あんしんはしんどい日記: 2007年12月アーカイブ

2007年12月29日

「偽」 の年の仕事納め

 

1年の仕事を終える。

 

毎年のことだが、何とも言えぬ脱力感がある。

 

しかし本当は、まだ終わっていない。

明日も食材は届けられるわけだから。

年の瀬の最後まで、

ミスやトラブルの連絡にハラハラ、ジタバタするのが食品流通の宿命である。

 

しかも、大晦日だって、正月だって、僕らの責任はついて回る。

本当は、毎日が気が気じゃない日々。

 

おせちはちゃんと届いただろうか...

正月に呼び出しがくるんじゃないだろうか...

でも、休まなかったら生きてけない、というのも本音であって、

溜まった書類を思い切ってシュレッダーにかけて、

ざっと机の上を片づけ、

パソコンも受話器もきれいに拭いて、終わりとする。

 

あちこち電気が消えた後、何人か残っている職員に声をかける。

大晦日の夜にデータのバックアップに入る奴もいる。

 

「じゃあな、お疲れ様。良いお年を」

 

こんな夜は、サッチモなど聴きたくなる。

特に今年は、そんな気分だ。

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名曲 -「WHAT A WONDERFUL WORLD」


例の哀愁を帯びたダミ声が聴こえてくる。

 

   ...ああ、この世はなんて素敵なんだろう

     緑の木々

     青い空

     虹の色

     手をつなぎ合った友だち

     赤ん坊の泣き声

     ああ、この世はなんて素敵なんだろう

 

こんな夜も、洋酒には走らず、日本酒でいく。

 

日本漢字検定協会による2007年の 「今年の漢字」 は 『偽』 となった。

いわずもがな、か。

ペコちゃんから始まって、希望のひき肉、白い恋人、背油注入「霜降り馬肉」

...思い出せないくらいいっぱいあった。

老舗から地域ブランド、有名ファーストフード、コンビニまで、

「偽装」 「期限切れ」 云々の嵐であった。

有機JASも揺れた。

 

異常な事態に、

「食べられるのに捨てられる。もったいない」

論も飛び出したほど、ヘンな世相になった。

 

再開した 「白い恋人」 は売れに売れているとか。

寛容な国民性は嫌いではないが...

 

この世の中、いったいどうなっちゃったのかと思うが、

こちらも、他人を批判したり笑ったりしている場合ではない。

 

偽装はないけど、ミスやトラブルはあったな、けっこう。

 

ある職員が漏らした台詞。

「嘘をつかない自信はあるけど、ミスをしない自信はない」

 

トホホ...何とかしようぜ、ほんと。

 

ま、ともあれ、今年も乗り切れたか。

 

年金問題、政治資金、その間に重税感も増し、温暖化は進む。

米価は下がるが自給率は上がらず、耕地は荒れる。

将来への不安は高まる一方だけど、

ここで生きる以上、やれるだけのことはやるしかない。

 

楽しく平和に、落ち着いて暮らせる社会というのが、

人類史でどれだけあったのかよく分からないけど、

子供たちがおおらかに希望を持てる社会にはしておきたい、と思う。

 

ちょっと偉そうだけど、

今年読んだ中で、最も心に残った一冊を挙げたい。

勉強になったもの、刺激を受けたものは他にもあるが、これは深く琴線に触れた。

 

渡辺京二著-『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)

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失われた、ある文明の幻影。

そこは 「子供の楽園」 でもあった。

 

とてもとても懐かしい風景、DNAが騒いだとでも言うか。

 

時代を遡ることはできないけど、

置き忘れてきた大切なものを、取り戻すことはできないだろうか。

 

サッチモの声が、今日はやけにうら哀しく聞こえる。

「この素晴らしき世界」

 -この歌詞には、もしかして言葉以上の意味が込められているのだろうか......

