あんしんはしんどい日記: 2011年8月アーカイブ

2011年8月31日

自戒をこめて-「メルトダウン後の世界を結い直す」

 

   原子力利用の長い道のりは、目前の目的のためにあせればあせるほど、

   ますます遠い見果てぬ夢となっていく。

    原子力はまだ人類の味方でなく、恐ろしい敵なのである。

 

武谷三男編 『原子力発電』(岩波新書) の冒頭の一節である。

発行されたのは1976年2月。

変色してカビ臭い新書本の序文の最初の2行に、赤線が引いてある。

振り返れば、四国の漁村から上京して、

住み込みで新聞配達をやりながら浪人生活を送っていた頃に、

僕はこの本に出会っている。

郷里が原発誘致計画で揺れていたこともあって、本屋で手にとったような、

今となれば微かな記憶しかない。

3.11を経て、5月に入ったあたりから、

合い間をぬって高木仁三郎さんや武谷三男さんの著書を読み直していて、

僕は30数年ぶりに、忘れていた言葉に再会した。

 

僕には武谷三男という巨人を語る資格は一片もないが、

この頃の武谷さんは、核兵器に反対しながらも、

その平和利用の可能性は否定していなかった。

しかし、であるからこそ、原子力の怖さや技術的・社会的問題点を訴えなければ、

という意思に溢れていた。

この問題点をクリアできなければ、原子力発電は人類の敵のままであると。

以下、いくつか言葉を拾ってみたい。

 


   私は許容量概念を根本から考え直すべきことを主張した。

   許容量とはそれ以下で無害な量ということではなくて、

   その個人の健康にとって、それを受けない場合もっと悪いことになるときに、

   止むをえず受けることを認める量であり、人権にもとづく社会的概念であることを

   明らかにして闘った。

 

   絵に書いたモチを現実のものと見あやまる歴代の原子力委員長のならわしが

   ここにはじまった。

 

   初期にはエネルギーは厄介な副産物として、大気中や川の水の中に棄て去られていた。

   エネルギーが注目されるようになったのは、原水爆の軍備が肥大化して、

   材料生産が過剰になったあとのことである。

 

   この高レベルの廃液が、原子力発電のもっとも頭のいたい存在なのである。

   それをどう始末すればよいか、まだ解決は得られていない。

   ......このいずれをとるにしても、固形化した死の灰をどこにどのようにしまっておけばよいか、

   数百年、数千年に耐える方法は全く誰にも知られていない。

 

   ......現実の日本の社会は、地域的な、あるいは階級的ないくつかのグループに

   分かれていて、リスクを受ける人々とベネフィット(利益) を手にする人々が

   別々である場合が少なくない。

   私たちが当面している原子力発電と放射線障害の場合もまさにそうである。

 

   公共の名を利用して社会全体として利害のバランスが成立すると主張している。

   こういう錯覚から開放されることが必要なのである。

   どのくらいの害なら受け入れられるか、それを決めるのは、被害を受けつつある

   あなた なのである。

 

   ......つまり、大型原子炉は人里遠く離れた所におくほかはない。

   距離というものが何よりの安全装置なのである。 

   こうして、発電炉の立地条件がもっとも信用のおける安全装置として登場してくる。

 

   高速増殖炉が成功しなければ、核分裂エネルギーは 「未来」 のエネルギー資源とは

   なりえないのだが、以上のような現状は、原子力全体がまだ

   工業実験をも含む開発研究の段階にあるということを示している。

   ......生産されたプルトニウムを燃料として還流するのはまだ試験的な段階で、

   それは将来に期待して倉庫につみ上げられている。

 

   国民の主要な蛋白源を漁業に依存しているわが国にとって、

   原子力施設と漁業との関係を、従来のように前者による漁業権の買取り、

   したがって漁業権の消滅といったやり方で処理してきたことは大きな間違いである。

   ......再処理工場には同等な環境基準が何ももうけられてないといった

   明らかな矛盾は放置しておくべきではあるまい。

   

