ヒストリー

走り続けて40年、大地を守る会の原点をたどる

【第39話】進化する「基準」

有機JAS制度が法として成立した以上、遵守せざるを得ないとしても、有機農産物は画一的な「規格」ではない。
もっと大きく、深い思慮を含んだものだ。
有機農業の理念や基本姿勢は、国家ではなく、我々の手で表現しなければならない。

しかしそれはけっこう粘りのいる作業だった。
骨格を定め、文言を何度も修正し、視野脱落がないか議論し、農薬の評価については科学的な根拠を確かめ、大地を守る会の自主基準が形づくられていった。

そうして1999年4月、「大地を守る会有機農産物等生産基準」が完成する。

理念は、基準の前文に示された。
そこでは、「生産者とともに有機農業を広げるために、地域の気候、風土、および作目の違いを考慮した生産者自身の手による自主的な生産基準が大切」である旨を謳った。
生産者個々に「オレたちの有機農業」を定めることが土台にあるべきだと。
その上で「それらを全体的に包括する」ものとして、この生産基準がある。
以下、前文の最後の一節を引用したい。 

本基準は、日本の気候・風土の特性を活かし、生産者が主体的・意欲的に取り組める農業のあり方を示す生産基準をめざす。本基準により、生産者の栽培技術の向上に寄与して有機農業をひろく普及させるとともに、消費者に大地を守る会の農産物の特徴・栽培状況をわかりやすく伝え、その品質への信頼をさらに高めることを目的とする。また本基準は、生産者の栽培技術の向上とともに進化していくものとして、毎年改定を行う。

 生産者の自主基準(=主体性)を土台に、技術の向上とともに進化していく「統一基準」。僕らはここに「魂」を込めたと言える。

続いて、大地を守る会が考える有機農業の基本姿勢を掲げる。

 

その第1に挙げたのが「第1次産業の活性化をめざす」こと、次に「食料の自給」、しかも「自給の輪を、国境を越えて創り出す」と謳った。中国事業に象徴される“運動の輸出”は、基準に則った活動でもあるのだ。
第3に「環境保全・循環型」農業、第4に「生産者の主体性の回復」と続き、第5にようやく「無農薬・無化学肥料栽培に向けた努力の過程を重視する」となる。

「努力の過程を重視」
-ここにも、この基準の肝がある。

 

さらにもう一つ。大地を守る会の基準にしか存在しない基本姿勢がある。

「Ⅱ‐1‐⑨ 個人・団体を誹謗中傷しない」

有機農業は地域に仲間を増やし、ともに広げていく運動である。
目の前の優劣で人を貶(おとし)めたり、悪口を言って自分をよく見せようとしてはならない。
相手の技術レベルが低いと思ったら、惜しげもなく教えよ。

これも運動の歴史のなかで培った、いわば「社是」のようなものだ。

しかしこれがなかなかに難しい。「無農薬はできても、これは無理かも」と笑った生産者もいた。それでも看板に掲げて精進する。有機農業には武骨な哲学が必要なのだ。

生産者

北海道生産者会議で金井さんの農園を訪れた生産者や大地を守る会の職員たち。 編集

農薬の使用についても、独自の考えを反映させた。
現状で農薬を使用せざるを得ない場合については、回数で線引きはせず、「できるだけ控える」を基本姿勢とし、ただしいかなる理由があっても使用しない「禁止農薬」+「できるだけ使用を控える農薬」+「使用に注意する農薬」のリストを作成し、根拠を示した。

このリストを、生産者と議論を重ねながら毎年改定していく。それが「進化」を表わすものになる。

ここで大事になってくるのが、「栽培の結果を正しく伝える」ということである。
基準をつくれば、その基準に則って栽培されたものであることが証明できなければならない。

必然的に、トレーサビリティと情報公開の体制が必須となる。基準とトレース能力は表裏一体である。

生産者に基準を示しながら、大地を守る会の有機農業推進室では、千軒を超える生産者個々人の持つすべての畑をパソコンに登録し、畑ごとに栽培履歴を残していく仕組みを構築していった。
生産者には「有機」を問わず作業記録の作成を要請した。
あれは実に、気の遠くなるような作業だった。

しかしおかげ様でか、「どこよりも厳しい基準」と言われるようになり、また他団体の基準づくりにも影響を与えたと自負するものである。

基準の次は、認証への対応である。

有機JAS制度によって「有機農産物」には第3者認証が義務づけられたのだが、大地を守る会は、生産者と契約したすべての農産物を第3者認証の対象にすべきだと考えた。
「有機」だけに細かい書類作成を求めるのでなく、消費者に届けられるすべての農産物が「たしかなもの」であることが本来の姿である。そう考えたのだ。
生産基準の完成と同時に、大地を守る会は認証機関「アファス認証センター」と契約し、生産者の日々の作業から大地を守る会の栽培管理そして表示まで、すべてが第3者によって監査される仕組みを導入した。
この監査はいまも毎年実施されている。

ただ目の前のモノの優劣だけではない、食の安全を未来にわたって築いていくために、

「有機JAS規格よりも大地(を守る会)の基準でしょう」

- そう胸を張れるだけのものはつくったつもりである。

 

その後、自主基準作りはすべてのジャンルに広がり、トレーサビリティの仕組みが強化されていくとともに、国産飼料のみで家畜を育てる「THAT’S国産」運動などにも発展する。
毎年いくつもの生産者会議が開かれ、技術交流もたゆまず、地道に進められている。

「基準」とは、それぞれの取り組みとともに生きていくものであり、であるがゆえに目標だけでなく「限界」を示していたりする。
しかし限界とは「課題」でもあって、それは“たたかいのモノサシ”を与えてくれているのである。

大地を守る会の終わりなき挑戦が、「基準」には映し出されている。

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THAT`S国産平飼卵の生産者:藤田孝広さんとおつれあいの悦子さん。

こんにち、有機JAS制度はある程度浸透し、「有機」への信頼性を確保するのにそれなりの役割を果たしているとも言える。
生産者が自らの証明として認証を受けたものは、大地を守る会でもその「有機性を保持」させた上で(JASマークをつけて)届けている。
しかし、JAS制度で有機農業が発展するワケではない。
この制度はあくまでも、適正表示のための基準認証制度の枠にあり、有機農業の発展と安定は、やっぱり生産と消費の力にかかっているのを忘れないようにしたい。

 

2006年、議員立法によって「有機農業推進法」が制定され、ついに国が有機農業を推進する方針を定めた。時代は何とかここまで来た。
それはとても画期的な出来事だったのだが、それでもまだ日本では、有機農業は伸び悩んでいる。
オーガニックが着実に広がっている欧米とは差をつけられる一方だ。

まだ何かが足りない・・・大地を守る会こそ、この壁に風穴を開ける先陣であってほしいと願っている。
いや、その義務があるだろう。

戎谷 徹也

戎谷 徹也

戎谷 徹也(えびすだに・てつや、通称エビちゃん) 出版社勤務を経て、1982年11月、株式会社大地(当時)入社。 共同購入の配送&営業から始まり、広報・編集・外販(卸)・全ジャンルの取扱い基準策定とトレーサビリティ体制の構築・農産物仕入・放射能対策等の業務を経て、現在(株)フルーツバスケット代表取締役、酪農王国株式会社取締役、大地を守る会CSR運営委員。 2008年農水省「有機JAS規格格付方法に関する検討会」委員。2013年農水省「日本食文化ナビ活用推進検討会」委員。一般財団法人生物科学安全研究所評議員。