2010年8月23日

鹿、いのししの増加への対策。生産者の取り組みを見てきました!

とらちゃんこと虎谷健です。

鹿やいのししに畑を荒らされて困る、というお話を農家の方によく聞きますが、実際にどのような

場所に出没しているのか、どのような対策をしているのかを見せてもらいに出かけてきました。

 

訪ねたのは群馬県甘楽町の農家さんで、農業被害対策に罠を仕掛けて鹿やいのししを捕獲して

いる方です。

5月に行なった「キウイフルーツの花摘みお手伝い&フランス料理で畑丸ごとクッキング!」企画では

地元食材の一つとして鹿肉といのしし肉を提供していただきました。

通常、狩猟期は11月15日から翌年2月15日までですが、農業被害の大きな地域では町の許可を

受けた狩猟免許所持者が「有害鳥獣駆除」として畑周辺に限り狩猟期以外でも捕獲ができます。

 

 

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罠設置場所は人里離れた山奥かと想像していましたが、意外と人気の多い貯水池の近くでした。

白鳥のボートも浮かんでいます。この山の裏側に集落がありそこの畑が食害にあっているようです。

 

 

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白鳥ボートの浮かぶ貯水池に続く道。この道を横断して獣たちは山と畑を行き来しているそうです。

畑のすぐ脇まで山が迫り、耕作放棄地も点々と広がっていました。このような畑に身を隠しながら

里山に近ずき、日没後に畑に現われて食害を引き起こしているようです。

畑の作物を覚えた動物は里山から離れず食害を繰り返すそうです。

山で餌を探すよりまとまって食物が得られますし、山で得られる餌よりはるかにおいしい作物の味を

覚えたらこの場所を離れがたい事は容易に想像できます。

 

 

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畑に点々と残る足跡。

鹿、いのしし、ハクビシンにタヌキ、テン。・・・時にはクマの足跡も見つかるそうです。

足跡の土の崩れ具合によって新しい足跡かそうではないかを判断し、罠を仕掛けるか否かを判断します。

 

 

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畑の隣に広がる耕作放棄されてしまった畑。悲しいかな、生産地でごくふつうに見られる風景です。

「ここは畑です」と言われないと気がつかないまでに草に覆われており、その先は山に連なっている

ので獣が容易に侵入できそうです。

これではいくら良い作物を作っても片っぱしから獣に食べられてしまうことでしょう。

電気柵などで畑を囲むしか作物を守る方法はなさそうです。

このような風景を見ていると、農業は一部の人が頑張っていても成り立たず、地域が元気でないと

立ち行かない仕事であることを痛感してしまいます。

畑だけでなく水田でも上流の耕作条件が悪い田んぼが放棄されてしまえば雑草の種などが流れて

下流の水田で雑草がはびこってしまう事が想像できます。勢い、除草剤などに頼らざるを得ません。

水田は水路の整備、清掃などで畑以上に地域の力が必要そうです。

 

 

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畑の脇に「くくり罠」が仕掛けれていますが見えません!

鋼鉄製のワイヤーで輪を作っており、獲物が足を置くとバネが外れてワイヤーが足を締めつけ、

捕獲します。

捕獲対象の獣は鹿といのしし。間違ってクマなどがかからないように輪の直径の大きさは厳密に

決められています。

もし、万が一、クマがかかってしまった場合、町に連絡すると獣医さんが来て麻酔をかけ、奥山に

放獣するそうです。

 

 

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罠設置場所近くには警告文が設置されます。

皆さんも山でこのような看板を見かけたら近寄るのはやめましょう!地元の猟師仲間でさえ

仲間の仕掛けた罠の場所が判らない場合は近寄らないそうです。

設置場所はだいたい地元の方しか訪れない場所に設置することが多いそうですが、要注意なのが

夏のこの時期。

クワガタ虫などを探して町の人が「まさか!」と思う様な場所まで足を踏み入れることがあるそうです。

間違って罠にかかってしまえば怪我をすることは必至ですが、罠に獲物がかかっていた場合、

興奮した動物に襲われてしまうこともあります!

鹿は足の蹴る力がものすごく強く、大人でも大けがするほど。

いのししは逃げ場がないと判ると人の足の間に突進し、股に牙を突き上げるそうです。

人間の足の付け根には大きな血管がはしっているので、そこを突き上げられたら失血して死んで

しまいます。

「いのししはクマより怖い。日本で一番の猛獣」と表現する猟師さんもいるほどです。

 

 

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こちらは竹林に残るけもの道です。

「ここだよ。」と指さしてもらわないと判りませんでしたが、確かに獣一頭分の幅で道が続いています。

猟師さん達は傾斜や木のはえ具合を見て、どこに足をつくか想像し罠をしかけます。

 

 

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罠をかける場所が決まりました。

輪っかの下が落とし穴になって、獲物が足を置いて体重がかかると輪が締まり獲物を固定します。

ワイヤーの端は木に固定されており、ワイヤーが締まって遊びができた範囲でしか動けなくなります。

ただ、かかった獲物が暴れて宙ぶらりんになってしまうような不安定な場所には仕掛けません。

かかった後の回収も考慮にいれて罠の場所を決めます。

 

 