   燃料にするためのウラン濃縮はすべてアメリカに依存している。

   ......これほど外国依存度の高いエネルギー源は他にない。

 

   現在の日本の原子力行政を最も毒しているのは、原子力基本法に盛り込まれた

   三原則の存在にかかわらず、「公開」 の原則を無視した極端な秘密主義である。

   

   基本的に 「公開」 「民主」 「自主」 の三原則を忠実にまもる以外に、

   日本の原子力の将来はなく、住民に納得される道もありえない。

 

実に長々と引用してしまったが、すべてが腑に落ちないだろうか。

しかしこれらの問題提起は、今日まで何ひとつ解決されなかったばかりか、

原発の 「安全神話」 は逆に強固に築かれていった。

スリーマイル島やチェルノブイリを経験しながら、

日本では 「もんじゅ」 や東海JCOの事故を経験しながら、

みんなの税金は湯水のごとく使われて・・・。

武谷さんが35年前に伝えた 「つきまとう死の灰」 「プルトニウム社会のゆううつ」 は、

現実の恐怖となって飛び散ってしまった。

僕らは10万年後の子どもたちからも 「責任」 を問われることになったのだ。

怒っているだけではすまないよね。

 

今からでも、ひとつずつ創り直してゆきたい。

こういうセンスから再出発してもいいか、という導きの本が出された。

脱原発社会を説く30人の提言集。

 

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懲りずに引用したくなる言葉があちこちにあるけど、

それはこの先、小出しに使わせていただくとして、

執筆人の名前だけでも列記してみれば (敬称略)-

作家・池澤夏樹、音楽家・坂本龍一、ジャーナリスト・池上彰、アーティスト・日比野克彦

社会学者・上野千鶴子、写真家・大石芳野、世田谷区長・保坂展人

城南信用金庫理事長・吉原毅、文化人類学者・上田紀行、映画監督・纐纈あや・・・

有機農業者では、山形県高畠町の星寛治、福島県二本松市の菅野正寿

そして、生産者会議でお呼びした篠原孝さんも、飯田哲也さんも、

大地を守る会会長・藤田和芳も寄稿している。

 

これだけの忙しい人たちを集めて緊急出版に漕ぎ着けた

大江正章さん(コモンズ代表) の力技にも敬服するしかない。

大江さん自ら書いたまえがきには、 「メルトダウン後の世界を結い直す」 とある。

 

そうだね。

これから10万年後に向けての再出発を。

結い直しましょう。 自戒をこめて。

 

そして、僕が身の丈を怖れず挑戦したいと思うのは、

引用した一節 -

「許容量とは・・・止むをえず受けることを認める量」 という、

武谷三男が提唱した 「がまん量」 の 限界を超えたいということだ。

 



2011年8月23日

脱原発と自然エネルギーを考える・・・前に

 

立秋を過ぎて、やけに暑くなったり、一転して涼しくなったと思えば

また暑くなったり、、、ゲリラ豪雨に泣いている産地があるかと思えば、

北海道からは昨年以上の不作が伝わってくるこの頃。

皆様、体調のお加減はいかがでしょうか。

千葉・幕張でクマゼミを見る前に、埼玉・飯能でヒグラシの合唱を聞かされるという、

不思議な夏です。

 

今日も習志野物流センターに駆り出されて、テレビの取材を受けました。

日本テレビで平日の夕方に放送されている 「News every.」 という報道番組。

例によって放射能測定体制と、「子どもたちへの安心野菜セット」 について。

 

シンチレーション・サーベイメータによる入荷した野菜全ロットの一次検査、

ガンマ線スペクトロメータによる二次検査、

そこで 「不検出」(検出限界値・10Bq以下) を確認した野菜で構成される

「子どもたちへの安心野菜セット」。

しかし実際は、今やほとんどの野菜が 「不検出」 になってきていることも

付け加えながら説明させていただいた。

 

