イベント

おいしいカキの秘密を探るツアーレポ―ト②

おいしいカキのふるさと、厚岸の森を守るには?

風景

多くの川が流れ込む厚岸湖のまわりも緑がいっぱい。

毎回「北海道・厚岸ツアー」を企画してくれるのは、北海道厚岸町の漁師さんたちの林業グループ「厚岸町 緑水会」の皆さんです。漁師さんなのに林業グループ……それってどういう意味?って思いますが、実は漁業と林業には、深~いつながりがあるのです。それを実感するために、このツアーの参加者がまず体験するのは、厚岸湖にそそぐ別寒辺牛川のカヌーによる川下り。さてさて、森と川と湖と海のつながりとは?

 

厚岸の大自然を満喫!する、別寒辺牛川のカヌー下り

厚岸に着いて一日目、真っ先に行ったのが厚岸湖にそそぐ別寒辺牛川の川下りです。周辺の別寒辺牛湿地は、世界的な湿地保護条約ラムサール条約の認定湿地。このツアーの目玉のひとつで、参加者にも毎回大好評のこのアクティビティ、私もものすごーく楽しみにしてきたのですが――「ひっくり返ったらどうしよう」という一抹の不安……。「大丈夫大丈夫、カヌーの上でバタバタ動かなければ」という言葉に、身体をカチンコチンに固め、ここぞのライフジャケットもがっちり装着し、3人一組でカヌーに乗って出発です~!

カヌー

どんな光景が広がるのか、わくわく!

 

カヌーのスタート地点は、支流のチライカリベツ川。意味は、幻の魚と呼ばれる「イトウ」のいる川という意味だそうですが、「カリベツ」には「逆行する」という意味も。この川、潮の満ち引きに影響を受けながら、時として下流から上流に向かってゆーるりと流れているんですね。この日も完全な逆流で“川下り”は名ばかりの“川上り”、カヌーの指導員さんも「ガンガン漕がないと進まないよ~」。明日の筋肉痛が大決定です。

川

川は、護岸されていない自然のままの姿。

 

両側には葦がうっそうと茂り、水面には所によりスイレン科のコオホネや、別寒辺牛村川の名前の由来となった菱(アイヌ語でベンカンベ)が、びっしりと水面を覆います。ちなみにこの菱のトゲトゲした実が、忍者が追手に向かって投げたあの「マキビシ」です。

道中は“都会育ちのもやしっ子”である私にとっては、大自然のオンパレード。「ヒグマエリア」にドキドキし、遠くで聞こえるシカの声に耳を澄ませ、気流をとらえ飛翔するオジロワシ(絶滅危惧種)の姿に惚れ惚れし――まさに動植物の宝庫です。別寒辺牛川と合流すると川幅がぐんと広がりますが、冬にはこれが全部凍ってしまうと聞いてまたビックリ。残念ながら見られなかったものの、この辺りはタンチョウヅルの営巣地としても有名なんだそうです。

川

可憐な黄色い花を咲かせたコオホネ。

カヌー

自然と一体化するような感覚で、心まで落ち着きます。

 

工程は1時間半で、最初はそんなに長い時間漕げないかも……と思っていたのですが、雄大な自然に夢中になっていたらあっという間、終わるのがもったいない!と思うほど。それもこの川の周辺に、人工物がまったくないからかもしれません。

 

厚岸湖のカキが死滅し、木を植えだした漁師たち

20世紀にこの川の上流で、特に多くの森林伐採が行われた時期が何度かあったそうです。林業グループ「厚岸町 緑水会」会長の神(じん)さんは言います。

「ひとつは太平洋戦後の農地の激増。特に昭和30年には、国による酪農業の振興“パイロットファーム計画”で、5000ha以上の大規模開墾が行われました。この頃から始まった農地の拡張は昭和52~56年がピーク。昭和62年にウルグアイ・ラウンド(農業自由化協定)を受けてまた農地が増え、同時期にはゴルフ場の開発も始まり、森林はこの頃が最も減っています」

