2010年9月 5日

祝の島

 

山口県熊毛郡上関町祝島 (いわいしま)。

瀬戸内海・周防灘に浮かぶ周囲12kmの小さな島。

瀬戸内海屈指の豊かな魚場に恵まれ、釣り人のメッカとも謳われる。

島内は山の傾斜を利用してミカンやビワ栽培が営まれている。

大地を守る会も一時期、無農薬のビワの販売でお付き合いした時代がある。

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海と山しかないのどかな島。

一方で祝島といえば 「原発反対運動の島」 として全国にその名を馳せる島でもある。

この島に、8月21日(土)~22日(日)、

大地を守る会の専門委員会 「大地・原発とめよう会」 の主催でツアーが組まれた。

10数人ほどの会員が島を訪ね、島民たちと親交を温められた。

僕も誘われたのだが、実はこの日程は、

大和川酒造の佐藤工場長たちと飯豊山に登る計画を立てていて、お断りするしかなかった。

結局は仕事でどちらも行けなくなってしまったのだけど。。。 哀しいね。

 

ツアーに参加したU君から写真が送られてきたので、お借りして、紹介したい。

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この平和な島に原発問題がふって涌いたのは1982年のこと。

上関町長が町議会で原発誘致の意向を表明したのだ。

翌年、祝島漁協が原発反対を決議して、長い長いたたかいが始まった。

 

「上関原子力発電所」 の建設予定地は

祝島から4km東の対岸にある上関町長島の田ノ浦湾。

この美しい名前の湾を埋め立てる計画である。

建設されれば、祝島島民は目の前に原発を見ながら日々暮らすことになる。

おそらく観光客は激減することだろう。

今年からいよいよ埋立工事が始まることになったが、

現在のところ島の人たちの必死の実力阻止にあって着手できていない。

 

島民のほとんどは建設反対だが、あくまでも 「ほとんど」 であって、

島には今も深いしこりが刻まれている。

そんな中で、島民たちはこの28年間、毎週月曜日に欠かさず島内デモを行なってきた。

「原発ハンターイ、エイ、エイ、オー!」 という掛け声をかけながら、

集落の路地裏まで練り歩くのだ。

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毎週のデモは、みんなの結束を確かめ、島の意思が衰えてないことを示すだけでなく、

実はおっちゃんおばちゃんたちの楽しいお喋りの場でもあったりする。

犬もハチマキして参加していたりして。

実は僕も一度この島を訪ね、月曜デモに参加したことがある。

1987年の、季節は秋だったか。

(デモの、エイエイオー!にはちょっと馴染めなかったけど・・・)

 

祝島漁協組合長(当時) の山戸貞夫さんが反対運動のリーダーで、

大地を守る会は漁協を通して無農薬ビワやビワ茶の販売で支援をしたのだった。

今回のツアーでは、山戸さんの息子さんと交流できたとのこと。

またビワの生産者を取りまとめてくれていた坂本育子さんは、

僕のことを覚えてくれていたようで、とても嬉しく思った。

 

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祝島はまた、岩の島でもある。

掘っても掘っても出てくる岩を家の練塀や段々畑の石垣に利用してきた。

傾斜のきつい山だが、島民は島の隅々まで利用し、共生して生きてきたのだ。

 

これは平満次さんの棚田。 

1段5メートルはあるだろうか。落ちたら死にそうな棚田である。

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この石垣を、満次さんの祖父、亀次郎さんが一代で築いたというから驚愕である。

子や孫の代まで米で困らないようにと願いながら、

巨大な岩石を一個一個運んでは積んでいったのだという。

日本人の米に対する恐るべき執念を感じさせる。

 

ツアー一行と語らう平さん。

眼下は海。 こけたら一気に海まで滑落しそうな風景だ。

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こうやって島の風景は人の営みとともにつくられてきた。

海の環境を守るのも、実は漁民の倫理と矜持(きょうじ) こそにかかっているのだ。 

原発は、自然も、人々の絆も、人と自然の絆も、傷つけてしまう。

それは営々と紡がれてきた絆の歴史を愚弄するものでもある。

反対する現地の人々が嫌悪するのは、そういう精神への冒とくを感じるからだ。

 

賛成あるいは推進する人々は現地の深い苦悩を慮ることがない。 

だから 「公共」 の名のもとに 「人 (あるいは自然) は死んでもいい」 に票を投じることができる。

その究極の選択が 「戦争」 だと思う。

反対した人は敵となった人々の死にも自身の判断の責任を考えようとし、

賛成派はだいたいが他人事のように批評する。

 