事故渋滞等で取材班の到着が遅れ、取材自体も少々長引いたこともあって、

農産グループ内の会議をパスして、対応する。

本職がおろそかになっていないか・・・・・と自問しながら。

 

放送は25日の夕方とのこと。

今回はパワー不足だったかも。。。

 

さて、8月18日(木)から19日(金)、

千葉・新習志野にある幕張セミナーハウスにて

「脱原発と自然エネルギーを考える全国生産者会議」 を開催したので、

その報告をしなければならない。

この会議には、けっこう気合入れたつもりである。

 

僕らが25年前から主張し続けながら、止められなかった原子力発電。

みんなが大切に育んできた田畑にも放射能は降り、

もっとも恐れていた事態が現実のものとなった。

その度合いと体への影響については様々な議論があるところだが、

はっきり言えることは、放射線の影響は限りなくゼロであることが望ましいこと、

そしてやっぱり、こんな厄介なものと未来永劫にわたって共存することはできない、

ということだ。

 

そこで改めて、大地を守る会の生産者の総意として、

きっぱりと脱原発社会を目指すことを宣言しようではないか。

しかもただ  " NO!"  の意思表示で終わることなく、

分散型・地産地消型の自然再生エネルギー社会を、みんなの力で推し進めよう。

我々の  " 提案型運動 "  として。

 

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集まった生産者・メーカーは全国から約150名。

1日目は講演を中心にした勉強会。

2日目は各地で取り組まれている実践例をもとに生産者同士で意見交換を行なう、

という設定。

 

お願いした講師は、農林水産副大臣の篠原孝さんと、

NPO法人・環境エネルギー政策研究所の飯田哲也(てつなり) さん。

ともに3.11以降、精力的に政策提言を行なってこられた方である。

 

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篠原孝さん。

「元」 副大臣と紹介しなくてすんだようだが、政局騒々しい中、

本当に来れるのか、随分と気をもませられた。

 

概要の報告は、ゴメン、、、次回に。

忙しい々々、を口ぐせにしながら、夜は都心での会合に出かけ、

またついつい飲んじゃったのでした。

 

お二人の講演内容は、USTREAM でもアップしたので、

きっちりと聞いてみたい方は ↑ で。

取り急ぎ動画のご案内で、今日のところは・・・ スミマセン。

 


 



2011年8月16日

測定は目の前の安全を確かめるためだけでなくて・・・

 

今日は夏休み明けだというのに、事務所ではなく、

習志野物流センターに直行となった。

朝からテレビ局の取材を受ける羽目になったのだ。

休みに入る直前に日程が決まり、休み中に取材の概要がメールで入ってきて、

朝9時から現場打ち合わせ、10時から撮影に突入。

この一件だけで、なんだか休んでいる気分になれなかった。

しかもこのところ、広報の僕 (しもべ) みたいな日々だ、、、ブツブツ。

 

本日の取材は、日本テレビ 「シューイチ」 という日曜日の朝8時からやっている番組。

メイン・キャスターは、タレントの中山秀征さん。

その中山さんが弊社習志野物流センターまでやってきて、

食品の放射能測定の現場を見ていただくことになった。

 

物流センター玄関の前で、中山さんが語り始める。

「 はい、そういうわけでですね。 今日は、放射能の測定に力を入れている

  『大地を守る会』 の物流センターにやってきました・・・」

ふ~む。 スタジオから飛び出してきた、という展開だね。

 

「案内をしてくれるのは、農産グループ長の戎谷さんです。 こんにちわ!」

「こんちわ!」 (この前のラジオのような失敗をすまいと思うと、声が上ずる。)

 

