ヒストリー

走り続けて40年、大地を守る会の原点をたどる

【第13話】「株式会社」設立をめぐって

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前回までの連載「走り続けて40年、大地を守る会の原点をたどる」はこちら

 

今でこそ大地を守る会はソーシャル・ビジネスとか呼ばれ、代表の藤田は社会的起業家の先進事例として紹介されたりするが、会社設立時は激しいバッシングの嵐に見舞われたことを、僕らは覚えておいたほうがいい。それはただ「忘れない」ためでなく、企業理念がどのような変遷を経ながら受け継がれてきたのか、己れのアイデンティティを確かめるために、必要なことだと思うのである。

 

株式会社は資本(元手)を株主に負うがゆえに、株主への奉仕(配当)の要求がつきまとう。したがって経済活動によって利潤(儲け)を生まなければならないという宿命を持つ(実はどんな組織もそうなのだが)。資本家が怒れば運営まで左右される。株式会社を採用するということはイコール“金儲け主義”に陥ることだ。

社会を変えようと謳いながら、大地を守る会は堕落の道を辿るであろう。そんな批判が市民運動側からも発せられた。第7話で紹介した記事の一節-「あたかも“みにくいアヒルの子”のように叩かれ~」とは、このような経過を表現したものだった。

 

しかし藤本・藤田たちが内部の議論の中で参考にしたのは、当時のベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)がやっていた一株株主運動だった。武器や公害を輸出する企業に対し、株主となって総会で発言し、内部から批判していく運動である。成田空港建設に反対する運動では、市民が一坪地主となって農民を支援する運動もあった。

この手法を逆手にとって、生産者と消費者あるいは共鳴してくれる支持者に出資を募り、会社はその株主のために働く関係を築けばよいではないか。生産と消費も、同等の立場で議論し合う。出た利益を運動や事業の発展のために使うことも、生産者と消費者が株主なら理解してくれるだろう。そうやってリアルな社会システムのなかで自立し、社会を変えるための説得力を獲得していこう。そんな運動論が構築されていった。

テーブルを囲んでの議論

創業時代の職員による「合宿」風景。しつこいほどの議論が繰り広げられた。
職員の合宿は今も伝統行事として続いている。

新しい運動とはまた、実験の場でもある。組織が堕落するかどうかは、我々のこれからの行動や生き様を見てもらうしかない。むしろ常に厳しい目にさらされながら生きてゆくことで健全さも保たれよう。堂々と“みにくいアヒルの子”でいこうじゃないか。

 

ここで長くなるが、1977年9月に出された会社設立に際しての提案書を引用したい。

 

生命と健康を守り、生き生きとした自然との対話のために「株式会社大地」は設立されます。私たちは、この会社を一部の人たちの利益を守るためとか、ある特定の階層の人々だけのために利用される会社として設立してはならないと思っています。そこで、私たちは次の三つを会社設立の原則といたしました。この原則を貫くことで、株式会社大地はその社会的使命と責任を全うし得ると思うからです。

  1. 株式会社大地は、人間の生命行為としての食生活を見直し、社会の生命行為としての農業に積極的に関与します。そして、安全でおいしく、栄養価のある食べ物を生産し、流通させ、消費することによって、この時代と未来への責任の一端を担いたいと思います。
  2. 株式会社大地は、時代が希求する「生命と健康を守る」ことを原則とします。それは自然を保全し、社会関係を調和させ、人間の生活にとって満足のいく仕事となって表現されます。
  3. 株式会社大地は、人と物と情報の流れに澱みのないよう、その運営を行なわなければなりません。澱みとは、人間関係において閉鎖的であったり、官僚主義的であったりすることですし、物の関係において投機的に扱われることです。そして、情報の関係において秘密にされたり、偽って伝えられたりすることです。株式会社大地は、こうした人と物と情報の流れに澱みのない「開かれた株式会社」としての画期的な試みを行なう株式会社として設立されます。

 

それから31年を経た2008年、株式会社大地は「株式会社 大地を守る会」と名称を改め、翌年の総会で定款に以下の前文を追加した。

 

株式会社大地を守る会は、「大地を守る会」の理念と理想である「自然環境に調和した、生命を大切にする社会の実現」をめざす社会的企業として、株式会社としてのあらゆる事業活動を、「日本の第1次産業を守り育てること」、「人々の生命と健康を守ること」、そして「持続可能な社会を創造すること」、という社会的使命を果たすために展開する。

 

組織形態は時代とともに変わる。表現方法もまた然りだが、32年を経て、あえて会社の定款に日本国憲法みたいに前文という形で理念を据えて、しかもその内容は設立時からの一貫性が保持されている。みにくいアヒルの子なりの矜持(きょうじ)を示したものと言えないだろうか。

組織の形や営業手法はあくまでも手段である。目的を見失うことさえなければ、変化は実験のようなものだ。しかし精神を持続させることは、たやすいことではない。だからこそ、時に振り返りながら、魂もまた入れ直していく必要がある。

 

次回 【第14話】運動から事業を創り出す! はこちら

戎谷 徹也

戎谷 徹也(えびすだに・てつや、通称エビちゃん) 出版社勤務を経て、1982年11月、株式会社大地(当時)入社。 共同購入の配送&営業から始まり、広報・編集・外販(卸)・全ジャンルの取扱い基準策定とトレーサビリティ体制の構築・農産物仕入・放射能対策等の業務を経て、現在(株)フルーツバスケット代表取締役、酪農王国株式会社取締役、大地を守る会CSR運営委員。 2008年農水省「有機JAS規格格付方法に関する検討会」委員。2013年農水省「日本食文化ナビ活用推進検討会」委員。一般財団法人生物科学安全研究所評議員。