 


酔ってきた。

 

では皆様、どうぞ良いお年をお迎えください。

いつも読んで励ましてくれた皆様に心から感謝して、

今年最後の日記とします。

 



2007年12月19日

鶏肉生産者の叛乱?

 

さて、話は一日遡って、12月15日(土)。

茨城県石岡市(旧八郷町)にて生産者の集まりがあり、出かける。

 

集まったのは、大地に鶏肉を出荷していただいている常陸地鶏協議会と

北浦シャモ生産組合の生産者たち。

以前にレポートした米国のコーン視察で一緒だった下河辺昭二さんの

仲間への視察報告会 +夜は懇親会(という名の忘年会)、という集まりである。

 

下河辺さんは、私のブログ・レポートや写真を適当にチョイスして構成して、

パワーポイントの画面効果なども駆使して報告。

仕事の合い間に、よくつくったもんだと思う。

 

続いて、これも視察で一緒だった工藤さんという生協の方から、

遺伝子組み換えの問題点や現在の状況・課題などを概括的にまとめた報告。

これもなかなかの力作であった。

 

そのあとに私から、補足的にポイントの整理と

これからの取り組みの方向などを話させていただく。口だけで。

 

お二人の後に、ということなので、話す内容は聞きながら考えるしかなく、

写真を撮るのも忘れてしまった。

 

要は、生産と価格の安定を目指すためにも、

地域(国内)での自給力の向上に向けた取り組みの強化と、

米国のノンGMコーン生産者との連携の必要性を伝えたわけだが、

いまここで、現実に、

飼料高騰の直撃をくらいながら苦しいたたかいを強いられている生産者たちには、

かなり 'しんどい展望' というか、話であったことには違いない。

 

そして、その後の懇親会、である。 ・・・・・・・・・・

 


会場は、なかなか寂(さ)びのきいた飲み屋の座敷。

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店主みずからの手で仕留めた熊や猪や鹿の肉が食べられる飲み処。

 

今日は猪鍋が出る。

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下河辺さんのシャモ肉のタタキも用意されていた。

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なんだよ。料理の写真はしっかり撮るワケ?

-すみません。報告会は集中していて、写真なんてすっかり......

 

いや、お伝えしたかったのは、料理ではなくてね。

 

ここで、生産者との、ちょっとしたひと悶着があって、

生協の方には申し訳ないけど、こんな展開になってしまったのだ。

 

彼 (生協の方) は、生産者の訴えに応えていた。

「3月から値上げすることを組織で決めた。そこまでやったよ!」

 

目の前で飲んでいた生産者がこう応えた。

「待てない。じゃあ、3月まで出荷はやめる!」

 

それじゃあ話にならないだろうと、思わず割って入ってしまったのだった。

 

原料が上がった。なので値上げします。

それで生産と消費がうまく回るなら、誰も苦労はしない。

 

生産 (売る者) と消費 (買う者) は、

今の経済原理では基本的に 「利害(損得)が対立する」 関係に置かれている。

これが資本主義社会の矛盾の表層である。

 

でも僕たちが創造しようとしているのは、

「安全な食」 「持続的=安定的な環境」、要するに 「未来を保証する社会」 であって、

だからこそ今は、互いの 「つなぎ」 の立て直しに意地を張るしかない。

原価が上がったから単純に売価も上げる、では 「つなぎ」 ではない。

 

値上げする時には、

お互いどこまで頑張ったか、何をしたのかのプロセスが必要なのだ。

 

その間は、耐えなければならない。

言い換えれば、耐えて、次に何を語れるかがが勝負なのだ。

 

「俺たちが、精一杯頑張って鶏を出荷しても、今月の決算は赤字。

 この気持ちが分かるか、あんたに?」

 

この言葉に、僕はキレてしまった。

 

分かっている......本当はそう言いたかった。

でもやっぱり、鶏を飼って生計を立てている者ではない。

 

思い切って、言い放ってしまった。

 

「分からないよ。だから何だってんだ!」

 

分からない奴に 「何が分かるか?」

-では、もはやコミュニケーションもなにもあったもんじゃない。

 

しばし、僕とその生産者は、生協の方の存在を無視して、

机を叩いたりしながら不毛な激論をしてしまったのであった。

 

経営は難しい。

赤字をどう乗り越えるかは、業態の違う人間がたやすく言えるものではない。

しかし!

