2012年8月25日
インフラ復旧の前に、産業政策を!
大地を守る会の放射能連続講座・第4回 - 「海の汚染を考える」。
講師に招いた勝川俊雄さんには、
専門とする海の資源管理の話も少し盛り込んでいただければ、とお願いしていた。
最後の10分。 やはり本業の話になると、熱が入った。
東日本大震災による一次産業の被害額は1兆2千億円に上り、
阪神淡路など過去の震災に比べても、農林水産業の被害が突出している。
しかし漁業の復興策はインフラ整備に偏重した予算配分になっていて、
その先のビジョンが示されていない。
港や船を3.11前の状態に戻そうとしているだけ。
すでに漁業は急激に衰退の途をたどっていて、
10年先が見通せない状態になっている。
そこでただインフラや構造物を元に戻しても、展望は開けない。
やる気のある漁業者からは、
「ゼロから再出発するなら、漁業そのものを何とかしたい」
という声が、聞こえてきている。
構造的な問題を解決して、
10年後20年後の地域経済を支えられる産業として育て直さなければならない。
インフラ復旧型の復興事例として、北海道の奥尻島がある。
93年の奥尻地震で島の漁業は壊滅的被害を受けたが、
被害総額を上回る復興資金が集められ、
防潮堤や漁船などすべてリフレッシュして、5年で完全復興した。
しかしその後島はどうなったか。
漁業者は半分以下になり、島を出た若者は帰ってこなくなった。
かつてゼロだった限界集落が9ヶ所にまで増え、
コンクリートの構造物だけが残っている。
いま、三陸もその方向に向かっている。
かたや北海道最北端、宗谷岬の南にある猿払村では、
ホタテ養殖業で安定した収益を上げるまでになり、
高等教育を受けた若者たちが帰ってきている。
グループで企業経営する者も現われ、後継者は順番待ちの状態である。
三陸を奥尻にするのか、猿払にするのか。
新しい人が入ってくるような産業に育てなくてはならない。
インフラ整備の前に産業政策が必要なのだ。
漁業の収益は、「漁獲量 × 魚価 - コスト」 という計算になるが、
漁獲量は増えず、魚価も上がらず、コストは下がらず、どれも難しい状態。
漁業者の年間平均所得は260万円である。
資源の減少は、その相対的帰結として 「獲り過ぎ」 を招いている。
たとえば日本人の好きな大衆魚であるサバは、
90年代以降、減少の一途をたどり、親魚を獲り尽くすという悪循環に陥った。
今はわずかに残った親魚の産卵に依存し、
未成熟の小さなサバを競争しながら獲っている。
それらは 「ろうそくサバ」 と呼ばれ、養殖のエサにするか、
中国やアフリカに捨て値のような値段で輸出されている。
結果的に親魚も育たず、
成魚サイズのサバはノルウェーから輸入しているのである。
そのノルウェーでは、資源管理が徹底され、
親魚量を維持しながらサバ漁が営まれていて、持続的に儲かる漁業に成長している。
いわば、ノルウェーが利子で暮らしているのに対して、
日本は元本を切り崩している状態だ。
62円で幼魚(=2年後の成魚) を売って、
300円でノルウェーから成魚を買っている不思議の国・ニッポン。
ちゃんと資源管理すれば、量は維持され、魚価も上がる。
しかし、日々獲ることで生活せざるを得ない漁師に任せては、できない。
回復するまでには、時間もかかる。
これは、国の役割なのである。
しかしただ手をこまねいて見ているだけでは始まらない。
現状の中でやれることとして、売るほうで何とかしたいと思った。
たとえば東北の毛ガニ漁は、一日の売上が3万円程度。
高く売ろうと思っても、魚価はスーパーの原価主義に押さえつけられている。
そこで漁師のために高く買ってくれる人をつなげたいと、
ある居酒屋チェーンの社長を連れて行って、何か売れるものはないかと探したところ、
市場で値がつかず捨てられていたケツブというツブガイを、発見した。
殻が固く内臓が苦いので嫌われていたのだが、
身は美味いと地元では食されていたものである。
居酒屋の社長さんも気に入って、キロ200円で商談が成立した。
しかもそのツブガイ、毛ガニ漁での漁獲の9割を占める厄介者だった。
1日の漁で1トンは獲れていたという。
これが全部売れれば20万円、毛ガニと合わせて23万円となる。
先日その居酒屋に漁師さんをお連れして、お祝いをやったところ、
漁師さんがトイレに行ったきり帰ってこない。
見れば、カウンターのお客さんに向かって、
これは俺が獲ったツブガイだと熱心に説明しているのだった。
お客さんも大喜びである。
こんな関係を築きたい。
生産と消費の距離をもっと縮めることが大事だと思う。
そしてもっと地域の魅力を掘り起こしたい。
田舎の価値を見つけるには、消費者や外部の目線が必要だ。
人をつなげ、一緒に宝探しをやってます。
・・・・・
僕がこのところ悶々としていたのは、こういうことだったのかもしれない。
海と原発、食文化と地域活性化、いくつかの糸がつながったような気がした。
なんやかやと身に降りかかってくる様々な宿題は、
然るべくしてやって来ている、そんな気さえしてくるのだった。
質疑のところで佐々木さんが質問した。
「漁業も経営感覚を持った企業的な視点を育てるべきか?」
<勝川>
必ずしもそうは思わない。 経営形態の問題ではないだろう。
日本で子サバを獲っているのは主に企業の船である。
一方、ノルウェーの漁業は家業で営まれている。
でも儲かっているから、息子たちは意欲的に継いでいる。
新しい生産的な沿岸漁業のあり方を考えていきたい。
日本の漁業の問題、復興のあり方、放射能と魚の問題など、
もっと知りたいと思われた方には、
勝川さんの以下の著書をぜひ。
『日本の魚は大丈夫か-漁業は三陸から生まれ変わる』
(NHK出版新書、740円+税)
こういうのもあります。
『漁業という日本の問題』(NTT出版、1900円+税)
講座終了後、三重に帰る前に少し時間があるというので、
勝川さんを丸の内の 『 Daichi & keats 』 にお招きした。
大地食材の料理を、ウマいよ、ウマい! と
本当においしそうに食べてくれた。
(大地を守る会の職員たちと。 左中央が勝川さん、その手前がエビ。)
想定外の楽しい時間まで頂戴して、感謝。
さてと、、、
4回を終え、たくさんの質問が手元に残っている。
何とかしなければと思ってはいるのだが・・・