社会貢献活動(CSR)

食べ物の無駄に対する怒りと、食べ物による幸せな気持ち-映画『0円キッチン』監督ダーヴィド・グロスさんインタビュー

「食糧危機」を吹き飛ばすエンタメ・ロードムービー『0円キッチン』。アップリンク渋谷ほかで公開中の本作。監督であり、「食材救出人」を名乗りながら食品ロス問題に対して活動しているダーヴィド・グロスさんにお話をうかがいました。メッセージを伝える方法論から、活動の根源にある個人的な歴史まで、たっぷりと語っていただきました。

0円キッチン監督ダーヴィドグロス

 

楽しくないと真実は伝わらない

-来日してから1週間ほど経ちましたが、あなたのメッセージが伝わっているという手ごたえはありますか?

監督:ええ、食べ物は誰にとっても大事なものですから。日本の皆さんは食品ロスのことは知識として知っているようではありますが、実際のところはっきり認識していないかもしれません。数字の話をすると、ああそれは大変なことだ、何かするべきだっていう意識はすぐに芽生えるようです。

 

-作品の中で「楽しくないと真実は伝わらない」とおっしゃっていますね。

監督:日本でも、規格外野菜を大勢で調理して食べるイベント「チョッピング・パーティー」などを行い、たくさんの人が参加してくれました。自宅の冷蔵庫から食料を持ってきてくれたり、農家が野菜を提供してくれたり、みんなが一同に集まって料理をして、楽しく食事をしました。

映画『0円キッチン』

映画『0円キッチン』より ©Mischief Films

大切なメッセージを伝え、その人たちと本当につながるには、エンターテインメントの要素が必要です。ただエンターテインメントは目的ではなくて、それを通してメッセージを届ける、そしてしっかり受け取ってもらう、それが大事だと思います。

 

個人の変革はドミノ倒しのように

-監督がこの取り組みを始めて映画になるまでの経緯は、「ゴミ箱にダイブする人がいるというのを知って自分もやってみて、その食材で料理をふるまうというイベントを企画して、テレビに取り上げられて、それが好評で映画にまでなった」ということでしたね。最初の動機はどんなところに?

監督:学生時代、料理と観光について勉強をしていました。ゴミ箱ダイブする人がいるということを知り、自分もやってみて、食べ物がこんなに無駄になっているのかというのを目の当たりにしてショックでした。

 

-監督の取り組みが少しずつ大きくなっていくというのが、ヨーロッパの食品ロスに対する気運の高まりとシンクロしている気がします。ご自身はどう捉えていますか?

監督:ある人がイベントに参加したその夜、家に帰って冷蔵庫の中をのぞいてみて、食べ物を捨てる前にちょっと考え直してみた、そのきっかけが生まれたと言われました。

やはり個人個人の小さな意識の変革がドミノ倒しのようにどんどん広がっていき、それが大きな変化になり、最終的に政策の変化につながるのだと思います。今すでにヨーロッパでは、4カ国の国・地域で、食料を無駄にすることが違法となっています。なので、最初は個人や家庭から始まったムーブメントが、次第に大きな変化につながるのだと信じています。

 

変わることの難しさと、つながることのパワー

-映画の撮影中、苦労したところ、大変だったところを教えて下さい。

監督: EU議会の食堂で厨房のシェフと、その前の日の残り物で新しい料理を作って提供するということをしました。EU議会にそのイベントの企画を持ちこんでOKがもらえるまで、何週間も何カ月もかかりました。議員の方々は食の安全とか食の問題は大事だと言いますけど、実際に実行してみると色々な規則や規律があってなかなか難しかったです。政治に絡んで変化を起こすことは非常に難しいことだと実感しました。

映画『0円キッチン』より

映画『0円キッチン』より ©Mischief Films

 

-楽しかったことはどんなことですか?

監督:大地を守る会と0円キッチンの活動は似ているところが多くあると思います。その一つはやはり、生産者と消費者を再びつなげることだと思います。

映画にもあるように、農家が流通規格から外れた野菜は売れないと言っていました。それは私にとっても非常にショッキングでした。でもその次の日都会に行って、その規格外野菜を人々と一緒にチョッピング・パーティーで料理して楽しい時間を過ごす。地方で生産者の問題を確認して、その次の日に問題を解決する方法を見つけた、これがとても印象に残りました。

映画『0円キッチン』

映画『0円キッチン』より ©Mischief Films

逆に都会でも食料廃棄の問題は深刻で、ゴミ箱ダイビングというのは、70年代、ニューヨークなど大都市で起きたと言われています。反面、問題の解決策は地方からヒントをもらえます。例えば、動物1匹丸ごと残さず使う、果物や野菜などをすべて料理や保存などで使う方法を知っている人たちがいる。なので、都会の人々の動きと地方の人々のノウハウ、これが合わさってこのようなムーブメントになっているのがとてもユニークだと思います。

 

 

すべては経験から始まる

-普通に暮らしている人が食品ロスを減らすために変わる最初の一歩、その動機付けには何が大事だと思いますか?

