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吉本ばななさんの新連載「生きることは食べること」Vol.5

【吉本ばななさんの新連載「生きることは食べること」Vol.5】米を炊く

ベストセラー作家の吉本ばななさん。実は、大地を守る会の食材を長いことご愛用いただいています。そのご縁で、大地を守る会のホームページでエッセイを綴ってくださっています。吉本ばななさんの食にまつわる思いや暮らしぶりに触れることのできるエッセイは今回で5回目になります。イラストは、吉本ばななさんのお友達で、絵本作家・イラストレーターの山西ゲンイチさんの描き下ろしです。今回もぜひお楽しみください。

米を炊く

糖質制限が話題になってたいへんに旗色が悪い米食だけれど、私はいつも食事の基本にしている。
というか、うちはごはんと具沢山のお味噌汁だけを中心に回っているので、ないと困ってしまうのだ。

私はいろんな米、いろんな炊き方を試してきた。
最近の炊飯器ってすばらしいんだけれど、むちゃくちゃ時間がかかる。
私の仕事だと「今日は帰って米を炊く時間があるかどうか」で晩ごはんをどうするかが決まるので(間に合わなければパンを買って帰るから、おのずと洋食になる)、二時間とかかかるとすごく困る。でもいい炊飯器の炊飯時間はそのくらいかかることはざらなのである。

 

ほんとうにいろんなことをして、最後にたどり着いた今の状況は、まず米は玄米からその日のぶんだけ精米する(玄米で保存して精米したてを食べられるから、出張が続いてもお米の古さが目立たずおいしく食べられる)。
米を保存しすぎて様々な虫…どこから来るんだ?というようなたくさんの虫たち、を見たことがある人ならきっとうなずいてくれるはず。
ただ虫ってこれまた玄米も大好きで、放置しすぎると粉になるまで分解にかかるから、お米は食べるぶんだけ買いながらこまめに買い足していくのがいいと思う。
食いしん坊の主婦ってとても忙しい。出かけているひまなんて実はない。どんなすてきな街ですてきな雑貨や服を見るよりも、米をうまく炊くことのほうがずっと好きなんだからしかたがない。
精米した米を分厚い土鍋で炊き、なるべくその場で温かいうちに食べる。
残ったぶんはそのままレンジでチンできる陶器の器に入れて、温め直したければそれで温める。陶器のふただけ濡らして温めるその方法だと、炊きたてみたいなおいしさを翌日夜までは再現できる。

ここに落ち着くまでなんと二十年。炊飯器も数台買ったし、鍋もいろいろなものを試した。でも私にはこれがいちばん合っていた。

これとお味噌汁さえあれば、おかずなしでも満足度が高い。卵とかお漬物があったらより大丈夫。お刺身を買ってくることができたら大ごちそう。お歳暮の時期なんて、これにいただきもののお肉とか干物とかお野菜が足されたりして、夢みたいに豪華なのである。
こういうのって一見地味な食卓だけれど、最高に贅沢だなあと思うのだ。

 

吉本ばなな プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『人生の旅をゆく3』『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた単行本も発売中。

 

大地を守る会編集部

大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。