あんしんはしんどい日記: 2008年9月アーカイブ

2008年9月26日

有機JAS検討会、終了

 

おとといは農水省を追及したと思ったら、今日は省内での会議に参加する。

「有機JAS規格の格付方法に関する検討会」 -最終回の審議である。

 

2月から始まって、今回まで6回。 

各2時間、述べにして12時間強の会議で、有機JAS制度の改善の方向性をまとめる。

前回も書いたけど、1回の会議で発言できる機会も少なく、

もう 「とりまとめ」 か、というもどかしさがついに抜けないまま来てしまった。

力不足の点を反省しつつ、でも少しは意見を反映させることができたようにも思うし、

複雑な心境、便秘気味の 「検討委員会」 体験だった。


検討会で出された意見は幅広く、ともすれば拡散する傾向があった。

特に、有機JAS制度の正確な運用のための見直しという観点と、

「有機農業の発展のために」 語られる視点との微妙なズレが印象に残った。

流れとしては、検討会のそもそもの開催目的が、認定機関や認定事業者

(認証を受ける生産者・製造者等) に違反が後を絶たないことに端を発していることから、

 " 制度をどう信頼されるものにするか " の観点での見直しに絞られていった。

 

時間をかけて論議されたテーマには、次のようなものがあった。

1)登録認定機関 (第三者認証団体) の判定のバラつきをどうするか。

2)生産者にとって有機JAS規格が求める規程や文書管理は煩雑で、負担が大きく、

  このままでは有機JAS生産者 (=有機農産物) は増えない、という懸念について。

3)様々な農業資材が有機JAS適合品とか称されて販売される現象があり、

  生産者にその適否を判断させるのは困難な面もあり、対策が必要ではないか。

 

1)については、検討会の途中で、認定機関の委員より

『登録認定機関の業務運営に標準をつくるために』 という

いくつかの認定機関が共同で作成したマニュアル文書が出されたことによって、

これを各認定機関も参考にしながら、意見交換を進めて改訂・発展させ、

認定業務のバラつきを解消していくことを望む、という方向で整理された。

 

2)については、さすがに検討会で具体的な手法までは討議できず、

「効率的な記録の取り方を認定事業者自ら工夫するのはもとより、登録認定機関においても

認定機関同士の情報交換を行なうことなどにより、認定事業者のミスを防止したり、

合理的な記録方法を工夫し、認定事業者へ情報提供することを期待したい。」

というような表現でまとめられた。

何も書いてないに等しい、と感じる向きもあるかもしれない。

ただ少なくとも、認定機関にも、生産者の負担を軽減するための情報交換・情報提供を求める、

との認識が示されたわけだ。

認定機関に禁止されているコンサル業務との兼ね合いが気になるところだけれど、

このテーマは国に期待することではなく、我々自身の手で

(認定事業者と認定機関の日々の創意工夫で) 進めることとして、僕は了解した。

 

3)については、誰もが容易に資材の適否を判断できるような表示方法や制度を求める

声も強かったが、とりまとめでは、

「有機JAS適合培地など資材メーカーが、曖昧な根拠で表示をすることについての

表示ルールについて、何らかの規制を行なうべき」 の文言にとどまった。

個人的には農業用資材も農産物と同様に 『有機JAS』 の対象にすれば事足りるのでは、

と思うところであるが・・・。

 

「検査員のレベルアップのための研修システムの構築」 も盛り込まれた。

" (検査業務だけでは) 食べられない " 現状が委員から強く訴えられた経過もあったが、

「その状況が改善されることが優秀な検査員を生む土壌として必要」

という指摘までで終わらざるを得なかった。

 

総じて、生産者・メーカー、消費者、流通、研究者という各立場から出された様々な意見を

上手にまとめてくるあたりは、さすが官僚の方々、と感じ入るところだが、

やることはと言えば、すべてこれからである。

生産者と話し合い、認定機関ともやり取りしながら、改善を重ね、

信頼を確保するとともに、どう 「有機農業の発展」 につなげてゆくか (つなげられるか)

にかかっている。

 

半年強で6回の審議、という限界を感じつつ、農林水産省の会議室をあとにする。

鹿児島から毎回参加された生産者、

今村君雄さん (姶良町有機農法研究会会長、大地を守る会会員でもある) と、

別れ際に交わした、何ともいえない複雑な苦笑いが、残像として残った。

 

今村さんは、最後の最後に手を挙げ、こう言ったのだ。

「食べものを大切にすることが、すべての根幹ではないですか!」

 

「とりまとめ」 の文章は、保田茂座長 (兵庫農漁村社会研究所代表、元神戸大学教授)

が最終調整し、各委員との確認後、農林水産省消費・安全局長に答申として提出され、

すべての認定機関に配布されることになる。

パブリックコメントにもかける、とのことである。

 



2008年9月 8日

落ちのない日記

 

