2012年3月 1日

NEWS 大地を守る2012年3月号 安心安全の農業を再び!

東日本大震災から1 年。原発事故に立ち向う福島の農家の声

安心安全の農業を再び!

東日本大震災から1 年。原発事故に立ち向う福島の農家の声
東日本大震災の発生から間もなく1 年。
太平洋沿岸を襲った大津波を受けた地域では、
深い悲しみを背負いながらも、
復興に向けて一歩ずつ前に歩みを続けています。
しかし、東京電力福島第一発電所の事故の収束は険しい道のりです。
放射能は周辺住民の日常を奪いました。
第一次産業が盛んな福島県の大地や海を汚染しました。
それでも福島の農業の未来を信じ、頑張る
福島の農家の声に耳を傾けてください。

農地を襲った津波と放射能・福島有機倶楽部(浜通り地区)

津波被害と注文激減 二重の苦しみにもがく日々

 福島有機倶楽部は大地を守る会の生産者の中で、福島第一原子力発電所に最も近いグループです。すでに、浪江町の生産者は福島県を去り、田村町の生産者は遠い避難先で避難指示解除を待っています。現在もいわき市で大地を守る会向けに野菜を出荷している2組の生産者にお話を聞きました。
 3月11日、福島有機のメンバー・小林勝弥さん、美知さん夫妻の畑では、大地を守る会向けに出荷予定だった春菊の手入れの真っ最中でした。小林さんの農園では福祉サービス事業所と提携して、一般企業で働くことが困難なハンディを持つ人たちに、農作業を通じた社会参加の場を提供しています。3月11日、激しい揺れの後、津波警報を聞いた小林さんたちは大急ぎで車に飛び乗り避難。仲間全員無事でした。しかし、警報解除後、小林さんたちが目にしたのは海から流れてきゴミ、魚の死がいや稲わらなどで覆われた畑の悲惨な姿。ボランティアの協力もあり、一か月ほどで農作業を再開することができましたが、畑は海水をかぶり、塩分に弱い作物は栽培できなくなってしまいました。
 大地を守る会では福島有機倶楽部の野菜の放射能検査を実施。暫定基準値を大きく下回る数値であることを確認し「福島と北関東の農家がんばろうセット」を中心に取り扱っています。しかし、ほとんどの売り先からの注文はなくなりました。「収入はほとんどゼロ。大地を守る会の注文は、本当にありがたい」と勝弥さん。しかし、美知さんたちは、ここで供に働く仲間の今後が心配だと言います。「一般企業になじめない彼らは、ここの仕事が好きだと言ってくれます。でも、彼らの健康も心配だし、この事故で農作物の収入が激減したこともあり、一緒に働くことは困難......」。小林さんたちの苦悩は続きます。


いわき市で農業を続ける左から阿部哲弥さん拓さん親子、小林美知さん、勝弥さんご夫婦。

高い放射能で農地を放棄も夢はあきらめない

 もう一組のメンバーの阿部拓さんは、宮城県出身の方。脱サラ後農業で生計を立てようと、東北地方では比較的温暖ないわき市に移り、有機農業に取り組んでいました。阿部さんの畑の一つは第一原発から約30キロメートル圏内。津波の被害には遭わなかったものの、6年前に借りたこの有機認証取得の圃場からは1万ベクレル/キログラムを越えるセシウムが検出されました。放射能低減のため様々除染を試みましたが、顕著な効果は得られず、この農地での栽培を断念しました。阿部さんは、福島県内の汚染の少ない農地を息子さんの哲弥さんに任せ、故郷の宮城県に土地を取得し、そこに拠点を移し、再起を図っています。「農業を始めるとき、農家出身の父親から絶対食えないと言われました。でも、なんとか食えるような農業を目指してきたんです。ここでやめるわけにはいきません。後を継いでくれる息子にも後悔だけはさせたくない」と力を込めて話しました。