監督:「経験」が必要だと思います。京都に数日間滞在していて、禅仏教の精進料理の修業をされていたお坊さんと出会いました。その方が言っていたのは、「経験が全てである」ということでした。自分自身が経験したものが行動につながっていく。

例えば料理を自分でするようになると、自分が使っている食材はどこから来たのか、そういう好奇心が生まれてくると思います。農家への関心につながり、次第に行動を起こすきっかけになると思います。なので、ジャーナリストでもシェフでも学校の先生でも、アーティストでも活動家でもレストランのオーナーでも、それぞれの立場や持っているものを使って、自分自身の経験から行動につながるのだとそのお坊さんは言っていました。

 -なるほど。この作品がヨーロッパ5カ国を旅して、いろんな人と会い、話を聞いて、料理を作るなど、色々なアクションをしていく様子が描かれ、それを視聴者は観て、監督の経験を映画で追体験できるようになっています。そのことと今の話がつながりますね。

 

-大地を守る会は、つくる人、食べる人、はこぶ人をつなげるという、「顔の見える関係」を大切にして宅配事業を行っています。食べ物の向こう側に人がいることを感じられると食べ物を大切にする気持ちも自然にわいてくると思っています。食べ物の流通に伴う気持ちの面、心理的な働きについて、どう思いますか?

0円キッチン監督ダーヴィドグロス

監督:やはり「食べ物」「食べること」というのは個人個人の歩んできた歴史につながっています。私の祖母は第二次世界大戦を体験してきた人で、飢餓を、本当の空腹を経験していました。私は彼女の話を聞いて、彼女を通して追体験をしていました。

私が子どもだったころ、祖母は大きな庭を持っていて、その家庭菜園でたくさんの野菜や果物を作っていました。子どものころ、よく祖母の庭で彼女が作ったものを食べながら食べ物の大切さを教えてもらいました。この活動をしている時も、祖母のことはいつも頭の中にあって、今でも彼女のことを思い出すと少し感傷的になります。

祖母は食べ物を無駄にする人に対してとても怒りを感じていました。でもそれと同時に、食べ物で人々を心豊かにする、人々をつなげることができる、という大切さも知っていました。食べ物の無駄に対する怒りと食べ物による幸せな気持ち、その二つをあわせることで、人と人をつなげるパワーがある、とてもパワフルなものであると、私は祖母から教えてもらったのです

 

解決策にフォーカスしてコミュニティをつくる

-映画の中のあるシーンで、監督が説明を受けた取り組みに対して、少しものたりなさを感じるというところがありましたね。

監督:ヨーロッパ中、様々な形や規模でフードロスは起きていることを目の当たりにしました。しかし解決策もたくさんあります。解決策にフォーカスして、コミュニティを作っていく。大勢で楽しみながら活動を行い、その解決策を進めることで、変革が起きるということを実感しました。さまざまな可能性を感じるうちに、問題ばかりに注目するのではなく、どんどんと解決策に目を向けるようになります。

映画『0円キッチン』より

映画『0円キッチン』より ©Mischief Films

 

-賞味期限間近や過ぎたものを誰かに提供する、というのは、質の悪いものを貧しい人に提供する、という先入観で見てしまうことがあります。

監督:私自身も同じ考えを持っていました。ただ、例えば規格外の野菜や果物は、見栄えやサイズなどは悪くても、美味しい食事を作るための材料なのだという認識をまず持つことです。規格外野菜や流通からこぼれおちた野菜を使って、質の良い美味しい料理ができる。それは決してゴミではないという意識を人々に広めることで、偏見はなくなっていきます。

私たちの活動では、いわゆるクールでヒップな若者たちもイベントに集まって、料理を一緒にやったり、ホームレスの人から食べ物をもらったりしています。このイベントに参加することは、クールであるという意識が広まっています。普段はお互いに接する機会が少ないような人たちが、このイベントをきっかけに通じあえる、そのことを私たちはやっています。

 

-この次はどんなことをしようと思っていますか?

監督:この取り組みのシーズン2として、ヨーロッパの別の5カ国を旅して、制作終了しました。春に公開されます。今は、常に新しいアイデアが浮かんでいます。いつか日本でも撮影したいと思います。日本でも食品ロス問題は起きていますし、同時に食べ物に対する愛情あふれている人たちもたくさんいます。みなさんと一緒に様々な解決策を提案できればいいと思います。

 

映画『0円キッチン』 オフィシャルサイト http://unitedpeople.jp/wastecooking/

監督:ダーヴィド・グロス、ゲオルグ・ミッシュ/脚本:ダーヴィド・グロス/撮影監督:ダニエル・サメール/編集:マレク・クラロフスキー/音楽:ジム・ハワード/制作:ミスチフ・フィルムズ/制作協力:SWR/ARTE、ORF/プロデューサー:ラルフ・ヴィザー/原題:WASTECOOKING/配給:ユナイテッドピープル/2015年/オーストリア/81分/

 

インタビューを終えて

おばあさまのエピソードを話すとき、監督の目には思わず涙がこぼれていました。それくらい個人的に強い「経験」が、今の活動の根源になっているということがよくわかりました。映画の中でもインタビュー中も、終始ニコニコしていたダーヴィド。その胸の内にある想いを受け取ったとき、この映画のメッセージにもより一層の深みを感じました。ぜひ劇場でご覧ください。(上映スケジュールはこちら)

(聞き手・文)大地を守る会 鈴井孝史

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