センターの中を案内しながら、検査の概要を説明し、

また 「食の安全」 に対する大地を守る会の考え方などをお話しさせていただいた。

検査の概要はHPでも紹介しているので、ここでは割愛。

こんな感じ。 ⇒ http://www.daichi-m.co.jp/info/news/2011/0714_3017.html

 

また取材現場を写真に撮ることはできなかったので、今回は写真はなし。

 


シンチレーション・サーベイメータ で青果物をロットごとに測るところでは、

野菜や果物に測定器をしっかり当てている場面のアップが何度も撮影される。

「 これです、これ。 この作業を入荷した野菜全品でやっているということを、

 伝えたいですよねぇ」 と強調してくれる。

またガンマ線スペクトロメータ 4台を使って測定しているところでは、

コンピュータの画面を見てもらいながら解説する。

 

日々入荷してくる食品が、その安全性を確かめられた上で届けられる。

「安心」 につながる作業としてお褒めの言葉も頂いたのだが、

測定体制をここまで強化した理由は、実はそれだけではないこともお伝えする。

 

放射性物質は目に見えず、静かに拡散していってる。

ワラから牛肉へ、水系から魚へ、下水から肥料へ・・・

食物連鎖と生物濃縮が進み始めている。

僕らは今、届いた食品を網羅的に測って確かめるだけでなく、

生産者が使っている、あるいは使おうとする肥料やその原料、

あるいは家畜の餌やその原料など、

口に入れる 「食品」 の上流まで可能な限り遡ってトレースし、

放射性物質の移動をキャッチし、抑え込みたいと思っている。

それによって、食べる人 (特に子ども) をガードするだけでなく、

生産者がある日突然加害者の身に晒されてしまうことのないようにしたい。

 

加えて、各産地で取り組む除染活動をバックアップしたい。

適切な効果測定によって次の対策も有効になる。

だから現地 (福島県須賀川市、ジェイラップ) にも1台据えたのだ。

 

そして、それやこれやでこれから蓄積されていくデータは、

将来へのリスク管理にも役立つ貴重なデータになるだろう。

なんたって、これから原発は廃炉の時代に入っていくのだから。

目の前の安全だけでなく、未来を守るものにしたい。

 

この辺の話は放送時間の都合上、割愛されることになるかと思う。

それでもいい。 せっかくお越しいただいたのだから、

中山さんやスタッフの方々に理解してもらえたなら嬉しい。

で、取材を終えたあと、さらに思い切って切りだす。

「もうひとつ、何としてもお伝えしておきたいことがあるので、

 聞いていただけませんか。」

 

放射線は細胞や遺伝子を傷つけて、癌や白血病などをもたらしますが、

ヒトの身体は本来、多少のDNA損傷は元に修復する力を持っています。

しかしその修復力を減退させる作用をおよぼすものとして、

様々な化学物質があります。 農薬もその一つです。

したがって、放射能を心配すればするほど、もう一方で、

できるだけ化学物質を体に取り込まないように配慮することも必要になります。

普段から、バランスの良い食事、体に良い食材を心がけることが基本です。

また、食の安全性や環境汚染に対して

最も配慮してくれている人たちが作ったものを食べる。

それが将来の 「安全」 と 「安心」 にもつながると思うのです。

 

中山さんがしっかり頷いてくれたことで、今日は満足、としたい。

 

放送は9月4日(日) とのこと。

よろしかったら、見てやってください。

 



2011年8月 9日

ヒマワリをシンボルに、里山再生を誓う

 

だれのために 咲いたの それはあなたのためよ ♪♪

                           (伊藤咲子 「ひまわり娘」)

 

  いえ、未来の子どもたちのために 咲かせたの。

  祈りながら 蒔いたの ヒマワリの種を。

 

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須賀川・ジェイラップで測定器の作動とこれからの測定計画を確認した

翌7月30日(土)。

郡山から二本松市に移動して、 

「ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」 代表の大野達弘さん、

副代表の佐藤佐市さんと会い、今後の除染計画について情報交換を行なう。

 