津波で浸った場所を指す小林さん。海と畑の間にごみ集積場があったため、被害が少なかった。


津波が襲った直後の写真。手前は流れ積もった稲わら。海水の下が小林さんの畑です。

安全でおいしい米作りをあきらめない・ジェイラップ(須賀川市)

昨年の成果をベースにさらなる挑戦が続く

 本紙12月号でお伝えしたとおり、約300 の圃場のお米のほとんどが放射能不検出(核種ごと検出限界値概ね10ベクレル/キログラム以下)という成果を得た須賀川市のジェイラップ(稲田稲作研究会)。2011 年収穫米の予想をはるかに下回る数値に、生産者一同ひとまず胸をなでおろしました。しかし、ここまで来るには苦しい道のりがありました。
 「岩城(いわしろ)の国・福島と教えられ、地震の少ない土地だろうという安心感がありました。しかし、会社の建物が引き裂かれ、農道が蛇のようにうねる姿をみて、恐ろしかったです」と語るのは、ジェイラップの若手メンバー伊藤大輔さん。
 「この地域も10月ごろになってようやく道路の整備も終わり、震災の傷跡は少なくなったと思います......。
 しかし、原発は想定外でした。震災直後は地元のものはもちろん、自分たちが安全にこだわって作ってきた農作物を食べていいのか、本当に不安でした。すぐにでも検査をしようと動いたのですが、どの測定器メーカーも予約待ち状態で、途方にくれました。ようやく7月に、大地を守る会から検査機を借りることができ、出荷用の農作物はもちろん、自分たちの食べ物も検査ができるようになりました」。


土壌調査用のサンプルを手にする伊藤大輔さん。二人の子供を抱え、自分の子どもにも安心して食べさせられる農作物作りがベースだと話します。

反転耕でさらなる安全確保を目指す

 ジェイラップでは今年の田植えに向けて、収穫後の田んぼの綿密な土壌検査を行っています。「田んぼの水の取り入れ口、中央、排水口の土壌サンプルをすべての田んぼで検査を行っています」と伊藤さん。検査と並行して田んぼの除染作業にも着手。「3・11にばらまかれた放射性物質の約9割は、地表10センチメートルのところで留まっています。政府が除染方法の一つとして、表層の汚染土を削り出す手法を提案していますが、それは非現実的です」と伊藤さん。「例えば、1ヘクタールの田んぼで、約5 センチメートルの土を運び出すのには少なくとも大型ダンプ40台は必要。コストも受け入れ先も課題が多いのです」。
 そこでジェイラップでは、田んぼでは普通行わないプラウ(反転耕)という手法を採用しました。地表から25センチメートルくらい掘って、土を反転させるのです。放射能の約9割が蓄積する表層部と、汚染されていない深層部の土を入れ替えることで、稲が放射性物質の吸収するのを大幅に防ぎ、生産者の被ばくも軽減します。
 こうした取り組みで希望が見えてきたのでは?と問い掛けると伊藤さんは何度も考え込み、言葉を探しながら、若い農家の複雑な心境を打ち明けてくれました。「こんなことを言ったら商売下手と言われるかもしれませんが......。無理をしてまで、福島のお米を買ってくださいとは言えません。選ぶのは消費者の方です。自分も小さい二人の子どもを持つ身。検出値がゼロがいいという気持ちもよくわかります。だからこそ私たちは放射能ゼロベクレルを目指し様々な取り組みを行います。その結果、私たちの農作物を'おいしくて安心だから、買ってみたい'と言われるまで、自分たちは努力を止めません。結果も徐々に付いてきています。だから、これまで以上に安全な食べものを作る農業を続けるしかないのです。消費者の方には、その姿をぜひ見続けていただきたい」。
 本誌でも、ジェイラップの取り組みについて今後も情報を提供していきます。


