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『天地有情の農学』-消費者に問う農学?

8月7日の日記で、宇根豊さんの新著に触れ、
「うまく整理できれば改めて」 なんて書いてしまった手前、
どうも棚にしまえなくて、今日まで脇に置いたままである。
私なりに書けるだけ書いて、いったん収めておきたいと思う。

『天地有情の農学』
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天地とは ‘自然’ のこと。
有情とは ‘生きものたち’ のこと。
この世は生命のいとなみで満ちている、というような意味。

それを支える 農‘学’ の道を切り開こうというメッセージなのだが、
私には、迫られているような圧力を感じたのである。
こんなふうに-

消費者にこそ ‘農学’ が必要なのではないのか?

1960年代より進められた「農業の近代化」というやつは、
農薬や化学肥料に依存し過ぎた生産方法によって、
環境(生態系)を壊し、人々の健康も脅かす要素を、高めてきた。

その反省や批判をベースに有機農業や減農薬運動は興り、
ようやく 『環境や生物多様性を育む』 仕事 としてまっとうに評価されるまでになった。

たとえば、農薬を使わない水田は生物多様性が増し、水系(地下水)も保全する。
カエルは、カエルの餌となる生き物や、カエルを餌とする生き物とつながっていて、
それやこれやの生き物の多様な循環が、環境の豊かさを構成する。
そのつながりを目に見える形で示すひとつの試みが、「田んぼの生き物調査」である。

この価値や、農業と自然の関係を、
きっちりと学問(科学)的にも明らかにする「農学」の確立を、
アプローチの手法、道筋を含めて提示しようとしているわけだが、
ことはそれだけではすまないから厄介だ。

無農薬のお米が環境を守ることにつながっているとしても、
その「環境保全」部分は、米の価格には含まれていない、という問題である。

価格には含まれていないが、それがあることによってもたらされるメリットを
「外部経済」と呼ぶが、
百姓(宇根さんは胸を張ってそう言う)が、
当たり前に百姓仕事をしてくれることによって得られている、
米代に含まれない大切な外部経済の部分を、誰がどうやって保障するのか。

そこで宇根さんは「環境デカップリング」の導入を提言する。
EUなどですでに実施されている仕組みで、
環境を維持するための指標を作って、それを実施する生産者に一定の所得保障をする、
という考え方である。

この考え方はたしかに、
「有機農業推進法」の「推進に関する基本方針」の中でも、
検討の必要性が盛り込まれている。

しかし・・・・・ここで私は靄(モヤ)に包まれたような気分に陥る。

私の知る農民の本音は、
田んぼでたくさんの赤とんぼを育てたところで、補助金を貰おうなんて思っちゃいない。
フツーに米や農産物を売って、フツーに食っていければいい、という感じである。

とはいえ、安い輸入農産物に押されて価格が低迷する今のご時勢、
このままでは外部経済の価値が守れない。

そこは税金で補償するしかない……のか。

宇根さんの「天地有情農学」論に賛辞を送りながらも、
私はこの最後の経済の部分で、わだかまりを捨てきれない。

税金を使うには国民の合意が必要である。
たとえ消費者が納得したとしても、生産者は喜ぶのだろうか。
安い米を買って、別な形で税金をつぎ込んで補償するという格好は、
けっして生産と消費のまっとうな関係とはいえないのではないか。

私としては、例えば
1kg=600円でお米を買った後に、環境支払いという名目でもう100円徴収されるよりは、
1kg=700円を “佐藤さんの米代” として出したい。
それで佐藤さんが当たり前に有機農業が持続できる価格として。
(これが今の「大地」の基本姿勢でもある)
その方が消費者の‘支持の選択’権も多様になる。

しかし、そんな悠長なことは言ってられない、ようなのだ。
水や空気はすべての人に同等に与えられているわけだから、
国民には等しく負担してもらわなければならない、と。

安さを求める人には別途税金を-
生々しい話であるが、こういう議論もしなければならないほど、
「農の危機はイコール環境の危機」 という構造になってしまった。
天地有情の農学は、こんなふうに我々消費者に‘農学’を迫っている。

私はまだ結論が出せない。
とりあえずは、農業の価値に国民的合意を得る上での論として支持しつつ、
一方で、大地の提唱する「THAT’S国産」運動の方が好きだ、
とは言っておきたい。


※「THAT’S国産」運動……‘国産のものを、まっとうな価格で食べよう’ という運動。
                  畜産物の餌も国産にこだわることで自給率を上げ、
                  輸送コストを下げることでCO2削減にも貢献できる。

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