2011年8月10日
2011夏期学校給食学習会
7月25日(月)26日(火)、東京都千代田区の科学技術館サイエンスホールにて
「震災・津波・原発事故後を考える」をテーマに2011夏期学校給食学習会を開催しました。
例年、多数の学校給食栄養職員・栄養教諭・調理員を集め、
食育、衛生管理、合理化、食の安全、アレルギーなど様々なテーマの専門官による
講義と意見交換がおこなわれます。
今年は、3月11日の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故による
放射能汚染を受けた、原発と食の安全をテーマに開催しました。
当日のレポートをお届けします。
一日目 7月25日(月)
専門家による原発事故の分析および放射能汚染への対応、脱原発にむけて市民ができることなどを提案してもらいました。また、講義の間、13~14時には、ドイツの核再処理工場建設に反対するドキュメンタリー映画「故郷のために ギートルさんたたかう」が上映されました。
1、「福島原発事故で何が起きたのか」
伴英幸さん(原子力資料情報室共同代表)
福島第一原発事故の構造や今回の事故のメカニズムなどを図をもとに丁寧に説明していただきました。また、今後の収束に向けた見通しの解説もあり、国や東京電力の想定どおりにはなかなか進まないだろうとのこと。
放射線の種類や性質、人体への影響についても解説があり、やはり今後は半減期の長いセシウムの被爆に注意が必要だと来場者へ呼びかけました。
以上のような講義が終わり、来場者から質問がいくつかありました。
「行政の検査にまかせっきりにはできない。自分達で測定を検討しているが、機器の価格はどれくらいか? 扱うのに専門知識は必要か?」
「魚貝類への汚染影響をとても心配している。基準値は野菜と同じなのか?」
など、現場の栄養士のみなさんが、日々不安を感じていることが、切実に伝わってきました。
伴さんは、ひとつひとつの質問に丁寧に応えてくれました。
2、「脱原発に向けて社会を変革する」
田中優さん(未来バンク理事長)
ふたつ目の講義は、「脱原発」「エネルギーシフト」などを事故以前からも訴え、具体的にアクションを起こしてきた市民運動家・田中優さんの講義です。
まず、放射性物質の内部被爆、外部被爆の解説と、できるだけ放射能汚染の影響を受けないようにする暮らし方の提案がありました。食べ物からの被爆にももちろん注意が必要だが、空気中に含まれる放射性物質もマスクをするなどの方法で避けるべきであるということです。
続いて、脱原発に向けた具体的な社会提案。日本は自然エネルギーを導入する前に、節電対策だけで原発をゼロにできる。その後に、発送電分離のインフラを整え、自然エネルギーを生活者が選択できる社会にすべきである、というアクションを呼びかけました。
「社会は変わった」というキーワードが田中さんの言葉の端々にあらわれました。いま、わたしたちには社会をよりよい方向へ向かわせるためのアクションを行なえる可能性があると、強く感じたお話しでした。
(一日目レポート担当 広報担当・中川啓)
二日目 7月26日(火)
震災被災地への支援活動や、原発事故現場の報告、農業生産者が直面する現状などをお聞きし、
これからの社会と学校給食のあり方について意見交換しました。
1、「原発事故と放射能の汚染」
天笠啓祐さん(市民バイオテクノロジーの情報室代表、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表)
天笠さんと原発の関わりは1971年から。
理工系の出版社に入り、原発関係の本を出版しました。
おりしも、福井の敦賀原発、福島第一、美浜原発が動くか動かないかという時期で
関心が高く本が売れました。
今はジャーナリストとして出版社を離れて独立されています。
日本の放射能の基準は暫定基準で目安。経済的な観点からつくられたもの。