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土や枯れ葉をかぶせて設置完了です。

 

以前の獣は、人に気配を察知されないように遠回りをして罠を仕掛ける場所に接近したりした

そうですが、今の獣たちは人慣れしているのか人の臭いをあまり気にしないそうです。

それよりも嗅ぎ慣れている土の臭いに違和感があると警戒するとのこと。

罠を設置するために掘り起こした土は、別の場所に捨て表土と掘り起こした地中の土の臭いが

混ざらないように配慮するそうです。

 

あとは獲物がかかるのを待つだけですが、罠を掛けると毎日見回りをしなくてはいけません。

罠にかかった獲物を放置して死なしてしまうことは一番恥ずかしい事だそうです。

 

生きているうちに回収して放血などを速やかに行わないと、肉に血液が残り、臭いがついてしまい、

食べれなくなります。生きているうちの回収もできるだけ早い方が良いとのこと。

罠から逃れようと暴れる時間が長いほど、体内の糖分を消費してしまうのでおいしくない、ふやけた

肉になってしまうそうです。

また苦しむ時間をなるべく少なくしてあげたい、という気持ちの表われでもあるようです。

 

以前銃猟ハンターさんから聞いた「クリーンキル」という言葉を思い出しました。

これは「当らなくても良いから頭部を狙って一発で仕留めろ」という教えで、獲物が苦しむ時間を

少なくするための配慮です。

頭部を撃ち抜かれた獲物は脳味噌が吹き飛び目玉が飛び出し、狩猟に慣れたハンターでさえ

二目と見たくない状態となるそうですが、獲物にとって一番苦しむ時間が少ない。

撃たれた事さえ気がつかないかもしれません。肉には傷が付いていないので最大限食べてあげる

ことができます。

 

では、罠の場合、どうやって捕獲した獲物を回収するのでしょうか?

相手は動く自由を奪われ、興奮した野生の獣です。

今では町の協力で有害鳥獣の許可を得たハンターに連絡がいき、猟銃でとどめを差してもらうそう

です。

 

ただ、農業被害が始まった当初は猟をする人は誰も居らず猟友会の協力も得られなかった、とのこと。

農業被害を見かねて「これは俺がなんとかせにゃいかん!」と罠免許をとったばかりの頃は、

一人で棍棒一つでとどめをさしたそうです。

(※現在では狩猟法により棍棒や槍の使用は禁止されています。)

「いのししが俺を見つけて突進してくるだろ、ワイヤーが伸び切ったところで足をとられ、ガクッと膝を

折るんだわ、その瞬間に眉間に棍棒を振りおろして仕留めるんだ。」とのことです!

現代人が体験し得ないような野生動物との真剣勝負です。

いくらワイヤーで固定されているといってもワイヤーが外れない保障はありませんし、大きないのししは

ワイヤーをひきちぎってしまうこともあるそうです。

 

仕留めた獲物はすぐに内臓を出して放血して肉に血がとどまらないようにしないと、おいしい肉が

手に入りません。獲物の肉は精肉やミンチ肉、ハムを作って残らず利用するそうです。

 

どうしてそこまでして罠を仕掛け駆除をするのでしょうか?

「丹精込めて育てたじゃがいもが一晩で食い荒されたらそりゃ、くやしいさ。獲ってやろう、という

気にもなるさぁ。でも、どうして俺がこんな殺生までせにゃいかんのだろう、とも思ったが集落で

被害がでてりゃ誰かがやらなきゃいけないことだ、と自分を納得させたんだ。」とのことでした。

 

今では地元の若い農家仲間も猟に関心を持ってくれ仲間が増えているそうです。

仲間が一人でもいると罠の見回りの心強さも段違いだそうです。携帯電話の普及も心強さに

一役買っています。

一人ですると弱気になりがちな獲物の解体も、数人がかりならにぎやかに手早く行なうことができます。

 

得られた肉は地元の家々に配るとみな喜んでくれ、それが嬉しい、とのこと。

農村では野菜はふんだんに手に入りますが、肉はなかなか手に入りませんから貴重な自然の幸

なのですね。

 

春に行なった「畑丸ごとクッキング!」企画では、甘楽町のスタッフのみなさんもフランス料理流の

野生肉の下ごしらえを教わったので、鹿、いのしし料理のレパートリーも増えたそうです。

フランス風のジビエ料理が甘楽町の名物になるかもしれませんね。

 

過剰に狩猟してしまうことは良くありませんが、このような有害鳥獣駆除で得た肉が地元の幸の一つ

になることは良いことだなぁ、と思いました。

お土産に数キロの鹿といのししのお肉を頂きました。冷蔵庫にたっぷりと肉があると「これで我が家

の食はしばらく安泰!」となんとも豊かな気持ちになりました(笑)。

 

皆さんも旅行に出かけられた先で鹿やいのししの料理に出会ったらぜひ試しに食べてみてください。

その料理は農業被害に困っている地元の方が工夫して地元名物に仕上げた成果かもしれません。

 

大地を守る会では、秋の猟解禁に合わせて今年もエゾシカ肉を扱う予定です。

まだ試されていない方はぜひチャレンジして味覚の幅を広げてください!

 

大地を守る会 交流局 虎谷健

大地を守る会の震災復興支援

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