協議会では 「里山再生・災害復興プログラム」 が策定されていて、

いくつかの民間団体の基金からの助成も準備されている。

茨城大学や新潟大学の先生たちも連携したプロジェクトがようやく形となって、

動き始めているのだ。

 

会員の農産物や畑・里山の放射能測定によって実態をつかみ、

測定マップに基づいてく対策を立てる計画だが、

そのひとつに 「SVO」(ストレート・ベジタブル・オイル) 構想がある。

 

農地にヒマワリやナタネを植えて土壌改善をはかり、

収穫した種を搾油して、その油を飲食店、豆腐屋さん、一般家庭などで使い、

使用済み廃食油を回収-濾過して車や農機具の燃料として使用する、

エネルギーの自給と循環の仕組みづくりを目指すものだ。

 


ここは協議会前代表の菅野正寿さんのヒマワリ畑。

 

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地域農業の再興とエネルギー地域循環のシンボルとして、

見事に咲いたヒマワリたち。

 

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しかし、すべてのプログラムに要所要所で立ちはだかるのが、

放射能の移行や挙動である。

測定は福島に設置された市民放射能測定室が連携することになっているが、

測る検体の数はおそらく相当な数になるだろう。

大地を守る会でつくってきた測定体制も必要に応じて協力する旨をお伝えして、

お別れした。

 

農水省を退職して東和に就農して5年。

決意も新たにしている関元弘さんのヒマワリ畑も見て、引き返す。

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郡山に戻り、今度は福島わかば会と打ち合わせ。

こちらでも今後の対策と測定計画を話し合う。

どこもかしこも、あれもこれも、と測定の要望が高まる中で、

ちゃんと計画と目標を立てて取り組まないと、

ただ右往左往する結果にもなりかねない。

みんなの努力が最大限の成果につながるよう、

しっかりとサポートしなければならない。

やらなければならないことを指折りながら、深呼吸をひとつ。

 

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涙なんかいらない いつでも微笑を ♪♪

 

すべての予定が狂ってからもう5ヶ月。

僕はいま、フクシマを回っている、向日葵に勇気づけられながら。

この時間の意味を腹に刻み込んでおくこと、だ。

 



2011年8月 6日

ガンマ線スペクトロメータ、稲田で始動

 

7月29日(金)、

専門委員会・おさかな倶楽部を中心に、生産者・消費者・職員20数名による

「三陸応援炊き出し隊」(吉田和生隊長) が元気よく出発したこの日、

僕は僕で東北新幹線に乗り、福島県須賀川に向かった。

「大地を守る会の備蓄米」 の産地、稲田稲作研究会の生産者を束ねる

ジェイラップ(伊藤俊彦代表) に、測定器 「NaI(TI) ガンマ線スペクトロメータ」

を設置するためだ。 

 

わざわざ貴重な測定器を現地に据えるのは、

ただ我々にとっての大事なブランド産地を守りたいだけではない。

測定器を駆使して様々な除染試験データを取るためである。

光合成細菌、乳酸菌、海藻粉末、天然軟質多面多孔性凝灰岩、貝化石・・・・

賛否両論あるEM菌も、ごちゃごちゃ言い合っている場合ではない。

しっかり第3者の目で検証してみようじゃないか。

また稲の生育過程でのデータも、できるだけたくさんのほ場で取る予定でいる。

歴史的にも貴重なデータの集積になると思う。

我々なりの、明日につなげる挑戦である。

 

測定器メーカーのEMFジャパン代表、谷口明さんから説明を受ける伊藤俊彦さん。

右端は当社品質保証グループ長・内田義明。

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その光景を撮影しているのは、海外のTV局。

なんとあの、中東の 「アルジャジーラ」 の英語放送のスタッフである。

取材依頼のタイミングが合って、飛んできたのだ。

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我々の取り組みはインターナショナルに注目されている、

と偉そうに言っておきましょうかね。

 