ホンモノの食べ物の生産を支える仕事をしてきた者の矜持(きょうじ)をかけて、

俺は言いたい。

 

苦しい時こそ、根性と知恵が必要だ。

それを示さなかったら、次に行けないじゃないか。

 

世間の政策通が言っているような、

農地の売り買いの自由化や、新規参入に活性化を求めるような政策ではなく、

長年の技術と地域風土との折り合い (調和) の取り方を知っている人たちと、

僕は、できることなら付き合い続けながら食の基盤を残したいと思う。

それを支えられる仕事をしたいと思ってやってきたつもりだし。

 

ただ無為に、やむを得ず値上げを続ける、は経営ではない。

「値上げまで出荷は止める」

じゃあ何も残らないじゃないかァ!

 

......てなわけで、一戦やってしまったんだけど、

 

生産者もこんな直情的な反応を予測してなかったのか、

落ち着いたところで-

「分かっているよ。ただ言わないと気がすまない」

 

僕も素直になって言わせていただく。

「分かっているつもりです」

 

「ぜひ俺の鶏舎を見にきてくれ。ちゃんとやってるから」

と彼は言ってくれた。

 


野生の肉を食って、イキり立ったのかな -反省。

 

枯淡を求めつつ、ちょっとアンバランスな欲が残る飲み処。

象徴するような屏風が、俺たちを見ている。

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「遊びをせんとや 生まれけむ」

 

この言葉って、梁塵秘抄でしたか。

でも、この詞は、必死で働いた人でないと出てこないのでは -そんな気がした。

 



2007年12月 2日

振り返り

 

気がつけば、師走である。

エンデの小説 『モモ』 じゃないけど、誰かに時間を奪われている気がする。

米国視察あたりから、完全に'追われる'ペースになっちゃった。

 

昔のように夜なべも利かなくなったし・・・

などと一人ため息をつきながら11月を振り返れば、

米国レポートを長々と続けてしまったこともあって、いろんなことを書き漏らしてしまった。

 

ここで一気に振り返ってみたい。

 

まずは1日。

島根で開かれた加工品&乳製品製造者会議。

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アイスクリームやチーズを頂いている木次(きすき)乳業さんを会場にして開かれた。

 

木次乳業の歴史を語ってくれたのは現在の社長・佐藤貞之さんだが、

先代の佐藤忠吉さんは、有機農業の世界では 「島根にこの人あり」 と言われた人だ。

酪農を主体にして、米も野菜も作る 「自給・小規模多品目複合経営」 の姿勢を

親子2代にわたって貫いている。

牛は山地での放牧に適した「ブラウンスイス」という品種。

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非遺伝子組み換えの配合飼料に国産有機栽培のフスマ、野草などを与える。

「食べることは、いのちをいただくこと」 が忠吉さんの口癖だ。

牛乳を運ぶ保冷トラックのボディには 「赤ちゃんには母乳を」 と大書されている。

相当のポリシーがないと書けない台詞だ。

こんな乳業メーカー、他にないよね。

 

牛舎の見学では、乳搾りも体験させていただく。

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実に気立ての優しい牛である。

 

会議では、有機での米作りで若者を育てるおにぎりの三和農産さん、

桑畑の再生から地域起こしにまで発展させた桜江町桑葉生産組合さんの講演もあり、

出雲の各所で、食品メーカーが中心になって地域づくりが進んでいる様子が報告された。

 

'安全な食' から '環境と地域の再生' へ。

地域に根ざした食品メーカーだからできることがある。

3社の報告は、参加されたメーカーには大いに刺激になったのではないだろうか。

 

