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循環が生み出す大地の力

【NEWS大地を守る2月号】大地の力を信じてる

地球の息吹の中で育まれる野菜。有機農業を営む阿部豊さん(茨城県石岡市)を訪ね、有機野菜を作ること、食べることについて考えます。

 

19年目の日本の有機JAS認証

「昨年の夏に続き、秋も日照が少なく雨が多かったので、全般的に野菜は生育不足ですね。あちらの畑ではニンジンがまだ小さかったけど、こちらはどうかな」。ぐっと抜いて出てきたニンジンは、ずっしりと太く、うるおいに満ちた橙色を放っています。立派に育ったニンジンを手に、思わずほっと笑みを浮かべるのは、茨城県石岡市で30年前から有機農業を営む阿部豊さんです。

「野菜を育てている時がとにかく楽しい。有機農業には深みがあるよね」と消費者から生産者になった阿部さん。

 

近年、目にすることが多くなった「有機野菜」「オーガニック野菜」は、日本では「有機JAS認証」を取得したものを指すことになっています。1999年、飲食料品等の一定の品質や生産方法を保証する法律「JAS法」が改正され、有機農産物と有機農産物加工食品の規格が定められました。そのルールに沿って生産されたものだけが有機JASとして認められ、マークを付けて「有機」と表示できる仕組みです。有機JAS認証は、農産物の安全性や健康志向に対する消費者の関心の高まりを受けて設けられ、商品を選択する際の一つの目安となっています。

一方、日本の耕地面積における有機の畑の割合はわずか0.22%(※1)。ここ数年ずっと0.2%くらいで足踏みしている状況です。イタリア8.6%、ドイツ6.1%、イギリス4.0%、フランス3.6%など、有機農業先進国とも呼ばれるヨーロッパの国々は日本の何倍もの面積を占めています。さらに、韓国1.0%、中国0.4%と、アジアの中でも日本は遅れをとっているのです(※2)。有機の畑が日本で増えないことについて、有機JAS認証の取得および毎年更新の費用や、認証機関に提出する細々(こまごま)とした栽培日誌・伝票の管理、農薬以外にもある資材・畑の周辺環境の規定などさまざまな理由があげられ、今も模索が続いています。

筑波山をはじめとした山々に囲まれ、その麗に畑がゆったりと広がる里山で、阿部さんは農薬・化学肥料を一切使わず年間約70種類の野菜を育てています。2001年から有機JAS認証を取得していましたが、2009年からは「取得しない」という選択をしています。「有機JAS認証は最低限のことは保証していると思います。でも、有機農業にはそれ以上の意味があるということを、自分なりにもっと表現してみたいです」

のどかな里山風景が広がる茨城県石岡市は、有機農業を営む人が多い地域です。

 

土、菌、生き物、植物。それぞれに役割がある

取材当日は冬の足音が聞こえる11月下旬。阿部さんの畑の隣にある林では、黄色や茶色に染まった落ち葉が地面を覆っています。

「『いい落ち葉』ができ、さらいやすいよう、夏には木を手入れします」

ナラやクヌギなどの落ち葉が彩りを添えます。

 

「12月にはこの落ち葉をさらい、『踏込温床』に使います」。踏込温床とは、落ち葉と米ぬかを重ねるように積み上げ、水をかけて踏み込むことで進む発酵による発熱を利用した、温かい苗床(なえどこ)。寒い時季に苗を育てることができ、1〜2年後には培養土として使うこともできる、江戸時代から伝わる伝統的な農法です。「発酵によって熱が得られ、また、林や山もきれいに保てます」。1年経った培養土の山を少し掘ると、丸々としたカブトムシの幼虫がすやすやと眠っています。

冬、阿部さんは昔ながらの「踏込温床」を行います。

落ち葉の乾き具合などから入れる水分量を決めます。

踏込温床の培養土の中で眠るカブトムシの幼虫。

 

畑を歩きながら阿部さんは続けます。「畑の畝には稲わらを敷きます。雑草と乾燥を抑えるとともに、棲みついた微生物が稲わらを分解するので、そのまま土に還すことができるんです」。空に向かって青々と育つ小松菜を、カエルが見つめています。「カエルは、畑に虫害をもたらす害虫の天敵となる益虫。テントウムシもアブラムシをよく食べてくれます。キイロテントウムシは菌を食べるので、ウドンコ病という病気も防いでくれますよ」。

露地でのびのびとたくましく育つ小松菜。

虫を食べて虫害を抑えてくれるカエルも大事な一員。

 

寒さから身を守るかのように水菜はひしめき合い、土から白い顔をのぞかせる大根はどっしりと構えています。阿部さんが切って見せてくれた紅芯大根の鮮やかな断面には、あふれる水分が滴っています。豊かでありながら厳しくもある自然の中で、当たり前の循環が今日も巡り、大地の力を生み出しているのです。

真っ白い外皮に紫紅色の中身がまぶしい紅芯大根。滴る水分のように大地の力があふれています。

 

「私はもともと有機野菜を購入する消費者でした。野菜がおいしく、作っている人が楽しそうだったので、生産者になりました。有機農業を始めて3年くらいすると、土や虫たちはその環境を知り、適応するようになります。それぞれに役割があり、それぞれを信じる。そこが有機農業の深みであり、おもしろさでもあると思います」

 

食べる私たちも、感じて、信じる

「有機JAS認証の現状は、どうしても生産者に費用と手間がかかるかたちになってしまいます。また、有機JAS認証を受けた商品のうち海外産のものは3〜4割にもなり、一方で、日本の有機の畑は伸び悩んでいます。天候も変わってきている今、このままではどこかにひずみが生じます。有機JASのマークがあってもなくても、大切なのは信頼関係だと思います。生産者と消費者が信頼でつながれば、有機農業による畑も野菜も、守っていくことができると信じています」。ひんやりとした風が吹く畑でたくましく育つ野菜を見つめながら阿部さんは話します。

収穫後、吊るして乾燥させているにんにくと玉ねぎで、天井もにぎわいを見せます。

食器は知り合いの焼き物屋さんのもの。阿部さんは暮らし全体で、つながりを大切にして楽しんでいます。

 

大根、ほうれんそう、キャベツ、きゅうり、トマト、ニンジン、ジャガイモ……。おうちに届いた野菜は、季節の移ろいの中で育まれ、大地の力に満ちています。今こそ、その力を、食べる私たちも体と心で感じ、信じる時かもしれません。

 

※1.平成26年4月1日現在。資料:農林水産省HP「国内における有機JASほ場の面積の推移」

※2. 資料:IFOAM 「The world of organic agriculture」

 

阿部豊さんの人参を含む、人参はこちら

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