日本列島に居座った前線のせいで登山を断念させられ、

帰ってきてから一週間あまり。

上空の大気は不安定なままだとかで、ゲリラ豪雨はその後も断続的に発生して、

ようやっと落ち着いてきた感じで、少し息をつく。

 

大地を守る会の産地では幸い豪雨による一撃的な被害はなかったものの、

水浸しになった畑だと、これから病気が出たり、最悪の場合は 「全滅」 など、

恐ろしい連絡がきたりするのは、これからである。

またこの時期は、関東では秋冬作への準備が進む時でもあり、

作業の遅れはこれからの出荷計画を狂わせてゆく。

 

春の低温・日照不足、空梅雨ときて、7月は一転して高温となって、

「ベジタ (大地を守る会の野菜セット) もひと息」 とか言ってたのも束の間、

秋もまた不安先行、ビビリ気味の季節の変わり目となった。

今日の藤田社長との打ち合わせで、つい弱音を吐いている自分がいた。

「野菜の仕事って、ホントに泣けてきますね」

特に僕らの仕事は特定の生産者との契約だから、

いわば 「その畑とつき合っている」 わけで、結果はストレートに台所に届いたりする。 

だから 「その畑」 からの情報が大事になる。

 

それにしても・・・・・社長の励ましの台詞が、俺なんかと違う。

「それでも百姓は死なないからね」

 


さすが筋金入りの東北農民の血統というか出自である。

南四国の海で育った者とは根性の質が違うような気がする。

僕には絶対に吐けない言葉だ。

いや、もしかして、それ以上に、

飢えの記憶と競争をトラウマとしてきた団塊世代と、

彼らの祭り (学園紛争のこと) に遅れてきたシラケ世代の違いだろうか。

星野仙一と江川卓 (私の場合、掛布くんを採用したいが) の違い、と言うと

何とのう雰囲気が伝わるような気がしたりして。 

え? 面白い? もっといってみますか。

ガッツ石松と具志堅用高。 先代貴乃花と千代の富士。 北野たけしと明石家さんま。 

西郷輝彦に郷ひろみ。 立松和平に田中康夫。 鈴木宗男に安倍晋三さん・・・・・

このへんでやめとこうか、あとが怖い。

 

まあそんなことはともかくとして、

自然の猛威では倒されなくても、おカネで殺されるのが現代である。

とどまるところを知らない食の不祥事も、

すべては経営維持という名でのモラルの圧殺、のように思える。

ここまできたか、と何度嘆いたことだろうか。

確信犯も、とうとう事故米の食用転用というところまできてしまった。

消費者をだます前に、業界内で詐欺同様の流通がまかり通って、

鹿児島の焼酎メーカーも、関西の和菓子屋さんも、怒りが収まらないことだろう。

ただ僕の立場から納得ゆかないのは、農水省の調査である。

複数回の内部告発があったにもかかわらず、

昨年1月の調査でも見抜けず、今年8月の調査でも確認できなかったという。

どんな調査をしたのだろうか、いやそもそも 「調査」 レベルの仕事をしたのか

・・・・・分からない。

その間、汚染米が食用米として格上げされて人々の胃袋に消費された。

 

先週の金曜日 (9月5日)、千葉の農政事務所の職員の方が二人見えられ、

今年1~4月に某都内自然食品店に卸した野菜の栽培内容を確認したいという。

聞けば店頭に 「栽培期間中農薬不使用」 (無農薬栽培のこと) の表示があり、

その確かさを調べているのだと。

当社の栽培確認の履歴やデータなどをお見せして説明したところ、

納得して帰られたが、納得できないのはこっちである。

お店を回っては、有機や無農薬の表示チェックをしている職員が全国に100人近くいると聞く。

フツーに出回っている国内産の●●●は、内部告発がない限り動かないくせに。

いや、告発があってもろくな調査もできてないくせして・・・

何か、おかしくないか、ホント。

ああ、いやだ。 こっちの精神まで、ギスギスと棘が立ってくる気分である。

こういう時に、海育ちはすぐに喧嘩モードになる。

そこは、人間ができてないとか言われても、血統が違うのだ。

 

生産者の皆さん。 しんどいけど、失敗もあるけど、僕らには嘘はない。

胸だけは張って生きましょう。 

 

天候と野菜の話をしていたはずなのに......何かヘンな、オチもない話になってしまった。

そんな一日だったということで。

 



2008年9月 2日

「チャルジョウ農場」 と若者たち

 

飯豊山登山をやめて、麓や低山の小屋でただ酒盛りばかりやっていた、

という噂が何処からともなく流れたものだから (全否定できないところが悔しい)、

言い訳だけはしておきたいと思う。 ちゃんと仕事もしたんです。

 

喜多方市山都 (旧・耶麻郡山都町) は、飯豊山の登山口がある山間地で、

毎年5月に行なわれる堰 (棚田を守る水路) の補修作業には、

「種蒔人基金」 による応援という形で、昨年からボランティアとして参加している。

その経過は、これまでも報告してきた (5月6日付昨年12月8日付 参照)。

 

