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吉本ばななさんの新連載「生きることは食べること」Vol.4 

【吉本ばななさんの新連載「生きることは食べること」Vol.4】夢の箱買い

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ベストセラー作家の吉本ばななさん。実は、大地を守る会の食材を長いことご愛用いただいています。そのご縁で、大地を守る会のホームページでエッセイの連載が始まることになりました。吉本ばななさんの食にまつわる思いや暮らしぶりに触れることのできる特別なエッセイで、今回で4回目になります。イラストは、吉本ばななさんのお友達で、絵本作家・イラストレーターの山西ゲンイチさんの描き下ろし、ぜひお楽しみください。

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夢の箱買い

のっけから季節外れの話で申し訳ないけれど、夏が大好きな私は毎年夏が去っていくのをいつまでも惜しむので、旬のトマトがすでに恋しい。だからトマトから話を始める。
プチトマトを屋上でたくさん育てているのに、さらに私は夏になると毎週トマトを箱で買う。そしてジュースにしたり、サラダにしたり、ソースにして思う存分食べる。
そのためだけに庭でバジルを育てている。
バジルの花は紫蘇の花とそっくりで、味の共通項を感じている自分に確かな実感を与える。
そういうことがとてもだいじだと思う。図鑑を見て近い種だということを調べて知るよりも、何百倍も頭と体にしみこむから。

 

吉本ばなな、山西ゲンイチ

夏の間にバジルを枯らしてしまったり虫がついてしまうと、トマトがおいしく食べられない。トマトソースのパスタもバジル抜きだと気が抜けてあいまいな味になってしまう。
そのためだけに毎日いっしょうけんめいに水やりをする。
トマトってとても不思議で、単独で見るよりも「群れ」で見る方がインパクトがあるしトマトらしい気がする。それはそもそもトマトというものが枝にまとめて生るものだからだと思う。箱から香ってくる青い香りこそがトマトの力なんだ。
トマトをただ手でつぶして、種もそのままにして、塩とオリーブオイルだけのサラダも大好き。トマトの力が体に移ってくるような感じがする。
それには見極めが大切で、追熟してちょうどよく熟れた状態でないと、この食べ方はできない。ぐじゅぐじゅでもだめだし、固いと全く味が出ない。

 

 

春にはアスパラガスを、秋にはりんごやぶどうや新米を、冬はじゃがいもや里芋を箱で買う。忙しい時期にはラーメンを箱買いする。
それから友だちの実家がある岩手の岩泉の「龍泉洞の水」。数年前に台風による土砂災害で苦しめられた場所。最近になってやっと有名なヨーグルト工場が再開した。
友だちを思いながら、いつも箱で注文する。それは私にとって単なるミネラルウォーターではなく、ささやかだけれど手伝う気持ちがこもったものだ。

梅干し作りには至れないけれど、梅ジュースは作る。
大きな魚はさばけないけれど、アジやイカまでならなんとかできる。
真空パックになっているしじみは日持ちがしてありがたい。
こんなへなちょこな私のような主婦にとっても、箱買いには小さなロマンがあるのだ。

 

吉本ばなな プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『人生の旅をゆく3』『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた単行本も発売中。

 

大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。