ま、戦争はともかく、原発に 「公共」 性としてのメリットがはたしてあるか、

これはとことん慎重に議論したいところだ。

あらゆる観点から見て、原発は本当にどれだけの貢献をしてきたのだろうか疑問である。

未来永劫にわたるリスク管理 (ストレス社会) を子孫に強制し、

建設から廃炉・廃棄物管理に至るコストは補助金 (税金) なしには採算は合わない。

事故はレベルによるが、最悪の場合、取り返しのつかないたくさんの生命危機につながる。

原発受け入れで得られるのは交付金や法人税による経済効果だが、

他人のお金(税金) をあてにして、持続可能な社会資産を差し出していいのか。

海と共生しながら暮らしていきたい、とはそういう意味で

基本的人権以上の意味を持つものだと思う。

昨日に続いてジャレド・ダイヤモンド (カリフォルニア大学教授) の言葉を借りるなら、

 「先進諸国が現在味わっている繁栄は、預金口座にある環境資本

  (再生不能のエネルギー源、天然の魚介資源、表土、森林など) を食いつぶすことで

  得られたものだ。 引き出した預金を稼いだお金と勘違いしてはならない

ということだ。

 

ましてや、今のエネルギー政策の世界潮流は、石油やウランなど枯渇資源に依存しない

太陽エネルギー経済に移行しようとしている。

地球に降り注ぐ太陽エネルギーの1万分の1を効率利用できれば、

エネルギー問題はなくなるとまで言われているのだから。

そのための技術確立に向けての推進力が加速している。

引っ張っているのは砂漠の産油国である。

西欧諸国もそこで技術提携の権利を得るのに躍起である。

日本は乗り遅れようとしている。

 

次世代エネルギーの覇権争いはすでに 「原子力発電所」 ではない。

誰も電力不足を感じていない中で、

中国地方の電力需要は増える、という前提のもとでの、

28年に及ぶ建設をめぐる争いなど、もうやめたほうがいい。

 

エネルギー源は、空と海と大地にあるのだ。

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祝島周辺海域には、国の天然記念物であり絶滅が危惧されているスナメリ (小型のクジラ)

や海鳥・カンムリウミスズメの生息が確認されている。

科学者から活断層の存在も指摘されながら、ちゃんとした調査は実施されていない。

 

こんな島の人々の暮らしと自然を、実に優しい目線でとらえた映画がある。

纐纈(はなぶさ) あや監督作品 『祝(ほうり) の島』 。

ゆったりと生きながら、しかし敢然と原発を拒否する島の人々の強さとその意味を、

「原発は必要だ」 と思っている人たちにも見て欲しいと思う作品である。 

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東京では現在、東中野 「ポレポレ東中野」 で上映中。

一日1回、19:00~で、今月10日まで。

ご来場者には、当会からのプレゼント応募用紙が配られています。

応募された方から抽選で50名様に、

祝島の対岸・愛媛県は明浜町の生産者団体 「無茶々園」 のちりめんをプレゼントします。

どうぞご応募ください。

 

以上の写真はすべて内田智明さんからの提供です。

原発ネタは久しぶりだけど、写真を見て、ちょっと熱くなりました。

感謝します。

 


Comment:

戎谷さん、地球規模の視点と、生きとし生けるものへの深い愛に満ちた文章に、涙が出そうになりました。U氏の写真もいいですねぇ。そうよ、だれをも幸せにしないと思う原発は。祝島の人たちは凛としていました。自らに恥じない生き方をしているという、気高さを感じました。のぐち

from "のぐちきょうこ" at 2010年9月 6日 13:01

これまで、と言ってもあまり多くはないけど。大地を守る会のツアーに参加してきて、これほど脳と心に染みたツアーは初めてでした。島と海の美しさはもとより、一つの信念からくる島のお母さん達の言葉、すべてをなげうって盾となるシーカヤック隊の若者、人を怖がることなくそのつぶらな瞳で我々を見つめ耕作放棄の地で奔放に生きる氏本さん家の豚さんたち。それぞれの眼が常に訴えかけてくるんです。ツアーから二十日ほど経ちますが、今でも胸の内がざわつきます。そんな彼らにただただ敬意を表するばかりです。大地を守る会の会員として、一人の人間として、今私にできる事が微力でも支援だと信じて応援したいと思っています。

from "成清海苔店 成清 忠" at 2010年9月 8日 11:56

のぐちさん、成清さん
有り難うございます。お二人のコメントに、「ああ、やっぱり行きたかったなぁ…」という思いが募ってしまいました。
近い将来にも、彼らの強い信念と生き方があって島や海が守られたんだと認められる日が来るように、僕らも未来への責任を思いながら進んでいきたいですね。山戸さんや坂本さんから「何やってんだ」と言われないように、僕も己の現場で励みたいと思います。

from "戎谷徹也" at 2010年9月 9日 15:51

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