島根から秋田に飛んでブナの植林のお手伝いをし(3日)、

翌週の「土と平和の祭典」(11日)、「土作り生産者会議」(15日)、

「ストップ!GMO緊急集会」(17日) なんかを挟んで、

20日には、本社と習志野物流センターで農産物の流通管理についての監査を受ける。

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大地で販売する農産物に関する情報が正確に管理され流通されているかどうかを、

有機JASの認証機関の監査によって検証する、大地独自の取り組みである。

大地ではこれを、有機JASと区別するため、「こだわり農産物」監査と呼んでいる。

この外部監査手法を取り入れて、5年になる。

 

有機JASの検査官によって、大地内部の生産情報の管理体制がチェックされ、

また物流センターでの小分け業務まで審査される。

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特に問題なく審査を終え、ホッとする。

 

宮城の雁ツアー(23-24日)から帰ってきて、26日。

認証機関(アファス認証センター)から、今度は有機JASの小分け業務の合格判定が届く。

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「有機農産物」の認証を取った生産者の農産物が、他と混ざることなく、

また汚染されることなく、小分けされ流通される体制が整っていることが認定された。

 

生産者の皆さん。

皆さんの有機農産物の受け皿として、物流部門もしっかりやってます。

-という報告は、やっぱりしておかないとね。

 


28日には六本木事務所にて、「江沢正平さんを偲ぶ会」。

大地を守る会が運営する 「アジア農民元気大学」 でやっている

定例の自主講座 「こーいちクラブ」(小松光一さん主宰) の仲間たちが集まって、

温かい'偲ぶ会'となった。

「こーいちクラブ」 は、江沢先生がずっと欠かさず足を運んでくれた会である。

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出来の悪い大地の職員を叱りながら、野菜というものを教え続けてくれた。

亡くなる直前まで枕元で本を読んでもらって、勉強を欠かさなかった。

いつもお洒落な江戸っ子で、戦前から反骨の精神を貫いたリベラリスト。

......そんな話に花が咲いて、

改めて、とてもデカい人を失ったという実感がこみ上げてくる。

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江澤先生、本当にお世話になりました。

有難うございました。

 

≪江澤さんの訃報については、10月6日の日記を―≫

 

そんなこんなの合い間にも、

有機農産物に使われていた資材から農薬が検出されたといった報道が2件。

1件は、大地では以前より使わないことを申し合わせていたもの。

どうだ、と言いたくなる。

しかしもう1件は、認証機関がかなり綿密に調べてOKを出していたこともあり、

大地でも数軒の生産者で使用実績があった。

報道では、残留はごく微量のようではあるが、「即刻使用を自粛するように」 との通知を出す。

 

そして、― やはり潔く書き記しておくべきだろう。自分の立場からしても。

何もなかったかのように、偉そうなブログを続けることはできない。

 

生産者の農薬使用報告漏れが1件発生した。

20年来農薬を使わないでやってきた人だ。

今まで経験したことがないほど畑全体に虫害が広がって、

パニックになってしまったと本人から謝罪の弁を受けるも、

つらいけど今年の出荷は停止していただく。

購入していただいた会員には謝罪の告知をし、全額返金とする。

幸い農薬の検出はなかったものの、信頼に傷がついたことに違いはない。

たった1回の農薬使用であっても、この約束は生命線である。

 

何年ぶりだろう。もうこういうことはないようにしてきた筈ではなかったか・・・

と思うと、悔しくてたまらない。

 

俺たちは、まだまだだ。

どこにも負けないくらいの揺るぎない関係を、生産者と築きたい。

襟を正し、決意を新たに、出直しである。

 

時間を奪われているうちに、自分の誕生日を忘れていた。

11月11日で、私もついに入社25年となりました。

四半世紀を経て、この日が 「土の日」 に・・・・・でも、出直しの月となって、

どこか自分らしい、とも思う。

 



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