ま、そんな話はともかく、

デスク左脇にこじんまりと、台車に乗っかるように置いてあるのが測定器。 

意外と小さいと思われるかもしれない。

しかしこれで、重さ200kgある。 

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このステンレス・カバーの内側に、厚さ50mmの鉛+無酸素銅3mmから成る

鉛シールドがブロック状に張り込まれ、外部環境からの放射線を遮断する。

そして中心部に、直径3インチ・長さ3インチのNAI(TI)シンチレータが格納される、

という構造になっている。

台車には4輪とも自在形のキャスターが付けられていて、免震機能を果たす。

 

組み立てて、PCやプリンターを接続させて、調整すること約4時間。

次に測定方法、データの読み方などを細かくレクチャー受ける。

 

器械が正常に働くことを確認したところで、早速、試験をしてみる。

試料 (検体) は、田んぼからとってきた稲。 

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手前の円筒型ポリ容器(330mℓ) に試料を詰める。

従来タイプだと、試料用容器はマリネリ容器と呼ばれる1または2リットル容量の

特殊容器が使われているのだが、体積(=検体の必要量) が大きすぎるのと、

移し替える作業に手間がかかったりする。

このポリ容器だと、土なんかを現地で詰めて持ち帰り、そのままセットできる。

器械を汚す心配がなく、そのまま保存しておいて

翌年同じ場所で採種したサンプルと比較することもできる。

 

本器械での定量下限は、15分測定で20Bq/kg、10分だと25Bq/kg。

定量下限や検出限界というのは測定時間によって変わることは知っておいて欲しい。

もし何かの検査結果を確かめるときには、

検出限界値と測定時間を確認しておくことは必須です。

大地を守る会では、この機器で1検体2時間かけている。

そこでの限界値は、セシウム134、137など核種それぞれで10Bq/kgである。

 

さて、結果やいかに。

稲田稲作研究会では、土壌に残留しているかもしれないセシウムを

稲に吸収させないために、ほ場全部にカリウムを投入した。

その成果は---、セシウム定量下限以下!

まったくキレイなのだ!

しかも、カリウムはしっかりと捉えている。

カリウム施肥の成果が数字になって現われた瞬間に、皆の目が輝いた。

 

ようし。 これでガンガン測っていこう。

伊藤さんの気合いが、さらに高まった。

 

ただこの試料はちょっと量が少ないです。

もっと小さく刻んで一定量をきちんと入れないといけません。

 - と、そこは冷静に抑えにかかる内田・品質保証グループ長。

 

アルジャジーラから取材を受ける伊藤さん。

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フクシマの農家の苦しみ、悔しさを語りつつも、

不安を抱いたままじゃない、出来る限りの手を尽くして前に進みたい、

と希望を語ることを忘れない。

ニッポン農家は、負けてない、と伝えてくれ。 

 

検査用サンプルを取る伊藤さん。

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この取り組みは、稲田だけで終わらない。 須賀川市全体に刺激を与えつつある。

俺たちの仕掛けは、まだまだ続くのだ。

見てろ!

 



2011年8月 4日

「安全」 「安心」 はみんなの汗で築かれる

 

話は続いて翌27日(水) の夜。

さんぶ野菜ネットワークで放射能の勉強会が開かれ、

下山さんから 「来い」 との指令。

組合員・准組合員・研修生各位~ に出された案内文を見ると、

 重要な会議なので、必ず出席してください。

と筆で書き加えられている。

 

夏の農作業の後にペンを持って集まってくる生産者は、それだけでも偉い。

講師は、農水省大臣官房政策課技術調整室長の吉岡修さん。

本省から連れてくるところに、下山さんの気合いが示されている。

 

生産者や地元の人を集めての勉強会ということで、

話は放射性物質の基礎的知識から始まり、

千葉県の測定調査結果の推移についての説明、農作業の際の注意点と続き、

最後に食品安全に係るリスクについての考え方が示された。

 