プラウの様子。田んぼの表土を剥ぐことは、これまで農家が丹精込めて作ってきた栄養豊富な土壌を捨てることに等しいのです。

自主検査で信頼回復・ゆうきの里東和(二本松市)

里山の循環型農業の夢を打ち砕いた原発事故

 最後にご紹介する、「ゆうきの里東和ふるさとづくり協議会」[二本松市(旧東和町)]。原発からの放射性物質の主たる拡散経路からは外れましたが、森林などでは1万ベクレルを越える数値が検出されている場所もあり、空間線量もおよそ0・8マイクロシーベルト/時を計測します。  ゆうきの里東和は、道の駅での農産物直売所を軸に、過疎化が進む山村を再生しようと2005 年に設立されました。もともと桑の産地でしたが、国内の養蚕・繊維産業の衰退とともに、桑畑は放棄されました。このままでは村の崩壊を免れないと、里山での循環型農業をキーワードに、農業を志す新規就農希望者を集い、村おこしをスタート。その成果が実り、これまで35人もの30〜40代の新規就農者を受け入れています。大地を守る会への出荷は、売り先の少ない新規就農者の経済的自立の一助として大きな役割を担っていました。
 そんな夢を求めた里山にも放射能は降り注ぎました。「肥料に利用していた落ち葉、雑木林の広葉樹を利用したシイタケ栽培、春先の山菜......、放射能はこうした里山の恵みを台無しにしました。資源循環型の里山の農業にとって、手足を奪われたに等しい」と、協議会理事長の大野達弘さんは憤ります。


道の駅「ゆうきの里東和」を前に代表の大野達弘さん(左)と佐藤佐市さん(右)。

安心安全を計測し地元消費者の信頼を回復

 ゆうきの里東和では、10台の空間線量測定用のガイガーカウンターと、3台の精密な検査器を導入して農作物や土壌の検査を行っています。その検体数は1000 を優に超えています。
「空間線量と土壌の分析に相関関係があることがだいぶ分かってきました。これをもとに、耕作できる農地か否か見極めようと考えています」と副理事長の佐藤佐市さん。
 また新潟大学の土壌学の専門家・野中昌法教授の協力のもと、事故後早い時期から土壌の放射性物質の農作物への移行を調査しています。昨年の調査の例では、耕作地が4600 ベクレル/キログラムの土壌であっても、精米された米は不検出でした。こうした傾向は里山の土壌性質に関係があると言います。「チェルノブイリでの土壌調査の経験もある野中教授は、この地域の土壌の性質上、農作物への放射性物質の移行は少ないだろうと、当初から予測していました。この地域に多い腐葉土は団粒構造を作り放射性物質を固定する傾向があり、植物に移行させにくいのです」と大野さん。この調査内容は農業継続することへの希望の光となりました。
 ゆうきの里の検査の様子は多くのマスコミに取り上げられ、県内外からも視察が後を絶ちません。県内遠方からわざわざここの野菜を買いに来る人も多いとか。
震災後、ゆうきの里東和には5人の新規就農者もありました。


ベラルーシ製の検査器に、収穫した農作物を入れる様子。写真はふきのとう。


土壌を計測するために乾燥作業が行われていました。本来農家のやるべき仕事ではない作業が増えているのです。

見守ってください。福島を風化させないために福島県の農家たちの放射能との闘いはこれからも続きます。
「風評被害ならぬ風化被害がもっともつらい」と福島県民は言います。
 産地では放射性物質を農作物に移行させない栽培技術の確立に必死に取り組んでいます。大地を守る会でも汚染した農作物を流通させないための検査・公開体制を強化しています。消費者の方に福島はもちろん、国産野菜を安心して食べていただけるよう努力を惜しみません。もちろん食べる、食べられないという判断は消費の方にゆだねられますが、ぜひ福島の農業を見守ってください。「放射能になんか負けていらんねぇ、がんばっぺ福島」はまだまだ、これからなのです。
(企画編集チーム・宇都宮義輝)

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