この地で都会から研修生を受け入れ、新規就農者を育てている方がいる。

小川光さん。

元東北農業試験場の研究者で、自らの理論で有機農業を実践し、

かつ農業者を育てるために、ここ山都に移り住んだ。

下の写真前列中央の人。

e08090201.JPG

 


小川さんは、西アジアの国トリクメニスタンの農業科学研究所で、

乾燥地帯での無かん水 (水をやらない) 農業技術の開発研究に携わった

という経歴の持ち主。

そのトリクメニスタンのチャルジョウという、ウズベキスタンとの国境にある町が好きで、

自らの農場を 「チャルジョウ農場」 と名づけている。 よほど惚れたんだね。

実際にトリクメニスタンのメロンの原種や、日本のウリと掛け合わせた

小川光オリジナルのメロン品種を無農薬で育てているのだから、

名乗るだけのことはやっている。

 

また小川さんは都会から研修生を積極的に受け入れ、育てている。

定住希望者には住まいの斡旋までする。

小川さんの世話で山都に定住した家族がこれまでで40世帯、約100名。

ここで生まれた子どもが14人、だとか。

この村の空き家情報は小川さんが一番よく知っている、とも人から聞いた。

山間地でも有機農業で暮らしてゆけることを、彼は粘り強く実証してきたのだ。

 

上の写真で小川さんを囲んでいる若者たちが、今年の研修生。

一人一人の取材まではできてないけど、

それぞれにしっかりした意思と誠実さを感じさせてくれる若者たちだった。

そして後列右端が、堰の清掃ボランティアを仕掛けた浅見彰宏さん。

彼も小川さんの世話でこの地に根づいた。 14人の子どものうち2人は浅見家なのかな。

 

さて話を急ぐと、昨年の5月、堰の清掃ボランティアに参加した翌日、

僕は浅見さんに連れられて小川光さんの農場を訪ねた。

小川さんは日本有機農業研究会メンバーで、僕も名前だけは知っていたし。

その時は、いわばただの見学で終わったのだが、

今年5月の作業あたりから、研修生の自立のための受け皿づくりという話が

具体的なものとして動き始めたのだった。

こういうのって、何かのサインとかタイミングを感じるときがある。

東京に出てきた小川さんと大手町で会い、

次に取締役・長谷川を山都まで案内し、小川さんと会って栽培方法も見てもらい、

「進めていいんじゃないか」 とのアドバイスで下地をつくり、

そして先週の28日、山に登る前にチャルジョウ農場を訪ね、

研修生たちも集まってもらって、

彼らが作った野菜を大地を守る会の会員に届ける企画のイメージを話し合った。

これはただの野菜の売り買いではない。

山間地で農業を学んでいる彼らのメッセージを、

野菜に託して届けられる仕組みをつくっていく作業。

それは棚田やそれを囲む水路や森の環境を守る作業につながっている・・・・・

 

29日、大雨・洪水・雷注意報を聞きながら、待機中の間に企画書第1稿を書き上げる。

そして今日 (9月2日)、部署内の会議に提出。概ね了承される。

来週の火曜日が最終関門の会議である。

何とか今年のうちに、彼らに希望の道筋を提供できるかもしれない。

 

有機農業のひとつの技術を確立させ、次の担い手を育てようとする小川光さん。

山間地の農業基盤 (インフラ) を守ろうとする浅見彰宏さん。

そしてチャルジョウ農場で、農業での自立を目指す若者たち。

そんな彼らが持ち寄って、一個一個思いを詰めた野菜セットを完成させたい。

企画そのモノは簡単シンプルなのものだけど、

うまく流れるためのシステムづくりは結構細かい調整が求められる。

何とか間に合わせたい。 今年の収穫物で、来年につながる一箱でも。

 

山から降りれば下界は騒然となっていて、

産地担当諸君は、週の頭から畑の被害状況の確認作業である。

幸い全滅というような話はなかったが、水浸しになるとこれからの品質に影響が出る。

また全般的に作業が遅れつつあり、これは後々の出荷のずれにつながる。

だいたい時間雨量が80ミリとか100ミリって、とても尋常じゃない。

これじゃ 「ゲリラ」 じゃなくて、「大空襲」 豪雨だ。

田んぼが湖のようになってしまった映像も流れている。 収穫前に・・・なんと切ない。

 

異常気象に油や餌や資材の高騰と、生産現場は火の車状態だ。

畜産現場では、離脱する生産者が増えていると聞く。

一触即発ならぬ 「一食即発」 状態だ。

本気こいて、資材依存ではない、資源の地域循環 (自給) をベースにした

有機農業社会を打ち立てる必要があるように思う。

その意味でも、地域資源を基本とする山間地有機農業は、キーワードだと思っている。

 

で・・・これで言い訳になったんだろうか。

 



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