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吉本ばななさんの新連載「生きることは食べること」Vol.6

【吉本ばななさんの連載「生きることは食べること」Vol.6】たくさん作る

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ベストセラー作家の吉本ばななさん。実は、大地を守る会の食材を長いことご愛用いただいています。そのご縁で、大地を守る会のホームページでエッセイを綴ってくださっています。吉本ばななさんの食にまつわる思いや暮らしぶりに触れることのできるエッセイは今回で6回目になります。イラストは、吉本ばななさんのお友達で、絵本作家・イラストレーターの山西ゲンイチさんの描き下ろしです。今回もぜひお楽しみください。

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たくさん作る

家族の形態がだんだん変わっていくにつれて、決まった時間にいっしょに「い
ただきます」をするのがむつかしくなってくる。
子どもがバイトだとか、私が仕事で微妙に遅いだとか、夫が断食しているだと
か、そんなようなことがどんどん増えてくるようになる。それはしかたがない
と思う。いろんな時期があり、形があるのは当然だろう。もし息子に恋人がで
きたら、私がそうだったように「家でごはんなんて食べないでいっしょにいた
い」と思うようになるだろう。子どもが小さいとき、眠くても面倒でもみんな
で揃ってごはんを食べていた時期が稀有な幸せであり、その時期が土台になっ
ているからこそ自由に羽ばたけるんだということもわかる。

 

 

ただ、ここで「じゃ自分も外食」とはならないのが私で、自炊がいちばんと思
っているので、どうしても家で食べてしまう。
家族のだれかがひとりでごはんをかきこむ感じにならないようにだけちょっと
考慮して、なんとなく私が作ったものがなにかしらあるだろう、というところ
に落ちつけたい、そう思ってたどり着いたのが、とにかくたくさん作るという
システムであった。
今まではその日に食べきれるだけ、その日に作っていた。そのほうが廃棄する
ものも少ないし、揃って食べるならいちばん効率がいいからだ。
でも、これからはとにかくたくさん作って、それを切り崩していくのがいいと
思った。夜中に帰ってきてお腹が減った人にもなにかしらある、そういうこと
だ。
米もめいっぱい五合くらい炊いて数日かけて食べればいいし、おかずも大鍋で
作って冷蔵庫に入れておけばいい。
そんなふうな変化をじわじわと考えていたら、桉田餃子の餡田優子さんが「た
すかる料理」という本の中で全く同じ考えを示していたのですごく勇気が出た。
大胆に変えていく勇気、振り返らない勇気。
それさえあれば、人生は常に新しい航海なのだと思うのだ。

 

 

大地を守る会の注文も、今まで「1」と押していた数量のボタンを急に「5」
などと押すのは貧乏性で気が小さい私にはすごい勇気がいる。
でも新しいことっていつも楽しい感じがする。
冷蔵庫のあり方も全く変わるし、使う鍋の大きさも「幼児がいて、いろいろな
品目を作ることがいちばん重要」から「いっぱいあればいつでも安心」に変わ
っていく。
あの頃には戻れない。今しかできないことを今いっしょうけんめいやるのだけ
が、人生なんだなとしみじみ思う。

 

吉本ばなな プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『人生の旅をゆく3』『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』『切なくそして幸せな、タピオカの夢』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた単行本も発売中。

 

大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。