2013年2月20日アーカイブ
2013年2月20日
「種」 を守れ -とバンダナ・シバ博士が迫る
今日は、全有協 (全国有機農業推進協議会) などで一緒に活動する
自然農法の団体 「NPO法人 秀明自然農法ネットワーク」
の方からお誘いを受け、
『 SEED FREEDOM 未来へつなぐ 種・土・食 』
と題した講演会に出席した。
主催は秀明さんの国際組織 「NPO法人 秀明インターナショナル」 と
インドの 「ナブダーニャ財団」。
会場は渋谷・表参道にある国連大学の 「ウ・タント国際会議場」。
ナブダーニャ財団は、環境活動家として世界に名を馳せる物理学者、
バンダナ・シバ博士によって、1987年に設立された。
ナブダーニャとは 「9つの種子」 という意味だそうで、
「種」 は生物と文化の多様性を象徴するものとしてあり、
人々が共有する (=独占しない) 普遍的財産としての 「種」 を
自家採種(自分たちで種を採り、その品種を残していくこと) して伝えていく
「新しいプレゼント」 という意味も込められている。
自家採種する農家をネットワークし、有機農業を支援するこの活動は、
インド17州に広がり、111地区でシードバンク (種子銀行) が設立されている。
講演会では、最初に
福島県二本松の菅野正寿さん(福島有機農業ネットワーク代表) と
同県石川町で自然農法を営む小豆畑 守さんの発表があった。
菅野さんのお話は、1月20日に立教大学で開催された 公開討論会
での話とも重複するので、ここでは省きたい。
小豆畑 守(あずはた・まもる) さん。
まるで 農業をやるために生まれてきたような お名前。
自然農法の提唱者、岡田茂吉師の教え-「すべては自然が教えている」
にしたがって、 自然順応・自然尊重をモットーに
年間100種類以上の野菜を栽培する。
「いのちのつながりが、種。それこそが生命力の根源」 と語り、
100%自家採種を実践されている。
ユーモアも交えながら、いろんな生き物を育む農業の美しさや楽しさが語られた。
メインとなる記念講演では、二人の海外ゲストが招かれた。
アメリカ・ペンシルベニア州で135ヘクタールのオーガニック実験農園を有する
「ロデール研究所」 の主任研究員、イレイン・イングハム博士。
そして 「ナブダーニャ財団」 代表、バンダナ・シバ博士。
世界的に著名な土壌生物学者でもあるイレイン・イングハム博士の話は、
「ソイルフードウェブ (土中食物網)」 の世界。
僕らが 「生態系」 と呼んでいる " 生命のつながり " が
土中においても重要な役割を果たしているということだ。
植物残さや動物の排泄物、いわゆる有機物を分解する微生物や菌から始まり、
バクテリア・菌類を食べる生物-節足動物そして肉食生物と
生命の連鎖がバランスよく保たれた土壌から、健全な作物が育つこと。
そのために、それぞれの役割を正しく理解することが必要であること。
オーガニック農産物はまた、栄養価も高いことが証明されてきていること。
イングハム博士が各種データに基づいて有機の優位性を語れば、
シバ博士は、企業による 「バイオパイラシー(生物資源の略奪)」 を激しく糾弾した。
種子は我々の存在の根源である。
しかし遺伝子組み換え作物と種子の特許は、
生物多様性と文化の多様性と、食料の安全保障の基盤を揺るがすものである。
世界中で種の単一化が進んでいる。
単一文化は、病気に弱い、環境変化に弱い、脆弱な社会につながる。
多様性を大切にするとは、人々と共生することであり、共存社会を築くことである。
民主主義と自由には、多様性が必要なのだ。
種子の支配 (種子に対する暴力) は、精神のモノカルチャー化につながっている。
● 農民は多様性のために品種改良するが、企業は画一性のために品種改良する。
● 農民は復活力のために品種改良するが、企業は脆弱性のために品種改良する。
● 農民は味、質と栄養のために品種改良するが、
産業はグローバル化した食糧システムにおける工業的加工と
長距離輸送のために品種改良する。
農民が種の保持と供給をやめ、
特許権によって守られた遺伝子組み換え種子に頼った結果として
得たものは、「負債」 である。
そのためにインドの綿花生産者たちは自殺に追い込まれた。
(15万人! が自殺した、という。)
多国籍企業による種子の支配とは、私たちの大切な食(=いのち)
を支配しようというものである・・・・・・・・・・
迫力のある語りに圧倒される。
バンダナ・シバ博士の生の講演を聴くという貴重な時間をいただいたことに
感謝したい。
講演会終了後にレセプションがあり、
思いがけず、バンダナさんと記念写真を撮る機会までいただいた。
講演会では写真禁止だったので、実に嬉しいお土産となった。
伝えたいバンダナさんの言葉はたくさんあるが、
数年前にも紹介したこの一節を再び-
遺伝子組み換え作物と食糧をめぐる対立は、「文化」 と 「科学」 の間での対立ではない。
それは二つの科学文化の間の対立である。
ひとつは透明性と公的説明責任と環境と人々に対する責任に基づく科学であり、
もうひとつは利潤の問題と、透明性と説明責任と環境と人々に対する責任の欠如に
基づいている科学である。
遺伝子工学が解決策を提示している多くの問題に対する答えは、
すでに生物多様性が提供している。
農民は何を栽培するかを選択する自由を奪われ、
消費者は何を食べるかを選択する自由を奪われる。
農民が、生産者から、企業が持つ農業製品の消費者に変身させられる。
(『食糧テロリズム』/明石書店刊より)
秀明インターナショナルとナブダーニャ財団はパートナーシップを結み、
「SEED FREEDAM 希望のガーデン」
キャンペーンを世界的に展開すると宣言した。
「一つの種は、生命の源であり、私たちの生命に繋がっている」 と。
届いた招待状は、連帯への呼びかけだったのね。
もちろん、種は守らなければならない。
そのためには、生産と消費のネットワークが強化されなければならない。
100%異論はない。
しかしこのたたかいは、理念だけではすまない。
とてつもない大きなハードルに向かって、長い戦略が必要だ。
今週は忙しい。
レセプションの途中で退席させていただき、
国連大学の前で上田昌文さん (NPO法人市民科学研究室代表) と落ち合って
近くのカフェに入り、オーガニック・コーヒーを飲みながら、
日曜日にさし迫ってきた放射能連続講座の打合せをする。
上田さんには、講演をお願いするにあたって、
大地を守る会の放射能測定結果をすべてお渡ししてある。
そこから見えてきた世界を語ってほしい。
微妙な問題は残っているけれど、隠すワケにはいかないことだから、と
すべて前向きに進む決意をお伝えした。
「分かりました。やりましょう」 と上田さんも言ってくれた。
1時間という短い時間で2年間の総括をお願いするなんて無理だよね、
とは分かりつつ無理なお願いをするのだった。