食品についての 「安全」 と 「安心」 の関係について、吉岡氏はこう説明した。

「安全」 = 「安心」 ではない。

「安全」 は科学的評価により決定される。 

そして行政、食品事業者等の誠実な姿勢と真剣な取り組み、

消費者への充分な情報提供によって 「信頼」 が生まれ、

「安全」+「信頼」 によって、心理的・主観的な判断である 「安心」 へとつながる。

 

では皆さんに聞きます。

「信頼」 と 「安心」 を得るために、やってはいけないことが二つあります。

それは何でしょうか?

  ・・・・・・・・・・・・・・・・

はい。 ひとつは、嘘をつかないこと。

ふたつめは、隠すこと、です。

 

ナイス! 

ただ、ここで農家を前に言ってもねぇ。 しかも相手は有機農家だ。

それはぜひとも電力会社に向かってやっていただきたい。 

それと、霞ヶ関に帰ってもだ。

 

前日の学校給食学習会で発言した下山さんの緊張感はみんなも同じだ。

なかなか鋭い質問がいくつも出され、時間をオーバーしても質疑が続いた。

なかにはよく勉強している方もいる。

いつもの彼らではないみたいだ (失礼・・)。

 

さて、過去のレポートはまだ続けるとして、珍しく最新ネタを。

本日20:20~ FMラジオ局 「J-WAVE」 から

生番組の電話インタヴューを受けたのだった。

 


広報に依頼の電話が入ってきて、振られたのはお昼頃。 

新米に対する放射性物質汚染調査が行なわれることに対して、

夜の番組の中で電話取材を受けてくれと。

8時10分から、雑音の入らない別室で待機せよ、との指示。

まったく、日々会社の内外から指令が飛んできて、

ワタクシの上司はいったい全国に何人いるのだろう。

 

本番の1~2分前に電話がかかってきて、ディレクターさんから、

「今聞こえているコマーシャルが終わり次第、

 仲野から声がかかりますので、始めてください。 よろしくお願いしま~す。」

最近はナビゲーターとか言うのよね。 DJってのはもしかして死語?

・・・・なんて考えている場合ではない。本番突入。

で、頭から失敗した。

 

東京・六本木ヒルズから仲野博文がお送りしています。

J-WAVE 「JAM THE WORLD」 。 続いては、「CUTTING EDGE」 のコーナーです。

 

新米に対する放射性物質の汚染調査が本格的に始まります。

主食や他の食品に、どんな影響を及ぼすのか。

生産農家はもちろん、私たち消費者も危機感を募らせています。

そんななか、生産者と消費者をつなぐ食品流通業界は、

「今」 と 「これから」 を、どのように考えているのでしょうか。

株式会社大地を守る会農産グループ長の 戎谷徹也さんに伺います。

エビスダニさん、こんばんは。

 

・・・・(お、おお、本番か) は~い、エビスダニです。今晩は。

どうぞ、よろしくお願いします。 時々聞かせてもらってま~す。

 

え? 時々?ですか ・・・・・

 

しくじった。。。

ここは 「よく」 だろう、「よく聞いてます」 だよ、まったく!!!

 

僕はたぶん、如才なく社交辞令で返事するオジサマたちよりは、

よくこの番組を聴いていると思う。

このブログで 番組を紹介 したことだって、あるしぃぃぃ。

ただ、なかなか8時にラジオをつけられるわけではない。

スミマセン、仕事で・・・ 言い訳もしっかり流れた。

ワタクシの人生を、象徴するような、瞬間だった。

 

与えられた時間は10分。

丁寧に説明しようとしても、質問は矢継ぎ早やにトントンと入る。

 

放射性物質に関して、お客さんからはどんな不安の声が聞こえてきますか?

