着をつけなければならないテーマだが、
今はそれどころではない。
現地の天候をどうシミュレートするか、上着をどれにするか、が決まらないのだ。
では、みやげ話を乞うご期待、
ということで、一週間ほどお休みします。