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GMO(遺伝子組み換え作物)-もうひとつの視点

GMOに関するひとつのレポートをキャッチした。
つくばにある独立行政法人・農業環境技術研究所発行の
定期情報 「農業と環境」(№89/07年9月号) から。

独自の試験研究の発表ではなく、海外の研究発表に対する短い評論だが、
以前から ‘こういう視点からの批評は出ないものか’ と思っていた、
その観点からの論評なので、紹介しておきたい。

ひと言でいえば、遺伝子組み換え作物そのものの安全性とは別に、
その栽培体系からくる問題点があるのではないか、という疑問である。
専門家の指摘が欲しい、とずっと思っていたのだが、
浅学ゆえに、その手の論を見つけられずにいた。

以下、解説を含めながら要約すると-

1995年、
「Btトウモロコシの花粉でオオカバマダラ(蝶)の幼虫が死ぬ」
という記事が科学雑誌 Nature に掲載され、
その真偽や実験の正確さ、指摘されたリスクの評価などをめぐって、
推進派・反対派入り乱れて論争になった。
今でも反対派はこのデータを活用し、推進派は稚拙な実験で参考にはならない、とこき下ろす。

本論考でさらっと触れられているのは、こういうこと。

「そもそも、オオカバマダラの幼虫の餌となるトウワタは、
 トウモロコシ畑の周辺だけでなく広い範囲に分布している雑草」で、
現実的には 「畑や周辺では多くの蝶が農薬で死んでいたはず」 として、
害虫防除に携わる多くの応用昆虫研究者は
「なんでそんなに大騒ぎするのか?」 と冷静だった、と。

「Btトウモロコシの花粉より、除草剤耐性ダイズやトウモロコシの普及によって、
 畑内や周辺のトウワタが全部枯れるだろうから、
 そちらの方がオオカバマダラ集団にとって影響が大きいのではないか?」

同様の研究報告がフロリダ大学昆虫線虫学会からも出されているとのこと。

除草剤耐性作物の普及とは、すなわち「非選択性除草剤の使用頻度の増加」 である。

たとえば、除草剤・ラウンドアップを撒いても枯れない(除草剤耐性)大豆は、
ラウンドアップという除草剤とセットになることで存在価値が発揮される。
除草剤というのは通常、選択性(枯らす植物が特定されている)だが、
ラウンドアップは大豆以外の雑草をすべて(非選択的に)枯らす。
そのことで労働力の削減や生産性の向上が謳われるわけだが、
一方で、こういう現実が進んでいるのである。

「ダイズやセイヨウナタネでは、除草剤耐性作物の普及によって、広い面積規模で
 雑草管理(除草)の方法が変化したのは事実であり、
 「組み換え作物、善か悪か?」という視点ではなく、栽培管理体系の変化に伴う
 農耕地生態系における生物相の変化という観点からの報告が
 北米や南米から多数出てくることが期待される。」

ずいぶんと客観かつ冷静である。

つまり、
『非選択性除草剤の増加がもたらす、生物多様性への影響』
という視点での調査あるいは研究が未だに少ないことの問題が、
率直に、簡潔に指摘されているのである。

そうなんだよ。だから言ってんだよ! -と言いたくなった次第である。


ちなみに、
「遺伝子組み換えした作物は、従来の品種改良して開発された作物と安全性は同じ」
という論に使われる 『実質的同等性』 という言葉があるが、
この点に関しては、気鋭の分子生物学者である福岡伸一さん(青山学院大学教授)が、
その著書 『もう牛を食べても安心か』(文春新書) の中で、
専門家の立場から明確に述べられているので、ちょっと長いけど紹介しておきたい。

  よく聞かされる議論の一つに、遺伝子組み換えは品種改良と何ら変わりがない、
  というものがある。品種改良は人類がずっと昔から営んできた自然に対する技術であり、
  私たちはその恩恵に浴し、その安全性を確認している。だから遺伝子組み換えを危険視
  する理由は何もないのだ。むしろ、品種改良がやってきたまどろっこしい試行錯誤を、
  ずっと合目的的に、効率的に、いわばピンポイント的に成し遂げるのが遺伝子組み換え
  なのである。そういう言い分である。

  語るに落ちるとはまさにこのことである。ずっと合目的的、ずっと効果的に行なうがゆえ
  に、その反作用の行方をじっくり見極めなければならないのだ。
  品種改良は、そのまどろっこしさゆえに時間による試練と選抜を潜り抜けているのだ。
  優れた品種を掛け合わせても、意図したような相乗効果がただちにもたらされないのは、
  生命系の持つ様々な要素の相互作用と平衡の落ち着き先が、そのような場所、つまり
  人類にとって都合のよい場所には成立しないということを示している。
  ~(中略)~ 遺伝子組み換え操作の評価を、実質的同等性に求めることは、この陥穽
  に足をとられるということなのだ。

これ以上の説明はいらないかと思う。
GMOには、「慎重に考えるべきこと(組み換え技術の普及に対して)」 と
「今進んでいる危機(生態系への影響)」 が表裏として存在しているのだが、
どうも前者にかかわる試験研究に対する科学論争のみの土俵に、
反対派も陥っているフシがある。

研究所のレポートは、後段でまた別の問題点を提示しているのだが、
それはまたの機会にしたい。
私自身のGMOへの論点も、まだ他にあるので。

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