「農と自然の研究所」東京総会(続き)
昨日は宇根豊という人物についての紹介で終わっちゃったけど、
総会の内容にも、ちょっと触れておきたい。
ひとつは、この総会に農水省の役人が来たことだ。
少し頼りない感じの若い方だが、報告した内容は無視できない。
7月6日、農水省が出した「農林水産省生物多様性戦略」について。
「安全で良質な農林水産物を供給する農林水産業及び農山漁村の維持・発展のためにも
生物多様性保全は不可欠である」
どうも役人の文章は好きになれない。あえて分かりにくくさせているようにすら思える。
という感想はともかく、
第一次産業という人の営みが生物多様性を育んできたことを農水省も認め、
それを高く評価して、
安全な食べものを供給する上で、生物多様性の保全は欠かせない「戦略」である、
と言ってくれているのだ。
農水省が、農業生産と生きものの豊かさの間に重要なつながりがあることを認めた、
という意味では、画期的なことと言える。
しかし・・・・と思う。
君らが推進してきた‘農業の近代化’こそが、生物多様性(生態系)を壊してきたんじゃないか。
反省はあるのか、こら!
それが、あるんだ。いちおうは。
「しかしながら、不適切な農薬・肥料の使用、経済性や効率性を優先した農地や水路の整備、
生活排水などによる水質の悪化や埋め立てなどによる藻場・干潟の減少、
過剰な漁獲、外来種の導入による生態系破壊など
生物多様性保全に配慮しない人間の活動が生物の生息生育環境を劣化させ、
生物多様性に大きな影響を与えてきた。」
そう進めてきた張本人のわりには、何だか客観的な言い方が気に入らないが、
生物多様性の保全のための具体的な取り組みとして挙げてきた内容は、
ほとんど我々の陣営から育ってきた主張が並んでいる。
有機農業の推進も盛り込まれている。
それもそのはず、宇根さんはこの「戦略」作りの委員だったのだ。
里地・里山・里海の保全、森林の保全、地球環境への貢献……と
総花的内容にどこまで期待できるかはともかく
(いずれにしても具体化や予算化はこれからだし)、
よくぞここまで書かせたものだと、脱帽するほかない。
説明する農水の若手役人も、「やります。本気です」と言う。
省内では色々な突き上げもあったようだが、
昨年の「有機農業推進法」といい、
農水省内部も変わりつつあることは確かなようだ。
有機農業運動にとって、宇根豊という思想と個性を得たことは、
これで運動に血が通ったような幸運すら感じさせる。
時代を変えるパワーの発信源のひとつであることは間違いない。
生産者の方は、この「戦略」をどう読み、活かすか、ぜひともご一読を。
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総会の後半では、
これまで宇根さんと関わりの深い出版社の編集者が呼ばれ、
『農の表現を考える』と題してのセッションとなる。
ここまで獲得してきた世界を、その価値を、どういう全体像に現わしていくか。
ただの観念論に陥ることなく、「科学」(的視点)もしっかり取り込み、
新しい‘表現’をつくりあげたい。
宇根さんは、もう次に行こうとしている。
そして、このタイミングで、宇根ワールドの現在の地点を示す書が出された。
尊敬する出版社のひとつ、コモンズから。
渾身の1冊!である。
この書の意味は、実に深い。うまく整理できれば、改めて。
「農と自然の研究所」の活動は、あと3年。
きっちりと、ついていってみたい。