ヨウ素131で、野菜、魚介類が2,000ベクレルまで許容されてました。
出荷停止にすると保障しなければなりません。
高い数値になればなるほど、出荷停止が少なくなり、補償も少なくなります。
ということより、もともと日本は370ベクレルだったものが引き上げられました。
チェルノブイリ事故より
最初に異常があらわれるのは、家畜の赤ちゃん。
人間では、子どもたちの甲状腺の異常・感染症の増加です。
これに震災の影響と重なり健康障害の拡大が懸念されます。
放射能は遺伝子を傷つけます。
人間の遺伝子は二重に守られていますが、
DNAのなかで働いている遺伝子部分は3%にすぎません。
さらにDNAは二重らせんで修復機能もありますが、
携帯電話や送電線の電磁波は阻害します。
原発事故が起きて、放射線と中国の農薬野菜のどちらかと聞かれますが、
どちらも問題。
相乗、相加作用があるので、
今こそ農薬汚染や輸入汚染をさけるのが大切な時期です。
天笠さんには、原子力発電の構造や、放射能のしくみまで
丁寧にわかりやすく教えていただき、その後も来場者より活発な質問がありました。
2、「放射能が身体に与える影響について」
里見宏さん(健康情報研究センター代表)
里見さんは例年の夏期学校給食学習会では、衛生管理、食の安全についてお話いただくとともに、
放射線照射食品についての反対運動を続けています。
放射線を細胞にあてると、細胞の中の栄養成分、膜、DNAなどに傷をつけます。
そしてもうひとつの問題は、細胞の中の核にある遺伝子にも傷がつきます。
細胞の中に入ってしまった農薬など化学物資の影響もありますが、
直接的に体細胞、生殖細胞のDNAを直接傷つけるのが放射線です。
遺伝子に1年間で何個傷がつくか、どこに傷がつくか、が問題。
自然放射線による突然変異と、人工放射線による突然変異は異なることが
明らかに証明されているので、
とにかく放射能は避けてくださいと強く訴えてました。
3、「東日本大震災・原発事故の現場から」
阪神淡路大震災を経験した調理員が、ボランティアとして被災地に炊き出しに行った内容の報告、
被災地の学校給食の現状、特に東日本大震災と放射能汚染の両方の中で学校や学校給食に置かれている状況。
さらに放射能汚染を抱える中、有機農業生産者が今、何を考えているのかなどの報告をいただきました。
宝塚市の炊き出し報告 大原猛さん(調理員)
交流のあった大船渡市に、宝塚市として学校給食調理員が3,4月に炊き出しに行った報告をお話いただきました。
仙台市の学校給食現状報告 佐藤螢子さん(保護者)
仙台の被災状況、学校の状況などについての思いを語っていただきました。
福島県の状況 籏野梨恵子さん(栄養教諭)
センターの栄養教諭として、活動していた籏野さん。
震災前は、給食と食育を連携させて授業を行なっていました。
地震当日のこと。
そして放射能の問題と、学校給食を子どもたちに提供するという厳しい現実を語っていただきました。
福島県の状況 武藤類子さん(元教員・脱原発福島ネットワーク)
学校での年間20ミリシーベルトの基準の問題や、その後の動きについてお話いただきました。
生産者から 橋本明子さん(提携米研究会・茨城県)
有機農業の郷としてさかんな茨城県八郷の個人の有機農業生産者として、
堆肥の汚染による地域循環の問題について語り、
生産者と消費者が希望をみつけることが必要だと訴えました。
生産者から 伊藤俊彦さん(ジェイラップ・福島県)
福島県の有機農業生産者として、生産者も外部被ばく、外部被ばくの問題があり、
福島県の農家が理解して汚染を減らしていく取り組みが必要。
そして、放射能測定しながら考えていきたいとお話いただきました。
生産者から 下山久信さん(食と農の再生会議・千葉県)
「ある日突然出荷停止になるのは、農家の気持ちを萎えさせます。
お金の問題ではありません」
という言葉がとても印象的でした。
(二日目レポート担当 広報担当・齋藤史恵)