  -汚染が拡散していくなかで、現状を知りたい、これからどうなるのか、など

    応えにくい質問が多くなってきている、というような話をしてから、え~と・・・

 

仕入れの段階で、または販売する直前にチェックするなど、独自の対策をお考えですか?

  -待ってましたよ、その質問。

    ええ、わが社では、、、測定体制を縷々自慢し始めると・・・

 

なるほど。 ところで、米の汚染調査が発表になりましたが、

かえって昨年産米を買い求める人が増えるなど、目立ってきた動きはありますか?

  -米業界からは聞こえてくるけど、当会に限っては・・・(つまらない回答だ。)

    やはり少し突っ込まれ、社会的な購入動向について喋る。

    (本当は、ここから不気味に想定している近未来を語りたかったのだが・・・)

 

農林水産省が示した、収穫の前後2段階での調査は、

消費者の不安を解消するものだと思われますか?

  -微妙ですねぇ。 ワラと牛肉のように対策が後手にならないよう考えたことと思うが、

    「暫定基準値以下」 に実態が埋もれてしまうことになると、

    不安は消えないどころか、かえって増すかもしれない。

    (僕が最も怖れているのは、" 米離れ "  である。)

    しっかりと情報を開示して、その上で適切な対策を打つことが必要だと思う。

 

最後に、これだけは言えた。

私たちは今まで経験したことのない大変な事態のなかにいて、

国がやることにも当然限界があって、批判したり要求するだけではなくて、

農家も、民間も、みんなで力を出し合い、知恵もお金も結集させて、

やるべきことを、それぞれが出来ることを、やらなければならない時だと思うのです。

 

制限時間10分では伝えられなかったが、 

2段階調査に足りないことや不安は、たくさんある。

ただ、すでに新米の刈り取りが進み出したなかで、とにかく食用の米だけは

「安全」 「安心」 を担保させたいという思いなのだろう。

ならば最低限、稲ワラへの注意喚起だけは徹底して欲しい。

田んぼに放置しない、確実に回収できる刈り取り方法が望ましい。

使えるものは有効に使い、使えないものは適切に処分できるように。

もしセシウムを吸収していたら、そのワラは土を浄化したのだ。

また土に帰したり、家畜にあげたり、堆肥材料にしたり、

あるいは燃やしたりしては、かえって拡散 (循環) させてしまって

始末できなくなるどころか我々に還ってくる。

ナウシカふうに言うなら、

「汚れているのは土なんです (汚したのは人間)。 ワラはそれをキレイにしてくれてるの!」

大切にしてあげたい。

 

大地を守る会が高価な測定機器を現地 (「備蓄米」 産地=福島県喜多方市) に

据えたのも、可能な限り数多くの、生育段階からのデータを取るためだ。

今年だからこそ、遅れてでも、やっておかなければならないことがある。

国への文句も言うが、俺たちだって

必死で汗と知恵と、なけなしの金を投げ打ってやったんだと

胸を張れるだけのことは、やってみせたい。

「安全」 「安心」 を築くのは、説法ではなくて実践だから。

 

さんぶでの勉強会に出る前に 「大地を守る会の稲作体験」田に立ち寄った。

なんと! すでに穂が出て、垂れ始めている。

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花が咲く出穂期には田んぼに入るわけにはいかず (受粉を阻害しないため)、

7月23日の草取りはやれなかったとの報告を受けていた。

前代未聞の早さである。

コナギとオモダカが繁茂して、稲に相当のストレスを与えている。

周りより早すぎると、カメムシも集中してくる。

無農薬22年、これまでと違う対策が必要だ。

 

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ヤバイね。 かなりヤバい。

実行委員諸君、稲刈り後にも汗をかく必要があるぞ。

 

本日の教訓。

「安全」 「安心」 は説法ではない。誠実な汗で築くものだ。

ただしバカ正直は、渡る世間では、時に冷や汗につながる。

 



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