森

1990年設立から活動し続ける「厚岸町 緑水会」会長の神さん。

 

前回、厚岸の牡蠣が死滅ことを書きましたが、これがなんと農地拡張のピークの直後である昭和57~58年。直接的な原因は冷害で水温が低かったことですが、雨水は森林のろ過により水温が上がるとも言われています。さらに森林がなければ大量の土砂が川に流れ込むことに。

これからもカキ漁を続けていくために、どうしたらいいか。顔を合わせるたびに議論を重ねた漁協の青年会が、導き出した結論は「森に木を植えること」。そうして平成3年に作られたのが「厚岸町 緑水会」です。多くが農家である山主や、行政に働きかける一方で、自分たちでもコツコツと木を植えてゆくことにしたのです。

風景

厚岸湖を仕事場とする漁師たちは、「森と海はつながっている」と実感したのです。

 

「漁師が木を植えてどうすんだ」と周囲から嘲笑されることもあったといいますが、平成5年(1993年)のラムサール条約認定を受けて社会の環境への意識が高まり、今年で18回目を数える「厚岸町民の森植樹祭」へとつながっています。

 

「漁業」の先にある、「林業」の難しすぎる大問題

そんな様々な出来事を経て、「森と海はつながっている!」という意識が、官民ともに根付いている厚岸町。今回はそうして回復された森林、厚岸樹木園などいくつかの道有林も見学してまいりました。

森

年月をかけて大きく育った森の中は、ひんやりとした心地良さです。

 

針葉樹と広葉樹が混じった針広混交林が特徴的な厚岸の森は、多くが人工林だったりもしますが、これがほんとに気持ちいい。日差しの中をポプラの綿毛が雪のようにフワフワ舞い飛ぶ初夏の風景、切り株になった広葉樹の根株から元気に伸びる萌芽、胃腸薬として知られるキハダの木をペロッと舐めて「にっが~!」なーんてやりながら歩くのもすごく楽しい。

木

鮮やかな黄色が美しいキハダの木。

 

ところが。今回お付き合いいただいた釧路総合振興局森林室の進藤さんから、驚きの発言が。「こうして復活した森林も、間伐や枝打ちなどの管理をしなければ、最悪の場合、森全体がダメになってしまうこともあるんですよ」。えええええ!

実は植樹するだけでは森はできあがってはくれません。山主(民間や自治体)が試行錯誤を繰り返しながら、最適な条件を見極め管理する。それによって森林が維持され、木材として有効活用できるいい木が育つ――これぞ山林経営=「林業」なのですが、ここからが大きな問題。森林伐採が自然破壊のやり玉に挙げられる時代を経て、木材需要はどんどん減少し、日本では「林業」ではなかなか食べていくことができません。耕作放棄地と同様の「管理放棄山林」は、どんどん増えているといいます。

森

「森の仕事は時間もかかり大変だけど、やりがいがある」と釧路総合振興局森林室の進藤さん。

 

「緑水会」の神さんが言う「自分たちは環境保護団体じゃない」という言葉が、ずっしりと胸に響きます。特定の生き物や特定の植物を守ってゆくことももちろん大事。でももっと大事なのは、様々な動植物がお互いの存在を利用しながらも、ずーっと共存してゆけるサイクルを作ること。人間がその一部になれるよう、謙虚な気持ちをもって、少しでも自然に近いリズムで暮らしてゆくこと……なのかなあ。

実際に、釧路を中心とした道東地域では「地域で育った木を使おう!」という動きは始まっています。木のおもちゃや遊具を通じて子供たちに木の魅力を伝える「木育」もそのひとつ。学校校舎や商業施設などへの積極的な使用はもちろん、技術の進歩により木造プールなども可能になっているのだとか。他素材より調湿に優れているので、牛舎を作れば牛のストレスが軽減するという実験結果もあるそうです。難しくて大きな宿題ですが、考えていかなきゃいけませんね。

木

森にも海にも、感謝の気持ちを持ち、毎日を過ごしましょう。

 

(取材・文)渥美志保

 

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